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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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米=トルコ関係の現状と課題 [2010年07月28日(Wed)]
米AEIのウェブサイト7月28日付に、同研究所のMichael Rubinが、トルコの外交政策について下院外交委員会で行った自らの証言を掲載しています。

それによると、エルドアンと公正発展党はトルコという国を根本的に変えてしまった。彼らはアラブ諸国やイランとの関係を改善しただけではなく、シリアやハマスなどの過激勢力に好意的であり、イランの核計画も是認している。ところが米国はこうしたトルコの変貌を認めず、相応の政策変更をしていない、

トルコの変化は、欧州に冷遇されたことや、イラク戦争への反発が原因だという説もあるが、それだけでは、エルドアンがアルカイダ支援者や反米・反ユダヤ主義宣伝を支持したり、西洋リベラリズムを拒否することは説明できない。より根本的な理由は、彼らが、中東と西側の架け橋になることではなく、中東、更にはイスラム世界の指導国になることを目指していることにある、

このように、トルコは信頼できる同盟国ではなく、穏健イスラム勢力でもない。ところが、西側には、トルコはNATOの南の防波堤であり、唯一のイスラム同盟国だという信仰がある。また、確かに、トルコはアフガンで多くの欧州諸国よりも大きな役割を果たしており、イラクやアフガンへの重要な兵站基地も提供している。従って、米国はトルコとのパートナーシップを切ることはないが、もはやトルコの善意を前提とすべきではない、と言っています。


ルービンは、エルドアンがトルコを根本的に変えてしまったのに、米国はこの変化を正当に評価せず、これまで通りにトルコに対処している、と批判しているわけです。しかし、トルコ切捨て論につながるような政策論は、米国のためにも、中東情勢の改善のためにもならないと思われます。また、事実認識についても、エルドアンはイランの核計画を是認している、ハマスをファタハ以上に支援している、反ユダヤ主義宣伝を支持している等は、ほとんど誤認と言ってよいでしょう。エルドアンはガザ船団拿捕事件の際にも、トルコの世論が反ユダヤ主義に傾かないようにすべきだと強調しています。

トルコが変化してきたことは、ルービンの指摘どおりであり、それは単に欧州からの冷遇やイラク戦争への反発が原因ではなく、トルコが中東の指導的地位を目指しているからだというのも正しい指摘です。しかし、こうした変化をどう捉えるか、それにどう対応するかはより慎重な検討が必要であり、トルコにF-35を売却しないなどの決定はトルコ側の反発を惹き起こすことになります。

国家間関係は悪循環に陥ると不信が不信を呼び、どんどん悪くなることがあります。トルコは親日的な国であり、日本は米=トルコ関係の悪化を食い止めるうえで、一つの役割を果たす力があるのではないかと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:02 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジアの同盟国による緩やかな連合  [2010年07月27日(Tue)]
ウォール・ストリート・ジャーナル7月27日付で、米AEIのDaniel Blumenthalが、アジアの同盟国は米国主導の緩やかな連合を作って中国軍事力の台頭に立ち向かうべきだ、と論じています。

すなわち、ASEAN地域フォーラムでクリントン国務長官が、南シナ海の領海紛争は「多国間」で平和的解決を図ることが米国の国益になると述べたことに、中国が強く反発、アジア域内問題の無用な「国際化」を図るものだと非難したが、この発言はオバマ政権として正しい一歩だった、

最近中国が南シナ海を「中核的国益」に関わる領域と呼び、その大半は中国に所属すると主張していること自体は、台頭する強国なら言いそうなことであり、驚くにあたらない、

ただ、米国の専門家たちは、中国の台頭は穏やかなものになると言い続け、そのため、オバマ政権は当初、中国が大国になることに異議は唱えないとする、「戦略的再保証」政策をとった。ところが、中国は逆にそこに米国の弱さを嗅ぎつけ、南シナ海をめぐって強硬姿勢を露にし始めた、

