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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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日本の衆議院選挙 A [2009年08月31日(Mon)]
日本の衆議院選挙について、米各紙が(時差があるため)選挙結果が出たのと同日の8月31日付で論評しています。

コラムニストのPhilip Bowringはニューヨーク・タイムズで、日本の政治には激震が走ったが、外交政策に大きな変化はないだろう。新政権が、南シナ海問題のような中国、韓国との二国間関係を改善しようとしているのは結構なことだ。中国の軍事力の増強については、日本は日米安保に頼り、中国が平和的であることを願う以外に対策はないだろう。民主党はアジアで日中が共に指導力を発揮することを期待しているらしいが、昇り坂にある中国は受け付けないだろう。防衛を60年間米国に任せてきた上に、現在のアジアの状況では、日本がこうした体制を変えるのはなおさら難しくなっている、と述べ、

クリスチャン・サイエンス・モニターの元海外特派員Daniel Sneiderはワシントン・ポストで、日本の有権者が望んだのは唯一つ、長期に渡った自民党一党支配を終わらせることだったのであり、これで日本に2大政党制が導入されることになった。これは革命的な変化であり、日本が真に変わるチャンスである。こうした変革の立役者である小沢は、既に1993年に、日本は防衛を米国に任せてきたが、冷戦後は世界の安全に責任を持たねばならないと言って、「普通の国」になることを提唱している。そのため、新政権の下の日米関係の将来を憂慮する声もあるが、新政権も、時にやり方は違っても日米同盟には深くコミットしている、と言っています。

またウォール・ストリート・ジャーナルのMary Kisselアジア社説編集者は、オバマがアンチ・ブッシュであるように、鳩山はアンチ小泉だ。小泉は自由競争を重んじ、親米で、中国に厳しい姿勢を取ったが、鳩山はアンチ資本主義者であり、アジアと国連重視で、中国の興隆という状況に順応すべきだと言っている。これは重大な変化であり、米国はこのことにもっと注意を払う必要がある。経験不足の鳩山は、日本にとって最も緊密かつ最善の同盟国である米国の意向から学ぶべきだ、と言っています。

三者三様ですが、それぞれに事態を鋭く捉えた論説と思われます。小沢氏がかつて「普通の国」を唱えたことは事実であり、今回選出された小沢支持の議員の中にも、同じ考えの人々が大勢いても不思議ではありません。他方、鳩山氏の外交におけるリベラルな姿勢は、WSJが指摘する通りであり、少なくともレトリックでは処々にそうした姿勢が反映されることになるでしょう。しかし、結果としては、日米関係は大して変わらないということも、また、予想に難くありません。

ただ、残念ながら、いずれの論説にも、「今度こそは」という大きな期待は表明されていません。しかしそれもまたやむなし、とわれわれも納得せざるを得ないというのが正直なところでしょう。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:32 | 日本 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
日本の衆議院選挙 [2009年08月29日(Sat)]
ウォール・ストリート・ジャーナル8月29日付社説が、日本の衆議院選挙を取り上げ、WSJの社風を表して、保守的な立場から新政権に危惧を表明しています。

それによれば、無限に続くかと思われた自民党支配が終わり、二大政党制となるのは良いことだろうが、問題は鳩山氏が具体的に何をするかだろう。彼が言うように、政財官の鉄の三角形を打破出来るのなら、国民に対して責任能力のある政府を作ることになろう、

他方、外交については、刷新を主張しており、それは、主張する個別の政策がもう少し良いものなら結構なことだ。ところが、鳩山氏は米国と距離を置くことや核廃絶を目指しているが、中国や朝鮮半島情勢などは十分に考慮していないように思える。

また民主党は、子育て、教育、老人手当を考えているが、日本は財政赤字国であり、成長が必要だ。経済が強くなければ、日本は強い防衛力も持てない。もっとも鳩山政権はすでにくすぶっているスキャンダルのために短命に終わるかもしれない。いずれにしても、民主党政治が単なる自民党政治の繰り返しであるかどうかは、間もなくわかるだろう、と言っています。

