• もっと見る

世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


プロフィール

特定非営利活動法人 岡崎研究所さんの画像
Google

Web サイト内

カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
△小泉純一郎前首相の医師久松篤子
英米関係は共通の理念に支えられる (10/08) 元進歩派
実績をあげているオバマ外交 (09/21) wholesale handbags
タクシン派のタクシン離れ (07/04) womens wallets
豪の新たな対中認識 (07/04) red bottom shoes
バーレーン情勢 (07/02) neverfull lv
石油価格高騰 (07/02) wholesale handbags
金融危機後の世界 (07/02) handbags sale
米国の対アジア政策のリセット (07/02) neverfull lv
ゲーツのシャングリラ演説 (07/02) handbags sale
パキスタンの核の行方 (07/01)
最新トラックバック
リンク集
月別アーカイブ
https://blog.canpan.info/okazaki-inst/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/okazaki-inst/index2_0.xml
ドイツの経済状況 [2009年04月30日(Thu)]
独ツァイト紙4月30日付がドイツ経済について論じています。

記事は、@危機はまだ収束していないが、今後ドイツ経済は、第一四半期の3%縮小のような急激な縮小はないだろう。ガソリン価格が下降し、最近の劇的な生産縮小によって在庫が空になった企業も多く、これらについては生産活動の復活が期待出来る。ただ、A今後は解雇を避けるのが困難になり、失業が増加しよう。解雇が容易な米国は既にこの傾向が顕著だ、B解雇のない経済の上昇局面はすぐには来ない。しかし、C現在の景気刺激策を止めるのは危険だ。30年代の大恐慌時代にも、時々若干の景気好転はあったが、またすぐに下降した。市場の力のみによる景気下降の逆転は期待出来ない、と述べ、

回復は案外早いかもしれず、その場合は、インフレ防止のため、刺激策を縮小しなければならないが、逆に、これまで表面化していなかった銀行・保険・ヘッジファンド等の巨大損失が表れるなど、事態が一層深刻になる可能性もある。つまり経済政策を行う者は、見通しが不十分な中で決定を下さねばならず、こうした場合は、最悪の事態を予想することが妥当だ。今の状況で最悪の事態とはデフレであり、その防止には、現に多くの国が行っているように、金融を緩和し、国家の支出を増大することが欠かせない、と言っています。

ドイツ経済について書かれた記事ですが、細部は別として、日本とドイツはかなり似た経済・社会体制にあるので、内容の多くは日本にも妥当すると思われます。現在の経済危機については、過去80年の経済政策の進歩で、各国政府は新たな対応の手立てを持っており、30年代の再現はあり得ませんが、だからと言って、将来について確たる見通しは立てられず、今後も国際協調の下に試行錯誤を続けるしかありません。ただ、世界の190余の国の中で、G8や中国、インドなどの大国は施策を行なう余裕がありますが、世界経済に組込まれた中欧、東欧、一部中東、東南アジアの中小諸国と、アフリカ、中央アジアや中南米の多くの諸国は、それぞれ別の処方箋を必要としています。日本としては(既にある程度行なっていますが)、自国のための政策に加え、IMF資金の増強のような多国的施策と、これはという国を選別しての二国間支援をきめ細かく行う機会だと思われます。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:57 | 欧州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
エジプト重視論 [2009年04月28日(Tue)]
ウォール・ストリート・ジャーナル4月28日付で、エジプトで最も権威あるアルアラム国際問題研究所のAbdel Monem Said Aly所長が、近く行われると予想されるオバマの新中東政策構想スピーチで、対イラン政策におけるエジプトの重要性が認識される必要を説いています。

アリは、最近エジプト政府は国境付近におけるヒズボラの活動を摘発したが、イランは、エジプトを中東における最大の競争相手と考えている。米国がパレスチナ問題を解決しようと思うなら、そのイランの影響力を排除しなければならない。また米政権は、イラン核問題に集中するあまり、中東和平に対するイランの総合的戦略を見失ってはならない。もし、オバマが中東政策スピーチをカイロで行うならば、それはイランへの強いメッセージとなるだろう、と言っています。

米国によるエジプト重視を訴えた、エジプトの代表的研究所長として当然の論説と言えるでしょう。ただ、それ以上の戦略的意味もあるかもしれません。エジプトは永く中東の中心であり、特にサダトがイスラエルとの国交を樹立した頃は、米国の中東政策の最大のパートナーでした。しかし、イラク戦争開始後、米国の関心はイラクに移る一方、イラク戦初期の頃のネオコンの民主主義十字軍的風潮の中で、ムバラクの専制に対する批判が強まり、米=エジプト関係は疎遠になっていました。しかし、イラク問題が一段落し、最大の脅威がイランとなり、また、その根源的解決のためにパレスチナ問題が再浮上して来た今、エジプトの役割は大きくならざるを得ない状況になってきています。

