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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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アフガン・タリバン取り込み戦略 [2010年10月27日(Wed)]
ウォールストリート・ジャーナル10月27日付で、豪州の元外相でアデレイド大学教授のAlexander Downerが、条件つきでアフガン・タリバンの政治参加を認めるべきだ、と論じています。
 
すなわち、タリバンは居住地域がパキスタンとアフガニスタンにまたがって広がるパシュトゥン族の中に支持基盤があり、また、アフガニスタンの民衆の間にはタリバンは腐敗していないという信頼感もあるので、抹殺は出来ず、いずれ話し合いをせざるを得ない。カルザイ政権とアフガン民主主義を破壊しない、また他国に干渉しないという条件で、タリバンの政治的参加を認めるべきだ、

かつて英国も、結局は北アイルランドでIRAと交渉せざるを得なくなっが、それはIRAが民衆の中に支持があることを認めざるを得なかったからだ。アフガン南部の住民の間で支持があり、また、清廉だと言う評価も得ているタリバンも、根絶することは出来ないのだから、話し合いをする必要がある、

ただ、タリバンとの交渉は、タリバンのかつての同盟者であるパキスタンが主導すべきだ。多国籍軍は、タリバンがカルザイ政府とアフガン民主主義を破壊しない、また、他国に暴力で干渉しないという条件を受け入れたら、兵力を削減すればよい。他方、政治への参加を許されたタリバンは議会に議席を持つことができるようになり、場合によっては、特定の地方では支配権を握ることもできるようになるだろう。勿論、それは、タリバンが獲得した政治的立場を利用して中央政府や他国に暴力を使うようなことはしない、という条件の下においてではあるが、と言っています。


豪州はアフガニスタンに派兵しており、それを支持してきたダウナーは、軽々にアフガニスタンから引き揚げることは警めつつも、兵力を削減出来る条件を模索しているわけです。そして、IRAの例を引きつつ、ある程度民衆の間で支持を得ている勢力を根絶することは非現実的であり、結局は話し合いが必要だと言っているのですが、これはアングロサクソンの現実主義であり、説得力があります。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:19 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
オバマの経済危機対策への評価 [2010年10月27日(Wed)]
ファイナンシャル・タイムズ10月27日付で同紙コラムニストのMartin Wolfが、オバマは米経済が大不況に陥るのを防ぐことに成功したにも関わらず、米国民は評価せず、困難な現状についてオバマを非難している、と論じています。

すなわち、心臓発作を起こした患者が、医師の必死の措置で一命をとりとめたが、回復に時間がかかってなかなか完治せず、2年後には、感謝するどころか、何もしてくれなかった方が良かったとして医師を訴える。医師オバマの置かれた状況はこのようなものだ。米国民の多くは2008年秋に米国を襲った金融心筋梗塞の深刻さをとっくに忘れてしまっている、

また、これは、患者は放っておかれたら今頃は完全に健康を回復しただろう、という共和党のプロパガンダを多くの米国民が信じ込んでしまったことにも原因がある、

しかし1997-2007年に米国の実質住宅価格は87%、金融セクターの債務の対GDP比は52%、総民間債務の対GDP比は101%上昇するというように、今回の世界的金融危機は第二次大戦後最悪のものだったが、そうした中で、米国経済の実績は、過去のいくつかの危機の平均に比べればましだった、

例えば、今回の一人当たり実質GDPの減少は、過去の危機の平均が9.3%だったのに対し、5.4%だった。また、失業率の上昇は5.7%と、主要国の中では最悪だったが、過去の危機の平均の7%よりは低かった、

ただ、オバマ政権が行った景気刺激策は、GDPの6%以下と、あまり大きくはなかった。つまり、オバマの景気刺激策は無謀で失敗したのではなく、臆病すぎて成功しなかったのだ、

しかし、不幸なことに、共和党のプロパガンダによって、今の不況の原因はブッシュの大失政ではなく、民主党の介入にあると多くの米国民が思いこんでいる。これは全くのおとぎ話だが、有権者は回避された災難ではなく、現状が望んだところからいかに遠いかのみに関心を払う。そのため、オバマは大危機を回避したことは評価されずに、現状について強く非難されている、

