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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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米国は中東から離れられない [2012年03月29日(Thu)]
ウォールストリート・ジャーナル3月7日付で米Bard CollegeのWalter Russell Mead教授が、米国でも中東でも、米国は中東から手を引くべきだと言う人は多いが、中東の重要性からいってとてもそういうわけには行かない、と論じています。

すなわち、今中東は大きく揺れているが、中東における米国の利害は単純明快であり、しかも比較的良好な状況にあるという重要な事実が見過ごされがちだ。米国は、@この地域からの石油供給が阻害されないような勢力均衡を保つこと、Aイスラエルの安全を守ること、B中長期的には安定した民主的政権が地域各地に樹立されること、を望んでいる、

しかも、シリアの危機が再び深刻になってきた今、こうした米国の目標は、中東でこれまでにない幅広い支持を得ており、イランの地域覇権への野望を阻止しようと強力な連合が形成されている。米国のイラク進攻を糾弾したフランスやアラブ連盟も、カダフィ打倒は支持したし、トルコと米国の関係も数年前より緊密になった。

他方、米国では、中東などから離れてアジアに集中すべきだと思っている者もいる。しかし、最近の不安定な中東情勢はガソリン価格を直撃し、選挙を控えて有権者の怒りを買っている。さらに高騰すれば、始まったばかりの米国の経済回復は根底から覆されかねない。それに、中東石油への依存を減らしたとしても、石油市場のグローバルな性格を考えると、米国は中東をないがしろにするわけにはいかない。アジア重視に転換するのは容易でも、中東に背を向けるのは容易ではない。結局、米国はアジアと中東の両方に同時に関与していかなければならないというのが現実だ、と言っています。


オバマ政権がアジア復帰を宣言して以来、中東をどうするのかということが潜在的な大問題でした。大中東圏に含まれるアフガニスタンについては、放棄される趨勢はほぼ明らかであり、イラクからの完全撤退も既定方針ですが、イランの核開発と、イスラエルへの脅威を中心とする中東問題から米国が離れられないのは明らかです。

そもそもanti-access、area denial戦略が打ち出された時は、ペルシャ湾への接近阻止と中国周辺海域への接近阻止とが並列して論じられていました。米国のアジア復帰は、中国の勃興を前にしての米国の長期的政策の根幹となる基本方針であり、日本として当然支持すべきものです。他方、イスラエルの存立と、ペルシャ湾の石油へのアクセスの自由の確保は、米国にとって至上命令です。

今後とも、このアジアと中東の二本立てで行くことはほぼ間違いないでしょう。そして中東が本当の危機となれば、軍事予算削減の長期計画自体が見直されなければならないでしょう。

4月2日より下記サイトに移転します。
世界の潮流を読む 岡崎研究所論評集
http://wedge.ismedia.jp/category/okazakiken


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:52 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国社会の分裂その3 [2012年03月16日(Fri)]
マレイの著書について、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、David Brooksは、今年これ以上重要な本はまず出ないだろう、と絶賛しています。そして、マレイの話は、民主・共和両党のイデオロギーと矛盾する、共和党は、退廃的な文化エリートが神と国と伝統価値を愛する一般国民を腐敗させ、国を危うくしていると言っているが、マレイによればそれは間違いで、文化エリートは一般大衆より保守的、伝統的な生活を送っている。また、民主党は社会の資源を貪り食う金融エリートが国を危うくしていると言っているが、それも的はずれで、真の社会的隔たりは、トップの20%と下の30%の間にある。実際は、上流階級の生産性が極めて高く、離婚率が低く、職業倫理が高く、子供を厳しくしつけるのに対し、下流階級は伝統的な市民の規範から離れ、自己を規律し、生産的であることが困難な、混乱した、ポストモダンの地域に住んでいる、と言っています。

