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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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トルコとイランの関係冷却化 [2012年03月09日(Fri)]
ニューヨーク・タイムズ2月14日付で米ワシントン近東政策研究所のSoner Cagaptayが、トルコとイランの仲が冷却化しつつあり、かつてのトルコ、イラン両帝国間の競争のような関係に戻りつつある、と言っています。

すなわち、シリアの民衆蜂起によって、それまで良好な関係にあったトルコとイランは、中東の政治的ベクトルの正反対の極に置かれることになった。民主主義の伝統があるトルコは革命を支持して反政府派に味方し、権威主義のイランはアサド政権の擁護を止めず、アサドの残虐な市民弾圧を支持、そのため、シリア国内の抗争は、トルコとイラン間の代理戦争の様相も呈してきた。勝者はどちらか一方しかなく、今やあらゆることが両国の争いの種になっている、

例えば、今やトルコはシリアの反政府勢力を支援し、匿い、武器も与えていると言われている。それに対し、イランはトルコ政府と対立するクルド勢力PKKへのてこ入れを再開している、

また、両国はもともとイラクでは、イランはシーア派のマリキを、トルコは世俗派のアラウィを支持するというように、対立する陣営を支持してきたが、シリアをめぐる抗争がイラクを巡る争いにも波及、この争いはマリキが選挙を経て政権を樹立して、イランが勝利を収めている、

しかし、イランにとってNATOに軸足を置いたトルコは、10年前の単なる親欧米のトルコよりもはるかに大きな脅威であり、イランは、トルコがNATOのミサイル防衛に協力すれば、攻撃すると脅しをかけている、

このように歴史的背景をもつイランとトルコの対立は、この地域の最古のパワーゲームという「パンドラの箱」を開けてしまった、と言っています。


これは単なる解説記事であり、政策提言はありません。しかし、アサド政権による弾圧で収拾されると予想されたシリア情勢が悪化するにつれて、今まで注目されていなかった様々な要素が表面に出て来るようになりました。
 
かつては、シリアのアサド政権が倒れると、米国にとっても、イスラエルにとっても「予想し難い」事態が出現すると考えられて、そこで判断停止になっていましたが、まだ先行きの見通しは不明ながら、事態の進展につれて色々な可能性が浮上して来ました。

一つ考えられているのは、多数派であるスンニー派によるシリア支配ですが、それが、従来のモスレム同胞団のような反米、反イスラエルではない、穏健スンニー派政権となることが期待されており、そのためにトルコとサウジアラビアの役割が期待されています。
 
勿論、これは米国にとって最善のシナリオですが、そうなると、イランはシリアという拠点を失い、特にレバノンのヒズボラは孤立化して存続できるかどうかの死活問題となって来るので、あらゆる方法でそれを阻止しようとするでしょう。

最悪のシナリオは、シリアで反米・反イスラエル主義が勝ち、それがエジプトの政治にも影響して、エジプト・イスラエル平和協定を中心とする中東の安定を脅かすことです。そうなれば、イランも巻き込んだ第五次中東戦争の危険も出て来ます。

米国の識者はこの最悪のシナリオを怖れて、現状維持を期待していたようですが、最近の情勢はそれを許すかどうか分からなくなって来ています。そうなれば、米国としても、最悪の場合の代案を求めてトルコやサウジの協力を求めざるを得ないでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:38 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
シリア問題に対するトルコの責任 [2012年03月06日(Tue)]
Project Syndicate 2月13日付けで、Anne-Marie Slaughter前国務省政策企画部長(現プリンストン大学教授)が、シリア問題にどう対応するかでトルコが本当に大国であるのか否かが分かる、トルコはシリア問題の解決により一層の役割を果たすべきだ、と論じています。

すなわち、エルドアン首相の下で存在感を高めてきたトルコは、今シリア問題で試されている。トルコは3か月前、シリア国境に緩衝地帯を設けることを提案、11月にはアサドの退陣を求めた。しかし監視団派遣や政治移行案を提起したのはアラブ連盟であり、これらが中ロの拒否権によって頓挫した後、トルコは早期の国際会議の開催を呼びかけただけだ、