オバマが思いきった財政刺激策を取らなかったのは、結果的には大きな戦略的誤りだったが、政治的行き詰まりが予想される中で、これ以上の行動は取れないだろう。米国にとって失われた10年となる可能性が高いが、それは米国にとっても、世界にとっても大きな不幸だ、と言っています。


オバマが大危機を回避したことは評価されず、現状が思わしくないことで非難されているというのは、ウォルフの指摘する通りです。その背景には、高い失業率と住宅等の個人資産の激減で米国民が苦しんでいることがありますが、ウォルフが言うように、共和党の宣伝が奏功したことも否定できません。経済政策が党派対立の人質にされた感じであり、その結果、今回の経済危機の深刻さが正しく理解されないようなことになれば、正しい処方箋も理解されず、危機の再発防止策も真剣に検討されないことになり、問題は重大です。

ただ、ウォルフは政治的行き詰まりで、オバマ政権はこれ以上の景気刺激策はとれず、失われた10年となる可能性が高いと言っていますが、これは悲観的に過ぎるかもしれません。連銀は再び量的緩和策を実施しそうですし、オバマ政権は必死で雇用の拡大、住宅市場の回復に取り組むでしょう。ただ、回復のテンポは緩慢になるという予想が一般的ではあります。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 11:56 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
東南アジアのイスラム [2010年10月24日(Sun)]
ロサンジェルス・タイムズ10月24日付けで、米Center for a New American SecurityのRobert D. Kaplanが東南アジアのイスラムについて論じています。

すなわち、イスラム世界は中東から南アジア、東南アジアに広がっており、その地政学的意義は大きい。例えば、中東は世界のイスラム人口で20%を占めるのに対し、アジアは60%も占めている。また中東、イラン、アフガニスタン、パキスタンのイスラム人口は6.3億人だが、インド、バングラデシュ、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、フィリピン南部のイスラム人口も5.7億人に達する、

ただ、南アジアや東南アジアでは、イスラムは複雑に混交したヒンドゥーとジャワ文化の中の一要素に過ぎない。その点でこの地域のイスラムは中東のイスラムとは違っており、それが、アラブ世界では民主制がほとんど存在しないのに、南アジアや東南アジアでは民主制がごく普通に存在している理由でもある。つまり、この地域のイスラムはヒンドゥーや仏教等の他の伝統と共存しており、そのことが世俗政治が存在する余地を生んでいる、

ところが、近年、テクノロジーの発展、サウジの資金、Al Jazeeraの出現、巡礼者の増加、翻訳等のグローバル化のために、この地域でも中東のイスラムの影響が強くなってきた、

他方、マレーシアやインドネシアなどでは、華人ビジネスに示されるように、中国の影響の下に、物質主義や消費文化も強まっており、ここに「文明の衝突」が起きている、と言っています。


「グローバル化」によって南アジア、東南アジアのイスラムが「中東化」し始めたことはその通りであり、このことは既に20年以上前から指摘されています。他方、東南アジアの華人を中国と同一視し、中国がマレーシア、インドネシア等の物質主義と消費文化の源泉であるという主張はピント外れです。今東南アジアで力を持っているのは、現地語(インドネシア語、タイ語等)と英語を自由に話すバイリンガルのアングロ・チャイニーズであり、こうした人たちを中国と同じと見ることはできません。また東南アジアの消費文化は米国や日本の影響下に広がったものであり、既に1980年代に始まっています。ここで言われるような「文明の衝突」が起きているとは言えないでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:46 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ミャンマー総選挙 [2010年10月24日(Sun)]
11月7日に行われるミャンマーの総選挙について、ワシントン・ポスト27日付の社説と、ウォールストリート・ジャーナル24日付のSvenska Dagbladet紙タイ特派員のBertil Lintner の論説が、選挙の結果が軍事政権独裁の継続になることは今から予想できることであり、国際社会は選挙には期待を抱かずに、今後もミャンマーの人権抑圧を糾弾し続けるべきだ、と言っています。

スウェーデン人のミャンマー専門家リントナ―は、西側の一部には、今回選挙が実施されることを民主主義への一歩と評価し、辛抱強く成り行きを見守るべきだという議論があるが、これは軍の中にも穏健派が育ってくるだろうとの期待等に基づいており、全く当てにならない。そんなことは期待せずに、国連によるミャンマーの人権侵害追及を強めるべきだ、と言っています。
 