そこでようやく米国も事態を把握、クリントンに続いてゲイツ国防長官もインドネシアとの軍事関係再構築に着手するなど、同盟を強化し、パートナー諸国を糾合して中国の台頭に対抗する姿勢をとり始めた。同盟国の方も、単独では中国とやりあえなくても、互いに力を結集し、米国がそこに加勢すれば北京に立ち向かえるだろう、

これは歓迎すべき米国の変化であり、待ち望まれたものだ。この際、米国は、弱体化しつつある太平洋の米軍事力を強化し、さらに、同盟国の緩やかな連合を作って、その本部をどこか同盟国の首都に置き、アジアの安全保障を担う同盟国の外交官や軍人が集まる場にすべきだ。米国が「再保証」を与えるべき相手は中国でなく、友邦各国の方であり、中国には、彼らが最も良く理解する「力」を示すべきだ、と言っています。


中国の南シナ海進出に拍車がかかっています、南沙、西沙諸島をめぐる関係諸国の対立は、2002年の相互の合意によって棚上げになったとされ、これを受けて、米国の一部の中国専門家は北京の友好姿勢の表れと評価しましたが、この見方は現実によって裏切られたと言えます。その最たる証拠が、その防衛のために武力行使も辞さないという意味の「中核的利益」という言葉でしょう。

そうした中で、ブルーメンソールは、中国と対抗するために同盟諸国による協力ネットワークを作り、本部を「同盟国の首都」に置くという新鮮かつ建設的な提案をしています。ブルーメンソールは明示していませんが、中国周辺諸国の中で米国と同盟ないし準同盟関係にあるのは日本と韓国、さらにはタイ、フィリピン、シンガポールですが、今の情勢では放っておけば、本部がソウルかシンガポールに行ってしまうのは目に見えています。東京は進んで名乗りを上げるべきでしょう。

なお、残念ながら、日本のメディアは切迫する足元の変化を報じようとする姿勢が希薄で、例えば、中国が、海南島を潜水艦基地だけでなく、新興富裕層向けのリゾート基地にし、結果的に西沙海域を占有しようと計画していることや、同海域の無人の環礁について占有権の「登記」を積極的に促していることなど、十分伝えていません。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:01 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
縮小する米国の役割と同盟国の責任 [2010年07月22日(Thu)]
ウォール・ストリート・ジャーナル7月22日付で、米AEIの日本専門家Michael Auslinが、日独の現状を比較しながら、自由主義体制に対する脅威が高まりつつある中、米国の同盟国は、いずれ米国という国際安全保障体制の保証人と協力しないことのコストの大きさを思い知ることになるだろう、と言っています。

すなわち、欧州の安全保障専門家は、米国が、国際安全保障面での能力低下で影響力を失った欧州を見限り、日本などに負担を求めるようになると見ているが、実は日本も、人口減(特に兵士になる若年層の減少)、歴史的経緯による独特の平和主義、豊かになってハングリー精神を失い、国際安全保障面で役割を果たす意志がなくなっている等、ドイツと同様の問題を抱えている、

日独は共に自らのグローバルな役割に確信がなく、責任を果たそうとせず、新しい世界の現実に向けた準備が出来ていない。安全保障面では米国との世界観のギャップが広がっており、中国など新興国との競争でもますます遅れをとっている、と指摘し、

米国も、国際的自由主義体制への脅威について確固たる認識と対応策を持たず、結局、北朝鮮とイランの核開発を黙認してしまい、中国が発言力を強めているが、同盟国の側も、グローバルな責任を米国に押し付け、脅威に対応すべき多国間の国際的対応が不十分であることすら認識しようとしていない、

しかし、米国の同盟国が困難な選択を回避できる時代は終わった。同盟国は、将来脅威が現実となった時、米国という国際安全保障の保証人がいなくなった世界のコストの大きさを思い知ることになるだろう、と論じています。


