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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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米越関係 [2012年03月19日(Mon)]
ウォールストリート・ジャーナル2月23日付で、米AEI日本研究部長のMichael Auslinが、ベトナムについて、経済は躍進しており、米国とベトナムの経済関係も進んでいるが、何といっても米国にとって重要なのは、ベトナムの戦略的価値だ、と言っています。

すなわち、アジア諸国の中で中国と最もとげとげしい関係にあるのはベトナムだ。他方、米国とベトナムの関係は、経済的にも戦略的にも進展するあらゆる可能性を持っている、

ただ、ベトナム側は、米中対立に捲きこまれるのを怖れると同時に、米国に頼り過ぎて、その期待が裏切られることを怖れており、慎重な姿勢を保っている。また、米国とベトナムの間には、過去の戦争の歴史や、体制の違いから来る人権問題などもある。しかし、豊富な若年人口、成長率、そして活発な経済・社会生活を考えると、ベトナムが他の多くのアジア諸国よりも大きな潜在力を秘めていることは間違いない。米国は、対中政策との関連は別としても、ベトナムの経済社会の発展に寄与し、友好、相互信頼関係の基礎を築くべきだ、と論じています。


極めて慎重な言い回しですが、米国の長期的なアジア戦略、特に対中共同戦線戦略を念頭に置いての、ベトナム関与政策の主張です。

南シナ海問題と言っても、戦略的、政治的、経済的に重要性が高いのは、西沙、南沙諸島であり、この問題については、中国とベトナムははっきりと衝突路線にあります。これについて、米国がどこまでベトナムに肩入れするのか、また、ベトナムが中国を怖れずどこまで米国の肩入れを許すのかが、今後の東南アジア戦略の最大の問題です。

しかし、米国とベトナムは、東アジアのパワーポリティックス上、必然的な同盟国でありながら、過去の経緯と、中国を刺戟することを怖れて、相互に慎重を期しているのが実情であり、それをよく説明しているのがこの論説です。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:07 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ミャンマーの投資環境 [2012年03月13日(Tue)]
ファイナンシャル・タイムズ2月20日付けで、米外交問題評議会のJoshua
Kurlantzickが、ビルマが開国したが、条件は悪く、ベトナム経済が開放化された時のような事を期待してミャンマーに入る米国企業は失望するだろう、と言っています。

すなわち、確かに今まで外部の経済から切り離されてきたミャンマーは、西側の商品にとって未開拓の新市場だ。また、未開発の天然資源の宝庫でもある。しかし、第二のベトナムを期待して、ミャンマーに入る投資家は失望するだろう。ミャンマーの実態は、ベトナムではなく、アンゴラに近いからだ、

例えば、@教育を受けた労働者はほんの一握りしかいない、Aミャンマーの北部と北東部の大部分は、強力な反政府少数民族や麻薬取引組織の支配下にあり、不安定であると同時に、インフラが全く欠如している。そのため、輸送コストは一部のアフリカ諸国並みに高くなる可能性があり、腐敗にもつながりかねない、それに、Bケ小平時代の中国と違い、ミャンマーでは経済開発はまだ国の方針として定着しているわけではないので、将来どうなるかわからない、その上、C西側の対ミャンマー制裁に同調しなかったアジア諸国の企業が、既にミャンマーの中で地歩を築いてしまっている、と指摘し、

米国の企業にとってミャンマー進出はチャンスというよりも、難問だろう、と言っています。


確かに、米国の企業にとってはその通りだろうと思われます。元々、ミャンマーは本来、米国が日本に任せて置くべき地域だったと言えるでしょう。そうしていれば、中国の今ほどの進出はあり得ず、社会インフラも経済インフラもある程度整備された社会になっていたはずです。

しかし、ミャンマーの現状は目を覆うばかりのものではありますが、日本の企業はなんとかそれを克服して行くでしょう。今後のミャンマー進出についても、米国は、今からでも日本の役割に目を開き、日本と協力するよう誘導されるべきだと思われます。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:40 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ビルマ民主化の地政学的意義 [2011年12月02日(Fri)]
米ジャーマン・マーシャル・ファンドのウェブサイト12月2日付で、同ファンドのWilliam Imbodenが、クリントン国務長官のビルマ訪問は、非民主主義国の民主化を推進する意義と同時に、アジアの戦略的状況を変える重大な意味がある、と論じています。