この社説も含めて、長い自民党一党支配からの脱却という変革自体は良いことかもしれないが、将来の見通し、特に日米関係に対する影響は、若干心配だ、しかしこれも様子を見なければわからない、というのが、西側の一般の受け止め方のようです。この社説はその上に、中国と北朝鮮の脅威に対する認識と対策の弱さを指摘していることが目立ちます。

そこで気になるのは、民主党によるアジア諸国との関係改善(歴史問題がその趣旨と思われる)は、米国のアジア外交をやりやすくする上で有益だという考え方が、一部で表明されていることです。今後、この問題が再浮上するようになれば、日本は国内世論上ついて行ける限度があるので、東アジアにおいて、旧敵国や旧植民地国と米国との連合の中で、孤立する恐れがあることが心配です。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:44 | 日本 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アフガン戦争の出口戦略 [2009年08月28日(Fri)]
ウォール・ストリート・ジャーナル8月28日付で、民主党のRuss Feingold上院議員が、アフガニスタンからの撤退について期限を設けることを主張しています。

すなわち、米国は9.11 のゆえにアフガニスタンに出兵したが、現在はアフガニスタンの国創りに捲きこまれて、アルカイダ討伐の力をそがれている。今撤退すれば、タリバンは勢力を拡大し、アルカイダの聖域も広がると言われているが、これほど過剰に米国の精力をアフガニスタンに費やすのは、テロ対策全体にとっては不利だ。むしろ、外交的にパキスタンのタリバン支援を止めさせ、アフガン政府を経済援助などで援けて、長期的にタリバンがアルカイダを匿えなくする方が良いだろう。米国は自分が出来ることの限界を知らねばならないのであり、アフガニスタンについては増派でなく、撤退の期限について話し合いを始めるべきだ、と言っています。

ファインゴールドは、市民権の抑圧だとして、9.11 の後の愛国法に反対した唯一の上院議員であり、イラクからの期限付き撤退を2005 年に初めて主張した上院議員でもあって、この論説はこうした彼の主張の延長線上にあるものです。と言っても彼は孤立した一匹狼というわけではなく、2008年の大統領選挙前には、大統領候補の一人として名が挙げられたこともあり、発言力のある上院議員です。

この論説も単なるパシフィストの主張ではなく、様々な現実的な考慮も払ったバランスの取れたものです。現在のところは、アフガン戦争は、オバマの選挙戦以来のコミットメントとして、誰も反対できず、成り行きを見守っている状況ですが、いずれ撤退論が出てくるのは時間の問題でした。それが、アフガン総選挙で政権の腐敗と無能力の実態が明らかになるにつれて、ついに表面に押し出されて来たということでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:21 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
バーナンキFRB 議長再任 [2009年08月25日(Tue)]
オバマ大統領が今年で任期切れとなるバーナンキ連邦準備制度理事会議長の再指名を発表、ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナル両紙は、8月25日付社説で、この人事を非常に醒めたトーンで批判的に論評しています。

すなわち、昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以来、資金仲介機能が世界的に心肺停止の状態に陥る中、米国中央銀行がなすべき役割は唯一、ひたすら市場に資金を提供することだったが、その際のバーナンキの迅速、機動的、かつ大胆な采配もあって、世界経済は大恐慌に陥る寸前で踏みとどまった。しかし、だからと言って彼を手放しで褒めるわけにいかない。なぜなら、@危機に至る前、米経済のバブルの最終局面を目の当たりにしながら、彼は何ら予防策を講じようとしなかった、A昨秋以降のドル紙幣をひたすら増刷するに等しい危機対応は、あくまで非常時のものであり、中央銀行総裁の本来の実績とはなり難い、B大火事の消火後は、当然、後始末が必要になるが、まだそれについての彼の手腕は未知数だからだ、と言っています。

