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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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米イラク撤兵期限設定反対 [2008年07月31日(Thu)]
ワシントン・ポスト7月31日付でHenry A. Kissingerが今のイラク撤兵論を批判しています。

キッシンジャーは、イラク問題は大統領選の政争の具となっており、現場の状況が変わっても、前提は変わらず、議論は硬直したままだ。しかしイラク情勢は明らかに好転しており、今撤兵期限を設けることは、逼塞している敵対勢力に対し、米軍撤退後の勝機を待つ動機を与えることになる。オバマは、撤兵は条件付きだと言っているが、それなら撤兵の「期限」ではなく、「条件」を議論すべきだ。30年前、米議会は、国内政争の中で、まだ戦う意思があったベトナム政府への支援を打ち切り、ベトナムを失った。イラクについて同じ悲劇を繰り返してはならない、と言っています。

ベトナム戦争についての議論は、いまだに当時のマスコミや世論の反戦論をひきずっており、キッシンジャーの見方は、一般の間では正統的歴史解釈とはなっていません。

そのキッシンジャーは、イラク戦争を通じ、一貫して、ベトナムの悲劇は米国の介入によって起こったのでなく、米国のベトナム支援助打ち切りによって起こった、という線で議論を展開していますが、米国世論の大勢は、今でも、「ベトナムの失敗」とは介入の失敗と捉えています。

しかしこのキッシンジャーの主張は正しいと思われます。それに、イラクの戦略的重要性はベトナムよりもはるかに大きく、イラクを失うことは、ベトナム戦争当時で言えば、全インドシナ半島の喪失ぐらいの重大性があります。このキッシンジャーの意見が通ることを期待したいものですし、ベトナム撤兵時に較べて、それを期待出来る余地は大きいでしょう。

もっとも、正しい政策が勝つという保障はなく、米国の反戦世論とイラクのナショナリスティックな世論が一緒になって不合理な撤兵期限が設けられる可能性は皆無ではありません。そしてもし米国がベトナムの失敗をイラクで繰り返すようであれば、米国はアメリカ民主主義の愚昧さを繰り返すだけになってしまいます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:44 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランへのレッドライン [2008年07月28日(Mon)]
インターナショナル・ヘラルド・トリビューン7月28日付で、ロンドン大学のAnatol Lievenと米イラン系アメリカ人評議会会長Trita Parsiが、米国の対イラン政策について注目すべき提言をしています。

両名は、ブッシュ政権がイランとの直接接触に乗り出したことを歓迎しつつも、今回の西側の提案をイランが受け入れなかった場合、米・イスラエル政府内のタカ派がイラン攻撃を決行すべしと主張する危険があり、他方、イラン側も提案をレッドラインと見ず、6週間後のウラン濃縮停止に応じない恐れがある、と指摘して、真のレッドラインを示す方向で対イラン政策を変更するよう提言しています。

具体的には、核不拡散条約の文言に立ち帰り、イランには平和目的のウラン濃縮を認めるが、兵器化は許さない、違反すれば、イランを国際機関から追放、外国投資を終了、全面的禁輸等の制裁を課すことを明確にし、それをレッドラインとする、というものです。

この提言は、ウラン濃縮停止を交渉の前提条件とする、従来の姿勢の転換を迫るものですが、一理ある考え方でしょう。昔からイランは、核不拡散条約によって自分達にはウラン濃縮を含む核の平和利用の権利があり、核兵器開発は意図していない、と主張して来ました。米国などは、イランが過去に保障措置に違反したので、濃縮の権利は失ったとしていますが、これは「法律論として弱い」と、ブリックス・元IAEA事務局長も指摘しているようです。

濃縮については、全面的停止を要求するよりも、厳格なIAEAの査察下におき、核兵器開発は認めないとする方が、現実的な提案ですし、これまで平和利用のためと主張をしてきたイランにも拒否しにくいでしょう。またイランは、米国は濃縮の正当な権利を否定している、と言えなくなります。