すなわち、ビルマの動きは、勢力バランスの変化は時に民主的改革を誘導する、という興味深い洞察を与えてくれるものだ。つまり、ビルマの指導者は本当に民主主義を望んでいるかもしれないが、同時に、そこには強くなる中国の束縛やエネルギー重商主義とは距離を置き、インド太平洋の民主国家や西側世界と新たなパートナーシップを築きたい、という願望や計算もある。ベトナムでも、中国の覇権に対抗して対米関係を改善するめに少数派宗教の扱いがよくなった、

ということは、ビルマの改革は、人権論者と同時に勢力バランス重視の現実主義者をも喜ばせるものだろう、

さらに、ビルマの改革は、中国やロシア、あるいはインドに対し、専制主義的資本主義の限界を示すものかも知れない、と論じています。


人権と民主主義推進の米国的価値観は、権力政治上の利益にも合致すると言って、米国とビルマの接近を歓迎している論説です。ビルマの国際社会復帰を希望する日本にとっては、もとより歓迎すべきものです。

ただ、この論説でも米国の態度は中途半端です。米国のビルマ政策の従来の問題点は、人権、民主主義などの問題で、中国と比べてダブル・スタンダードを採ってきたことで、中国に厳しく出来ない分だけ、議会対策でビルマに厳しかったところがあります。今でも、米国の論者の多くは、ビルマに対し、一部の政治犯ではなく、全員釈放を国交正常化の条件とすべきだと主張していますが、中国に対して同じ要求をすることは現状ではとうてい考えられません。

むしろ中国の脅威が最大の国際問題であるという今、中国に対してより厳しいダブル・スタンダードがあってもおかしくない状況です。

ただ、いずれにしても、戦略的、地政学的に、ビルマ接近論が米国に表れて来た今は、日本にとってビルマとの関係改善の好機でしょう。

それにしても悔やまれるのは、日本とビルマをつなぐ人脈が過去数十年の逸機の間に無くなってしまったことです。最後のいわゆるビルキチ(ビルマ狂い)は伊藤忠の高原友生氏でした。彼が士官学校を卒業して任官し、ビルマ軍参謀部に赴任した時は、在ビルマ日本軍全軍の中で最年少だったと言われますが、その高原氏が2年ほど前に亡くなっているのですから、それより年上のビルキチはもう誰もいないでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:11 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジアにおける対中統一戦線の形成 [2011年11月19日(Sat)]
ウォールストリート・ジャーナル11月19日付社説が、中国の冒険主義に対抗するには地域諸国が対中「統一戦線」を維持するべきだ、と論じています。

すなわち、中国は南シナ海の90%以上に主権を持つと主張している。そして、漁業とエネルギー資源へのアクセスを得たいがために、ASEAN諸国と合意した国際石油会社を中国国内でのビジネス禁止で脅したり、公海上で他国の船に嫌がらせをしたりしている。しかし、中国は自分の立場は強いと思っているが、、大国もやり過ぎると、かえって高くつくことになる。南シナ海は中国の「歴史的水域」だとするその主張は、いかなる国際法の観念にも根拠はない、

実際、中国の拡張主義に一番影響を受けるベトナムとフィリピンは、統一路線をとるよう近隣諸国や米国に働きかけている。特にフィリピンは、紛争地域に資源を共同開発する「平和地帯」を設置することを提案している。また、ASEANは行動規範の導入を強く主張し始めており、海軍も強化している。米国も海兵隊の豪州駐留やシンガポール、ベトナムへの米艦の寄港など、地域でのプレゼンスを拡大している、

結局、中国の冒険主義に対抗する最善の策は統一戦線だろう。中国は強国がどう行動すべきか、学びの初歩段階にあり、中国がこうした段階にある間、ASEANとそのパートナー諸国は中国のよい面が出るように手を貸す必要がある、と言っています。