エジプトは何と言っても、人口、国力から言って中東第一の大国であり、ムバラクの「非民主的」姿勢にかかわらず、米国の戦略的友好国でもあります。米国が、対イラン政策と中東和平推進の主要パートナーとしてエジプトを重視すべき論理的必然性はたしかに生じていると言えるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:05 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
パキスタンの核の安全性 [2009年04月24日(Fri)]
タイム誌4月24日付は、パキスタンは核兵器の安全のため必要な措置を講じてはいるものの、米政府は、情勢がさらに悪化すれば、それも危なくなると懸念している、とする解説記事を載せています。

記事は、パキスタン政府は、自国の核について、@軍の超エリート約1万名が警備、A核弾頭は主要部分と他部分に分けて保管、B運搬手段(飛行機とミサイル)も別に保管しているので、核兵器が盗まれることはないと言っている。また、米国も9・11以降、核の安全確保のために、パキスタンに約1億ドルを提供している。しかし米政府も、パキスタンが保有する核兵器の正確な数を把握しておらず、その全ての所在も知ってはいないようだ、と述べ、

マレン統合参謀本部議長も、こうした処置はいずれも結構だが、長期的にパキスタン情勢の悪化に歯止めがかからなければ、最悪の事態になることが懸念されると言明している。現在、世界の中でテロリストと核兵器の距離がパキスタンほど近いところはない、と言っています。

パキスタン情勢の悪化が危機感を持って報道される中で、パキスタンの核兵器がアルカイダやタリバンに奪われる危険があらためて憂慮されています。解説記事は、その危険性は当面は低いが、長期的にはどうなるか分からない、と言っており、従って、パキスタン情勢の悪化を食い止めることは、アフパック問題のみならず、核拡散を防止する上でも至上命令ということになります。

記事はまた、パキスタンの軍や研究機関に入る急進的な若者が増えており、彼らが次第に核兵器計画について大きな役割を果たすことになりかねない、とも憂慮しています。事実とすれば、これは核兵器計画のみならず、パキスタン軍そのものの先行きにも影響を及ぼす問題です。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 14:15 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米中協力論 [2009年04月23日(Thu)]
ウォール・ストリート・ジャーナル4月23日付は、米中協力を強く呼びかけるWilliam S. Cohen元米国防長官の論説を載せています。コーエンはクリントン政権時の国防長官であり、現在はワシントンで、中国とも関係の深いコンサルティング会社を率いています。

コーエンは、北朝鮮のミサイル試射や核開発の脅し、タリバンの復活によるアフガン不安定化、金融危機に誘発された世界的不景気、そして野放しのCO2放出による気候変動等、現在様々な重大問題が起きているが、これらのいずれも解決するには、中国の協力が不可欠だ。米国は、古くからの敵意を捨て、中国と建設的な協力をしていかなければならない、と言っています。

オバマ政権の中国重視は益々明らかになってきていますが、同政権発足以降、大新聞で対中姿勢をここまで明確にしたものはなかったと思われます。保守派の論客が軍事面を中心に対中警戒を呼びかけている中で、本来は保守的なウォール・ストリート・ジャーナルが、元民主党政権閣僚による対中協力論を掲げた意味は小さくありません。

既に米国の大衆レベルでは、中国を「世界一の経済大国」と信じる者も多く、彼らが、米国はこれからはその中国と組んで世界を仕切っていくのだと思い込んでも不思議ではありません。そしてそれに抵抗する国は煩さがれ、悪くすると敵視されることになります。

従って、日本もまたコーエンのようなロビーストも冷徹に活用して、「日米関係がしっかりしていてこそ、米国は中国との関係を安心して進められるのだ」という点をしっかり、かつ上品に米国世論に刷り込んでいくべきでしょう。







Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 14:02 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中台経済交流 [2009年04月20日(Mon)]
台北タイムズ4月20日付け社説が、大陸による台湾への経済浸透に危機意識を表明、これ以上中国の経済的進入を受け容れていくと、台湾の政治や安全保障にとって引き返しようのない事態になる、と警告しています。

