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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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イランにとっての核開発の意味 [2012年03月30日(Fri)]
Institute for Science and International Security / Daily News 3月8日付で、AP記者のBrian Murphyが、イランにとって核開発は、@国の尊厳に関わるものであり、Aイスラム世界の技術的中心になるというイランの国家目的に資するものであり、さらには、B国家にとって重要な技術は自給自足するという政策を表すものだ、と言っています。

すなわち、これまでもイランはウラン濃縮の停止を要求する米国などに一貫して抵抗してきたが、先般の議会選挙でハメネイ派が勝利したことで、この決意は一層強化されたようだ。選挙後、最高指導者ハメネイは、「核の成果には色々な面があるが、国の尊厳の創造が最も重要」であり、西側の圧力には敢然と立ち向かわなければならない、と述べている、

また、イランは、核計画を、航空・防衛計画を含めてイランがイスラム世界の技術的中心になるという目的の不可欠の要素とも考えている、

さらに、核計画の推進は、長年の経済制裁の中で打ち立てられた、イランの自給自足政策を表すものだ。実際、イラン軍部は多くの資源を割いて自前の防衛産業を育て、無人機、イスラエルを攻撃できるミサイル、中ロや北朝鮮の設計に基づく武器を開発してきた。昨年CIAの無人偵察機がイランで墜落した――米国は技術的トラブルが原因と言っている――が、イランが開発した高性能のシステムかく乱装置によるものだったかもしれない、

問題は根が深く、すでに20年ほど前、イランの強硬派の新聞Jomhuri-e-Eslamiは社説で、米国などがイランの原子力技術獲得を防ぎ、イランを「技術的後進国」に留めようとしていると非難しており、そうした中で、ハメネイは、核から商業利用に至る技術の追求は、「強国の支配」に対する最善の障壁だと言っている、

加えて、テヘラン在住の政治評論家Hamid Reza Shokouhiは、イランの指導者の政治的信頼性は、核の自給自足によるところが大なので、イラン側の大幅な譲歩はありそうにないと述べた、と言っています。


ハメネイが強調するように、核開発計画の推進がイランの尊厳に関わるものであり、技術の自給自足体制の確立を目指すものだとすると、イランが自給自足の核開発計画の重要部分であるウラン濃縮を止めることは考えられません。

そうだとすると、近々久しぶりに再開される5+1カ国とイランとの話し合いで、正面から濃縮の停止を要求する限り、話し合いが進展する可能性はありません。5+1カ国は、先ず、イランに20%濃縮の停止を求めるべきでしょう。

ところで、「核の開発は国の尊厳に関わる」という考えは、インドにも見られました。インドの核開発を推進したのは、ネルー首相とインドの原子力の父といわれるバーバ原子力委員長で、両人はインド独立前から、核開発によって威信と国際的地位を得ようと考えていました。核技術は近代の象徴として、大国の地位を保証するものであり、インドは核兵器製造能力を取得することで、過去の植民地時代を克服できると考えたからです。ただ、インドの公式の立場は、当初は核兵器の開発はしないというものでしたが、この方針は1964年の中国の核実験を契機に転換されたという経緯があります。

4月2日より下記サイトに移転します。
世界の潮流を読む 岡崎研究所論評集
http://wedge.ismedia.jp/category/okazakiken





Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:30 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランと戦争に陥る危険性 [2011年12月01日(Thu)]
ファイナンシャル・タイムズ12月1日付で、David Miliband 英前外相と、Oxford Analytica(国際情報提供会社)の Nadar Mousavizadeh 代表が、イランの核計画阻止のための軍事行動は、イラン国内の強硬派の立場を強めてしまうだけでなく、中東地域に測り知れない結果をもたらしかねないので、軍事行動を軽々に論じるべきでない、と警告しています。

すなわち、イランの核武装は許しがたいが、だからと言って近くイランに対して軍事行動をとるべきだということにはならない。イランが自ら認めた核施設だけでも数が多い上に、イランは、報復の手段(ミサイルや代理軍隊のヒズボラなど)にも、攻撃の対象(サウジ、アラブ首長国連邦、イスラエル、湾岸の米軍施設、ホルムズ海峡など)にも事欠かない、