論説は南シナ海をめぐる中国の態度を批判し、ASEANなどが統一戦線で対中対抗をすべきことを推奨したものです。

中国は南シナ海のほぼ全域を中国の歴史的水域、また、島嶼は中国の領土だと主張していますが、ここには二つの問題が絡み合っています。

一つは水域のステイタスの問題で、歴史的水域ということで中国がどのような権利を主張しようとしているのか、よくわかりません。国際法上、歴史的湾の概念はありますが、南シナ海のような広大な地域を歴史的水域とする観念はありません。また、中国は航行の自由は阻害しないと言っていますが。中国の善意としてそうするのかどうかもよくわかりません。いずれにしても、南シナ海は北東アジアとインド洋を結ぶ重要なシーレーンであり、その航行の自由は利用国の権利として確立される必要があり、これは国際法の問題です。

もう一つは島嶼に対する領有権の問題で、中国はほぼすべての島嶼の領有権を主張し、さらに、領有権争いは関係当事国が話し合うべきで、他国は干渉すべきではないとしています。これは一見、それなりに筋のとおった主張に思えますが、実は、自分より弱い国をいわば各個撃破して領有権を確立しようというのが中国の意図であるのは明らかです。そうはさせまいとしてASEANの関係国が共同で中国に対処しようとするのも自然な成り行きです。

そもそもこれら諸島を実効支配した経験があるのは日本で、これはサンフランシスコ条約2条(F)項で放棄させられましたが、ではどこに帰属するかとなると、明確にはされていません。つまり、各国の領有権の主張は戦後の実績に基づくものであり、十分な根拠に基づくか否か疑問があります。そうした状況では、関係国が協議して分かち合うしかなく、中国が全てをとろうというのは無理があります。

今回の東アジアサミットでは、中国はこの問題で孤立してしまい、これは中国外交の失敗と言えますが、中国が力を誇示して近隣国の警戒心を呼び起こし、目を覚まさせたという意味ではむしろ良かったかもしれません。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:56 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国の対ビルマ政策 [2011年09月27日(Tue)]
ヘリテージ財団のWalter LohmanとRobert Warshawが、同財団の9月27日付ウェブサイトで、昨年は選挙を実施し、最近はアウンサン・スーチーを釈放するなど、このところビルマは改革で注目されているが、こうした動きは、ビルマがASEAN議長国になるためのPRキャンペーンに過ぎない可能性があるので、本当の改革があるまで、米国は制裁を堅持し、関与を制限すべきだ、と言っています。

すなわち、昨年11月の選挙は茶番であり、スーチーの釈放およびテイン・セイン首相との会談も、進展ではあるが、政権側はスーチー陣営の影響力は限られていると計算したのであろう。実際、スーチーの言動範囲は限られており、二千人の政治犯まだ刑務所にいる、

ビルマは、Freedom Houseが最低の自由度と位置づけ、Transparency Internationalが腐敗度で世界第2位としたように、制裁解除に値する国からはほど遠く、ミッチェル米特使も、ビルマ訪問後、成果はなかったとしている、

現ビルマ政権は、権力維持を最大の優先事項にしており、正統性がないためにむき出しの力でしか、政権を維持できない。ビルマが本当の改革に乗り出すまで米国は制裁を継続すべきだ、と言っています。


論説は、改革が不十分として、制裁の堅持など、対ビルマ強硬策の継続を主張していますが、問題は、これまでこうした強硬策は成果を上げていない上に、ビルマを中国側に押しやる結果になっていることです。

ビルマは、2014年にASEAN議長国になりたいがために化粧直しをしており、それを更に促進させる手があるのかどうかはわかりませんが、ただ排除一点張りでいくのではなく、関与や対話の機会をもつ方がよりよい結果につながるように思われます。

要するに、国内体制を理由に、関与を制限する政策は、再検討を要するように思われます。それに、国内改革の推進は、外国には手に余ることが多いものです。

ビルマは資源に恵まれ、地理的にも中東の石油を中国に運ぶパイプラインを建設できる位置にあり、重要な国です。日本は伝統的に良好な関係にありましたが、今はそうでもありません。米国やASEAN諸国、インドの考えもよく聞き、情勢分析も緻密にやって、国際政治上の利害得失を重視した、バランスのとれた政策を展開していくべきでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:51 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ビルマをめぐる中印のパワーゲーム [2011年09月12日(Mon)]
米国誌Foreign Policyの9月12日付サイトで、かつてのウタント国連事務総長の孫で、元国連職員のThant Myint-Uが持論を展開、中印がビルマに進出してきたが、ビルマが中印のかけ橋となってアジアに新しい時代が到来する、と論じています。