これまでの経緯や面子、そしてイランへの不信感を考えると、ブッシュ政権がこうした政策転換をなしうるかどうかは分かりませんが、従来の固い立場に固執して問題を袋小路に追い込むよりも、こうした転換を行って問題の解決に努める方が、イランとの戦争よりはるかに望ましい選択肢です。結局はこういう線に落ち着く可能性は十分あるでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:12 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
蔡英文擁護 [2008年07月28日(Mon)]
民進党の蔡英文・新党首が、「台湾の主権は空前の危機に曝されている」と発言したことに対し、政府の大陸委員会が、「根拠の無い批判だ」と反論したことを、自由時報7月28日付が取り上げています。

自由時報は、蔡英文の主張はもっともだとして、台湾政府が「中華台北」の名称で国際機関に加盟申請したこと、中国人観光客に「台湾地方」の名称でヴィザを発行していること、馬英九が、中国政府からpresident でなくMr.と呼ばれるのを許していること等を指摘し、こうした雰囲気の中で、10年以上沈黙していた統一支持派の声が聞こえるようになってきて台湾の主権の危機に曝されており、台湾の主権を守ろうという人々は結束して対抗しなければならない、と主張しています。

確かに、馬政権になってから、台湾では中国や台湾に関する名称に種々の修正がなされているようです。これは必ずしも馬が指示したわけではなく、国民党の時代になって、時流に迎合しよう、あるいは馬の歓心を買おうとして、下の方の発案によるものが多いと言われています。

これまでのところ、具体的に変わったのは名称だけであり、両岸関係が実質的にどう変わるかは、今後の両岸対話の進展を見なければわかりませんが、蔡英文は、台湾大学やコーネル、ロンドンLSEで勉学した、バランスの取れた人物であり、その彼女が主権の危機と言っているのは、憂慮すべき事態なのかもしれません。

しかしこの論説でむしろ心強く思うのは、台湾の民主主義と民族主義が強靭になり、蔡氏のように台湾の主権を堂々と主張し、名称の変更に憂慮を表明しても、もはや国民党の特務の弾圧を恐れる必要はなく、また、マスコミも、この自由時報のように、政府の圧力で廃刊される恐れがなくなっていることです。逆に政府の方が、馬政権の政策は「全て台湾と台湾人のためだ」と弁明しています。台湾は過去10年間の民主化と台湾化でそこまで変わったということでしょう。

政府も議会も共に国民党の支配下にあるという状況は、次の選挙まで変わりませんが、馬政権の支持率は就任時の70%台から30%台に落ちていると言われています。台湾の将来を、言論の自由と民主主義の成り行きに委ねられる状況が続くことを期待したいものです。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:02 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラクの対米観 [2008年07月27日(Sun)]
ワシントン・ポスト7月27日付でコラムニストのDavid Ignatiusが、マリキ首相が2010年の米軍撤退を主張していることを、歴史的視点から論じています。

イグネイシャスは、植民地支配の屈辱を味わったイラクは、欧米支配からの解放を強く願っており、そうしたナショナリズムが近代イラクを結束させてきた。植民地時代に設けられた王制が革命で廃されたのもナショナリズムの表れであり、サダム・フセインとバース党はそうした革命の成果を横から奪うものだった。そのイラクがナショナリズムを主張して、米国からもイランからも独立した国になるのは、むしろ歓迎すべきことだ、と論じています。

近代史とそれがイラクのナショナリズムに与えた影響についてのイグネイシャスの考察は正しいと思われます。イラクが、第一次大戦後、トルコの支配から脱したとたん、今度は戦時中の闇取引、サイクスス・ピコ条約によって、委任統治領の名の下に植民地支配に置かれた屈辱と挫折感は、アラビアのローレンスの話からもわかります。

このイグネイシャスの議論をそのまま延長していけば、マリキがイラク・ナショナリズムを主張するのは健全なことであり、共和、民主両党ともこれを歓迎すべきで、米国は期限付きの撤退を認めて、新たにイラクの歴史を書くのはイラク人自身に任せるのがよい、ということになります。

勿論、細かく議論すれば、撤退は戦闘部隊に限られ、その他種々の部隊は残るのですから、何らかの協定は必要であり、クルドも建前は撤退支持でも、本音は米軍撤退を望んでいるとは思えません。また、ペトレイアスの下で、再武装を許されたスンニ派が、石油収入配分もまだ保障されていないのに、米軍撤退後にシーア派支配を容認するかどうかもわかりません。従って、これは議論としては時期尚早のものでしょう。

