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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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中国の金融改革 [2012年03月22日(Thu)]
中国人民銀行が三段階の金融システムの対外自由化を発表したとの報道を受けて、ファイナンシャル・タイムズ2月28日付で、同紙コラムニストのMartin Wolfが、中国は対外改革の前に先ず国内改革が必要であり、中国が金融の国内改革と対外自由化を調整しつつ実施できなければ、次の大規模な世界金融危機は中国から起きることになるだろう、と言っています。

すなわち、報道によれば、中国の対外金融自由化は、1)今後3年間で対外投資の規制緩和、2)3〜5年で人民元による対外貸付の加速化、3)5〜10年で外国人による中国の株式、債券、不動産への投資の解禁、と段階的に行われる。人民元の自由兌換は最終段階で実施されるが、その時期は明示されていない、

しかし、対外自由化に先立って国内金融改革がなされなければならず、現在のように高度に規制されたままの金融システムを世界に開放すると大惨事を招く。中国の金融機関は今後10年で世界最大の金融機関になることはほぼ間違いないと思われ、従って、金融改革にどんな危険が潜んでいるかを理解することは、中国のみならず世界にとって重要だ、と指摘し、

中国が金融システムの国内改革と対外自由化を、金融規制、金融政策、為替制度をはじめあらゆる分野の政策を調整して首尾よく実行できれば、2020年代、あるいは2030年代の「中国危機」を避けられるが、そうでなければ悲惨な結果を招きかねず、世界中が関心を持って、人民銀行提案の改革の行程表の実現に伴う諸問題を議論すべきだ、と言っています。


ウォルフは、人民銀行が中国の金融の対外自由化について、慎重な行程表を発表したことは喜ぶべきだ、と言っていますが、その通りでしょう。国内の金融システムが高度に規制されている中国では、対外自由化は慎重に進めざるを得ません。しかし、それと同時に、真の対外自由化を進めるには、国内金融システムの改革が必要なことも当然です。問題は、現在の中国の金融システムはウォルフの指摘を待つまでもなく歪んでいますが、そこに既得権益が絡んで、改革が容易ではないことです。しかし、やがて世界最大規模となる中国の金融機関の問題は、単に中国だけの問題にとどまらず、世界の金融、経済に大きな影響を及ぼさざるを得ません。ウォルフが言うように、世界は中国の金融の国内改革に対し、積極的にもの申すべきでしょう。

4月2日より下記サイトに移転します
世界の潮流を読む 岡崎研究所論評集
http://wedge.ismedia.jp/category/okazakiken

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 18:17 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の東欧政策 [2012年03月21日(Wed)]
The Diplomat 2月25日付でStephen J. Blank米国陸軍大学戦略研究所教授が、中国はウクライナ、ベラルーシ、モルドヴァ等に対して外交・経済攻勢を強めている、と指摘しています。

すなわち、あまり注目されていないが、中国は首脳の訪問や融資の提供等によって、ウクライナ、ベラルーシ、モルドヴァ等の「東欧」諸国との経済外交を強化しており、中国のプレゼンスは東欧でも高まっている、

これによってロシアからの武器輸出が減る中、中国は旧ソ連時代に主要な兵器生産地だったウクライナから先端兵器・技術を輸入できるようになる。また、現在建設中の中国と欧州を結ぶ大陸横断鉄道は、ウクライナかロシアを通ることになるが、高圧的なロシアよりウクライナの方がパートナーとして扱いやすい。さらに、ベラルーシには中国の通信設備を輸出し、そこから東欧全体に普及させることを期待できる、

しかし、こうした中国の動きは、通商上の利益だけを狙ったものではなく、政治的影響力の拡大や中国的価値観への支持増大を狙った、中国のグローバルな外交の一環と言える。ただ、これは、東欧を伝統的な勢力圏と見做してきたロシアとの間で、摩擦を生む可能性がある、と言っています。


確かに、近年、中国の東欧への経済攻勢が目立ちますが、この論説が言うような「隠された狙い」、一貫した戦略が中国にあるのか、またあったとしても、カネの力だけで(中国はこの地域の安全保障にはほとんど貢献できない)どこまで東欧諸国の支持を確保できるのかは不明です。