実は、新議長にはサンフランシスコ連銀のJanet Yellenか、国家経済評議会のLarry Summersが任命されると専ら噂されていたのであり、それはとりもなおさずバーナンキ氏の信任がぐらついていたことを意味します。そのためか、オバマ大統領は静養先で敢えてバーナンキを伴って記者会見を開き、その手腕を大きく称えて見せました。

いずれにしても、ウォール・ストリート・ジャーナルが、連銀が通貨大増発に踏み切った当然の結果として、ドル価値を暴落させたことを取り上げ、この点では通貨の番人としてバーナンキは議長失格だと示唆しているのは、当然の指摘でしょう。

また今後、Bの後始末については、民間資金仲介機能の回復程度、物価の水準とその方向、市場心理との駆け引き等、種々の要素を見極めながら慎重かつある程度大胆に進めねばならない作業となりますが、これは日銀も含めて、未だに成功例は一つもなく、バーナンキにとってもさぞ荷が重い仕事だろうと思われます。

それにしてもFRB議長は、金銭的には全く割に合わない仕事です。日本円にして2000万円に遥かに満たない19万1300ドルという年棒は、ゴールドマン・サックス、シティグループ、JPモルガン・チェース等のトップが得る数十億円の報酬とは比べるべくもありません。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:26 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
対ミャンマー政策 [2009年08月25日(Tue)]
ニューヨーク・タイムズ9月25日付に、先日ミャンマーに行って、アウンサン・スーチーに接触した廉で逮捕されていた米人John Yettawを救出、米国要人として10年ぶりにタン・シュエと会談したJim Webb米上院議員が論説を寄稿しています。

それによれば、欧米がミャンマーに厳しい制裁を課している間に、ロシアや中国、特に中国のミャンマー進出は著しく、これはやがて中国=ミャンマー間の軍事協力にもつながるだろう。勿論、米国が経済的利益のみを考えて制裁を止めるのは、敗北を意味するが、他方、いつまでも現状のままでよいわけではない、と述べ、

ミャンマーの民主化努力は続けなければいけないが、米国は非民主的な中国やベトナムとは国交を正常化しており、そのことがまたこれらの国の民主化を援けている。米国は中国に対し、ミャンマーの状況についてもっと発言するよう要求すべきだ。また、対ミャンマー制裁の緩和を、慎重にではあるが、直ちに行うべきで、人道援助から始めるのが良いだろう。第二次世界大戦時の米軍パイロットの遺体引き渡しを要請するのも良い、と言っています。

ウェッブは、レーガン政権の海軍長官で、軍事関係の著作も多く、現在は上院アジア太平洋小委員会委員長を務めている、海兵隊出身の異色の上院議員です。

米国のミャンマーへの対応については、従来から、中国やベトナムへの対応と比べてダブル・スタンダードではないかということ、また、制裁を課している間に中国の大規模進出を許していることが問題とされてきましたが、この論説はこの二点を真正面から取り上げ、しかも早急にその対策を講じることを提言しています。

日本は、人道問題のためにミャンマーとの関係改善が妨げられ、中国のミャンマー進出を許している事態を危惧して、内々、米国の注意を喚起してきましたが、米政府も米議会の強いアウンサン・スーチー支持には従わざるを得ず、結果的に、日本もそれに従って来ました。しかし、米議会の中に、こうした現実的戦略に根差した議論が出てきたのは頼もしいことであり、日本としても、何らかの連携を考えるべきでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:25 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラン冒険主義の拡大 [2009年08月23日(Sun)]
ウォール・ストリート・ジャーナル8月23日付でMohamad Bazziが、イランとの対話に関する楽観論に警鐘を鳴らしています。バッジはレバノン出身のシーア派イスラム教徒であり、1994 年に米国に帰化、Newsday 紙の中東支局長からニューヨーク大学教授に転身した経歴を持つ元ジャーナリストです。