また、WP社説は、ミャンマーの選挙制度では、政府反対派の立候補は厳しく制限されている上に、元々議員の4分の1は軍人なのだから、選挙の結果は今から見えている。しかし、ミャンマーに対する利益団体からは、選挙後、制裁を緩める声が出て来るだろうし、アウンサン・スー・チーが釈放されればそうした声はなお強まろう。米政府は、ミャンマー指導者やその家族に対する制裁を強化すると共に、議会の承認を得た特別代表を任命してミャンマー問題を処理すべきだ、と言っています。


この二つの論説を見ると、今回の総選挙の結果、米国の対ミャンマー世論が軟化するという期待は全く持てないようです。

本来、ミャンマーは最も親日的な国となり得る国であり、その豊富な資源に日本の援助を加えれば、発展の可能性は大であり、また、それは中国のミャンマー進出を抑える効果を持つと思われます。そのため、日本とミャンマーとの関係正常化の方策が求められますが、こうした米国の論説等を見る限り、その機会はまだ遠いようです。

また、ミャンマー政府はそれほど腐敗しているとも思われません(事実、指導者の私生活は比較的清廉と言えるでしょう)し、人権抑圧が中国のチベット、ウイグル弾圧より激しいとも思われません。ただ、軍事政府の政策は善悪や是非以前に、いかにも奇矯です。WPの社説も冒頭で、昨週ミャンマーは国旗を変え、古い国旗は火曜日生まれの人々に降ろさせ、新国旗は水曜日生まれの人々に挙げさせたと報じています。こんなことをやっていては、西側の理解を得られないことぐらいはわかってほしいものです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:40 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
タリバンとの対話機運の高まり [2010年10月18日(Mon)]
ニューヨーク・タイムズ10月18日付で国連のアルカイダ=タリバン監視チームの調整官、Richard Barrettが、タリバン指導者たちが戦闘に代わってアフガン政府との話し合いを模索し始めている、と言っています。

すなわち、最近までタリバンは、すべての外国軍隊が撤退するまで戦うと言っていたが、@来年7月に始まる米軍の撤退は限定的なものであり、また、A最近の米・NATO軍による空爆などで大きな被害を蒙り始めたために、外国軍の全面撤退まで戦うという徹底抗戦戦略は魅力を失いつつある。また、自国内のタリバン掃討で手一杯のパキスタンも、今やアフガニスタンに親パキスタン政権を樹立させるよりも、アフガニスタンを安定化させる方が重要だと考えるようになった、と述べ、

タリバンは外国軍の即時撤退を主張してきたが、内心切望しているのは米軍などによる今の激しい作戦の停止だろう。アルカイダが大きな問題だが、タリバンは、政権に復帰すれば、自ら外国に干渉はしないし、国内の他勢力が外国に干渉することも許さないと言っているので、アルカイダの活動も許さない可能性がある、タリバンの構成員は、本来は現実主義的なアフガニスタン人であり、彼らが本当に望んでいるのは、戦うことよりも統治することのはずだ、言っています。


米軍などの攻撃でタリバンが大きな痛手を蒙り、タリバンがカルザイの和解の呼びかけに応じる可能性が今までより高まっていることはBarrettの指摘の通りでしょう。

これは米軍などの作戦が功を奏していることを意味しますが、だからと言って、米・NATO軍が戦闘で勝利を収める可能性はあまりなく、むしろ最近は、タリバン撲滅ではなく、タリバンがアルカイダの活動を許さないようにすべきだ、というのが米国のアフガン戦略論のコンセンサスになっている感があります。そうであるならバレットの言うように、タリバンとの話し合いの環境は整いつつあると考えられます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:59 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
北朝鮮問題の責任は周辺国に課すべし [2010年10月17日(Sun)]
韓国英字紙Korean Times10月17日付で、レーガン政権で大統領特別補佐官を務め、現在、米CATO Instituteに所属するDoug Bandowが、米国は朝鮮半島への介入を止め、在韓米軍を撤退させるべきだ、と論じています。