確かにトルコがシリアに軍を派遣するのは色々問題がある。しかし、トルコは、国際社会が虐殺阻止に真剣であることを示すのに最善の位置にある。例えば、トルコは自由シリア軍に武器等を援助し、シリアの北西国境地帯に安全地帯を設けることができる。シリア政府軍が特定地域に侵入できないよう自由シリア軍を支援することもできる、

ここには大きな教訓がある。強国であることは単に国の大きさ、戦略的位置、強い経済力、巧みな外交、軍事能力から来るのではなく、行動する意思を必要とする。本当の指導力は不人気な決定を行い実施する勇気だ、

米国はイラクなどでは安易に力に頼り過ぎたかもしれない。しかしコソボ、ボスニアへの介入、またシエラレオネへの1999年の英の介入、昨年の象牙海岸での仏の介入はそれぞれ成果を収めており、豪州の東チモール介入やブラジルのハイチ介入も成果があった、

勿論、シリアはハイチよりずっと危険な任務だが、もしパラグアイやウルグアイで虐殺があれば、世界はブラジルに期待するだろう。強国たらんとする国は、それに伴う負担も引き受けなければならない。つまり話すだけではなく、行動する用意がなければならない、と言っています。


この論説はシリアでの虐殺を阻止するためにトルコがもっと役割を果たすべきことを論じたものです。具体的には、トルコ国境地帯に安全地帯を作るべきだということですが、安保理が中ロの拒否権によってお墨付きを出せない中、トルコに単独介入を要求するのは無理があります。安全地帯はシリア政府軍の攻撃対象になり、安全確保のために、トルコはシリア領内深くまで攻撃することが必要になるかもしれません。従って、アラブ連盟や関係諸国が有志連合としてトルコに協力する姿勢を明確にすることが必要です。その意味で早急に関係諸国会議を開くというトルコの提案は有益です。

ただ、シリア情勢にトルコがどう対応するかが、トルコが地域の強国の地位を獲得できるかどうかの試金石になる、という論説の指摘は的を射ています。

強国の地位は、単に大きいとか、強い経済力や軍事力や外交力から来るのではなく、行動する意思から来るというのはその通りであり、日本にもそのままあてはまります。戦後の日本は国家意思があるのかないのか判然とせず、危険を引き受けて行動する意思もありませんでした。こういう国は強国ではなく、自らの国益を守ることもできません。そのことに日本人は早く気づくべきでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:31 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
シリア情勢が中東各国の派閥抗争に及ぼす影響 [2012年03月05日(Mon)]
ワシントン・ポスト2月3日付でコラムニストのJackson Diehlが、シリア情勢の成り行きは、イラン対トルコを中心とする中東各国のスンニー派とシーア派の派閥抗争と深刻な関連がある、と解説しています。

すなわち、シリアには様々な大きな問題がかかっている。先ず、スンニー派の湾岸諸国は、アサド政権に対して強硬な態度を取っているが、本当の狙いはシーア派のイランであり、そうした湾岸諸国が頼りにしているのは、米国よりもトルコだ。そのイランにとり、中東でパワーを維持するには、シーア派から派生したアラウィ派が支配するアサド政権が健在でなければならない。イラクのマリキ首相も、アサド政権が崩壊してイラク国内のスンニー派が勇気づけられるのを心配している、

他方、将来の地域の覇者とされるイスラエルやトルコにとって問題は、アサドがなかなか倒れそうにないことだ。何個ものアラウィ派主導エリート師団と大量の戦車、大砲を擁するアサドは、何ヶ月も、さらに、イランやロシアからの支援が続けば、何年も持ちこたえられるかもしれない。隣国レバノンの内戦は14年も続いたことを忘れてはならない、

しかし、イラクから撤退した米国はこの地域で影響力をほとんど失っており、従って、国連安保理では制御できない事態が生じるかもしれない、と言っています。


シリア情勢が中東各国に及ぼす影響を解説記事的に紹介しているもので、特に新しい分析や政策提言はありません。

しかし、アラウィ派がしっかりと把握している軍、治安機関、行政機関が揺らいでいる兆候がないことから、アサド政権は国内の治安を回復して生き延びるのではないかと思われます。