バッジは、最近西側識者の一部に、「大統領選挙後の混乱でイラン現政権は弱体化しており、今後は強硬姿勢を変更、中東における政治的野心も放棄するだろう」と見る向きがあるが、これは幻想だ。なぜなら、イランの宗教指導者たちにとって、イスラム政権としての正統性を主張し、大衆の支持を確保して権力を維持するには、外国で冒険主義を冒すことが最良の方法だからだ。事実、イランは従来から内政的危機があると、対外的により冒険主義的になる傾向があり、現在もイラク、レバノン、紅海などで様々な軍事的活動を続けている、

もっとも今のイランの国内状況は、アラブ諸国にとって民意に基づくという正統性をイランから一部奪い取る好機であり、オバマ政権にとっても中東和平問題、特にシリアへの働き掛けを進める好機かもしれない。しかし、これまで25 年以上続いてきたイランとシリアとの関係は簡単には解けないだろうし、イランの帝国主義的活動は今後も長く続くと見なければならない、と言っています。

バッジが言う「西側識者」が誰を指すのか不明ですが、いずれにしても、現在米国、特にワシントンの中東専門家の間ではこの種の「楽観論」はむしろ少数派であり、おそらくバッジはイランとの対話を進めようとする一部の欧州諸国やオバマ政権関係者に対し注意を喚起しているのだと思われます。

こうしたバッジのやや悲観的な対イラン観は、ユダヤ系米国人の中東専門家を中心とする対イラン強硬派の見方とも軌を一にしており、それ自体は珍しいものではありません。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:59 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アフガン戦争は選択による戦争 [2009年08月21日(Fri)]
ニューヨーク・タイムズ8月月21日付で、米外交問題評議会のRichard N. Haass議長が、今やアフガン戦争は必要による戦争ではなく、選択による戦争であり、現在の戦略が成果を挙げなければ、戦線を縮小するか、撤退すべきだ、と論じています。

すなわち、必要による戦争とは、武力行使以外に重要な国益を守る有効な手段がない場合に言うが、アフガン戦争は、地上軍の作戦を縮小し、無人機によるテロリスト攻撃・アフガン軍の訓練・開発援助・外交に重点を置く、あるいは、米軍を全面撤退させ、地域的、世界的テロ対策で対処する、という代替策があり、選択による戦争だ、

もっとも、アフガンに関わる米国の国益は重要であり、限定的成功の見通しは十分ある上に、代替策のリスクが高いので、米国は当面は慎重な戦略を進めるべきだ。ただ、それが成果を挙げているかどうか、政府や議会は定期的に厳しく評価し、成果を挙げていないなら、戦闘の縮小か撤退をすべきだ。特に、何をいつまでやるかを限定しないと、将来他の戦争をする必要が生じた場合に対応できなくなる、と言っています。

オバマ大統領は、イラクは選択した戦争、つまり戦わなくても良かった間違った戦争だが、アフガン戦争は必要な、正しい戦争だとする演説を17日に行なっており、この論説はそれを受けて書かれたと思われます。

オバマ演説の背景には、米国民のアフガン戦争支持の低下と、アフガンのベトナム化が囁かれだしたことがあります。最近の世論調査で、アフガン戦争は戦う価値なしとの回答が初めて5割を超え、41%が戦争に強く反対しています。オバマ政権にとって特に辛いのは、民主党支持者の7割が価値なしと答えていることです。

ベトナム戦争との比較も言われるようになり、戦略の失敗、敵の意図の読み違い、現地の味方の不甲斐なさ等、様々な類似点が指摘されていますが、オバマ政権にとって何より怖いのは、国民の戦争観とその結果としての戦争支持率低下でしょう。米国がベトナム撤退を余儀なくされたのは、米国民の支持が失われ、その結果、議会に予算を削られたことが最大の理由です。そのベトナムは未だに米国社会に大きな影を落としており、歴代政権はいかなる戦争のベトナム化も政権の命取りになると恐れてきました。