社説は、現在中台間で、大陸資本の台湾製造業への投資自由化をどう許すかが協議されているが、その延長上には、台湾主要メーカーの経営支配権の大陸への移動や、大陸銀行による台湾金融の併呑が予想される、

そして大陸資本が大手企業の経営権に浸透し、台湾金融界を掌握すれば、それは当然政治的影響力につながり、台湾の民主主義など言うも愚かな状況に堕しかねない。馬政権はセンシティブなセクターは保護するなど、制限的自由化を求めているようだが、温家宝の発言などから類推すると、いずれ歯止めがきかなくなる。両岸経済の緊密化は不可避だとしても、馬政権は対中接近をあたかも万能薬の如くにとらえ、政治的、軍事的含意について無頓着にすぎる。「短期的利益によって台湾の長期的利益を損なうことのないよう、よほど慎重に」一歩一歩行くべきだ、と言っています。

まさしく来るべきものが来つ、の感を与える社説です。次にあり得る事態は、両岸貿易・投資の決済に人民元が使われるようになることで、これが始まると、早晩、台湾金融機関の人民元建て預金残高が台湾ドル建てのそれを上回り、台湾の外貨準備も人民元建てへと比重が移っていくことが予想されます。

そうなれば、台湾は実質的に大陸中国の一部と化し、戦略空間、思想空間、そして言論の生息空間は、著しく狭められることになるでしょう。そうした台湾には、ワシントンも東京もうっかり情報を与えられなくなります。北京に「筒抜け」となるのは明らかだからであり、そのことは皮肉にもさらに台湾の中国傾斜を促すことになるでしょう。

加えてこうした経済プロセスの背後には、北京のあからさまな軍事脅迫があります。北京が空母保有を切望するのも、軍事・経済の合わせワザで、戦わずして台湾を屈服させるためと考えられます。カート・キャンベルが東アジア担当国務次官補に就任する日が間近ですが、就任したら時をおかず、東京・ワシントン間で対台湾政策の議論が深められることが期待されます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:20 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(2) | トラックバック(0)
オバマの外遊 [2009年04月17日(Fri)]
ウォール・ストリート・ジャーナル4月17日付で、独ツァイト誌の編集発行人、Josef Joffeが、オバマ大統領は欧州で大変人気が高いにも関わらず、今回の外遊では成果を挙げられなかった、と論じています。

ヨッフェは、オバマは欧州各地でまるでスターか王族のように歓迎されたが、政策的にはほとんど成果をあげえず、他国首脳を説得することもできなかった。G20ではメルケル首相に経済刺激策を断られ、NATOサミットでは欧州の同盟国に戦闘部隊の貢献を断わられた。また環境保護でも、欧州は、米国こそがエネルギー過剰消費と温室効果ガス排出の元凶と見て、厳しい環境基準を譲rらなかった、

他方、欧州外でも、核を手放せば、アジアの最後進国の指導者となってしまうのを知っている金正日は、核開発を止めず、また、中東の覇者を目指すイランは、その障害となる米国とイスラエルへの敵対姿勢を変えようとしない、

結局、ド・ゴールなどが言ったように、国家には永遠の友も敵もいない。あるのは永遠の国益だけだ。愛や友情は人を動かすが、国家を動かすのは国益と力なのだ、と言っています。

事前に予測されたことですが、G20でもNATOサミットでもオバマは折れることはあっても厳しい要求はせず。その政策が採択されることはありませんでした。ブッシュ政権でも結果は同じだったでしょうが、違いは、米欧間の対立があからさまにならず、各国が自分の立場が受け入れられたと自国民に主張できたことでしょう。欧州の中からさえ、オバマは大変な政治資産があるのにそれを活用せず、欧州指導者たちにいいようにやられたと言う人もいます。米国は、欧州のロシア・エネルギーへの依存が高すぎると懸念し、その改善の必要を言ってきたにもかかわらず、独・仏は、EU議長国であるチェコの指針を無視し、エネルギー会議にロシアを招待することを推奨しています。

米国民の中からも、自国の大統領が愛されることは必ずしもよいことではなく、恐れられる必要もある、という声が上がっています。他国の見解に耳を傾けるのは重要ですが、甘く見られると、アフガン派兵のように米国と少数の同盟国だけが負担を担い、他国は実質的には傍観ということになります。指導国として他国の意見を聞くことと、政策を推進し、他国に妥協や役割分担を求めることのバランスが必要です。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 12:29 | 米国 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
ソマリア沖海賊問題 [2009年04月16日(Thu)]
独ツァイト4月16日付は、ソマリア沖海賊の問題は、グローバル化された21世紀型テロの様相を帯び始めている。世界はこの状況を放置せず、船舶・船員の保護と、世界で輸送される化石燃料の約半分が通過する海峡の安全確保に努めねばならないが、その際、他海域での模倣者の出現や、海賊とイスラム・テロ組織との結託を未然に防止するという視点も重要だ、