米国の国力低下が現実のものとなり、米国を中心に第二次大戦後ほぼ一貫して維持されてきた「国際的自由民主主義体制」に対する中国などからの「挑戦」は今や不可避となってきました。この論説もこうした現実を踏まえ、米国の同盟国に対して改めて応分の責任負担を求めているのは、最近の米保守系国際派論壇の傾向と軌を一にします。

そうした中でこの論説の興味深い点は、日独の状況を比較し、両国とも基本的には同じ問題を抱えていると指摘していることでしょう。一般に、安全保障面の国際貢献については、欧州諸国が一歩先を行っており、日本の消極的姿勢が批判されがちですが、オースリンが、欧州とアジアの同盟国が人口減少と責任回避という共通の問題を抱えていると指摘したことは評価に値します。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:29 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国に圧力を  [2010年07月21日(Wed)]
Foreign Policy7月2日付で、米AEIのDan Blumenthalが、最近中国は、オバマの対中低姿勢に付け込んで強く出て来ているので、アジアの同盟国の共同演習基地を作るなどして、米国側からも圧力をかけてはどうか、と提言しています。

すなわち、ここ数カ月、中国は、@ゲーツの訪中を断る、A南シナ海を中国の「利益の核」と呼ぶ、B天安号事件で北朝鮮非難に同調しない等、強硬な態度をとってきた、

その原因は、第一に、中国が米国に弱さを感じとっているからであり、第二に、中国自身が内部に問題を抱えているからだ。中国では社会不安が拡大しており、さらに、2012年にはポスト革命世代の指導者争いとなる。おそらく、軍や反米民族主義者は、今こそ強硬姿勢を示すべきだと考えているだろう、

また、力を信奉する中国共産党は、日米同盟を強化し、台湾に武器を売り、インドとの関係を強化したブッシュ時代は低姿勢だったが、オバマはインドとの関係を格下げし、中国の人権問題を棚上げし、台湾への武器売却や、ダライ・ラマの招待を逡巡した。その上、日本が政治的に混乱して力の均衡の維持に寄与できなくなった。北京は好機到来と捉えただろう、

これに対し、オバマ政権も、台湾に武器を売却、南シナ海の米国の権利を主張し、米韓共同対潜訓練を行っているが、まだ出来ることはある。あまり気付かれていないが、アジアのほとんどの同盟国、友好国が最新戦闘機(主にF-35)を買おうとしている。米国は、アジアの同盟国が共同で戦闘機を訓練し、南シナ海を哨戒出来るようなセンターをシンガポールあたりに作ってはどうか、

それは中国に対して、「責任ある国」になるか、地域諸国の強い抵抗に直面するかの選択を提示することになる。幸い、前者を望む中国人も決して少なくはない、と言っています。


常識的に考えれば、最近の中国の強硬姿勢は、台湾への武器売却に抗議し、将来のF-16の売却を阻止するのが目的でしょうが、南シナ海の領有権主張も強引ですし、理解に苦しむところがあります。

これは、オバマ訪中を成功させるために、米国が譲歩を重ねて中国側に甘い期待を持たせてしまったことや、あるいは、米国側が譲歩を重ねたことが、中国国内の政治バランスに影響して強硬派の台頭を許してしまったことが原因かもしれません。そうだとすれば、これは、無用の譲歩は結果的に悪効果をもたらすという教訓になるでしょう。

ところで、F-35の共通訓練センターのような構想自体は、とうてい実現不可能でしょうが、実はこの種の構想は、麻生外相時代の「平和と繁栄の弧」構想、安倍総理時代の日豪・日印協調、ブッシュ時代の米印協調などと同じく、婉曲な中国包囲網政策の一つです。