すなわち、中国はビルマにハイウェー、鉄道、石油・ガス・パイプラインを建設して、ベンガル湾と雲南省を結ぼうとしているが、これは雲南省等の中国南部に大市場を提供するだけでなく、中国がマラッカ海峡を通らずにインド洋に出ることを可能にする、

他方、インドも「ルック・イースト」政策を掲げて、ビルマの港を再開発し、アッサムやインド北東部に通じる道路を整備しようとしている。また、第二次大戦時に作られたいわゆる「援蒋ルート」を修復し、ビルマ経由で雲南省に至る道を整備しようという動きもある、

ビルマをめぐる中印のこうした動きを、「グレート・ゲーム」の再来と見る向きもあるが、東西を結び付けたシルクロードの再現と見る者もいる。そうした中で、3月にはビルマの軍事政権が解消され、テイン・セイン大統領が率いる文民政権が生れ、統制の緩和や汚職撲滅等に乗り出している、

勿論、新政権はまだ脆いものがあり、ビルマは、発展して安定した社会を築けるかどうかの岐路に立っているが、民族紛争が解決され、西側が制裁を解除し、民主政権が確立し、広範な経済成長が起これば、その影響力は非常に大きなものとなり、中国とインドを結び付けることで、ビルマはアジアにおける国際関係を変えるgame changerとなるだろう、と言っています。


この論説は、中印関係の分析をしないまま、中印の密接な協力関係は可能と見て、そうしたインド・中国関係緊密化をダシに、故国ビルマを世界に売り込もうとするもの、と言えるでしょう。

もっとも、ミュンチューが言うように、中印関係が一直線に緊密化に進むとは思われませんが、インドも対中警戒のみの観点から政策を進めているわけでなく、その対中政策は硬軟両様だということは留意すべきでしょう。

他方、ミュンチューも言うように、6000万の人口――その内6割以上が15〜60歳――と豊かな農地やエネルギー・鉱物資源に恵まれ、ヤンゴンの工場労働者の平均賃金がバンコクの15分の1程度と言われるビルマが、地域に残された大きな有望地域であるのは確かです。

以前から、「ビルマには多くの問題があるが、その全ては日本の援助が全面再開されればすぐに解決される」と言われてきましたが、形だけでも文民政権が登場し、2014年にASEAN議長国になることを念頭にビルマが一連の自由化・開放政策を乗り出し、中国の南下が具体的問題となって来た今、日本がビルマに関与すべき新たなチャンスが訪れているのかもしれません。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:56 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ASEANは頼りにならない [2011年08月05日(Fri)]
米ヘリテージ財団のウェブサイト8月5日付で、同財団アジア研究センター所長のWalter Lohmanが、7月末にバリ島で開かれたASEAN地域フォーラムは同じことの繰り返しで前進がない、米国はASEANを頼りにせず、同盟国と協力して自らシーレーンを守るべきだ、と言っています。

すなわち、1990年代後半、中国とASEANの間で、南シナ海における領土や権益争いを緩和しようと、行動規範の確立に向けての交渉が始まり、2002年に「南シナ海における関係国の行動に関する宣言」(DOC)が成立した。しかし、中国側が法的拘束力のある「規範」を嫌い、さらに、中小国と1対1で交渉したいがために、領土争いは二国間問題だと強固に主張した結果、DOCはASEAN側が望んだような行動規範とはならなかった、

7月のバリのASEAN地域フォーラムで合意された「DOC実施のためのガイドライン」も、行動規範ではない。ピツワンASEAN事務局長は歴史的成果と自画自賛したが、行動基準を設定できなかったのだから、内実は2002年の合意の繰り返しに過ぎない、

要するに、実質を求める中国に対し、ASEANは、同意でき、何かしら動いたという感触が持てればそれでよしとしており、これは、この地域の要の役を果たすべきASEANの姿勢として問題だ。そうしたASEANに米国の利益を託すわけにはいかない。米国は、べトナム、インドなどと戦略的パートナーシップを創設、強化し、ASEANとは別に、航行の自由と同盟国の安全を守っていくべきだ、と論じています。


