• もっと見る

世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


プロフィール

特定非営利活動法人 岡崎研究所さんの画像
Google

Web サイト内

カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
△小泉純一郎前首相の医師久松篤子
英米関係は共通の理念に支えられる (10/08) 元進歩派
実績をあげているオバマ外交 (09/21) wholesale handbags
タクシン派のタクシン離れ (07/04) womens wallets
豪の新たな対中認識 (07/04) red bottom shoes
バーレーン情勢 (07/02) neverfull lv
石油価格高騰 (07/02) wholesale handbags
金融危機後の世界 (07/02) handbags sale
米国の対アジア政策のリセット (07/02) neverfull lv
ゲーツのシャングリラ演説 (07/02) handbags sale
パキスタンの核の行方 (07/01)
最新トラックバック
リンク集
月別アーカイブ
https://blog.canpan.info/okazaki-inst/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/okazaki-inst/index2_0.xml
北朝鮮危機への対応 [2008年09月15日(Mon)]
ハワイEast-West Centerの Steve Noerper教授が、北朝鮮に政変が起こった場合、いかに対処するかについて、Northeast Asia Peace and Security Network - Policy Forum Onlineに論文を発表しています。

ノールパーは、
@先ず必要なのは、核施設の管理であり、IAEAと六カ国協議参加国は、直ちに核物質の所在を確認、核の使用や事故が起きないよう確保しなければならない。
A政治情勢は、当面、集団的に、または個人が金正日の権威を引き継ぐ体制になるだろう。次の指導者に関与しておくべき時が来ている。
B避難民対策についても、国際的協議が必要だ。
C統一問題は、朝鮮民族主導で行われるべきだが、ドイツの場合よりも困難で経費もかかるので、国際的協力が必要だ。
D六カ国協議は、対象を、北朝鮮核問題から他の安全保障および経済問題へと拡大すべきであり、また、参加国にモンゴル、カナダ、豪州を加えるべきだ。北東アジアにはNATOもEUもないのだから、北朝鮮問題中心の協力機構を作ることは、北東アジアに強固な多国間協議の場を築く基礎になろう、と論じています。

誰が考えても、これぐらいしか言えないだろう、という程度の提案ですが、今までは、この程度のコンティンジェンシー・スタディーもほとんどなかったのが実情です。これは一つには、盧武鉉時代は、米韓政府間でそうした研究を行なう雰囲気ではなく、特に統一問題は、朝鮮民族内の問題であり、それについて韓国の協力なしに外部で検討することは憚られたからです。

かつて朝鮮半島有事と言えば、北朝鮮の通常兵力による韓国北部への大規模攻撃でしたが、もはやそれは問題とはされず、今最も緊急かつ重要な任務は、核物質と核施設の管理であり、これについての介入方法のコンティンジェンシー・スタディーや中国との協議が差し迫った問題となってきたようです。

なお、ここでも、六カ国協議を北東アジア安保問題全般の協議機関とすることが提案されていますが、そうなると、全てが米中の協議で決められてしまう今の体制が、北東アジア安保問題全般に持ち込まれることになります。その意味では、豪州、カナダ、モンゴルの参加は歓迎すべきものでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:58 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
対タリバン、アルカイダ空爆支持 [2008年09月14日(Sun)]
ブッシュ大統領が、アフガニスタンの米軍にパキスタン領内のアルカイダの基地への空爆を許す決定を行ったらしく、それを受けて、ワシントン・ポスト9月14日付は空爆を支持する社説を載せています。

社説は、アメリカが最も心配しているのは、アルカイダがパキスタン内に基地を確立し、そこから9.11のようなテロを行うことだ。国境を越えたパキスタン領内への爆撃は、パキスタンの反米感情を煽り、親米的なザルダリ政権にも打撃を与えるかもしれないが、9.11の再現を防ぐには、十分な情報に基づく必要はあるにしても、この種の爆撃を続けるべきだ、と論じています。

今回の空爆について、米軍は爆撃の成果を公表せず、現地側の一方的報道しかないので、一般市民の被害が大きかったことのみが伝えられているようです。それにしても、パキスタン部族地域は、古来、中央の統制に服したことのない地域であり、これを地上軍で制圧することはまず不可能です。従って、パキスタン軍がこの地域を制圧しないといってパキスタンを咎めても、それは能力以上の無理を要求しているにすぎません。