また、ウクライナとベラルーシについては、共にEUの支持を――ウクライナはチモシェンコ前首相の投獄、ベラルーシは2010年12月大統領選挙での強権的手法をきっかけに――失う中で、ロシアの「経済力」に組み敷かれつつあります。従って、両国への中国の攻勢は、一時休止の段階にあると言えます。また、ロシアは、カザフスタンやベラルーシとの関税同盟をキルギスやタジキスタンにも拡大しようとしており、それが実現すれば、キルギスはロシアからの援助への依存度を高めることになるでしょう。

従って、東欧諸国に対する中国の影響力は、この論説のように「ある」と言えばあるという、相対的なものと言えます。

他方、東欧諸国の方は、中国を当て馬とし利用しようとするでしょうが、それ以上のものにはならないでしょう。ウクライナの兵器を除いて、これらの国から中国に輸出できるものがほとんどないことを考えると、経済関係の発展にも限界があると思われます。

また、東欧をめぐってロシアと中国の間の摩擦が深刻になるということもないでしょう。中ロ双方が関係悪化を望んでいないからです。

それにしても、ロシア周辺の小国に対して手厚い外交を展開するというのは、かつての日本外交の柱の一つでしたが、今はそれを中国が行っています。中国のように首脳レベルが身軽に外国を訪問できないのであれば、それに代わる体制を整備すべきでしょう。

さらに、中国のように見境なく資金をばらまく必要はありませんが、円借款も含めていくつか目玉となる案件を常に一つか二つ各地域向けに用意して、中小国の関心を繋ぎ止めていくことは、可能ですし、必要でもあるでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:50 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の二面性を理解せよ [2012年03月07日(Wed)]
Foreign Policy2月14日付で、Jeffrey Bader元米国家安全保障会議アジア上級部長が、習近平の訪米の機会をとらえて米国の対中認識について論じています。

すなわち、中国について、米国には、地域支配、さらには、世界的支配のビジョンを持つ独裁的指導者の下で台頭する国という見方がある。つまり、軍にとっては敵、企業や労働組合にとっては保護主義と減税を求める理由、タカ派にとっては脅威、人権派にとっては問題の国、そして米衰退論者にとっては早めに適合すべき超大国というわけだ、

確かにここ40年の中国の成長は目覚ましく、間もなく世界最大の経済大国になるだろう。軍事力も伸びており、外交面でも、イラン、北朝鮮、シリアに関する米国の努力の成否に影響を与える存在になっている、

しかし中国の現実は、GDPの成長や軍事費の増大が示唆するよりもはるかに複雑だ。一人当たり所得は米国の10分の1、世界的なブランド企業はほんの一握りで、多くの企業は国内向けか、外国ブランドの下請だ。研究開発面ではイノベーションは少なく、所得格差は大きい。水不足を含め環境面でも大きな問題を抱えている。輸出主導・外国直接投資導入・共産党とコネを持つ国営企業支配という経済モデルは限界に来ており、抜本的な改革を必要としている、

一方、国民は権力の乱用や、統治への参加を許さない政治システムに不満を高めている。チベットの統治も上手く行っていない、

習近平が統治する中国はこのように複雑であることを、米国民は念頭に置くべきだ。中国は競争相手だが、同時に大きな問題を抱えている国でもある。習近平が改革に乗り出す場合は、その成功が米国の利益になる。中国やその指導部を非難しても、中国の路線は変わらないし、中国がその民族的運命を達成することを阻止はできず、かえって中国は米国をパートナーではなく敵対者と見るようになってしまう、

中国は改革へのコミットメントを再確認すべきだが、米国も手っとり早い勝利を追い求めるべきではない。これは習近平を米不信にしてしまうだろう。それよりも、米国は、米中双方にとって脅威でない国際環境醸成のために協力すべきだ。貿易と投資等については成長に役立つ枠組みを作るのがよい。また、アジア回帰に伴う米国のプレゼンス強化は、中国の平和的台頭を阻止するのではなく、容易にするということを中国に伝えるべきだ、と言っています。


この論説は、中国は目覚ましく成長しているが、大きな問題を抱えた国でもあると指摘した上で、中国指導部を非難しても益はないので、習近平の訪米に際しても、米中が共同して米中関係を良い方向にもっていくために努力する姿勢を示すべきだと言っています。