従って、われわれは軍事行動が自己達成的予言になることを避けなければならない。それに、イランは、@制裁、サイバー戦争、隠密作戦により、核開発の進展が妨げられている、AIAEAの査察官が主要施設や活動を監視しており、イランの政策や行動の劇的な変化を察知できる体制にある(逆に、IAEAの査察官が追放されれば、取り返しがつかなくなる)、B地域ではイランの影響力が低下している(アラブ世界で唯一の盟邦、シリアの体制が崩壊しかけており、また、アラブの民衆の間でイランの人気は急落している)、Cイラン国民は政権の世界敵視に賛同せず、開かれた政府を強く求めている、など少なくとも4つの重大な挑戦を受けている、

従って、核開発を除き、全てのことで意見が分裂している政権に加えられる圧力を直接、間接に支持すべきだ、

軍事力行使の話は、イラン国内の強硬派の立場を強め、イランの核開発に反対する世界の動きの団結を弱めるだけでなく、それ自体の論理を生んでしまう危険がある、と言っています。


11月8日のIAEA事務局長の報告書が、これまでに無い詳細な資料の分析に基づいて、イラン核開発の「軍事的側面」に「重大な懸念」を表明したのを契機に、対イラン軍事攻撃論が高まりを見せていますが、論説はこうした論が自己達成的予言となる危険を指摘して警告を発しています。ただ、最近、イランの核開発は支障をきたしており、それほど差し迫った状況ではないとの見方も有力です。論説も指摘しているサイバー攻撃による濃縮活動の停滞はよく知られていますが、他にも、イランの核研究者が複数暗殺されています。論説は、このような状況の下で、イランの核兵器能力獲得は早くても2年先であるというのが大方の見方だ、と言っています。

また、11月12日にはテヘラン郊外の新型固形燃料ミサイル開発基地で大規模の爆発が起きており、11月29日にはテヘランの英大使館襲撃事件が起きて、英イラン間で緊張が高まっています。このようにイラン情勢は混迷しており、対イラン軍事強硬派も、しばらくは様子見をするのではないかと思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:58 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランの核開発 [2011年09月07日(Wed)]
ワシントン・ポスト9月7日付社説が 最近のイランの動きを見ていると、イランが核武装する危険は高まりこそすれ、減ってはいない、と言っています。

すなわち、最近のIAEAの報告によると、イランはより高度な遠心分離機を使い始めており、そのため、今までよりもずっと早く兵器級濃縮ウランを製造できるようになっている。また、Qom市近くの山の地下に遠心分離機を設置し始めており、これによって、米国やイスラエルの空爆に対してほぼ万全の態勢が作られることになるだろう。そして、イラン高官は、20%の濃縮ウランの製造量を3倍に増やすと言っている、

ところが、米政府は「アラブの春」などに気をとられて、イランのこうした動きに注意を払っていない。その間に、ロシアなどは、イランが懸案の軍事関連計画に関するIAEAの質問に回答すれば、イランに対する制裁を解除すべきだ、などとマイナスの提案をしている。また、イランもこの提案に乗り、制裁が解除されれば、核開発について5年間完全な査察を受け入れると申し出ている、

しかし、イランの姿勢が変わっていない以上、米国はこれまでの取り組みの成果を誇っているだけではだめで、イランの技術進歩に応える新たな戦略を立てる必要がある、と言っています。


イランに対する制裁はイランにはこたえているようで、イランは9月5日、制裁が解除されれば、核関連活動につき今後5年間完全な査察を認めると提案しています。また、昨年の米国とイスラエルによるStuxnetのサイバー攻撃でイランの遠心分離機に多大なダメージが生じ、イランが核武装する時期について、米国とイスラエルが想定を先延ばししたことも事実です。そのため、今年に入って、イランの核に関する危機感が以前より大幅に薄れたことは否めません。そうした中で、社説は、その間もイランは核開発計画を進めていることを指摘し、イランが核保有国になる危険は増している、と警告を発しているわけです。