第一次大戦前、ドイツの海軍力の急速な増強に対応して、1907年に英仏・英露協商が成立しましたが、これらは、いずれもドイツの脅威には一言も触れなかったものの、英仏・英露間の紛争原因を取り除き、友好関係を増進することによって、おのずからドイツ包囲網の形成となりました。これを「協商」の時代と呼びますが、アジア情勢も、ブッシュの頃から、漠然とですが、協商の時代に入りつつある(オバマ時代になってからは、揺れていますが)と言えるでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 13:42 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米韓合同軍事演習への中国の反応 [2010年07月20日(Tue)]
ウォールストリート・ジャーナル7月20日付社説が、中国は黄海での米韓合同軍事演習に強く反対しているが、公海での演習に反対するのは容認できない、と言っています。

すなわち、米艦船はこれまで東シナ海・南シナ海・黄海を航行し、演習も行ってきたが、近年中国は公海域での船舶・航空機の国際交通ルールに挑戦し始めている。中国の長期的戦略は、中国沿岸海域への米国の軍事的アクセスを拒否することにあり、中国海軍の実力が高まるにつれ、米艦船に対する台湾海峡や南シナ海の紛争海域に入るなという警告はあからさまになってきた。しかし、公海域で他国の船舶や艦船が行動する権利を奪おうとすることは容認できない、と言っています。


人民日報電子版は、中国が黄海での米艦合同軍事演習に反対するのは、「黄海は中国の首都地域への門戸で、歴史的に列強の侵略者は繰り返し黄海を北京への入り口としてきた」からだ、という中国軍幹部の発言を報じています。

中国の立場に立てば、こうした懸念は分からなくはありません。しかし実際は、中国の主張は、「中国の安全保障の観点から、黄海の公海域も中国の領海とみなす」、と言っているに等しいと言えます。何が中国にとって脅威であるかは中国が決め、その脅威に対処するためには国際規範も無視するという強気の態度であり、それを支えているのが、近年増強著しい中国の「拒否能力」です。

こうした中国の態度は、今後中国の軍事力、特に海軍力がさらに強化されるにつれて一層強まることが予想され、場合によっては尖閣諸島やシーレーンもその対象になる可能性があります。社説は、そうしたことは容認できないと言っていますが、勿論、言うだけでは不十分であり、増大し続ける中国の軍事力に対する有効な抑止策が講じられなければなりません。まず図るべきは、日米同盟の強化であり、日本が国内政情から逡巡することは許されません。また、中国の封じ込めではなく、あくまで中国の軍事的圧力に対抗するために、ベトナムやインドなどとの連携を強化することも検討されるべきでしょう。

(8月12日〜18日は夏休みをいただきます。次回更新は19日)


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:28 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジア通貨基金 [2010年07月20日(Tue)]

IMFは世界経済の重心が移りつつあるアジアを重視すべきだ、というIMF専務理事の発言がありましたが、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンのコラムニスト、Philip Bowringが、それを踏まえて、ニューヨーク・タイムズ7月20日付でアジア通貨基金のことを論じています。

それによると、IMFは、かつてはアジア通貨基金をIMFの権限を脅かすものと見て、1998年には日本が出した設立提案に反対したが、今ではアジア通貨基金のような地域的機構はIMFを補完するものだと認めるようになった。他方、日中韓とアセアンが相互外貨融資のため1200億ドルの基金創設に合意したことで、アジア通貨基金の種もできたと言える。しかし、この金額では、最近のような金融危機に対処するには不十分であり、その上、日中間の指導権争いが危惧されるし、さらには、インドをアジア通貨基金に含める目途も立っていない、と指摘し、

同じアジアといっても、東アジア諸国は経済が既に成熟期に入り、人口も伸び悩んでいるのに対し、南西アジアは経済も人口もまだ成長期にある。その南西アジアのニーズをよりよく満たせるのは、東アジア主導のアジア通貨基金よりも、IMFのような世界的機構だろう。また、韓国のような貿易依存度の高い中規模国家にとっても、世界的な機構の方がより多くの恩恵を与えてくれる、と言っています。