しかし、これ自体は良いのですが、それだけにとどまるのは中国に対して甘いのではないかと思われます。中国に対しては、こちらの立場から見て不都合なことははっきりと言うべきで、従ってベーダーの言うようなやり方がよいとは思われません。要するに、非難することを避けるのではなく、非難すべきことは非難したらよいのであり、実際、それが効果を発揮する場合もあります。例えば、南シナ海での中国の対応を、ASEANの場でクリントン国務長官が非難してから、中国も少し低姿勢になってきています。

中国の政策については、力関係を重視する共産党が決めていること、彼らの発想の中で善意というものはあまり大きな場所を占めていないことなどをもっと考慮すべきでしょう。その意味でベーダーの論旨は少し深みに欠けるように思われます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:08 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
なぜ中国は民主化するか [2012年03月02日(Fri)]
中国の精華大学リュー準教授らが、経済、政治文化、政治指導部、グローバルな変化の4要因を挙げて、中国がやがて民主化に向かう「蓋然性は極めて高い」と明快に論じています。

すなわち、@経済的発展:経済発展の中段階の国々は民主化しやすい。例えば、民主化に乗り出した1988年当時の韓国や台湾、1989年当時のロシアやハンガリーの一人当たり購買力平価は、今日の中国のそれに極めて近い。また、若年層が高水準の社会福祉を期待するようになっているのに、世銀によれば、中国のジニ係数(貧富の格差を示す)は、2010年に世界で最も高い0.48に達している。以前は、経済発展に伴うある程度やむを得ない現象と見られていた貧富の格差に対し、今では多くの中国人が汚職や不公平なシステムの産物として怒りを抱くようになっている。大学を出ても職がなく、家賃が高い都市ではまともな家に住めない若者が大挙して現れており、将来の政治的動員予備軍が大量に創り出されている、

A政治文化の変化:中国で増えている「集団的抗議活動は」は、ほとんどの場合、地域の具体的な経済的要求に限られており、一般大衆は政治に無関心だ。そうした中で民主化にとって大きな意味を持つのは知識人、学生、中間層だが、インターネットはそうした人々に革命的ともいえる変化をもたらしつつある。ネットを介して率直に話す人々がどんどん増えており、当局もこれを完全に封じ込めることは出来ない。民主主義の実現には時間を要するだろうが、ネット使用者が権威的体制から離れていくのは避けがたい、

B政治指導部:今日、中国のイデオロギーは混乱しており、指導部も決して一枚岩ではない。将来、ある一定の条件下で、指導部が複数の派やグループに分裂し、その過程で民主化という思わぬ方向に進むこともあり得る。過去20年、中国政治は個々の指導者が大きな権力を握らない方向に進んできており、新指導部も弱いものになりそうだ。また、国民レベルで政治の民主化を求める声も強くなっている。これらを考えると、野心家が指導部に挑戦することや、国民の支持を得ようとする論争が新たな権力闘争に結びつくこともあり得る。いずれにしても、指導部はやがて国民の要望に向き合わざるを得なくなるだろう、

C外部からの影響:中国政府は外部からの影響や干渉を拒否する方針をとっているが、「アラブの春」が中東諸国に伝染した例や、民主化に動き出したミャンマーの例を見ても、外部からの影響は軽視できない。また、中国が対外的に開かれ、政治・経済の透明度が高くなっていく中で、専制政治を続けるよりも民主化した方が中国にとって利益になるような事態が生じることも考えられる、と指摘し、

以上の4点から見て、そう遠くない将来、中国における民主化へのモメンタムは強まっていくだろう。既得権益者たちが現在の利益にしがみつくので、民主化への道は容易ではないが、中国は2020年頃には民主化に乗り出すと自分たちは予測している。はっきり言えるのは、根本的な政治の変容はすでに始まっているということだ、と言っています。


この論説は、一つ一つをとってみれば、特に目新しいものではありませんが、中国人研究者が中国の民主化の将来像を語るのは珍しく、そうした角度から見れば、新たな意味を持って来るでしょう。書ける範囲内で書いたものと思われますが、全体として説得力のある議論となっています。

特に、指導部内で対立が生じるような事態になれば、それが、国民レベルの民主化への願望とあいまって、今日の政治体制を大きく変えていく原動力になるかもしれない、という指摘は鋭いものがあります。