今後、アフガン大統領選で不正がはびこっていた、選挙の結果アフガン国内が混乱に陥る、新大統領が決まっても、アフガン軍や官僚は動かず、米軍ばかりが犠牲になる、ということになれば、戦争支持は一層低下するのは間違いなく、アフガンは必要な戦争、だから正しい戦争、だから戦い続ける、という論法が通用しなくなります。だからこそハースは、アフガン戦争は9.11 直後は必要な戦争だったが、今は選択した戦争であり、その選択の厳しさを認めた上で、対策を考えるべきだと言っているわけです。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:45 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
パキスタンの核の安全 [2009年08月21日(Fri)]
米CIAやエネルギー省で長年核関連情報に関わってきたRolf Mowatt-Larssen が、Arms Control Today 7−8月号で、パキスタンの核の安全が憂慮すべき状態にある、と論じています。

すなわち、パキスタンでは核兵器計画自体が急速に拡大しているので、その分リスクが増している上に、国内の不安定化と過激派勢力の拡大に伴い、@核施設の内部の者が外部の者と協力して核兵器や核物質を提供する恐れと、A外部の者が核施設を占拠する、最悪の場合、クーデターが起きてタリバンが核を支配する恐れが増している、

このうち、特に懸念されるのは、内部者と外部者が呼応するケースだ。A.Q.カーンの悪行はよく知られているが、実は、驚くべきことに、パキスタンの核兵器計画のもう一人の創設者だったBashiruddin Mahmoodも、カーンとは別に、利益のために国家の最重要機密を過激派やテロリストに売る組織を創ろうとしていた。この件は米・パキスタンの協力で未遂に終わったが、これを見ても、今後同様なことが起こりうる、

これに対し、パキスタン軍部は、核施設を地理的に分散させると共に、核兵器の貯蔵場所やその運搬を秘密にする、つまり物理的な安全策強化よりも、秘密重視で対処しようとしているが、これは、核関連の動きの予測を困難にするため、テロリスト対策としてはよいが、インドが誤って解釈する恐れがある、と指摘して

現在はまだ核の安全態勢が崩壊する可能性は低いが、時の経過につれて、その可能性は着実に高まっていく。米国はそうした可能性に対処できるようあらゆる準備をすべきであり、パキスタンによる核の安全策強化を全面的に支援すべきだ、と言っています。

これは、パキスタンの核の安全は万全ではなく、核テロの危険は現実のものだという警告です。モワット=ラーセンは、特に、内部の者の協力で核物質や情報、ノウハウなどが少しづつ流出する危険性が高いことを指摘し、内部者の外部者への協力をいかに防止するかが重要な課題だと言っています。しかし、パキスタン軍部もここに来て真剣に核の安全確保に取り組んでいるようですが、有効な対策を打ち出すのは容易ではないでしょう。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:54 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
NATOの将来像とロシア [2009年08月20日(Thu)]
ニューヨーク・タイムズ8月20日付でZbigniew Brzezinski元米国家安全保障担当大統領補佐官がNATOの今後のあり方について論じています。

すなわち、今、世界では大混乱が生じているが、こうした脅威に効果的に対処する世界的な安全保障メカニズムというものがない。その上、中国やインドの驚異的台頭に示されるように、世界の政治と経済の重心は北大西洋からアジア・太平洋に移りつつあり、そのことが事態をいっそう複雑にしている。そうした中で、NATOは、対露関係について長期的戦略目標を規定する必要がある、と述べて、