しかし、この地域に立て籠もっているアルカイダ等の過激派も、一時期はアフガニスタン一国を支配していたタリバン政府が倒されてしまった今は、その庇護も失っているのですから、その能力は限られています。従って、テロに使われる過激派の軍事的インフラを常時偵察し、爆撃による破壊を継続していれば、大規模な域外テロ活動は大幅に制限できるはずです。確かに、パキスタン国内には強い反米感情がありますが、パキスタン政府も、こうした作戦は必要であり、他に方法はないということは、納得してくれるのではないかと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:54 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジアの民主主義 [2008年09月12日(Fri)]
最近アジアでは、福田総理の辞任、タイの騒擾、モンゴルの議会休止、李明博政権の苦境、馬英九の対中政策等、民主主義が危ぶまれるような事態が次々に起きていますが、そうした中で米AEIのMichael Auslinが、ウォール・ストリート・ジャーナル9月12日付でアジアの民主主義について論じています。

オースリンは、元々民主主義は、混乱や派閥抗争が付き物のmessyなものであり、その細かい欠点を一々咎めてもしかたがない。それに政治学者も、民主主義が「成熟」しているかどうかの基準は、一世代の継続(アジアでは日本しか経験していない)、あるいは、二回の平和的政権交代(日本、韓国、台湾が経験)だ、と言っている。そうした尺度からすれば、アジア諸国の民主主義は成熟の一歩手前にある、と述べ、

投票所に赴くアジアの人々の情熱を見れば、民主主義はいずれアジアの人々の価値観となるだろう。それまで米国は、自由経済への支援と米軍の駐留による地域の安定維持によって、民主主義の定着に貢献できよう、と論じています。

これは一般論であり、個々の事例について突っ込んだ分析はありませんが、民主主義は元々messyなものであり、流れを大局的に見れば良い、というオースリンの主張は正しいと思われます。

オースリンは、日本の問題では常に日本に親身となる論説を書いてくれる人であり、ここでも、米軍の駐留が地域の安定に貢献している、と言っているのは、わが意を得た感があります。

なお、民主主義の成熟の条件として、ここでは、一世代論と二度の平和的交代論が挙げられていますが、それとは別に、歴史的経験も重要な要因と思われます。

日本は大正デモクラシーを達成しましたが、大恐慌や大陸の情勢の急変に直面して、それまでまだ試していない、清廉で行動力のありそうな軍人に政治を託すということをしましたが、それが大失敗となった歴史的経験があります。

戦前であれば当然クーデターとなっただろう政治局面は、戦後も何度かありましたが、日本人は軍人に任せてもどうにもならないことをこの歴史的経験で知っています。だから、日本の民主主義は強固なのだ、と考えられるでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:46 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アルカイダの敗北 [2008年09月11日(Thu)]
独die Zeit 9月11日付で、同紙発行人Josef Joffeが、9.11から7年経ったが、9.11以降、テロリストは大きな成果をあげていない、と論じています。

ジョッフェは、9.11以降の大きなテロ事件としては、04年のマドリッド、05年のロンドン爆破事件があるが、それ以後のテロは、主としてイラクを中心に起きている。またそのイラクでも、テロの犠牲者数は、06年は2733名、07年は1598名、今年は226名と大きく減ってきている。このことは、9.11がテロ活動の頂点であり、アルカイダはイラクでのテロに敗北したことを示すものだ、と述べ、

こうなったのは、何と言っても、政府同士は他の件で争っていても、欧州、米国、アラブ、ロシア、イスラエルの警察と情報機関がテロ撲滅に向けて一致協力したからだ。その結果、特にアルカイダの大きな企てなどは、事前に摘発されるようになった、

また米軍が、イラク戦争で勝利をおさめるようになったことや、ヨルダンで結婚式を流血の惨劇にするなどのアルカイダの行為が民衆の強い反感を買い、彼らが敵視されるようになったことも大きい、と指摘し、