すなわち、 北朝鮮は経済が破綻し、軍事力も弱体だ。その核弾頭は恐らく小型化されてないし、米国に届く長距離ミサイルも持っていない。それに、 北朝鮮の指導者は邪悪だが馬鹿ではなく、北朝鮮に対する抑止は機能している。また、韓国に対する北朝鮮の脅威も誇張されているし、中国やロシアが第二次朝鮮戦争で北朝鮮を支援することはない。要するに、北朝鮮は米国にとって何ら脅威ではない、と述べ、

こうした状況にあって、 米国が未だに朝鮮半島に関与する理由が、韓国への安全の保証であるならば、在韓米軍は撤退させるべきだ。なぜなら、@ 北朝鮮の核兵器廃棄は過去20年間の交渉で全く実現せず、今後も実現しない A 北朝鮮は米国の問題ではなく、基本的に韓国、日本、中国の問題だ、それに、B米国にはもはや 軍事的に世界展開する余力はないからだ。米国はまず朝鮮半島から米軍の世界展開の撤収を始めるべきだ、と言っています。


「米国の対外的コミットメントは最小限にすべきだ」とする、いわゆる「リバタリアン派」の典型的外交論です。これは、バンドウがリバタリアン的傾向の強いCATO Insitituteに所属していることからも頷けます。

しかしバンドウが個人主義的自由主義思想に基づいて米国政府の「行動の自由」を強調するのは自由ですが、こうした米国式リバタリアニズムの最大の欠点は、世界の地域安全保障環境の現実を直視していないことです。

現時点で在韓米軍を撤退させれば、朝鮮半島に「力の空白」が生じ、北東アジアの戦略バランスは一変します。バンドウが言うように、北朝鮮問題について韓、日、中の責任が重いことは事実ですが、そのことと米軍のプレゼンスの重要性とは別問題です。

幸い、今のところは、この種の「机上の空論」が米国の対北東アジア政策の主流となる兆候はなく、むしろ、こうした議論が北朝鮮の周辺諸国、特に、韓国、日本において対米同盟の重要性を改めて確認する機会を提供するのであれば、「反面教師」としての意義はあるのかもしませんが、この種の議論を喜ぶ国が東アジアにあるとすれば、それは中国と北朝鮮だけでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:24 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国通信大手「華為」の対米進出 [2010年10月17日(Sun)]
ウォールストリート・ジャーナル10月17日付で、米議会「米中経済安保検証委員会」の主要メンバー、Michael R. Wessel とLarry M. Wortzel が、中国の通信機器最大手「華為」の米国進出を許すな、と警告しています

すなわち、対立する国の企業に、国家安全保障にとって極めて重要である通信インフラへの接続をいったん許せば、携帯電話の会話から電子メール、インターネット閲覧情報まで、全てが相手側に筒抜けになりかねず、しかも、敵勢力はその気になれば諜報、攪乱、通信遮断等の手を打てるようになる、

中でも、華為は中国の軍・共産党・政府と深い関わりがあって問題だ。事実、米政府は同社の対米進出を警戒、2008年の華為による3Com社買収は米国側の抵抗にあって挫折、2009年には華為製品を導入しようとしたAT&Tが米国国家安全保障局から警告を受けている。また。英、豪 印も、遠隔操作による通信網の破壊や、諜報、情報の流出などを警戒して、自国内での華為の営業を規制している、と述べ、

こうした警戒に対して、@米国内を流通する情報は膨大すぎて、意味のある情報は掴めないと言う者がいるが、中国はネット検閲・妨害技術を非常に発達させている、A華為はソースコードの開示や第三者企業の関与等を提案しているが、遠隔診断や補修と称する技術は元々怪しく、一度インストールされたソフトに、アップデートと称して別の機能を付加するのは容易である上に、B別の誰かが華為システムの裏口から密かに侵入する可能性は残る、と指摘、