他方、アサド政権が倒れた場合の中東の先行きは見えません。エジプトでは宗教政党が多数を占め、イスラエル・エジプト平和条約に基づく現国際体制が維持されるのかどうか分からない状況であり、イスラエルによるイラン攻撃も迫っています。その中で、アサド政権が倒れ、シリアに、モスレム同胞団を中心とするものも含めて、いかなる政権が誕生するかわからないという状況が生じることは、中東情勢の見通しをいっそう困難にします。

ただ、もしアサド政権が崩壊しそうな状況となれば、直ちに、エジプトとイスラエルの動向を中心に、従来の判断を新たに見直さなければならないでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:46 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イスラエルの「レッドライン」 [2012年01月15日(Sun)]
エルサレム・ポスト1月10日付で、同紙軍事特派員で防衛アナリストのYaakov Katsが、またハアレツのウェブサイト1月15日付で、同紙特派員のAvi Issacharoffと軍事防衛専門家のAmos Harelが、イスラエルと米国の間で、イラン攻撃に踏み切る「レッドライン」に関する考え方に違いが出てきた、と言っています。

すなわち、エルサレム・ポストの論説は、従来、「レッドライン」は、査察官の追放、兵器級ウラン濃縮の開始、核爆弾の製造開始等、イランが核兵器開発の最終段階に来た時だとされてきた。これが明日起きれば、6-18カ月後にイランの核爆弾の製造が完了することになる、

ところが、1月に入って、イランがフォルドウ核施設の稼働を発表したことで、情勢は一変した。同施設は数千の遠心分離機を備え、1-2トンの濃縮ウランを貯蔵出来るほか、地下深くにあって、通常兵器による攻撃に耐える能力があるため、他の施設が破壊されてもフォルドウは残ってしまう。そのため、イスラエルが攻撃計画を早める可能性が出てきた、

対するに、米国は、核兵器の開発能力ではなく、開発が「レッドライン」だとしている、

もっともイスラエルも、フォルドウの稼働だけで攻撃計画を始めるとは言っておらず、おそらく欧米による経済制裁の効果を見極めようとするだろう。また、イランは近く西側と核問題についてトルコで協議することになっており、その前に影響力を高めようとしてフォルドウを稼働させた可能性もある、

問題は、イランが核兵器の製造を始めた時に、米国やイスラエルはそれを知りうるかだ、と言っています。

また、ハアレツの論説も、イスラエルと米国とでは、予測される事態の進行とレッドラインに関して見解の相違がある。イスラエルは、大部分のウランが防御された場所で濃縮されるようになった瞬間、イランは攻撃が効かない次元に行ってしまい、少なくともイスラエルによる軍事攻撃の選択肢はなくなるとしている、

しかし、米国の「レッドライン」はもっと先で、核兵器能力を獲得した時ではなく、実際に核弾頭を作れるようになった時点であり、この線はまだ越されていない、と言っています。


二つの論説で明らかなことは、イスラエル側が核兵器製造能力をイランに持たせないことを重視しているのに対し、米は能力ではなく、核兵器の開発自体をレッドラインと考えているということです。

ただ、イスラエルも、世論はイラン攻撃に踏み切るべきだとの声が強いものの、軍事・安全保障専門家の多くは、攻撃に伴う中東での戦火の拡大や、攻撃しても核開発を止められない(遅らせることはできる)ことを考えれば、単独攻撃は得策ではないと見ています。

確かに、濃縮施設がフォルドウに移ってしまえば、イスラエルには軍事攻撃の選択肢がなくなりますが、限定的攻撃では、イランの核開発を遅らせることはできても、止めることはできないのであれば、攻撃の選択肢がなくなる方がよいのかもしれません。

イランのような国がどうしても核兵器を保有すると決心すれば、北朝鮮の例を見ても、それを止めさせることはほとんどできないと考えるべきでしょう。後は抑止で対応するしかありません。

幸い、イランはまだNPT条約にとどまっており、西側と話し合う姿勢も示しているのであるから、交渉を継続するより手はなく、対話と圧力のバランスを良く考えて対応するしかないでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 11:33 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ホルムズ海峡封鎖と石油供給 [2012年01月11日(Wed)]
Bloombergのウェブサイト1月11日付が、イランは自殺行為となるホルムズ海峡封鎖は実行しないだろうが、封鎖の脅し自体がリスク要因を高め、石油価格を上げることになると指摘、万一の場合に取り得る対応策を列挙しています。