バウリングは、IMFが東アジアを重視するようになったのは歓迎するが、アジア通貨基金の設立は必ずしも適当とは思えない、IMFがアジアへの関心を再び高めれば、今後経済発展が期待されるインドなど南西アジアにとっては、東アジア主導のアジア通貨基金よりはIMFの方が望ましく、また韓国のような中規模国にとっても、アジア通貨基金よりもアジアを重視するIMF の恩恵のほうが大きいのではないか、と言っているのですが、その通りだと思われます。

では、日本にとってはどうでしょうか。1998年のアジア危機の時は、日本がイニシアチブを取れたのですが、中国経済の飛躍的に発展した今は、アジア通貨基金が設立された場合、中国が主導権を握ってしまう危険があり、そうした懸念は時とともに拡大していくでしょう。従って、日本にとっても、アジア通貨基金より、アジア重視のIMFのほうが望ましいと言えるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:25 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
オバマの支持率低下の原因 [2010年07月19日(Mon)]
ファイナンシャル・タイムズ7月19日付で同紙コラムニストのClive Crookが、オバマ大統領の支持率が特に無所属層の間で低下しているのはなぜかについて分析しています。

それによると、オバマの支持率が43%にまで落ちたのは、失業率が一向に改善しないことが最大原因だが、数字的に一番影響が大きいのは無所属層の大量のオバマ離れだ、

実はオバマは、本来はこうした無所属層が求める穏健な政策を実現させてきた。例えば医療制度改革は、政府運営保険を設立する構想を捨て、社会主義色のない中道的なものとなったし、景気刺激策も、臨時歳出増加と税削減を組み合わせる中道的なものだった。それにも関わらず、オバマが特にこの層の支持を失っているのは、政策と政治戦術に矛盾があるためだ、

本能的に中道派だったクリントン大統領と違い、本来進歩的リベラルのオバナは、本心は左派の要請に応えたいのに、米国内の空気はそれを許さず、現実主義的でもあるオバマは、それを読んで可能な範囲の政策を達成しようとした。ところが、その際、中道的政策を積極的に支持する姿勢を見せず、仕方なく妥協したという印象を与えてしまったことに大きな間違いがある、と述べ、

民主党左派は、オバマがそれを積極的に支持しようがしまいが、中道的政策に対しては怒るのだから、オバマは中道派の支持を取り付ける努力をすべきだった、と戦術の誤りを指摘しています。


実績が上がらないことが支持率低下につながるのが普通ですが、医療制度改革法や金融規制改革法を成立させたにもかかわらず、オバマの支持率はますます低下しています。これについては、財政赤字が減り、雇用が回復しない限りどうにもならないという面はあるにせよ、オバマにはそれ以上の問題があると見られており、この論説もその一つです。

要はオバマの業績と心の間に矛盾があるとして、オバマの人柄や信念を問う傾向が強くなっています。オバマが冷静で頭脳明晰というのは誰もが認めますが、クールとは冷たい、合理主義・現実主義的とは本当に信じるものがないという印象が定着しています。

政策の中身ではなく、オバマ氏の人間性が問われているわけですが、その背景には、オバマは自分たちと価値観が違うと感じ始めた米国人が増えてきたことがあります。西欧文明の根幹である自由・人権・友愛への想いや、米国という国家への誇りがオバマ氏には感じられないという戸惑い、そこに、従来の同盟国や友好国に冷たく、敵に手を差し伸べる政策、欧州や中東諸国に対しアメリカの驕りを謝り、人権問題で妥協してきた等への批判が重なります。このイメージを変えるのは容易ではないでしょう。

なお、訪米したキャメロン英首相をオバマが大歓迎し、様々な問題があるにも拘わらず、価値観や政策を共有する英米の特別な関係を強調したのは、大統領の心を問う国民を安心させようという計算もあったと思われます。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:16 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国家情報評価(NIE)の在り方  [2010年07月19日(Mon)]
ウォール・ストリート・ジャーナル7月19日付で、米ハドソン研究所のGabriel Schoenfeldが、イランの核情報をめぐる国家情報評価(NIE)のあり方に注文をつけています。