まだ安心は出来ないし、テロリストはこれからも攻撃を止めないだろうが、彼らの行動には戦略性が無くなりつつあると言える、と論じています。

テロにはアルカイダ以外のものも多々あり、今後も油断はできませんが、アルカイダが先細りとなったという社説の見方はおそらく正しいでしょう。今後、テロの重点は、アフガニスタンにおけるISAF軍や民衆を対象とするタリバン等によるテロ、パキスタンの政府関係者や有力者へのテロ、ロシアのイスラム地域住民がロシア政府を混乱させようとしてしかけるテロに移っていくのではないかと思われます。また、中国についても、オリンピックは終わっても、これから上海万博があり、経済も悪化してきたことから、少数民族によるテロは増えこそすれ、減りはしないと予想できるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:27 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
専制主義的資本主義国家としての中露 [2008年09月11日(Thu)]
ロサンジェルス・タイムズ9月11日付で、スタンフォ−ド大学フーヴァー研究所のTimothy Garton Ash が、北京五輪が始まり、ロシアがグルジアに侵入した8月8日を9.11に比すべき新たな歴史の転換点と位置づけて、その意義を論じています。

アッシュは、9.11は確かに今も続く大問題だが、地域的、宗教的に範囲が限定されている。他方、8.8が残した問題は、専制的資本主義――具体的には中露――を今後いかに扱っていくのか、という全世界的な問題だ。リベラルな国際秩序を望む諸国は、かつて専制的資本主義の一つであるファシズムを克服した――戦争を要したが――が、今や、新たな挑戦に直面している、と述べています。

その上でアッシュは、西欧の宥和的姿勢よりも、concert of democracies を主張するマケインやオバマの立場を支持するが、民主主義諸国の連合によって専制主義諸国グループと対決しよう、というケーガンのような新二極主義には組みにしない。自由主義を欧米に限定して考えるのは間違いであり、インド、中国、イスラム諸国の中にあるリベラルな傾向にも期待すべきだ、と論じています。

専制的資本主義や、独裁政権の重商主義をどう扱うかが、今後の世界的な政治的経済的課題ですが、この論説は、8.8を一つの歴史的転換点と捉えて、この問題を提起したものです。

ネオコン的な新冷戦思考には反対するリベラルな立場の論説ですが、冷戦終了後の米露の蜜月時代ははるか遠くに去り、国連安保理事会における協調にも限界が見えて来た今、この論説でも触れられているように、concert of democracies が新しい政治的傾向の主流となるのでしょう。その意味で、麻生氏の「自由と繁栄の弧」の発想も、自由世界の時流とマッチしたものとなる可能性を持っていると言えます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 10:22 | その他 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
ロシアの次の標的はウクライナ [2008年09月10日(Wed)]
ウォール・ストリート・ジャーナル9月10日付で、AEIのLeon Aronが、グルジア侵略は、ロシアが勢力圏確保に乗り出したことを意味しており、次の標的はウクライナだ、と論じています。

アロンは、グルジア紛争は一過性のものではない。ロシアは、旧ソ連を自分の勢力圏とみなし、それを邪魔する動き(NATO加盟等)は抑えつけることを始めた。それにロシアは、旧ソ連諸国とは、国境問題や在住ロシア人の地位を理由にいつでも緊張を起こせる。人口の5分の1がロシア系で、NATOに加盟しようとしているウクライナは、この条件を最もよく満たす、

特にクリミア半島は、人口の過半がロシア系であり、ロシア黒海艦隊の基地もある。それにクリミアは、ソ連崩壊後、独立を宣言したが、疲弊したロシアから支援を得られず、ウクライナ内の自治共和国となったという経緯がある。従って、ある日突如、武力蜂起があり、ウクライナ人市長などが逮捕されて、ロシア国旗が掲揚される、といった事態は十分あり得る、と論じています。

グルジアをめぐる各方面の基本的状況は:
@ロシアは、ドイツ再統一交渉の際、『旧ソ連地域にはNATOを拡大しない』との合意があったと言っているが、旧ソ連諸国としては安全の保障をNATO加盟に求めるしかなく、NATOもこれに対応せざるをえない。他方、弱体化して対抗手段をとれなかったロシアは、石油価格高騰で経済が急速に膨れ、強気になってきた、AEUは、当面、米国からグルジア紛争の処理を任された形だが、対ロ強硬派の英国・北欧等と、宥和派の独仏伊に分かれており、現在は宥和路線が前面に出ている、B米国も、旧ソ連圏でロシアと本格的に争うことで意思統一はされていない、C肝心のウクライナも、NATO加盟で国論が統一されているわけではなく、この問題は政府指導部内の政争の具とされてきた面がある、というものでしょう。