すなわち、石油はイランのGDPの20%、輸出の80%、政府収入の70%を占めており、イランにとってホルムズ海峡封鎖は自殺行為になる。また、そうした挙に出れば、米国と戦争になり、取引相手の中国などからの外交的支持も失う可能性がある、

ただ、イランは実行するつもりはなくても、封鎖の脅しだけでも、今のように密接につながりあい、かつ投機手段があふれている世界では、大変な実質的悪影響を及ぼすことになる。特に、湾岸地域から9パーセントしか輸入していない米国よりも、中国、インド、日本などアジア各国や欧州が大きな影響を被るだろう、

そこで対策としては、@パイプラインによる輸送を増やす、A国際エネルギー機関(IEA)加盟各国が戦略備蓄を放出する、Bサウジが数十億ドルを投資して新たなパイプラインを敷設する等の措置をとること等が考えられる。石油高騰がこのまま続けば、パイプラインの新設はさほど痛い投資ではなくなるだろう、

もっとも、IEA加盟国による備蓄石油の放出は、中国やインドなどの非IEA諸国が買いだめをしないことで合意しなければ上手く行かず、そうした合意の形成は、前例のない広範な政策的協調を必要とする。また、アジアにおける将来のオイル・ショックを緩和する一つの方法は、もっと多量の石油を地域の貯蔵所に置くこと、海上備蓄の利用を増やすことかもしれない、と述べ、

最初のオイル・ショックから40年経つのに、世界は相変わらずペルシャ湾の石油が途絶える脅威に対して非常に脆弱なままだ。湾岸地域の安定維持とホルムズ海峡の安定的通行の確保のために、膨大な金が費やされており、その費用が価格に組み込まれている石油に比べて、代替エネルギーが安く思えてくる、と言っています。


この記事は、イランによるホルムズ海峡封鎖の脅しをめぐってあり得ること、またそれに対し、どのような対策を講じることが可能かを具体的に列挙していることに価値があります。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:04 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラン核施設攻撃論 [2012年01月01日(Sun)]
Foreign Affairsで米外交問題評議会のMatthew Kroenigが、今やイランには、その気になれば6カ月で核兵器を作れる能力があるが、イランが全面的な報復に出ないよう配慮して核施設攻撃を行えば、イラクやシリアの例のように、イランが攻撃の結果を甘受すること可能性はある、と言っています。

すなわち、イランに対する経済制裁がうまく行かない場合、核保有国イランとの共存もやむなしと言われ始めているが、そうなった場合、イランやイスラエルには、冷戦時代に米ソの核共存を許したような要素、つまり、確実な第二撃能力、意思疎通システム、長いミサイル飛行距離、そして、核兵器管理の経験がないので、核戦争の回避は難しい、

それよりも、イランの核施設攻撃は、上手にやれば、この地域の安全を救えるかもしれない。イランがIAEAの査察官を追放し、ウランの濃縮度を90%以上に上げるようなら、米国は直ちに核施設を攻撃すべきだろう、

攻撃しても全ての施設は破壊できないというが、重要な施設の所在は大体判明しているし、核施設は人口密集地にあるというが、ナタンツなどは都市から離れているし、小さい施設には精密兵器を使えばよい、

ただ、イラン政府は自らの存立が脅かされたと思えば、ホルムズ海峡の封鎖や南ヨーロッパへのミサイル攻撃など、最悪の行動に出る可能性があるので、米国は攻撃に当たって、米国の目的はあくまでも核施設の破壊だけだということを明らかにすべきだ  
 
そのためには、事態の拡大を招くことになるイラン側の報復についてのレッド・ラインを明らかにすべきであり、他方、ある程度までのイランの反応、たとえば米軍基地に対する象徴的な小規模のミサイル攻撃などは許容しなければならないだろう。そこで、米軍基地から絶対必要な要員以外は引き揚げる、あるいは、施設の耐性を強化することなどが必要になろう。また、イランの代理によるテロの激化ぐらいは看過しなければならない、