NATOは、ロシアとの関係を緊密化して欧州の安全強化を図ること、さらに、ロシアを広範な世界的安全保障網の中に取り込んで、ロシアの帝国主義的野心の抑制を図ることを戦略目標とすべきだ。手始めに、NATOはロシアが作った集団安全保障条約機構との間で安全保障協力について協定を結ぶのが良いかもしれない。さらに、上海協力機構とも理事会を設けるべきであるし、台頭するアジア諸国ともより公的な関係を作ることを考えなければならない、

ただ、NATOがその存在意義を保つには、一部の者が言うように、単に拡大して世界的同盟になるわけにはいかない。グローバルな同盟になれば、中核であるべき欧米間の結合の重要性が薄らいでしまう、と言っています。

ブレジンスキーは、世界で種々の不安定情況が出現しているのに、現在はそれに対処する有効なグローバルな安全保障メカニズムがない、それを是正するために、NATOを中心にグローバルな安全保障問題を取り仕切っていこう、と言っているのですが、彼が本当に主張したいことは、ロシアを抑えねばならない、ということのように思えます。

実際、中国や日本とNATOの関係をより公的なものにするということが、具体的に何を意味するのか、良く判りませんし、ロシアや中国、更にインドがこういう構想にどう対応するかも不明です。

つまりこの論説は、NATOの有り方の議論と世界での種々の不安定、そして安全保障問題を結び付けた議論のように見えて、実は、欧米中心主義の観点から対ロシア対策を訴えているものと言えるでしょう。そうしたブレジンスキーのロシアに対する強い警戒心は、彼がポーランド生まれである上に、モスクワにも住んだことがあって、ロシアの恐怖政治を身をもって体験したことから来ていると思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:52 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米中関係と新秩序 [2009年08月19日(Wed)]
ワシントン・ポスト8月19日付で、Henry A. Kissinger元米国務長官が、中国の力の増大に適応する新たな国際秩序をいかに構築するかについて論じています。

すなわち、米中の経済関係を解決する処方箋は、中国が消費を拡大し、米国が消費を節減することだと言われるが、それをすれば、中国の米市場依存度が減る代わりに周辺諸国の中国依存度が増し、中国の政治的影響力が増すことになる。その調整のために米中が協力することは、両国が共に覇権国の伝統を持つので容易ではない、

しかし、米国は、冷戦時代の封じ込め政策の誘惑に抗しなければならないし、中国は、米国の覇権を排するアジア共同体などの構想は差し控えなければならない。また、それとは逆の、米中2国で重要案件を決めていくG-2構想も、他国のナショナリズムを刺激するから避けなければならないし、アジア諸国が古典的なバランス・オブ・パワーに戻って対立するブロックを形成することも避けなければならない、と述べて、

力の重心がアジアに移った今、米国は米国以外の国もそれぞれの志を遂げられようにしながら、米中協力を推進し、覇権とは異なる指導力を発揮する役割を求めるべきだ、と言っています。

この論説で、キッシンジャーは避けるべきことを列挙するだけで、具体的な提案は何もしていないように見えますが、実は二つの事ははっきり言っています。

一つは、中国中心の東アジア共同体に対する反対であり、もう一つは、日本などが主唱する「自由と繁栄の弧」のような考え方に対する反対です。前者への反対は、米国が西太平洋国家であり、東アジアの共同体から外されるべきでないとする米国の基本的立場からして当然と言えるでしょう。

問題は後者への反対です。これは米国にとって将来の具体的な選択肢の一つであり、現にそうなる可能性もあるのに、キッシンジャーがこうまではっきりと反対を表明しているのは、やはり彼の親中傾斜の表れに思えます。

要するに、結局は、米中対話を中心に諸事万端決めて行こうということであり、今後のオバマ政権の動向、日本における政治的潮流の変化によっては、少なくともある期間、これが現実となる可能性は排除できません。これに対しては、日本としては、米中対話が、実質上は日米同盟対中国の対話であること、すなわち事前の日米間の十分な協議の上に立つことを確保できれば、日本の国益は守られると思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:56 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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