つまり、総じて言えば、ロシアは弱体化、西側は本格的関与をためらう中で、これまで何となく西側優位で推移してきた旧ソ連諸国の処理に、力を回復した(つもりの)ロシアが強力な発言を始めた、というのが、現在の状況でしょう。

しかし今の時代に、「勢力圏」を主張するロシアの発想は1世紀遅れています。ロシアに対しては、封じ込めと協力の二段構えで臨むとともに、旧ソ連諸国の独立性、経済発展、相互の団結をさらに強化していくことが最も有効な政策ではないかと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:21 | ロシア・東欧 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アフガニスタン情勢 [2008年09月06日(Sat)]
ニューヨーク・タイムズ9月6日社説が、タリバンとの戦闘で市民が殺傷されるケースが減少していないことを取り上げ、アフガニスタンの現状に警鐘を鳴らしています。

社説は、アフガニスタンでは、兵力不足の米軍・NATO軍が空爆に頼ることが多いため、その誤爆で市民が巻き添えを食って多数亡くなっている。そのため米国を敵視する者が増えており、カルザイ政権の腐敗がこれに拍車をかけている、

ゲーツ国防長官は、イラク情勢が落ち着いたら4500名の兵力をアフガニスタンに回すと言っているが、現地の米軍司令官は以前からその3倍以上の増強を求めている、と指摘して、

@NATOは軍事的努力を増強すべきであり、また、他の諸国とも協力してAアフガン治安部隊を補強し、Bアフガン政府の行政能力の改善と農村開発を進めるべきだ、さらに、Cアフガン政府軍の役割も拡大すべきだ、と言っています。

この社説のうち、日本に対するメッセージは、Bの部分であり、日本には、アフガニスタン政府の治安・行政・地域開発能力強化への貢献が求められています。

米国にとってアフガニスタン問題の切実度は、かつてのイラク戦争のそれに似てきつつあります。内政から日本は動きづらい状況にありますが、アフガニスタンへの日本の関与増強の有無は、日米同盟にとって試金石になるものでしょう。最近の日本人ボランティア射殺事件で、人材派遣は益々難しくなってはいますが、この社説の言うアフガニスタン政府の統治能力強化について、日本は何ができるか、真剣に検討・実施することが必要でしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:47 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
グルジアをめぐるロシア=EU関係 [2008年09月04日(Thu)]
英エコノミスト欧州版9月4日付が、ロシアのグルジア侵攻に対する各方面の反応について解説記事を載せています。

記事は、ロシアは今回の行動について、友好国からさえ明確な支持を得られず、南オセチア、アブハジアを国家として正式承認した国はロシア以外にない。例えば、エネルギー面でロシアの締め付けを受けているベラルーシでさえ、承認を渋っている。また中国は、はっきりと冷淡な態度を示している。これは、中国が西側との良好な経済関係を望んでいる上に、チベットや台湾問題があり、また国内に不穏なイスラム教徒を抱えているため、分離独立の動きや他国への内政干渉を嫌うからだ、

他方、西側の方も、米国は10億ドルの対グルジア支援を発表したが、ロシアの石油ガスに依存するEUは、内部で意見が一致せず、手詰まり状況にある、と指摘しています。

西側、特にEUとロシアの関係を見ると、西側メディアは、「冷戦になっても構わない」など、ロシア首脳の好戦的発言ばかり報道していますが、メドベージェフもプーチンも、そうした発言の後に、ほとんど必ず国際社会との協力を続けていきたい、と発言していることに留意すべきでしょう。

また、「ロシアにエネルギーを依存する」ドイツ、イタリア等はロシアに宥和的だと言われていますが、プーチンは、「これはロシアにとってカードにならない。ロシアの方が大口需要家に依存している面もあるのだから」と言っています。つまりロシア側にも、EU以外に大口需要家は見つけられない、中国はまだ高値では買ってはくれないし、中国には依存したくない、という事情があります。