そして、3千キロのソマリア海岸にそう広大な海域で海賊を捉えるには、@海軍を増派し、A既に派遣されている米、欧、中、日、印、ロの艦艇を国連司令部の共通指揮下に置いて、相互の密接な調整を図り、B任務の防衛的性格を止めて、海賊の母船――機動力の高い改造トロール漁船――を追跡させ、さらに、C捕虜にした海賊の取り扱いについて速やかに合意することが必要だ、

しかし海賊を捕らえるのは海上だが、海賊行為の解消には陸上での対策も必要だ。これは、海賊の陸の巣窟の掃討ということではなく、海賊に他の生活の見通しを与えることを意味する。これについては、ローマ人が何度も遠征軍を送った挙句、地中海の海賊を内陸に居住させ、農民にすることで問題を解決した古い歴史的経験がある、と述べ、

長年の内戦で国家が崩壊しているソマリアでは、国際的な海岸監視隊を創り、土地の漁民の職を奪って海賊へと追いやる、国際的船団の乱獲漁業を監視させることが一つの方法だ、と言っています。

記事の最後にある海賊出現の理由は事実でしょう。ソマリア沿岸についてはわかりませんが、EU諸国の大船団によるアフリカ沿岸での乱獲は前から問題となっており、日本の漁船団も西アフリカや南ア沖で操業しています。そうした操業が、ソマリアの零細漁民の生業を奪ったことは十分考えられ、国連はこうした視点からこの問題に取り組むことも必要でしょう。

また日本では、海賊対策について、与野党が憲法・法律論議に時間を空費しましたが、記事からはドイツでも同様な論議があったことがうかがえます。しかし、国際慣習法上、軍艦が公海上で武力を行使して海賊を取り締まれることは、19世紀に確立しています。これを素直に適用しないのは、法律いじりの好きなドイツ人と、法制局の奇妙な憲法解釈に縛られている勇気なき日本の政治家だけでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:12 | アフリカ | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
タイ情勢2 [2009年04月16日(Thu)]
タイの英字紙バンコク・ポスト4月16日付で、チュラロンコン大学の安全保障・国際問題研究所所長のThitinan Pongsudhirak教授が、赤シャツ・グループは今回挫折したが、タイの真の安定のためには、アピシット首相は、赤シャツ・グループの主張に耳を傾けなければならない、と論じています。

ティティナンは、今回の騒乱は赤シャツ・グループの負けだった。彼らは、過去3、4年の出来事を組織的な不公正と見て、それへの怒りから自制を失い、また自発的な全国的反乱を引き起こせると過信して、墓穴を掘ってしまった。彼らの道義的優位と正義のための戦いは、国民の怒りと右翼の反動の高まりに取って代わられた、と述べた上で、

体制側は赤シャツ・グループの背後にいたのはタクシンだけで、タクシンが失墜した以上、事態は正常化したと考えたいかもしれない。しかし赤シャツ・グループは、単にタクシンを代表したのではなく、民主主義に基づく過半数支配を求めたのだ。彼らの台頭は、タイの社会・政治的階層間の不均等や、現状と時代の変化との不調和を考えれば、起こるべくして起こったものだ。彼らは今回は挫折したが、根底にある反体制感情はくすぶり続け、いつか何らかのはけ口を見出すことになろう。 こうした底流を認め、それに適合しなければ、底流は鬱積し、危険になる。体制側は赤シャツ・グループの不公正感、不平等感を受け入れ、それに向き合い、適合する必要がある、と述べています。

ティティナンはタイの指導的学者であるのみならず、気鋭のオピニオン・リーダーとしても知られています。そのティティナンが、赤シャツ・グループの背景にはタイ社会に対する強い不公正感、不平等感があり、これに対処しない限りタイの政治的危機は解消しないと主張しているのは、バンコクのエリート層の耳には痛い指摘でしょう。タイ屈指のオピニオン・リーダーがタイの政治危機の本質をどう見ているかを示すものです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:56 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(3) | トラックバック(0)
核兵器保有のコスト [2009年04月16日(Thu)]
ツァイト4月16日付が核兵器保有のコストについて論じています。