しかし、米国によるドイツや日本の占領と、イラク占領の違いは、イラクが植民地支配という屈辱の経験をしたことにある、というのはおそらく正しい指摘であり、そうであるなら、この論説のような巨視的見方も有意義だと言えます。そして、こうした巨視的な見方が許されるようになったのは、米軍の増派作戦が成功したからだ、というのも、また事実です。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:40 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米アジア政策 [2008年07月24日(Thu)]
アジア版ウォール・ストリート・ジャーナル7月24日付で、米カーネギー国際平和財団のDouglas H. Paalが、ライス国務長官のアジア地域フォーラム出席を取上げ、世界の新しい重心であるアジアにしかるべき関心を示したものとして歓迎しています。

パールは、米国の指導者たちは、地理的に遠いこともあって、ヨーロッパほど定期的にアジアを訪問しないが、世界経済や国際関係でアジアは重要になってきており、これは賢明なことではない。また米国は、アジアにはAPEC、ASEAN、六者協議等、色々な国際的フォーラムがあるが、その割には議論ばかりで実質的な成果をあげていない、と文句を言ってきたが、そうであるなら、次期政権は、これについて建設的な提案をするべきだ、と述べ、

既存のものを発展させるにせよ、新機関を提案するにせよ、米国は効果的な機構を構築してアジアに関与すべきだ。また米政府トップがアジア諸国の懸念を十分考慮していることも示すべきだ。かつてシュルツ国務長官は、どれほど日程が詰まっていても、定期的にアジア太平洋諸国を訪問した。シュルツはこれを「ガーデニング(庭いじり)」と呼んでいたが、次期政権にはこうしたガーデニングが求められる、と論じています。

パールの主張は、まさにその通りと言えるものでしょう。特にブッシュ政権の第二期は、アジア軽視が目立ちました。しかし、APECの「再活性化」は常々指摘されていますが、よい案はなく、また、六者協議は、おそらくライスにとってアジアにおける唯一の外交的成果でしょうが、そこで達成されつつあることは、これまでのマイナスをゼロに戻すことにすぎません。こうした議論の中で、アジアの地域構築について、米国から新たな提案が出てくることが期待されます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:20 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アラブ穏健派 [2008年07月23日(Wed)]
ロサンジェルス・タイムズ7月23日付で、ヨルダン副首相、外相を歴任したMarwan Muasherが、アラブ世界における穏健派の戦略的重要性を論じています。

ムアシェールは、外からアラブ世界を見る人々は、常に過激派に注目するが、アラブ世界にも穏健派は存在しており、これまでも何度か和平のイニシアティヴをとろうとしてきた。ただ、イラク戦争以来の反米気運、そして1990年代以来の信頼醸成政策がうまくいかなかったために、今は過激派の勢力が拡大している。例えば、アルカイダの勢力は前よりも増しており、パレステチナではファタハに代わってハマスが実権を握っている、

しかし、これまでの和平努力の結果、紛争解決のために何をなすべきかは既に明らかになっており、今必要なのは次期米政権の政治的意思である。次期米政権がイスラエル・パレスティナ紛争解決に向けて精力的に努力すれば、穏健派の立場は強化されよう、

ただし、穏健派にも宿題がある。これまでアラブの政治エリートは政治体制の開放に徹底的に抵抗してきた。しかし、現状維持は過激派に利するだけだ。穏健派は、「現状維持」と「過激な政治的イスラム」に代わる新たな選択肢として、民主化・透明化改革を進めなければならない。また、米国と国際社会もこうしたアラブの自生的な改革の動きを支持すべきだ。これまでの外からの改革は失敗している、と論じています。

アメリカ人を対象とする論説では、民主化・透明化の重要性を訴えるのはごく自然なことであり、またこの社説が指摘するように、今日のアラブ世界では、「現状維持」と「過激な政治的イスラム」に代わる第三の選択肢が求められている、というのは、その通りでしょう。ただその第三の道が、社説の言うように、民主化と市場化であるかどうかは疑問があります。これまでの平和構築、国家建設の経験から、民主化、市場化の前に、民主制、市場経済の基礎となる法の支配と、それを保証する国家の建設の重要性が指摘されるようになっています。問題は、そうした意味での国家建設をしようという政治的意思が、アラブ世界にあるかどうかでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:15 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米イラン政策軟化 [2008年07月22日(Tue)]
最近になってブッシュ政権は、イランとの多国交渉にバーンズ国務次官を参加させ、さらに、テヘランに外交代表部を開設する準備を始めるなど、イランに対する姿勢を軟化させています。これに対し、ウォール・ストリート・ジャーナルは7月22日付社説で批判しています。