誰とも敵対せず、誰をも傷つけず、はっきりした表現を避ける、いわゆるASEAN wayに対する米国のいらだちを示す、典型的なアメリカ人の反応であす。たしかに、バリ島の会議で何が進展したのか、資料を取り寄せて読んでみても、はっきり進展と言えるものは見出せませんでした。

しかし、にも関わらず、会議は成功だったと思われます。米国がアジア復帰を宣言して以来、前とは違った雰囲気の中で会議が行われたこと自体が重要です。つまり、中国と明言しなくても、中国の脅威を認識して、米国の存在を歓迎し、南シナ海の問題を議論したということは、それだけで大変な違いです。

米国は、ASEAN wayから離れられないASEANを永年無視して来ましたが、最近になって、ASEANを地域のテコの支点と呼ぶに到っています。しかし、ASEANに付き合って、自由民主主義諸国の利益を増進するためには、理解と忍耐が必要です。米国にASEANの重要性を説得し、ASEAN wayに耐えるよう導くには、それこそ日本が最適任であり、日本の重大な政治的外交的役割だと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:43 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
タクシン帰国反対 [2011年07月05日(Tue)]
ファイナンシャル・タイムズ7月5日付で、米外交問題評議会のJoshua Kurlantzickが、 インラックがタクシンを恩赦して帰国させると、保守派との対立が再燃し、軍が介入する口実を与えてしまうので、タクシンは帰国させるべきでない、と論じています。

すなわち、総選挙で勝利し、政権の座についたインラックは、連立と和解を呼びかけており、これはタイの民主主義を救うチャンスであるかもしれない。しかし、他方、タクシンの恩赦は選挙公約であり、タクシンがもし帰国すれば、反対のデモと騒擾を誘発し、軍に介入の正当性を与えることになるだろう、

各勢力は妥協を受け容れるべきだ。下層階級は、個人財産と法の尊重を受け容れ、タクシンの帰国を諦めるべきであり、都市中流階級は投票者の多数の意思を尊重すべきだ。そして最も困難なことかもしれないが、タクシンは引退すべきだ、と言っています。

  
タイの政情が今後どうなるか、今のところはっきりした見通しは立ちません。ただ、この論説がいみじくも指摘しているように、当面の最大の問題は、インラック政権が軍の介入の口実、あるいは大義名分を与えるような措置をとるかどうかにかかっていると言えるでしょう。

インラック政権の側からすれば、過去に、民主的な選挙の結果を、軍の介入や司法の介入によってねじ曲げられてきたことへの宿怨はありますが、敢えてそれを我慢して、保守派を刺激しない政策をとれるかどうかがカギだ、ということです。

幸い、タイ経済は好調なので、革新的な政策を実行しなくても、国民が失望することはないと思われます。できれば、この際、和を重んずるタイ文明の特質が再び発揮されることが望まれます。しかし、タクシンが階級意識を掘り起こしてしまった後のタイは、もう昔のタイとは違っているかもしれず、どうなるかはわかりません。

ただ、今後もし事態が混乱しても、外国との関係、特に日本企業の活動にとっては、従来通り何の支障も生じないだろうと考えることは、まだまだ許されるでしょう。逆に、もし万が一、日本企業の活動に支障が生じるような事態となるのなら、タイはもうわれわれの知っているタイでなくなった、ということでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:15 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ASEANの展望と課題 [2011年06月21日(Tue)]
南シナ海で中国、フィリピン、ベトナム間の緊張が高まっている折、CSIS のウェブサイト6月21日付で同研究所のErnest Z. Bowerが、またThe Diplomat 同日付でAEIのGary SchmittとMichael MazzaがASEANの課題と展望を論じています。

バウアーは、南シナ海の安定を維持するために、ASEANは一体としての政治力を高めるべきだ、として、そのために、@私的資格での政治家、官僚、学者等による自由な意見交換の強化、A国際組織としてのASEANの機構の強化、B米国に「国連海洋法憲章」を批准するよう働きかける等、ASEANとしての外交の強化、C経済統合の強化を提言しています。