米企業は華為以外から調達すべきであり、また米政府は、通信の重要性をよくよく考えて、あらゆる手段を動員してその安全を図る義務がある、と締めくくっています。


英、豪、印が遠ざけ、米国でも警戒感が高まる中国企業「華為」は、実はとっくに日本市場に浸透しています。イー・モバイルが、パソコンに挿入する端末から基地局設備にまで同社の製品と技術を採用しているからです。日本が警戒もせずに、大勢の国民が「華為」のインフラに依存せざるを得ない今日の状態に至った件を、米国(や英国)がどれほど慎重に扱おうとしているかを教えてくれたという意味で、この論説は意義深いと言えます。それにしても、この種の議論が日本ではほとんど全くなされてこなかったことに改めて愕然とさせられます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:12 | 米国 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
レアアース問題に学ぶ教訓 [2010年10月13日(Wed)]
ウォールストリート・ジャーナル10月13日付で、同紙コラムニストで米AEIの日本研究主任、Michael Auslinが、中国の対日レアアース供給停止に関連し、こうした資源を使った圧力行使への対応策を真剣に考えておく必要がある、と論じています。

すなわち、先端工業製品に欠かせないレアアースは中国が世界の97%という高いシェアを有する一方、ジャスト・イン・タイムの供給体制をとっている日本企業は、供給停止に対して脆弱だ、

そうした中で、日本は中国からの輸入品の税関手続きを遅らせる、金融資産や援助を凍結する等の対抗措置を取れるのに、そうはせずに中国政府と話し合おうとしている。この日本の冷静で合理的な姿勢は日本外交の成熟を示すと共に、日本が強い対応を出来ないことも示している、と述べ、

歴史上、資源を使った圧力行使はこれまでも良くあったが、特に、ロシア、中国、イランなど権威主義政権は、常に自由主義諸国の決意を試し、国際協力の規範を掘り崩そうとしている。自由主義諸国は、@エネルギーやレアアース等の有用鉱物の探査・開発を行い、中露の梃子をなくすべきだ、また、A供給中断の影響が限定されるよう備蓄計画を立て、さらに、B外交関係の凍結や、金融制限、輸入制限のような対抗措置の発動のあり方についても話し合うべきだ、と言っています。


オースリンが、資源が圧力手段として使われる危険性を強調し、それへの対処策として挙げている措置はごく常識的なものと言えるでしょう。

ただ、資源で締め付ける政策は、今の時代にさほど有効ではないとも考えられます。例えば、1973年の石油ショックは確かに価格高騰につながりましたが、供給面での心配は一過性のものでした。経済取引は互恵の関係であり、売り手も買い手がないと困るので、供給側が圧倒的に強い立場にあるとは言えません。

もっとも、中国やロシアなどは自由主義諸国よりも経済を外交の手段に使えるという事情があり、従ってそうした国に過度に依存しないよう、代替供給源の開発・備蓄・代替技術の開発などの措置をとっておくことは必要でしょう。

レアアース自体は、今は中国が独占的供給者の立場にありますが、結構世界各地に存在しており、あまりレアではない印象があります。ケ小平が中東には石油、中国にはレアアースがあると言いましたが、レアアースは、長期的には、戦略物資ではない通常物資にすることが出来るのではないかと思われます。

なお、今回の中国の対応は、日中関係を「戦略的互恵関係とする」との合意が空虚なことを示しました。「日中双方は覇権を求めない」という平和友好条約の条項も中国の最近の行動で空虚に響きます。こういう国との言葉での合意の価値について、考えて見る必要があるでしょう。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 08:08 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米=パキスタン関係の重要性 [2010年10月12日(Tue)]
ウォール・ストリート・ジャーナル10月12日付でRyan Crocker元米駐パキスタン/イラク大使が、最近の米=パキスタン関係の悪化と米国内にあるパキスタンへの厳しい見方に反駁、米国の今後の対パキスタン政策について提言しています。

すなわち、今、米国内ではパキスタンを敵視する傾向があり、パキスタン側にも強い反米感情があるが、アフガンの安定やアルカイダの敗北は米=パキスタン関係に大きく左右されることを冷静に考えるべきだ、

両国の間には、米国がアフガニスタンからソ連を追い出す時はパキスタンと協力したが、目標達成後は引き揚げてしまい、パキスタンは自力でアフガン情勢に対処せざるを得なくなったという経緯がある。そのため、パキスタンは、9・11後、米国がパキスタンに戻り、援助を再開したことは歓迎しているが、今回米国はいつまで留まるのかという懸念を抱いている。多くの問題を抱える脆弱な国家、パキスタンにとってこれは国の存続に関わる大問題だ、