なお、民主化へのスケジュールについては、「あまり遠くない将来」ないし「2020年頃」という漠然とした表現になっているのは、彼らの置かれた立場を考えると、やむを得ないものでしょう。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:28 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国指導層をめぐる争い [2012年01月23日(Mon)]
今秋の第18回党大会で党の最高権力機関たる政治局常務委員会(PSC)のメンバーが選出されるのを受けて、米戦略国際問題研究所の機関誌Washington Quarterly冬号で、ブルッキングス研究所のCheng Liが、目下この人事をめぐって熾烈な駆け引き、暗闘が行われていると述べ、対立する二大グループの特徴や政策の違いを紹介しています。

すなわち、今回の政治局常務委員をめぐる抗争は、一般の中国人が気付くほどあからさまな陳情攻勢が一部で顕在化している。例えば、重慶市党書記の薄煕来・政治局員は、自己宣伝のために公然と「文化大革命式」のキャンペーンを行ない、経済社会発展のための「重慶モデル」なるものを打ち出した。そして政治局常務委員9人中のうち5人が重慶を訪問し、このキャンペーンを支持したりした、

これに対し、温家宝・首相は、「文化大革命の遺物」に懸念を示すとともに、重慶市当局が都市化の名の下に農地を取り上げることに留保の態度を示した。この特殊な例が示すように、9人の最高指導者を選出する過程は極めて複雑、多面的であり、種々の駆け引きを必要とする、

PSCのメンバーとなるのに最も重要な要素は、「保護者‐被保護者」の結びつきだ。PSCから去っていく者は、影響力や利益を残したいので、自分の息のかかった忠実な弟子がメンバーになれるよう全力を尽くし、そのためには派閥や利益集団とも連携して協力する、

この30年間に中国の最高指導層は、毛沢東、ケ小平という強力な指導力をもつ個人の支配から集団指導制へと徐々に変化してきた。江沢民、胡錦濤に続く第世代の指導者(習近平や李克強)は、力と権威が仲間に拡散しているため、前任者たちよりも弱い指導者になるだろう、

そのため、中国の指導層は、ますます「太子党」と「団派(庶民派)」の二派間の「チェック・アンド・バランス」の形で政権を運営して行くことになりそうだ。前者は特権階級の出身者から成り、裕福な沿海地域で公務についた者が多い。習近平、王岐山、薄煕来等はこのグループに属する。後者には共産主義青年団に所属し、条件の悪い内陸部で公務についた者が多い。李克強、汪洋、李源潮などがこのグループに入る、

両者の勢力はほぼ均衡しており、25人の政治局員の中では、「太子党」は28%、「団派」は32%、政治局常務委員の中では各一人ずつ、中央書記処では各二人ずつとなっている、

政策面では、「団派」は組織、宣伝部門、農村工作について幅広い経験を有しているが、行政面、特に外国貿易、外国投資、金融等の重要な経済政策全般については、「太子党」の方がはるかに多くの経験を積んだ人物を擁している、と指摘し、

中国の最高指導部の政治は、当分の間、この二つのグループの対立と協調の中で進行することになろう、と言っています。


リーの論評は、中国政治の最高指導部の状況をやや単純化し、割り切って解説したものです。現実の中国政治はもっと複雑で隠微なものですが、目下のところ、二つのグループの対立と協調の枠組みの中で9人のトップ・リーダーを観察するのは、大きく間違ってはいないと思われます。

その中で、薄煕来や汪洋(広東省党書記)の外部にも見えるパフォーマンスは新しい動きとして注目されます。ただし、二つの派の政策の違いについては、それが権力闘争の口実に使われる面があることを考慮すれば、あまり強調しすぎるのは適切ではないでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:36 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
台湾総統選挙後感 [2012年01月17日(Tue)]
Foreign Policyのウェブサイト1月17日付で、AEIのDan Blumenthalが、台湾は今後とも民主主義国家として、本土とは別の主体で存在し続けるだろうし、米国はそうした台湾と密接な関係を維持すべきだ、と台湾総統選挙後の実感を述べています。