そうすれば、1981年のイラク、2007年のシリアが、イスラエルとの全面戦争を避けた例のようになるかもしれない、

攻撃すれば、イラン国内のタカ派を強めるという議論もあるが、タカ派は既に十分に強くなっているし、いずれにしても、これは米国の安全とは次元が異なる問題だ、と述べ、

アフガン、イラク戦争で疲弊し、財政危機の下にある米国が戦争をしたくないのはわかるが、今戦わなければ、将来もっと危険な状態で戦争をすることになる、と結んでいます。


クローニグは国防省のイラン関係部局に勤務したこともある核問題の専門家です。ここで言っている、イランの核施設を直ちに攻撃しなければならない理由は、過去3年間何十回となく繰り返し言われてきたものですが、共和党大統領候補がこぞってイラン攻撃を支持している中で、いずれイランの核施設を攻撃するのなら、イラン側の全面報復を招かないような限定的な攻撃の方法があると示唆した点が斬新です。

なお、この論点は北朝鮮対策にも使えるかもしれません。いずれにしても米国がイランの核施設を攻撃すれば、北朝鮮には多大な心理的衝撃を与えるでしょうし、その逆もまた真なりです。

イランの場合は、ホルムズ海峡の封鎖や地域的動乱、北朝鮮の場合は、休戦ライン以南への北朝鮮の攻撃が、核施設攻撃の抑止力になっていますが、論説が言うようなイラン攻撃が成功すれば、その後、北朝鮮の体制崩壊は意図していないことを明らかにした上で、米国が北の核施設を破壊する戦略も可能だということになります。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:11 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
「アラブの春」が産んだ宗派対立 [2011年12月15日(Thu)]
National Interestのウェブサイト12月15日付けで、テルアビブ大学のYoel GuzanskとBenedetta Bertiが、「アラブの春」による民意の自由化、解放は、むしろ宗派対立を噴出させることとなった、と論じています。

すなわち、元々、中東諸国は多様で異質な民族、宗教、宗派が混在しているが、「アラブの春」はそうした既存の亀裂をかえって深めている。もっとも、その現われ方は、チュニジアやエジプトではイスラム主義と世俗主義の対立の激化、リビアやイエメンでは部族主義に基づく対立、というように国によって違う。中でも、「アラブの春」を方向付ける最も重要な亀裂として浮上してきたのが、シーア派対スンニ派の対立だ、

これは、民衆の抗議運動の漠然とした要求内容、団結力ある市民社会の欠落、明らかに民衆の要求に応えていない政権等が、団結と目標の統一を促す手段として抗議運動がますます宗派的アイデンティティーに頼る状況を作り出しているからだ、

そうした中、シーア派対スンニ派の対立が顕著に現れているのが、シリア、バーレン、サウジアラビアだ。サウジは、シリアの騒擾を、イランの勢力を排除し、スンニ派を強化する機会と捉えている。また、イラクも、米軍の撤退によるイランの影響力の増大を危惧している。特に、もしイランがシリアを失えば、イランは益々イラクに足場を求めようとする可能性がある、

最も危惧されるのは、イラン=イラン支援の過激派連合と、サウジ=トルコのスンニー派連合との対立だ。目下、問題の焦点はシリアであり、アサド政権が倒れれば、シーア派とスンニ派の対立が全中東で燃え上がる可能性がある、と言っています。


これは、イスラエルの政治学者、地域専門家の分析なので、「アラブの春」とアラブの民主化自由化を称えるだけの米国の理想主義的な論説と違い、冷静な地域情勢分析として傾聴に値するものがあるように思われます。

ただ、シリアはそう簡単には崩れないでしょう。アサド政権は、アラウィ派の固い団結力の下に、軍、警察、情報機関が効率的に結束している強固な支配体制であり、今回の「アラブの春」も生き抜くだろうと思われます。

しかし、それだけに、万が一アサド政権が崩壊した場合の影響は、測り知れないものがあるでしょう。特に、最大の反対勢力であり、従来から苛酷な弾圧を受けて来たモスレム同胞団を中心とする勢力が政権を取った場合、それが対イスラエル、対米関係にいかなる影響を及ぼすかは、深刻な問題です。影響がエジプトの政局にまで及べば、エジプト=イスラエル平和協定の継続も危うくなり、第五次中東戦争の可能性も出て来ます。そうなれば、イランの介入、それに対するイスラエルのイラン核施設攻撃もありえ、中東全体が大動乱となる恐れさえあります。