もっともこれまでもグルジアでは、ロシア、グルジア双方が挑発を繰り返してきており、また、バルト諸国では差別に不満を募らせたロシア人達が行動に出る可能性があるので、EUとロシアの間には今後、不安定要因も増えていくと思われます。

なお、この件は、基本的には次期米大統領が決まるまで、大きな展開はないと思われます。ロシアとしては早くに米国と取引して、後で米新大統領にさらに一層の譲歩を求められる愚は避けたいだろうからです。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:53 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アンバール県の治安権限移譲 [2008年09月02日(Tue)]
ウォール・ストリート・ジャーナル9月2日付社説は、イラクのアンバール県の治安権限が米軍からイラク軍に移譲されたことを取り上げ、これはイラク戦争における大きな勝利をマークするものだ、と述べています。

社説は、アンバール県の治安の劇的改善をもたらしたのは、何よりもスンニ派部族の治安維持組織、「覚醒評議会」の活動だった。そしてこの「覚醒評議会」が、命を賭してアルカイダに立ち向かったのは、イラク戦争は勝てないという敗北主義がワシントンではびこっていたにもかかわらず、ブッシュ大統領が増派を決め、米軍がアンバール県に踏みとどまったからこそだ、と述べ、

今回の移譲は、何よりも過去5年間にファルージャなどで命を落とした何百もの米兵に奉げるべきものだ。歴史を振り返るとき、われわれはえてして成功例のみを思い出しがちだが、実際は、第二次世界大戦や朝鮮戦争でも多くの恐るべき大失敗や挫折があった。重要なのは、軍も国も、勝利を目指して最後まで戦うことを決意していたことであり、アンバールで戦った部隊についても同じことが言える、と米軍への賛辞を呈しています。

一時は手がつけられないと思われたアンバール県の治安が改善され、治安権限がイラク軍に移譲されたことは、イラク情勢の好転を劇的に象徴するものであり、イラク戦争を一貫して支持してきたウォール・ストリート・ジャーナルが、手放しで賛辞を呈しているのもうなずけます。

今後は権限移譲に伴い、「覚醒評議会」傘下のスンニ派治安兵力をどう扱うかという問題が生じてくるでしょう。こうしたスンニ派兵力はイラク全土で10万人にも達すると言われ、その多くがアンバール県にいますが、宗派の問題もあって、マリキ政権が彼らをイラク国軍に組み込んでいくのは容易ではありません。またペトレイアス将軍も、離任を前に、治安改善の成果はまだしっかり定着したわけではない、と言っています。
  
とは言え、こうしたことで、今回の権限移譲の歴史的意義が減ずるものではありません。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:30 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
福田総理辞任表明 [2008年09月02日(Tue)]
福田総理辞任について、アジア版ウォール・ストリート・ジャーナル9月2日付が社説を掲げています。

社説は、福田氏の真の間違いは、経済改革と取り組む勇気がなかったことだ。福田内閣は厳しい財政政策は取ったもの、目立った減税や規制緩和は何一つ実行しなかった。しかし、外交面では、インド洋の活動を前例のない衆議院での再可決によって再開し、韓国、中国との関係も改善させた、

自民党内のコンセンサスによらず、自らの判断で改革を表に出して売り込むことに成功した小泉総理の例もある。日本の次の政権が真っ先にすべきことは、世界で一番高い方に属する法人税を軽減することだろう、

もし次の政権が事態を変えなければ民主党が勝つが、民主党は改革の友ではなく、日本はもっとひどい状態に落ち込むことになろう、と論じています。

これは、自由経済を旗頭に掲げるウォール・ストリート・ジャーナルの原則的立場もあるでしょうが、「経済改革は善、無為は悪」という米国の対日評論のステレオタイプの社説です。そこで言う経済改革とは、勿論、米国企業・資本が、日本に自由に進出できるような改革という意味を含んでおり、米国のこうした態度は今後も変わらないと思わなければならないでしょう。

外交については、洞爺湖サミットへの言及は無く、インド洋給油活動再開に5行を割き、中韓との関係改善は1行であるところからも、米国の関心の重点がわかります。このことを見ても、インド洋での給油の継続は、新政権にとっても、日米関係の最大の課題となるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:28 | 日本 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)