すなわち、ブルーメンソールは自らの感想を5つにまとめて:
@台湾は、中国をはじめ世界の諸国と活発な経済関係を持つ事実上独立の国であり続けるだろう、
A台湾放棄論は一部の理論家だけのものであり、道義に反するだけでなく、実際的でもない。米国が支援を止めれば、大多数の台湾人は台湾を離れるだけだろう。これは米国の名誉を傷つけ、米国が望むようなアジアの実現は大変な打撃を受けることになろう、
B中国にとっても専制国家であることは次第に具合の悪いものになってきている。中国人は台湾が民主主義のために経済成長も安定も犠牲にせず、今回で4度目となる自由公正な選挙も行なったことを知っており、中国はまだ民主主義への「準備」ができていないとする政府のご託宣に納得していない。中国にとって、民主的台湾の存在は次第に困った手本になるだろう、
C今後は、中国民族百年の屈辱を晴らすことと、台湾人の自由を守ることを両立させることが課題となり、連邦、 Commonwealth、制度のようなものが浮上してくるだろう、
D米国は、過去の努力を無にするようなことをしてはいけない。台湾と緊密に協力し、平和的、民主的解決が出来るまで、中国の政治が変わるのを待たねばならない、と言っています。

 
極めてバランスのとれた、現実的、常識的判断と思われます。この常識的判断に反した「象牙の塔の政治理論」があるとわざわざ指摘している通り、これは、常識論に反した議論が一部米政府部内や学界に存在することに対する批判でもあります。

確かに台湾は、ブルーメンソールが感じたように、中華民国か、台湾共和国かの選挙を繰り返す民主国家となったように思われます。もちろん、国民党独裁時代の残滓はあり、国民党が財政的に恵まれているのに対して、民進党は財政不如意の中で野党としてまた4年頑張らねばならないのは気の毒ですが、それも台湾民主化の一つの過程と言えるでしょう。

中国が米国との武力衝突に踏み切る自信がなく(軍備の増強は急ですが、4年後でも自信を持つには至らないでしょう)、民衆の圧倒的多数は統一に反対、という2大条件が続く限り、ブルーメンソールの言うように、現状を維持して、中国本土の考え方が変わるのを待つという戦略は十分実施可能でしょう。特に、その間、米国の台湾防衛の意思が続けば、安定した状況を確保できると考えられます。

なお、論説で一つ面白いのは、Commonwealthという考え方が示唆されていることです。過去に、英連邦(British Commonwealth) 内の各国のような関係という考えが台湾側から出てきたこともありましたが、現状では中国が頭から問題にしていない定義です。しかし、将来の中国の態度の変化の可能性にも期待して、一つの選択肢として残しておく価値はあると思われます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:57 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
信用できない中国の経済指標 [2012年01月17日(Tue)]
米ヘリテージ財団のウェブサイト1月17日付で、同財団の中国経済専門家、Derek Scissorsが、中国の経済指標は信用できないとして、数字を挙げて説明しています。

すなわち、中国は先頃、2011年の経済成長率が前年の10.4%から9.2%に落ちたと発表したが、実際の成長率はもっと低いはずだ。理由の一つは、各種統計間の不整合だ。例えば、2010年に前年比32パーセントの伸びを記録した自動車販売高は、2011年には2.5パーセントに急落、造船新規受注トン数も2011年に前年比で52パーセント下落、原油輸入量も2010年に前年比17.5%だった伸び率が、2011年には6パーセントに低下している、

また、統計数字によって検証できること以外にも、中国経済の実態が公表される数字より悪いのではないかと思わせる状況証拠として、@金融が緩和に緩和を重ねていること、A外貨準備が昨年第4四半期に純減し、資本が逃避しつつある様子が見られること等が挙げられる、

かつて朱鎔基は、中国全体の成長率は各省の成長率を均したものになるはずなのに、国全体の数字を下回る省が一つもないのは不自然だ、と疑問を投げかけたが、10年以上経った現在、問題はむしろ悪化しているようだ、

例えば、失業率は政治的に機微なためか、元々発表されたことがないが、公表されている「都市失業者のうち登録済みの者」も、5%を上回ってはならないことになっているらしく、消費者物価上昇率にも同様の政治的配慮がなされている、

外国からの直接投資も、北京の言うように今も増え続けているのか疑わしい。直投の6割は香港からのものだが、その多くは支社から中国本土の本社に向けての送金であり、北京はこれも「外国からの」投資としてカウントしている、

また、中国では消費が伸び、投資が減る形でリバランスが進みつつあると楽観視する向きは、小売り売上高の伸びを挙げるが、小売り売上高には建設資材の売り上げや政府部門間のやり取りまで含まれる、と指摘し、

米国は商務省が中心となって、中国の成長率や失業率等の経済指標を独自に推算すべきだ。これらにも多くの見込み違いが含まれることになるかもしれないが、四半期ごとに中国の公式発表とは異なる数字がワシントンから出されれば、北京に対する警告になるだろう、と言っています。