今回のシリアの危機はおそらくそこまでは行かないでしょうが、このイスラエルの専門家の指摘も無視できないものがあると思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:03 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アラブの冬 [2011年12月02日(Fri)]
ワシントン・ポスト12月2日付で、Daniel Byman 米ジョージタウン大学教授が、「アラブの春」は、独裁者を倒したが、元々民主主義の基盤の無いところに起きた革命であるため、チュニジアを除いては、イスラム主義者、反米運動、部族の跳梁、そして外部からの干渉を招き、民主主義とは程遠い状況になっている、米国はこの現実を認識して状況に対処しなければならない、と言っています。

すなわち、多くのアラブ諸国は、過去の独裁によって健全な反対勢力が育っていなく、そのため「アラブの春」は、イスラム勢力ばかりが力を得る結果となっている。また、サウジなどの近隣諸国の介入も招いているし、さらには、一般のアラブ世論に訴えようとする結果、反米、反イスラエルの機運も生むだろう。中東のこれまでの軍事政権は概ね親米だったので、米国は、民主主義勢力と専制的勢力の両方の失望を買うという最悪の事態に直面している、

「アラブの春」は、米国の力によらない自発的なものであり、本来、米国はそれを支持すべきだが、今の米国に現実的に出来ることは、避難民を援ける、周辺諸国の介入を抑制する、アルカイーダ追求を継続する、など周辺的な努力だけだろう、

オバマは2、3カ月前、米国的な自由が、専制から解放された人々によって歓喜を以って迎えられていると宣言したが、米国はこの地域の新たな民主主義勢力と協力する一方、「アラブの冬」の結果生じる混沌、停滞、そして悪政にも対処する用意が必要だ、と言っています。


現実主義的な妥当な判断と思われます。民主主義になれば、反米、アラブナショナリズム勢力がアラブ政治の一角を占めるのは避けがたいことです。それがエジプト=イスラエル平和条約の基礎を揺るがしてしまうと、深刻な事態になるので、それに対する歯止めとしてある程度の軍の力の保存は必要であり、常識的でもあります。それを混乱、停滞、専制とまで言う必要はないと思われますが、米国民主主義の原理主義者にとっては挫折となります。   う。

この論説はそうした状況を客観的に認めたものであり、こういう状況に対して米国的民主主義の立場から説教しても何の役にも立たず、客観的情勢の上に立って米国の政策を考えるべきだ、と言っているのは正しい姿勢と言えるでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:59 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国の対エジプト政策 [2011年11月30日(Wed)]
ニューヨーク・タイムズ11月30日付で、Marc Lynch米ジョージワシントン大学准教授と、米外交問題評議会のSteven A. Cookが、米国はエジプトの軍指導者に対し、表向きは支持しながら、裏では民主化促進の圧力をかけているようだが、エジプトの民衆の目には、米国政府が軍の方の肩を持っているように見えてしまう、米国はもっとはっきりと軍指導者にエジプトの民主化を要求すべきだ、と言っています。

すなわち、現在米国がとっている慎重な態度は、オバマのアラブに対するイメージに打撃を与えている。オバマ政権は、リビアやシリアについては、「指導者は武力によって国民を弾圧してはならない」という原則を打ち立てた。勿論、エジプトの指導者は、カダフィやアサドなどとは違うが、やはりエジプトにも同じ基準を適用すべきだ、

特に、エジプト軍は米国から毎年13億ドルもの援助を受けているのだから、「米国は今の政策は受け入れられない」とはっきり告げるべきだ。そして、軍による民間人の裁判や言論の統制などの廃止を迫り、公平な選挙を期するべきだ、と論じています。


筆者は二人とも、中東問題ではかなりの業績がある中堅の学者のようですが、言っていることは極めて単純な民主主義価値観尊重の説教であり、NYTがこれを取り上げたのはわかる気がします。

しかし、彼らは、今の米国の姿勢は、オバマが就任早々アラブ世界に呼び掛けた「カイロ演説」のイメージに反するとか、リビア、シリアで掲げた政府による民衆弾圧反対の原則を貫ぬけなどと言っていますが、オバマのカイロ演説は、その後特段の進展もなく、リベラル派の記憶にしか残っていない、言いっぱなしになっている演説です。また、アサドの民衆弾圧に対する反対も、言葉だけで何ら実行は伴わず、また、実行する意思も無く、これが米国の原則となったなどとはとても言えない状況です。