それによると、2007年に情報当局は、「テヘランは2003年秋に核兵器計画を停止したと高い自信を持って判断する」という文で始まる国家情報評価(NIE)を発表、これによって対イラン軍事攻撃の目はなくなり、制裁論議も掘り崩されてしまった、

ところが2007年NIEには欠陥があった。イランは「兵器化」を停止したとしたが、爆弾を作る上でカギはウラン濃縮であり、兵器設計は簡単にできる。独、英、仏、イスラエルの議会やメディアはこの点を問題にした。さらに、その後、このNIEは、イラクは大量破壊兵器を多数保有しているとの誤情報がイラク戦争につながったことへの反省から、対イラン軍事攻撃を選択肢から排除することを念頭に作られたことが明らかにされた、

昨年末以来、情報当局はイランの核計画について新しいNIEの準備を開始、パネッタCIA長官もイランは核兵器を開発していると言明したものの、今回のNIEも軍事的選択肢を排除し、対イラン制裁を正当化することを目指している。例えば、イスラエルはイランの核兵器開発までに12カ月としているのに対し、米情報当局者は短くて2年、長くて5年としている。これは重要な問題であり、又もやいい加減な情報に基づいてイランの核情勢を判断するわけにはいかない、

そこで、NIEの作成過程を吟味するために中立的な外部パネルが設けられるべきだ。独立した調査は、イラクの大量破壊兵器とイランの核問題に続く、第3の情報の失敗を避けるために役立つだろう、と言っています。


スコーンフェルドは、2007年NIEは確かに特定の政策推進に使われたが、現在作業中のNIEもそうなりかねないとして、独立調査委員会のようなものを設けることを提案しているわけです。

しかしこういう提案にも問題があります。NIEは情報当局が客観的に情勢判断をして政策当局に提供するものであり、本来、機密扱いされるべきものです。ところがNIE公表に向けて圧力がかかり、その一部が開示されるようになった結果、2007年NIEのように、NIE自体が世論を巻き込んで政策の方向性に影響を与えるようになっています。そのため、例えばチェイニーがイラクの大量破壊兵器についてのCIAの情勢判断の方向性に関心をもち、影響を与えようとしたように、政治家がNIEの内容に注文をつけるということが起きています。

情報当局と政策当局の区分を厳格にし、前者は客観的に情勢判断をするということにしないと、情報の政治化や情報に政策が振り回されることになります。第三者機関でNIEのあり方を審査するというスコーンフェルドの提案は、NIEの本来の機能を損なう恐れがあるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:20 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アフガン撤退、決断の時 [2010年07月18日(Sun)]
ブッシュ政権初期にパウエル国務長官の下で政策企画委員長、その後アフガン特命大使を務めた、米外交問題評議会議長のRichard N. Haassが、アフガニスタンで勝利する見込みは無い、緩やかな地方自治体の連合体を認めて、米軍は撤兵すべきだ、とニューズウィーク誌で論じています。

すなわち、アフガン情勢が悪化しているが、こうした中で、米国のアフガン政策には、@現行の政策の継続、Aアフガン撤兵、Bタリバンとの妥協、C南部パシュトゥン地域と北部との事実上の分割を認める等の選択肢がある。

しかし、@は上手く行かなかった場合、タリバンは戦闘を継続、米国の出費は年千億ドルにも達する、Aはカルザイ政権が崩壊、タリバン優勢となり、米国とNATOの威信が傷つく、Bは、タリバンが時間は自分たちに有利と思っているのでおそらく成立しない、Cはパキスタン・パシュトゥンの分離運動をもたらし、また、アフガン南部の非パシュトゥン少数民族が反対するだろう、

もう一つの選択肢は非中央集権化だ。この方式では、米国は、アルカイダを拒否し、パキスタンを脅かさない地方自治体に対しては軍事援助を与え、また、人権尊重と麻薬生産の規制に応じて経済援助を与えることになる、