Scissorsは中国の大型対外直接投資を公開資料から丹念にあぶり出し、記録するなど地道な作業をよくすることで評価がある人物です。

米商務省が独自に中国の経済指標を推算して発表するよう提案しているのは、それが中国自身に行いを正させるキッカケになると読んでいるのでしょう。これなら日本にもできそうな気がします。ただし、政治的意味合いからして、結果は大々的に宣伝する必要があるでしょう。


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馬政権は経済に集中せよ [2012年01月15日(Sun)]
台北タイムズ1月15日付の社説が、馬英九の当選を受けて、馬は公約通り北京との政治対話を避けて、経済に集中すべきだ、と論じています。

すなわち、馬英九を応援してきた北京は、馬が再選されたことで、今度は馬が北京との政治的話し合いを進めると期待しているだろう。しかし、馬は、選挙中、北京との政治的対話には入らないと言ってきたのだから、台湾のメディアと国民は、馬がこの公約を守るよう監視しなければならない、

台湾国民が期待しているのは、今後4年間に馬が経済を振興し、生活水準を上げてくれることであり、馬は経済に専念すべきだ、と言っています。


台湾総統選挙が終わって馬が再選された今、誰しもが一番関心を持つのは、今後4年間に中台関係に政治的進展があるかどうかでしょう。馬は、政権第一期には、中国本土と政治協定を結ぶことを公約に掲げながら、実施できませんでした。理由は、それをすることが世論で評判が悪く、民主主義の台湾では再選の妨げになるからでした。

他方、中国側には、馬が再選されず、民進党政権になった場合も、これまで通り台湾政府に経済的優遇措置を与え続けてよいのか、というディレンマがありましたが、馬の再選でその問題は無くなりました。しかし、4年後の選挙で国民党が再び勝つ見通しがかなり低くなっている今、中国は、当然、今後4年の間に政治関係を進展させようと思っており、これが今後の最大の課題となるでしょう。

振り返ってみると、4年前の選挙で国民党が勝った時は、北京が軍事的、政治的圧力を動員して中台間の政治関係を進めると予想され、巷間、「オリンピックの後に危機が来る」、また、オリンピックが過ぎると、「上海万博の後に危機か」、と言われましたが、結果的に何事も起きませんでした。 

それをもたらしたのは、一つは、中国の軍備増強は目覚ましいとはいえ、米国が介入してきたら、それに勝つ力はまだないという客観的情勢であり、もう一つは、台湾の民主主義でした。つまり、本土との政治的接近は、国民の評判が悪く、次の選挙に悪影響を及ぼすことが明白だったので、馬政権はそれ以上先に進めなかったのです。

今後4年間もまた同じ様な状態が続くと予想して良いのではないかと思われます。それを打破するには、中国が、@米国に外交的に働きかけて米国の説得で台湾に統一を納得させるか、A直接武力を以って脅迫するしかありませんが、どちらも可能性は低いでしょう。

とすると、今後の見通しは、第二期馬政権の間に、中国接近の方向に更に微調整することはあっても、大体現状通りで4年後の選挙を迎えるということではないかと思われます。

要するに、台湾は民主国家であり、国民の総意が無い限り、中国と接近する方向に引っ張って行こうとしても限界があるということでしょう。中国がそうした現実を認めて、現状維持を正式の政策として認めること(武力解放を放棄すること)こそが、台湾問題の長期的解決策かもしれません。

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台湾は中国の未来のモデル [2012年01月12日(Thu)]
ニューヨーク・タイムズ1月12日で蘇起・元台湾国家安全会議秘書長が、馬政権の下で中国との関係を安定化させた台湾は、米国の同盟国であると同時に、中国にとって民主主義のモデルとなる地位を得た、と言っています。

すなわち、台湾は米国を米中対立に捲きこむのではないかと心配されていたが、馬政権になってから両岸関係は落ち着いて来た。中台の経済関係は進み、台湾はむしろ中国にとって、市場改革、ポップカルチャー、報道の自由の手本になっている。中国人は自国の腐敗にうんざりしており、また、台湾の言論の自由や選挙制度などを見て、台湾が中国の伝統と近代化の両立に成功したことも知っている、