このマレイの著書が提起している問題を挙げると:
1)マレイの見方はどれほど米国社会で共有されているか
マレイは基本的に階級を所得でなく知能で分け、高い知能力は高い所得を生む、つまり、統計上、知能力の高い階級と所得の高い階級はほぼ同じだと言っていますが、これはまだマレイ自身も言っているように少数意見でしょう。ただ重要な問題提起をしていることは間違いありません。
2) 白人以外はどうか
マレイの分析の対象は白人ですが、マレイは驚くべきことに、統計に白人以外を含めても結果は変わらず、米国社会の縫い目のほころびは白人に限られていないと述べ、白人の下層階級に、黒人の下層下級と同じような市民生活の崩壊現象が広くみられることを明らかにしています。米国社会の病症はそれだけ深刻だと言わざるを得ません。
3) 中間層はどうなのか
マレイの分析には、保険業者、不動産販売者、人的資源専門家などの中級ホワイトカラー職や、小中高の教師、警官、看護師、エンジニアなどの高度技術職等、米国民の50%を占めるいわゆる中間層が入っていません。人口の半分の中間層に触れないで、米国の社会の崩壊が語れるのかという疑問は生じます。
4) 米国の外交にどのような影響を与えるか
米国の外交には伝統的に勢力均衡の追求と、自由と民主主義の普及の追求という両面があり、冷戦中も、ソ連に対抗するバランス・オブ・パワーの面と、自由、民主義諸国を守ろうとする面がありました。マレイは、自由と民主主義の尊重というアメリカ・モデルは、下層階級では崩壊しつつあるが、上流階級ではそうした事態は起きてないと言っています。外交の担い手が主として上流階級であるとすれば、米国社会に関するマレイの危機感にも関わらず、外交への影響はあまりないと考えてよさそうです。

しかし、直接的にはそうであっても、米国社会が深刻な危機を抱えていること自体、陰に陽に外交にも影響が出てくると考えざるを得ないでしょう。その意味でマレイの提起した問題に、日本人としても関心を持つべきものと思われます。






Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:16 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国社会の分裂 その2 [2012年03月15日(Thu)]
マレイは、次に、米国の労働者階級の一部として新下層階級が出現しており、彼らは、結婚せずに子供を産むケースが多く、子供や親の面倒を見ない、仕事がまともにできず、扶助に頼る者が多い、犯罪、特に未成年の犯罪が多く、信仰心に乏しい、つまり、米国の建国の徳であった結婚、家族、勤勉さ、正直さ、信仰心が崩れている、と言っています。

すまわち、彼らの多くは、高卒の肉体労働者、低レベルのホワイトカラー労働者、単純労働のサービス・肉体労働者で、こうした新下層階級に属する人々は、2010年当時で、働き盛りの白人の30%を占める、

彼らについて、結婚、勤勉さ、正直さ、信仰心を分析すると、@片親と住んでいる子供の割合は1960年の3%から2010年には22%に増加、A家族の長もしくは配偶者が週40時間以上働くケースは1960年の87%から2010年には53%に減少、B人口当たりの受刑者の割合は1974年から2004年にかけて4倍以上に増加、C日曜学校で教える、慈善活動に従事する等のコアな信者は急減している、

結婚、勤勉さ、正直さ、信仰心は建国の徳であり、米国の成功の基として、建国以来200年間米国を動かしてきた。ところが、労働者階級、特に新下層階級を見る限り、そうした徳質は急速に失われつつある、

2004年の調査では、彼らの75%は何の社会的クラブ、団体にも属さず、82%は何の市民的グループ、団体にも属していなかった。大統領選挙の投票率も、中流層ではほとんど変わっていないのに、新下層階級では、1968年に比べて2008年には約3分の1に減っている、

つまり、過去30-40年の間に、新下層階級の間では、アメリカの市民社会を特色づけてきたる隣人関係や積極的市民活動といった社会資本が大きく崩れてしまった、と言っています。


マレイの著書で使われているデータベースは諸調査の結果で、厳然たる事実を反映したものです。それらが示す労働者階級の生活の荒廃は、それが白人のものであるがゆえに、また同時に他方では新上流階級が出現しているゆえに、一層ショッキングです。最近、米国でウォール街批判や、99%運動が注目されえていますが、この著書は、問題が経済や所得格差だけではないことを明らかにしています。





Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 18:59 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国社会の分裂 その1 [2012年03月14日(Wed)]
米AEIの政治・社会学者Charles Murrayが、その著書 ”Coming Apart:The State of White America, 1960-2010”の中で、この半世紀間に、米国ではかつてなかった階級が生まれており、米国は人種ではなく、階級によってバラバラになりつつある、と言っています。

すなわち、1960年頃の米国は、成人の8%ぐらいしか大学の学位を持たず、裕福な者も、他人よりやや生活水準が高い程度で、生活スタイルはさほど違っていなかった、

ところがその後何十年かの間に様相は一変し、新上流階級が生まれた。新上流階級は、管理職、医療・法律・エンジニアリング・建築・科学・学術分野の専門家、そしてメディアのコンテンツの制作に携わる者で、25歳以上の成人のうちの最も成功した5%から成る。2010年当時で140万人強、配偶者を入れれば240万人ほどだ、