イランの核開発計画の意図は不透明で、イランが主張しているように、平和目的のためだけとも思えない一方、全力で核武装路線を邁進しているとも思えません。ただ、徐々に核兵器能力を強化しようとしていることだけは確かです。もっとも、現時点では、イランが一線を越えて核実験に踏み切る可能性はそれほど高くないと思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:45 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランの核開発に対する入り口規制 [2011年05月24日(Tue)]
ウォールストリート・ジャーナル5月24日付で、Ilan Berman米外交評議会会長が、イランとジンバブエの間でジンバブエ産ウランの大量購入について取引が成立しようとしているが、そうした動きは大至急止める必要がある上に、原料の供給を止めることは、イランの核開発を阻止する有効な手立てになる、と論じています。

すなわち、「アラブの春」やビンラディン殺害の陰でほとんど注目されていないが、イランの核開発をめぐって最近非常に重要な動きがあった。ジンバブエが、国連の制裁を無視して、今後5年間にわたり、45万5千トンと推定される同国の埋蔵ウラン鉱の取引においてイランに優遇的待遇を与えるという話をテヘランとの間でまとめつつある、

実は、核開発について豪語してきたにも関わらず、イランはこれまで少量かつ低品質の原料しか入手していなく、これはイランの核開発の重大な弱点と言える。つまり、イランはウラン鉱の海外からの安定供給を是非とも必要としており、それなしではイランの核計画はまさに頓挫してしまう、

そのため、あるIAEA加盟国の機密情報によれば、イランは、ジンバブエ、セネガル、ナイジェリア、コンゴ民主共和国など、いくつものウラン生産国を擁するアフリカに目をつけ始めている、

他方、これまで核燃料に関してはあまり注意を払ってこなかった西側諸国も、ここ数年は相当な外交力を動員して、テヘランにウラン鉱を提供しないよう、カザフスタン、ウズベキスタン、ブラジルなど潜在的ウラン供給国の説得に努めてきた。ところが、その一方で、イランにウランを売った国を罰する、あるいはイランにウランを売れなくする法的枠組みを設けることについてはあまり真剣に考えてこなかった、

これは至急検討すべき課題だ。イランの遠心分離器の作動を止めることに努力するよりも、先ず、原料を入手できないようにすべきであり、そのためには、法的枠組みや罰則を設けて、イランへの核原料の売却は、大きな経済的・政治的コストを伴う、ということを示すようにしなければならない、と言っています。


バーマンの論旨は明快あり、要するに、出口を規制する前に、先ず入り口を規制すべきだと言っているわけです。全くもっともな主張と言えるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 12:19 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランの核施設に対するサイバー攻撃 [2011年01月17日(Mon)]
ニューヨーク・タイムズ1月17日付で、米国とイスラエルが共同開発したコンピューター・ウィルス、Stuxnetの攻撃により、イランのナタンツ濃縮施設の遠心分離機の一部が操業不能となり、その結果、イランの原爆製造能力は数年遅れることになった、と同紙記者William J. Broadらが解説しています。

それによると、Stuxnet開発の手がかりは、2008年初め、ドイツのシーメンスと米国のアイダホ国立研究所が、シーメンス製産業機械のコントロール・パネルのコンピューターの弱点を見つけ出す共同研究を行う中で得られた。米情報筋によれば、ナタンツの濃縮施設のコントロール・パネルもシーメンス製だ、

その後、イスラエルの核兵器計画の本拠地であるディモナで、ナタンツと同型の遠心分離機が作られ、Stuxnetの有効性がテストされた後、ナタンツの濃縮施の遠心分離機をサイバー攻撃、その5分の1ほどが操業不能になった、

欧米の専門家によれば、Stuxnetは、これまでに考案されたウィルスに比べてはるかに複雑で独創的なものだと言う、

今回のStuxnet攻撃は、イランの遠心分離機の一部を操業不能にしただけで、完全な成功とは言えず、これで攻撃が終ったかどうかも不明だが、イランの核兵器製造を遅らせる効果はあったようだ。米、イスラエル両政府ともStuxnetについて何も言っていないが、近々退官するモサドのDagan長官は、最近イスラエル議会で、イランは技術的困難に直面し、原爆の製造は2015年までは出来ないかもしれないと述べており、その主因はStuxnetによる攻撃だったと思われる、