社説は、米国が姿勢を軟化させても、イラン側には、核計画の放棄やテロ組織への支援中止など、態度を変化させる兆しは見られない。イランは米国との国交正常化を望んでおり、イランとの交渉ではこの国交正常化がイランに対するアメであるが、イラン側に変化が見られない現段階では、そうしたアメの一部を与えるべきではない、

それに、イランの近隣国も米国の軟化に疑問を持っている。イラクは米国がイランと和解した場合に自分たちがどういう代償を払うことになるか懸念しており、イスラエルは独自の結論を出しつつある。歴史に業績を残したいブッシュは、宥和へと政策転換できるかもしれないが、イランの影響力を強く受けるイラクや、イランの核によって生存の脅威に曝されるイスラエルには、こうした政策転換は受け入れられるものではない、と論じています。

社説は、米国の対イラン政策の軟化を批判する理由として、イランの姿勢は何も変化していないことを挙げていますが、バーンズ国務次官の対イラン交渉への参加や米外交代表部の開設準備は、元々イランとの話し合いのきっかけをつかもうとする、限定的なものであり、それ以上のものではないでしょう。

おそらく社説は、このことを十分知りつつ、対イラン強硬派の立場から、イランに対する不信感をあらわにし、イランに対して融和策をとるのは間違っていると主張しているのでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:26 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
オバマと欧州 [2008年07月21日(Mon)]
欧州では米国以上にオバマ支持が強く、訪欧したオバマは人気スター並みの歓迎を受けると予想されていますが、ウォール・ストリート・ジャーナル7月21日付けで英タイムズ紙論説委員のBronwen Maddoxは、欧州が望んだものを手に入れた時の危険性を説いています。
 
マドックスは、欧州人はオバマが軍事関与には慎重とか、組合の権利を認めるといった「欧州的」要素を示したことで彼を非常に好意的に見るようになった。一方、イラク進攻後のブッシュほど憎まれた米大統領もいないかもしれないが、反米感情は前からあり、冷戦終結と同時に勢いを増していた、

しかしアフガニスタン、イラン、アフリカ、ロシアといった問題を抱える欧州にとって、米国は必要であり、これまで欧州が求めてきたように、米国が本当に非介入的になるのは危険だ、という認識が新たに生まれている、
 
今後米国が、欧州ではなく、米国の利害を追求しても、経済や安全保障に不安を抱く最近の雰囲気の中では、欧州もそうした決断を受け入れるだろう。これまでのように米国を叩く余裕はない、と論じています。

欧州人にとってオバマは大統領に就任したも同然であり、4月のピューリサーチによれば、仏独で8割以上、英でも7割以上が、オバマは「国際問題で正しい行動をとると信じる」と回答しています。

欧州では反ブッシュ感情が異常に強く、自然、反イラク戦争の立場を貫いてきたオバマに人気が集まりましたが、それ以上に、オバマは、ケネディーとマーチン・ルーサー・キングを合わせたような、米国の夢と希望とカリスマ性を発散するスターになっています。
 
もっとも大半の欧州人は、イラク戦争反対以外にオバマの政策についてほとんど知りませんし、人種差別の激しいフランスなどで、オバマ「大統領」と欧州が具体的な政策でぶつかった時に、どのような反応が生まれるかは分かりません。ただ、独断的で戦闘好きというイメージが定着したブッシュでないこと、そしてマドックスも言うように、欧州自体が多くの問題を抱え、米国の支援が必要なことから、ブッシュ時代のような冷たい対米関係にはならないでしょう。
 