記事は、現在世界には2万個以上の核弾頭が存在――90%以上は米ロが保有――するが、こうした大量の核兵器の安全管理や維持は大変な負担になっており、さらに将来破棄するのも大きな負担になる、

例えば、環境汚染や健康被害、杜撰な管理の危険(テロリストや原理主義者の手に渡る危険)、財政上の負担等の問題がロシアほど深刻ではない米国にしても、核兵器の処理経費は赤字に苦しむ米財政を蝕んでいる。ある専門家によれば、核兵器は通常兵器より維持コストが低いというのは嘘で、米国は1940年〜1996年に5兆5千億ドルを核戦力のため支出、これは、その間の教育、農業、環境、宇宙開発、エネルギー開発の支出合計を上回る。また、将来、核兵器解体と影響除去に総額5兆8千億ドルかかるが、この中にはこれまでに環境が受けた被害の対策や核廃棄物処理の経費は含まれていない。なぜならそれに必要な技術がまだ十分開発されていないからだ、

このように、ある国が核兵器を保有すると、実験、安全な貯蔵、維持、外部からの侵入への防御のコストがかかる上に、耐用年数が過ぎれば武器は無力化し、今度は発生する危険廃棄物の輸送や最終処理が必要となる。さらに保管や解体を行う地域では、人々への啓蒙や危機発生時に備えた訓練が必要になり、事故が発生すれば、医療手当や補償問題が生じる、と言っています。

核軍縮と一口に言いますが、今や核爆弾の製造は、濃縮ウランやプルトニウムさえあれば、技術的にも財政的にも容易です。しかし、一旦保有した後の管理は技術・財政両面で非常に大きな負担になること、まして、廃棄に伴う経費――環境汚染防止等を含む――は保有国には耐えきれない膨大な負担となることは、まだあまり意識されていません。

オバマの提案で、米ロの核弾頭は1000発程度にまで削減される可能性がありますが、現実にはその実行は、米国にとって、ましてロシアにとって大きな財政負担となるでしょう。当然、日本が核武装を考える場合も、この点を検討する必要があります。またパキスタンが内部対立やイスラム過激派との闘争で国の体をなさなくなった場合、あるいは北朝鮮が核兵器を保有した挙句、管理が杜撰で、核汚染を引き起こした場合、これらの国には対応する財力も技術力もないでしょうから、後始末の負担は、結局、主要国(G-8と中印)にかかってくるのではないかと思われます。


.
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:21 | その他 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
タイ情勢 [2009年04月14日(Tue)]
ニューヨーク・タイムズ4月1日付でアジア情勢に詳しいインターナショナル・ヘラルド・トリビューンのコラムニスト、Philip Bowringがタイ情勢を分析しています。

バウリングは、タイ政治は2006年のクーデター以降、急進化しており、特に、タクシンをシンボルとする赤シャツ・グループは強い怒りを抱いており、暴力に走りがちだ。タイのこれまでの例から、大規模な流血には至らないだろうが、タイ政治の分裂は残っており、タイが自由民主主義の道を歩むためには、この分裂が克服されなければならない、と述べ、

長期的には、タクシン支持者のほうが優勢かもしれない。しかし、タクシンとの妥協の可能性はあり、タクシン派、反タクシン派双方が今回の危機から教訓を学べば、今回の事態にも明るい面があったということになるかもしれない、と結んでいます。

論説が書かれた直後、赤シャツ・グループが首相府包囲を解き、当面の危機が回避されたため、大規模な流血には至らないというバウリングの予想は当たったことになります。ただバウリングは、長期的にはタクシン派が優勢と見ていますが、これは違うように思われます。今回赤シャツ・グループは過激な行動に出て市民の反感を買いました。一般市民からそっぽを向かれるようでは、彼らの活動はむしろ先細りになる可能性があります。

また、亡命中のタクシンは、かつてのアルゼンチンのペロンにも似た強力なシンボル的存在になっていると言っていますが、タクシンが、今こそ革命のチャンスとばかり、赤シャツ・グループや一般国民を扇動したにもかかわらず、事態が収拾されたことで、彼の威信は地に落ちたといってよいでしょう。影響力は依然あなどれませんが、以前のような威光は失われました。

こうした状況下で、アビシット政権は社会の秩序回復と、政治・経済の正常化を図る機会を得たことになります。しかし今回の事態収拾は、当面の危機を回避しただけであり、タイ社会が根底に抱える所得格差や農村対都市部の格差の問題はそのまま残っています。アビシット政権の手腕が今後問われることになるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:38 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
| 次へ