実はイスラエルは2年前、イスラエルの核施設を爆撃すれば、イランの核計画を3年遅らせることが出来るとして、バンカー・バスター弾などの提供をブッシュに要請して断わられている、Dagan長官の発言は、爆撃せずに同じ時間を稼げたとイスラエルが考えていることを示唆している、ということです。


イランが濃縮で技術的問題に直面しており、それがサイバー攻撃によるものらしいという話はしばらく前からありましたが、これほど詳細な解説記事が出て来たのは初めてです。イスラエルによるイランの核施設爆撃が懸念されていましたが、米、イスラエルの政府高官がイランの核開発の遅れをはっきり示唆していることから、イランに対する爆撃の可能性は当面遠のいたと言えるでしょう。

昨年11月段階でのIAEAの報告には、サイバー攻撃関連の記述はなく、サイバー攻撃がイランの濃縮計画にどのような影響を与えたかは不明ですが、米国もイスラエルも安堵の胸をなでおろしているようであり、イランの核開発をめぐる緊迫感がやわらいだのは確かなようです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:15 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラン民主化の夢 [2010年06月22日(Tue)]
ウォール・ストリート・ジャーナル6月22日付で、米スタンフォード大学のイラン専門家、Abbas Milaniがイランの民主化について論じています。

それによると、イランの民主派指導者ムサヴィは、6月初めに反政府デモを呼びかけた後、それを撤回したので、失望を招いたが、その後、西側ではほとんど気付かれなかったが、注目すべきマニフェストを発表している、

その中でムサヴィは、宗教を世俗の権力から切り離す世俗主義を唱え、さらに、国際的な人権基準の尊重、そして宗派・人種・男女の別を問わない法の前の平等を主張している。かつてシャーを倒したイラン革命勢力の中で、ムサヴィは宗教派と一線を画す、民主派を代表する人物と言える。ホメイニの下で、急進的な首相であったムサヴィは、今や真の民主主義を主張している。イランの民主化は、イラン問題の唯一の解決策であり、世界はムサヴィを支持しなければならない、と論じています。

イランには、20世紀初頭、当時アジアでは、日本、中国、トルコ、イランにしかなかった立憲政治を試みた伝統があり、また、層の厚いインテリ層がいます。その多くは、民主主義の立場からホメイニ革命に参加しましたが、その後、宗教派の専制を逃れて、欧米に亡命しています。彼らの見果てぬ夢がイランの民主化であり、ミラニもその系統の人物でしょう。

ホメイニ革命は予想以上に長く続いており、この民主化の夢がいつ実現するかは全く予測不可能ですが、いつかは実現されるでしょう。なぜなら、長い目で見れば、この種のピューリタン革命、文化大革命のような精神革命にはおのずから寿命があると思われるからです。そして、そうなった暁には、イラン民主化のインパクトは、まずは湾岸諸国に、やがては中東全域に及ぶことになるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:42 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランの核武装は不可避 [2010年02月21日(Sun)]
イランの核兵器開発が時間の問題となって来た中で、ワシントン・ポスト2月21日付で米外交問題評議会のJames M. LindsayとRay Takeyh が、またNewsweek2月19日付で同誌国際版編集長のFareed Zakariaが、イランの核武装は不可避との前提の下にそれぞれイラン対策を論じています。

リンゼイとタケイは、今やイランは急進派の革命防衛隊の支配下にあり、いったん核武装をすれば、イランが中東における影響力拡大のために核を使うことは必至だ。従って、米国はそれに対して断固たる対応措置を取る、すなわち、近隣諸国への通常兵力による攻撃や核の拡散、そして破壊活動への支援強化に対しては、実力行使で応じることを明らかにすべきだ、と論じています。

タケイはもともと対イラン核政策では穏健派であり、核施設先制攻撃には反対して来ましたが、その論理の延長線上に、核武装した後のイランに対する封じ込め政策を主張しているわけです。