シュミットとマッザは、今や経済力でも軍事力でもASEAN諸国を圧倒するようになった中国は、南シナ海の問題で譲歩する必要性を感じていない。そうした中で、ベトナム、シンガポール、フィリピンは米国にすり寄りつつあるが、中国との関係を優先する国々も出て来ており、ASEANのリーダー格のインドネシアやシンガポールはイニシアティブを取りかねている。米国が財政赤字削減のためにこの地域の兵力を縮小すれば、この地域は中国とインドの間の勢力争いの場となってしまうかもしれない、と指摘し、

ASEANはこの30年間重要な役割を果たしてきたが、ここで今までのやり方を変えないと、中国やロシアといった周辺の大国にとってばかりか、加盟国自身にとっても意味のない存在になってしまう、と言っています。


ASEANは周辺の政治・経済状況が悪化するたびに、危機を指摘されてきました。今回の情勢も、世界金融危機後、米国経済復活の見通しが立たない中、中国が自らの経済力に増長して自己主張を強めたことによる一時的現象かもしれません。金融危機以前は、中国指導部は米国との関係から得られる経済的利益を重視し、そのために東アジアの現状維持は必要だとして、それを支持してきました。この中国指導部の立場は現在でも変わっていないようであり、米国経済が立ち直れば、軍部等の強硬な言動はもっと抑制されるかもしれません。

一方、日本はこれまで、ASEANを活用して、東アジアにおける集団的フォーラム(ASEAN+3、東アジア首脳会議等)の形成を図ってきましたが、これは、ASEANと敵対するのを好まなかった中国を関与させる上で有効なやりかたでした。ところが、ASEAN自身が中国との紛争の当事者になってくると、ASEANを出汁にして日米中韓等の間のバランスを図るやり方はとれなくなります。これは、日本や韓国にとってアジアでのバランス外交を進める上で、ASEANの扱いが難しくなることを意味しますが、反面、米国、中国、インド等の大国の間、さらにはASEANとの間で舞台回しをすべき日本の役割が高くなる可能性もあると言えるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:01 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
対ミャンマー制裁解除論 [2010年12月30日(Thu)]
ニューヨーク・タイムズ12月30日付でコラムニストのPhilip Bowringが、これまでの対ミャンマー制裁は、この国の反西欧感情を強めて欧米との連帯感を薄め、中国の進出を許す結果となっている。世銀やアジア開銀が進出すれば、経済改革に役立つだろう。改革のテンポは遅いだろうが、次の世代に期待することも出来る、と論じています。

すなわち、西側の制裁は今まで全く事態の改善につながっていない。西側の影響は減り、現役の将軍たちも若い世代も西側と接触が断たれている。この前の総選挙は確かに公正だったわけではないが、部分的には国民の声を代表している。アウン・サン・スーチーも尊敬はされてはいるが、彼女の頑固さや社会経済問題への関心の薄さには批判もある。選挙の結果、将軍達が閣僚になって軍服を脱げば、事態も少しは変わるかもしれない、

また、世銀やアジア開銀などが入れば、経済開発を助けられるだろう。改革は急には進まないだろうが、ミャンマーにはインドネシアやベトナムに劣らない改革の素地がある、と言っています。


これは、多くの日本人も共有する考えでしょう。ほんの少しの日本の援助があれば、ミャンマー経済は立ち直り、対中傾斜を避けられる機会は過去に何回となくありましたが、米議会の人権主義者の反対のために全部見送られてしまいました。中国の人権無視の程度を考えれば、明らかにダブル・スタンダードでしたが、米議会には、中国に甘くする代償として、経済的にあまり実害の無いミャンマーに人権批判を集中させる傾向がありました。また、ペロシ下院議長は、従来人権問題では中国とビルマの両方に厳しかったのですが、オバマ政権の当初の対中宥和政策に合わせて、中国批判の方は降りてしまい、ミャンマーだけが批判の対象として残った、といういきさつもあります。

こうした状況の馬鹿ばかしさを指摘できるのは日本だけかと思われましたが、イギリスのアジア地域の専門家であるバウリングが突如こうした論説を出したのは心強く思えます。

米政府内にも、昨年夏からべトナム等も捲きこんで対中包囲網を結成する動きが出てきており、クリントンの新アジア政策でミャンマー政策の見直しは当然行なわれてしかるべきでしょう。日本も、これまで種々の試みをして来ましたが、この流れに乗ってもう一度何か試みるチャンスかもしれません。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:23 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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