反面、友好国や同盟国の意見に耳を傾け、非介入主義になった米国の方は、声が大きい割に期待するほどの軍事力はなく、団結して動くには大きすぎる欧州に失望する可能性があります。しかし米国が介入主義を止めて国際問題に積極的に関わらなくなれば、欧州は安全保障でもエネルギー問題でも追い詰められることになります。マドックスの見解は、欧州における一部の欧米関係専門家たちの心配を代表するものでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:44 | 欧州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
台湾への武器売却 [2008年07月19日(Sat)]
7月16日の講演の中で、キーティング太平洋軍司令官が、米政府が台湾への武器売却を凍結していることに言及、これに対して米保守系の東アジア専門家が一斉に反発し、ウォール・ストリート・ジャーナル7月19日付は、AEIのDan Blumenthal元国防省中国課長ら4人連名の反対論を掲載しています。

ブルーメンソールらは、米政府は陳水扁の過激な独立志向を警戒して武器売却を凍結したが、馬政権の登場で状況は変わった。台湾側の武器購入予算は、本年末に時間切れとなるので、売却に関する米議会手続きを急ぐべきだ。ブッシュ政権は中国の機嫌を損ねまいとしているようだが、今や台湾への武器供与の問題には、台湾の防衛だけでなく、馬政権の信用、アジア太平洋の安全への米国のコミットメント、ブッシュの自由擁護の決意など、全てがかかっている、と言っています

国務省が台湾への武器売却を凍結しているのは事実であり、キーティングの発言は、馬政権の成立後も凍結が続いていることを確認したものでしょう。ブルーメンソールらアジア専門家たちの憂慮は、このままでは、武器売却の米議会承認が遅れ、次期政権に先送りになってしまい、そうなると売却は中国の圧力でさらに難しくなってしまうということにあります。

論説の中でも指摘されているように、米政府が凍結を継続しているのは、専ら中国の機嫌を損ねないためというのは気になります。台湾問題は21世紀が直面する重大問題の一つであり、本来は、自由と民主主義擁護、さらには、自由世界の安全保障という原則的、戦略的ビジョンがあって、それに基づいて政策が決められるべきことなのに、単に、中国の顔色を見て、その都度政策が決められるのは危険なことです。

また、台湾の馬政権は、自由・民主主義擁護と対中接近という二つの原則の調整に努めなければならない政権であり、米政府の態度は、馬政権がいずれに傾くかに大きく影響します。その意味でも、米国の政策の背後に戦略的考慮が見えないのは懸念されます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:43 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イスラエルのイラン核施設攻撃 [2008年07月15日(Tue)]
ウォール・ストリート・ジャーナル7月15日付でJohn R. Bolton米元国連大使が、イスラエルがイランの核施設を攻撃した場合、アメリカは援けるべきだ、少なくとも妨害すべきでない、と論じています。

ボルトンは、イスラエルはイランの核施設の重要拠点をいくつか爆撃することを考えている。それは、危険を伴い、評判の悪い攻撃になるだろうし、それでイランの核問題が解決するわけでもない。ただ、これによって、これまではイラン側にあった、「時間」という貴重な資源が手に入ることになり、その間にイランの政権交代を策することもできるだろう。アメリカは、イスラエルのシリア爆撃を黙認したが、今度の相手は問題の根源のイランであり、どっちみちイスラエルとの共謀を批判される。従って、アメリカはイスラエルの攻撃の成功を援けるべきであり、少なくとも妨害すべきではない、と論じています。

イスラエルがイラン核施設爆撃を決行した場合、結局、アメリカはイラク上空における給油や通過も含めて、それを黙認することになる、というのが大方の予測ですが、爆撃支持を明白に打ち出したのは、このボルトンの評論が初めてと思われます。

イラン核施設攻撃に対する有力な反論の一つは、核施設の多くは地下にあって破壊困難だということにありましたが、ボルトンは、一部を破壊して時間を稼げればよいと言っているのであり、それも一理あるでしょう。

ただ、爆撃によって、反米ナショナリズムが燃え上がることは間違いなく、少なくとも短期的には、体制崩壊政策にとっては逆効果となります。そしてイスラエルは、その後のイランの核開発の進展を見て、繰り返し爆撃して、さらに時間を稼ぐことになるでしょう。

小国の核開発問題は、イランにしても北朝鮮にしても、阻止する有効な手段が無く、手詰まりになっています。しかし、イスラエルという、自己の生存のために、あらゆる手段を用いることを辞さず、その政策が、アメリカのユダヤ・ロビーで守られている国があることは、事態進展の可能性と見通しの範囲を拡げていると言えます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:52 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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