他方、ザカリアは、米国がイランを武力行使で脅せば、イランの全国民が反米となり、中東での米国の評判も落ちて米国は孤立化することになるだろう。米国はこれまでもソ連(ロシア)や中国の核とも共存してきたではないか。合理的な考え方をしない、不可解な宗教指導者が率いるイランは、核兵器によって抑止できないと言われるが、今のイランは革命防衛隊が実権を握っており、こうした軍事政権というものは、損得勘定ができるものだ。むしろ、米国は、実力はまだ不明だが、イラン国内の反対派を支援していくべきだ、と論じています。

この二つの論説は、イランの核施設を先制攻撃する可能性を否定した上で論を進めています。今でもジョン・ボルトンなどは一貫して軍事攻撃を主張していますが、イスラエルも米国の説得に応じて武力攻撃を諦めたという元米政府関係者の話もあり、核施設先制攻撃の放棄はワシントンではコンセンサスとなっているようです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:00 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラン核武装のプラス面 [2010年02月09日(Tue)]
イランが本格的に濃縮ウラン製造に踏み切り、米国側の種々の対策が効果を挙げていない中で、ニューヨーク・タイムズ2月9日付で、米空軍研究所の防衛専門家、Adam B. Lowtherが、イランの核武装は米国の外交戦略にとってプラスの面もあるかもしれない、と論じています。

すなわち、イランが核武装した場合、@米国は、イランの核に対抗して、近隣スンニー諸国に核の傘を提供し、その代償に、過激派対策への協力を求めることができるようになり、さらには、AOPECのカルテルを破れるようになるかもしれない。そうなれば、石油価格は下落することになるだろう、Bイスラエルがイランから核攻撃されれば、イスラエル人もパレスチナ人も共に壊滅となるので、イランの核に対する危機感は、イスラエル人だけでなく、パレスチナ人も抱いている。こうした危機感の共有は、両者の和解を促す契機となるかもしれない、C米国が湾岸諸国に武器供与することによって、両者の関係が強化されるかもしれない、DOPECの弱体化による石油価格の下落・抑制や米国からの武器輸出の増大、さらに湾岸諸国等の防衛負担の増加は、米国の国際収支の改善に貢献する可能性がある、と言っています。

空軍関係者らしく、ロウサーの発想は大胆、簡明、荒削りです。しかし、イランの核武装については、オバマの説得路線は最初から問題にならず、制裁の強化も中国などの非協力で上手く行かず、現状では、イラン国内の体制変化に期待するか、あるいは、体制の変化に対しては逆効果であることを承知の上で、イスラエルによる攻撃を待つかしかない状況です。

このような閉塞状況の中では、この論説のように、イランの核武装は不可避だとの前提の下に、そこで生まれる新たな中東の国際環境を見極めて、米国の長期的戦略を作るという発想は、今までにない新しい試みであり、参考にすべき意見と思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 13:33 | イラン | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
イランの政情 [2010年01月08日(Fri)]
イランで最近大規模な反政府デモが起きたことに関し、エコノミスト誌1月2-8日号は、イランで政権交代があり得ると述べているのに対し、ニューアメリカ財団のFlynt Leverett等はインターナショナル・ヘラルド・トリビューン1月7日付で、イランの現体制が今にも崩壊すると考えるのは間違いだと論じています。

エコノミスト誌は、現政権は統制力を失いつつあるように思える。その証拠に、@最近、政府はデモ弾圧の際に以前より簡単に反対派を殺害するようになった、A聖職支配者層の分裂が深まっている、B反対派は6月の大統領選挙では聖職支配体制の改善を目指していたが、今では支配体制の正当性を疑問視する傾向が見られ、外国人ではなく、自国の指導者を批判し始めている、

また、携帯電話で撮影され、ネットで広まった抗議運動の映像を見ると、シャーを倒した1979年の革命以来最大の騒乱だったことがわかる。政府があらゆる弾圧手段を行使し、革命防衛隊があからさまに介入しているのは、政府が絶望感を強めていることの反映かもしれない。政府の正当性が失われつつあることは、例えば、反対派が紙幣に反政府スローガンを書き込む運動を行っていることにも表れている、と言っています。