台湾の人々は、台湾の民主主義が自分たちに地域的責任をも与えていることを認識して、南シナ海の問題等に発言すべきだ。中台間には十分な信頼関係ができているのだから、台湾は、米国の同盟国として、そして中国の将来にとってのモデルとして、米中台の関係に新たな道を拓くべきだ、と論じています。


蘇起は、馬政権の下で国家安全会議秘書長を務めた、国民党のイデオローグです。彼の主張は、この論説から察すれば、中台関係は現状維持のままで、台湾は、民主主義を達成して中国政治社会の将来のモデルとなり、中国本土と米国の双方と友好的な関係を維持して、国際問題についもより強い発言力を持つ国になろう、ということのようです。

この議論は、民進党政権8年間と国民党政権4年間に、米国の指導層が描いていた両岸関係の目標とほぼ一致し、米国でも賛同者は多いと思われます。NYTがこれを取り上げたのも、その論旨に違和感を持たないからでしょう。

ただ、この論では、中国が台湾の武力解放の建前を捨てず、台湾は常にそれに備えねばならないという問題は解決されません。また。中国の軍事力が増大し、中国の脅威が単に台湾にとどまらず、全東アジアの安全保障上の関心事となって来ると、台湾問題は、両岸関係だけの問題ではなくなってきます。その時は、台湾の戦略的価値はそうしたグローバルな観点から見直されることになるでしょう。

ともあれ、総統選挙で国民党が勝利を収めた現在、この蘇起のような考え方が国民党政府の主流となると予想されます。こうした考え方が実現するかどうかは別にして、考え方自体はバランスの取れたものと評価できます。


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中国の香港政策 [2011年12月30日(Fri)]
ウォールストリート・ジャーナル12月30日付社説が、香港では3月に新しい行政長官が選出されるが、相対する二つの政治勢力はそれぞれ中国党中央の勢力争いを反映している、ただ、いずれの勢力も香港の自治を護るのに熱心ではなく、北京は、金の卵を産む鵞鳥を殺そうとしている、と言っています。

すなわち、香港の行政長官は、1200名の香港の政財界の代表によって選出されるが、ほとんどの選挙人は、「中国の友人」であり、中国共産党指導部の意向が選挙の結果を決めることになろう。もっとも指導部の選択はまだはっきりしてしない。なぜなら二人の主要候補は、事実上、香港の将来について異なる考えを持つ北京の二大派閥、胡錦涛の共青団派と江沢民の上海派の代理人だからだ、
 
ただ、いずれの派も香港の自治を護るのに熱心ではない。2017年には、行政長官は普選で選ばれることになっているが、北京はそれを恐怖の眼で見ている、

また、左派は草の根の組織を動員出来ると言っているが、北京はポピュリスト運動の強化は、投資を引き揚げさせ、北京が香港の経済を護らなければならなくなるので、警戒的だ、

こうした中、反対派が進出するようなら、北京は従来の約束も反故にするかもしれない。すでに習近平は、「二制度」より「一国」を強調すべきだと指示している。そのため、香港の役人たちは、米国総領事と面会した反政府派政治家を裏切り者と非難したり、学校に愛国教育を導入するなどして新路線に追随している、

本来、北京がすべきことは、香港の自治の約束を護ることだが、そんなことは北京の指導者たちの念頭には全くないようだ。彼らは金の卵を産むガチョウをあまり強く締めつけては元も子もなくなるという前任者たちが持っていた知恵を引き継がず、香港の繁栄の元である自由を圧迫しようとしている、と言っています。


社説の前半は、香港政治の詳細な分析ですが、結論は、それまでの分析とは無関係に、自治と民主主義を尊重すべきだとする建前論の説教になっています。

しかし、香港を論じればそうならざるを得ないでしょう。中国の体制が変わらない限り、北京が香港の民主化に積極的になることは考えられず、米国の論説としては、無力感を抱きつつも民主主義を説教するほかはないのでしょう。

また、たとえ、中国が香港の民主主義を護る約束を守ったとしても、それは50年間のことです。一国二制度を約束しながら、十数年を経てまだ実現していないという批判がしばしば聞かれますが、要するに、香港の自由はあと30数年の命脈だということです。30数年といえば、相当長い年月ですから、その間に中国の国内情勢や国際情勢に地殻的変動があるかもしれないことに、ほのかな期待が持てるに過ぎないということです。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:43 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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