ある種の軍の伝統を持っている国、特にトルコ、タイ、また、ある程度まではパキスタンのような国においては、軍の政治的影響力を考慮に入れない政治論は空論になると思われます。また、その国の軍と米国の軍との軍人同士の関係が二国間の重要な安定要因となっている場合も少なくありません。

エジプトに関する米国の国際政治上最大の利害関係は、エジプトがイスラエルとの平和条約を維持して、中東の平和の要であり続けてくれることにあり、それは、軍の発言力が維持される限りは保証されますが、軍の影響力が全く排除されたアラブ・ナショナリズム政権では保証の限りではありません。だからこそ、オバマ政権もエジプトの軍事政権に対する態度には慎重を期しているのであり、ここにあるようなリベラルな学者の意見にそのまま従う訳にはいかないでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:48 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米=トルコ関係 [2011年11月12日(Sat)]
ワシントン・ポスト11月12日付で米ワシントン近東政策研究所のSoner Cagaptayが、米国とトルコは対イラン、対シリアなどで利害を共有してきており、最近はオバマとエルドアン首相の関係も良好だ、こうした良好な関係は指導者が代わっても継続するだろう、と論じています。

すなわち、昨年、米=トルコ関係はイスラエルとイラン核問題への対応の違いで動揺したが、現在、オバマとエルドアンの個人的関係はよく、中東での政治状況は両国を接近させている。先月エルドアンの母親がなくなった際、オバマは電話し、45分も話した、

2010年6月、安保理でトルコが米国のイラン制裁案に反対して米=トルコ関係は悪化したが、その後7月、トロントのG20でオバマが率直にエルドアンと話した後、修復され、トルコは対イラン政策を変更した。以来、二人は頻繁に話し政策で合意している、

オバマは「アラブの春」でのトルコの対応を評価している。特にシリアに関して、トルコはアサドの弾圧を非難し、反政府派を支持している、

この良好な米=トルコ関係は今後も続きそうだ。エルドアンは2002年に首相に就任した際はイランとの関係改善を打ち出したが、トルコが中東の主要プレイヤーとなる中で、もう一つの覇権的国家イランとの間で競争が生じている。特にシリアをめぐって、イランはアサド政権を支持、トルコは反政府派を支持している。また、米軍撤退後のイラクで、トルコとイランは影響力を競うことになるだろう、

米=トルコ関係は、イスラエルをめぐって緊張はあるが、トルコとイランの競争・対立関係がトルコを米国に接近させるだろう。トルコとイスラエルとの関係改善さえありうる。米国とトルコは中東での共通の利益で結ばれており、今の指導者がいなくなってもこれは続くだろう、と言っています。


論説の筆者は名前からトルコ系の人と思われますが、米=トルコ関係の現状をよく描写しています。

トルコのエルドアン政権については、米メディアでは、そのイスラム色に注目してトルコのイスラム化に警鐘を鳴らす向きもありましたが、「アラブの春」への対応で、トルコが近代化された民主主義国であることが明らかになってきました。つまり、リビア問題での対応や、シリアのアサド政権批判と反体制派支援がトルコのそうした性格を明らかにしました。

イランとの関係についても、一時トルコはイランの言い分も聞く姿勢を示していましたが、イランがアサド政権を支持し、さらに、イランとサウジ間の対立が深まる中、トルコはイランとの関係を再考、今は米国の対イランミサイル防衛に協力し、関連の基地設置を認めるなど、対イラン姿勢は明らかに変わってきています。

そうした中で、米=トルコ関係が改善するのは当然と言えます。また、「アラブの春」では、トルコはイスラムと民主主義を両立させた国として一つの模範と目されるようになっています。イランの神政政治や、サウジの厳格なワッハーイズムに基づく体制よりも、トルコのような国がアラブ諸国のモデルになるという評価です。

米国がトルコとの関係を重視していくのは、地域情勢の健全化のためになります。トルコは、ガザ封鎖や和平交渉の停滞などでイスラエルに批判的であり、従ってトルコとイスラエルとの関係改善は容易ではありませんが、トルコ側の言い分にも一理あるので、米国はトルコの対イスラエル政策を理由に対トルコ関係をぎくしゃくさせるべきではないでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 10:08 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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