他方、レヴェレットらは、イランの体制が今にも崩壊するかもしれないと考えるのは間違っている。シーア派の宗教行事アシュラとモンタゼリの追悼行事が重なった12月27日のデモの規模については、2千人から数万人まで諸説があるが、イラン人の多くは反対派がアシュラという神聖な日を政治目的に使ったことを怒っている。逆に、12月30日に行われた政府支持のデモにはおそらく百万人が参加しており、ホメイニの葬儀以来の人出となった、

最近の動きを新しい革命の先触れと称している人は、@反対派は何を望んでいるか、A反対派のリーダーは誰か、B政権の交代はいかに行われるのかについて答えなければならないが、@大半のイラン人は反対派が呼びかけているイスラム共和国廃止には同意していないと思われる、Aかつてのホメイニに相当する人物はいない、Bイラン革命の時は、殉教者の死後、時をおってデモが拡大していったが、今回のアシュラの日の死亡者についてはそうした動きが起きる可能性はない、と言っています。

イランの体制変更の可能性について正反対の論説です。レヴェレットらがデモの動員数など、マクロ的な観察を重視しているのに対し、エコノミストは反対運動の変質、政府側の危機感などに踏み込んで分析していると言えるでしょう。ただ、エコノミスト誌にしても、今にも政権交代が起こるとは言っていません。他方、レヴェレットのように、政権交代はあり得ないと断定するのも行き過ぎであり、イランについて考える場合は、常に政権交代の可能性を念頭に置くべきでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:29 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランの反政府運動と政権交代の可能性 [2009年12月22日(Tue)]
ニューヨーク・タイムズ12月17日付でコラムニストのRoger Cohenが、また、Times Online12月22日付で英国際戦略研究所のNader Mousavizadehが、最近のイランはベルリンの壁崩壊前夜の東欧と状況が似てきており、政権交代が起こりつつある、と論じています。

2人は共に、イランの核開発問題で対イラン制裁を強化することは、教育程度の高い青年と勇敢な女性が進めているイラン国内の改革運動を弱め、逆に、愛国的感情に訴え、経済統制を強化する口実を与えて、現政権を強化することになろう。特に、これまでも巧みに制裁に違反してきた革命防衛隊が利を得ることになるだろう、と言っています。

そしてCohenは、1989年の東欧開放の時、当時の父ブッシュ政権はベルリンの壁の崩壊までの決定的期間に何もせず、そのため、クレムリンの強硬派に米国が介入したという口実を与えなかった結果、東欧の革命は自律的に進むことができた。オバマも、今イランで多元的政治体制への動きが高まっていることを理解し、何もすべきでない、そうすればイランの政治状況の進展は一層加速されることになろう、と述べ、

Mousavizadehは、西側は、イランと中東全体の将来にとって極めて重要な今のイランの反政府運動の高まりという機会を捉え、核合意の取り付けに代わる道を探求すべきだ。すなわち、あらゆる機会にイラン国民への支持と、国内弾圧を続けるイラン政府とは核をめぐる取引には応じられないことを表明する一方、イスラエルへの安全の保証を一層強化し、イラン国民自身による政権交代を期待しつつ、対イラン封じ込めと抑止体制を作り上げるべきだ、と言っています。

両者は共に、先日のモンタゼリ師の追悼行事の際の大々的な反政府デモに注目し、イランでは政権交代が起ころうとしている、あるいは、政権交代への動きが早まっていると言っています。しかし、本当に状況が政権交代につながる段階に来ているかどうかはまだ定かでありません。また、両者共、対イラン制裁の強化は、イラン国内の民主化運動を妨害することになるとして、それに反対していますが、現実は制裁強化に向いて動いています。オバマとしても、今の状況で何もしないわけにはいかないでしょう

従って、両論説の情勢判断や政策提言はそのまま受け入れられるものではありませんが、イラン国内の現実を理解する上で、重要な洞察を提供していることは間違いありません。今後、イラン情勢を追う際は、政権交代の可能性を常に念頭に置くべきでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 12:35 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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