これの長所は、中央政府の力が弱く、地方が割拠するアフガンの伝統に沿っていることであり、既にペトレイアスは、地方の治安部隊の創設という形でこの方向に一歩踏み出している。欠点は、タリバン支配地域では人権違反の法が行われることで、タリバンに譲歩し過ぎと批判されるだろう、

しかし、オバマ大統領は決断を下さねばならない。そのためには、そもそもアルカイダに再び聖域を許さないことと、パキスタンの安定を損なわないことが、米国の二大目的だという基本に立ち返る必要がある。そして、そうした検討の結果は、やはり非中央集権化が最善の方式ということになろう。今のままで戦い続けても成功の見通しは無い、と言っています。


もはや米国の知識層の間では、アフガン戦争はこのままでは勝てないという認識と、最低限の目標を達成するために合理的な戦略を取るべきだというのがコンセンサスになりつつあるようです。

その最低限の目標とは、アルカイダの聖域は許さない、アフガン民主化・自由化という米国の理想主義は放棄する、であり、具体的には、地方によってタリバンの非人道的支配を容認することを意味します。

なお、従来、政府方針に沿った公式論を述べることが多かったハースですが、ここではアフガニスタンの非中央集権化という自分らの考えを明確に述べています。外交問題評議会議長がここまではっきり発言したことは、民主党政権の政策に相当な影響を与えるのではないかと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:07 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
オバマ戦略弁護 [2010年07月15日(Thu)]
ファイナンシャル・タイムズ7月15日付で同紙副編集長・政治問題解説委員のPhilip Stephensが、一般にオバマには戦略が無いと批判されているが、実は一貫した戦略があり、それが成功しているとは言い難いが、他に良い選択肢があるわけでもあるまい、と言ってオバマを弁護しています。

すなわち、オバマは国際戦略が無いともっぱら非難されているが、実は彼は一貫した戦略を実施してきた。ただ、国内の政治的騒音や解決困難な国際情勢によってそれがかき消されているだけだ、

また、ブッシュが力を信奉したのに対し、オバマは逆に米国を過小評価し過ぎだと批判されるが、破綻国家やアルカイダ等の非国家的勢力が台頭し、核拡散や気候変動が問題となっている現在、従来のような考え方は通用しない。米国の役割は、種々の多国間関係のリーダーとして、新興勢力を抑えるというよりもそれらを包容して、国際秩序を増進させることにある。オバマ戦略は、厳しい内外環境にあって成功しないかもしれないが、誰もそれ以外の選択肢を示していないではないか、と言っています。


スティーヴンスはリベラル的立場からか、あるいは、皆がオバマを批判している状況にあって、英国的天の邪鬼の立場からオバマを弁護しているのでしょう。

しかし、オバマの姿勢に危惧を抱かされるのは、軍事問題について見識が無いこと、特に中国の台頭による国際的パワー・バランスの変化に対して少なくとも表面上無関心であることです。現状では、国際問題に関するリベラルと保守の差は、中国の勃興の長期的影響についての認識の差にあると言っても過言ではありません。

9.11以来、国際情勢は変わってしまい、米国が対応すべきは対テロ等の「新しい戦争」であり、また、気候変動などの地球的課題が主要な国際課題になって来たと言うのがリベラルの立場です。それに対し、国際関係の基本はバランス・オブ・パワーであり、長期的に最も警戒を要するのは中国の軍事力の増大だというのが保守の認識だと言ってよいでしょう。

この論文も、新しい戦争と気候変動等に触れるのみで、世界的バランス・オブ・パワーの変化については何の関心も示していず、典型的なリベラルの説と言えます。ただ、オバマ戦略は成功しないかもしれないが、他に良いアイディアも無いではないか、という結びの部分の指摘は、アフガニスタン、イラン、北朝鮮の現状を考えると、英国的現実主義とも言えますが、他面、ブッシュの時代でも同じことが言えたでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:56 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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