他方、米国はパキスタンの建国以来60年間、援助は行なっても、一度もパキスタンに戦略的にコミットしたことはない。米国のメディアや政府当局者はパキスタンにもっと強い姿勢で臨むべきだと言うが、これはパキスタン側に見捨てられるとの恐怖を引き起こすだけであり、米国はもっとパキスタンの歴史やパキスタンが置かれている状況(インドとのライバル関係、国内の分裂、アフガンとの困難な関係等)を理解すべきだ、

具体的には今後、@パキスタンの困難を理解し、それと取り組むパキスタン政府を支援する、Aパキスタンは、インドが東部で同じことをした場合に止められないと恐れているので、越境攻撃は止め、パキスタンと調整した上で無人機攻撃を行なう。Bパキスタン政府を批判する場合は内密に行なう、Cパキスタンは、米国とアフガニスタンがタリバンと妥協し、アフガニスタンが反パキスタンに転ずることを恐れているので、アフガン・タリバンとの協議にはパキスタンも関与させる、等を行なうべきだ、と提言しています。


アフガン駐留軍の無人機による誤爆等が引き金となって、米=パキスタン関係がぎくしゃくし、米国内でパキスタン批判の声が高まっている中で、これはタイムリーで適切な論説と言えるでしょう。

パキスタン軍は能力不足や意思の不足のために、パキスタン領を聖域とするタリバン等の過激派に十分対処していない、という米側の不満は理解できますが、アフガン戦争の成功のためには、パキスタンの協力が不可欠です。しかし、今のやり方を続ければ、米=パキスタン関係が損なわれるおそれがあります。

今の状況はベトナム戦争時に、米国がカンボジアのホーチミン・ルートを攻撃、カンボジアが不安定化したことを思い出させますが、小国であるカンボジアと違い、パキスタンは核保有国であり、その不安定化は核拡散やイスラム過激派の勢力拡大など、深刻な問題につながります。敢えて言えば、アフガニスタンの安定を犠牲にしてでも、パキスタンの安定を図る必要があると思われますが、現在のやり方は、アフガン戦争の成功のためにパキスタンの不安定化を促進している嫌いがあります。米国は12月にアフガン戦略を見直す予定ですが、その際にクロッカー大使の提言は十分注意を払われるべきでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 18:20 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国の台湾政策 [2010年10月11日(Mon)]
Foreign Policy のウェブサイト10月11日付けで、米AEIのDaniel Blumenthal が、米国は中国との関係や国際機関への加入等、全ての面で台湾を援けるべきだ、と言っています。

すなわち、これまでの米国の台湾政策は、台湾政府が中国に対して挑発的になれば、台湾が民主国家であるにもかかわらず、台湾に冷たくし、他面、台中関係が良くなると、台湾問題は自然に解決すると見て、台湾との関係を無視するというものだった。しかし、台湾にとっては、中国との関係、米国との関係、国際社会におけるステイタスの向上はすべて必要なのだから、米国はそれを援けるべきだ、と述べ、

それを実行する方策として、米国は、経済面では、中台経済関係の自由化に乗って、台湾とのビジネスを強化、対台湾投資を拡大して、台湾の国際的地位の向上を援け、軍事面ではF-16や潜水艦を供与し、さらに、台湾の国際機関への参加を推進すべきだ。米国の目的は中台間の不必要な摩擦を避けると同時に、台湾という民主国家と米国との関係を強化することだ、と結んでいます。


ブッシュ時代、あるいはその前のクリントン時代から、オバマ政権の最初の1年までの米国の台湾政策は、まさにこのブルーメンソールの観察が当てはまるものでした。その結果、その時期の李登輝政権や民進党政権は米国の冷たい仕打ちにあってきたわけです。

ところが今年に入って、米国の中国認識が変わって来たことから、その影響は必然的に米国の対台湾政策にも及ぶと予想していましたが、この論説はその表れの一つと言えるでしょう。

中国が、経済的にはビジネスチャンスであり、政治的には無害な存在である限り、米国にとって台湾問題は、中台に適当に片付けてもらいたいちょっとした厄介事に過ぎませんでしたが、中国が将来の米国の潜在的競争相手ということになれば、台湾の戦略的価値が再浮上してくるのは、当然の成り行きと言えるでしょう。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:37 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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