新上流階級は米国の主流とは異なる文化、生活スタイルを生んだ。外車に乗り、高齢出産の傾向が強く、肥りすぎないよう注意し、ワインを飲み、煙草は飲まず、テレビは見ず、海外旅行・出張・外国人との付き合いなど、普段から外国との接触がある。育児に熱心で、フレックスタイム、斬新なオフィスの配置など、職場革命の中で仕事を楽しむ、

新上流階級の基礎は、頭脳の市場価値が高まったことにある。技術水準が高まり、事業の決定がより複雑となり、会社の規模が大きくなるにつれ、高い認識能力が求められる。新上流階級はIQや認識力の高い者を構成員とする。

また、富が新上流階級の発展を可能にし、その独特の生活スタイルを可能にした。1970年〜2010年の間、中間層の実質所得は増えず、経済成長の利益のほぼすべては所得分布の上位半分が手にした。また、1990年代半ば以降、高額所得層のトップが目覚ましく上昇、そうしたトップ5%に新上流階級のほぼ全員が入る、

新上流階級は仲間で集まる強い傾向があるが、それを可能にするのが、認識力、IQによる大学の階層化であり、その結果、学問的才能は比較的少数の大学に集中するようになった。そしてこうしたエリート化を持続させるのが、優秀な者同士の結婚、同類婚だ、

要するに、新上流階級の文化は豊かさの産物ではない。それは豊かさが可能にしたものなのだ、と言っています。


マレイは、シカゴ大学の全国世論調査センターが毎年行っている米国社会の変化に関する調査をはじめ、多くの調査データを駆使して、「新上流階級」と「新下層階級」を比較分析しています。

マレイによれば、「新上流階級」はIQ、認識力が極めて高いエリートで、裕福であり、米国の主流とは異なった独自の文化を共有しています。彼らと貧困層との間には、単に貧富の差だけではなく、まったく異なる生活文化があるとしており、この点は「新下層階級」の説明でさらに明らかになります。

また、マレイは白人を対象に調査、分析していますが、黒人や他の少数グループを入れてもほとんど変わらないと言っています。果たしてそうなのか疑問も残りますが、この点はのちにさらに取り上げます。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:46 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米新戦略とオフショア・バランシング [2012年03月01日(Thu)]
米ナショナル・インタレスト誌のウェブサイト1月27日付で、Christopher LayneテキサスA&M大学教授が、オバマ政権が最近明らかにした新国防戦略指針はパックス・アメリカーナの終焉を意味している、と論じています。

すなわち、新国防戦略指針は、@米国が経済的に衰退し、財政難に陥る中で、中国が台頭し、GDPでも間もなく米国を凌駕し、米ドルが準備通貨の地位を失うという予測さえある、A欧米からアジアに富とパワーの移行する中で、中国やインドなどが台頭し、米国一極体制ではなく、多極体制が出てきた、という二つの事態に対応して出てきた、

オバマもパネッタも認めないだろうが、今回の国防戦略指針は、米国の後退への最初の動きであり、そうした中で、米国は、優位性の追求からオフショア・バランス追求へとその戦略を転換すべきだ。つまり、米国の海外プレゼンスを縮小し、欧州やアジアにおける安全保障維持の責任をもっと地域諸国に委ねるようにすべきだ、

オフショア・バランス論の戦略原則は:@欧州、中東の兵力を縮小し、東アジアに軍事力を集中する、A陸軍より海空軍重視、B負担の共有ではなく、負担の移転、C中東から米国の後退はテロの脅威の減少につながると同時に、湾岸の石油の自由航行は海空軍が確保する、Dイラクやアフガニスタンにおけるような国家建設はしない、であり、その内のいくつかは国防戦略指針に反映されている、

しかし国防戦略指針では、米国の経済的衰退が米国の戦略的姿勢を制約することを認める考えと、米国のグローバルな軍事的役割は減らされるべきではないとの考えがせめぎ合っている。また米国の衰退という現実を受け入れたくない人々もいる、

しかし、米国も、強国の衰退というパターンから除外されているわけではなく、中国が最大の経済大国となり、どの国よりも軍事費が多くなる2025年の世界に適合していく必要がある。今後20年の米国の中心テーマは、自らの衰退と中国の台頭になるだろう、と言っています。


この論説は、米国が経済的に衰退していくのに対し、中国はどんどん台頭してくる、米国はその現実を良く見て対応すべきであり、それにはオフショア・バランスをとるしかない、とする米国衰退論です。

しかし、米国の力は第2次大戦に勝利した頃や、冷戦に勝利した頃に比べれば確かに落ちていますが、中国に力で凌駕されるような時代はなかなか来ないのではないかと思われます。例えば、米国には多くの同盟国があるのに対し、中国には北朝鮮しかいなく、この違いだけを考えても、米国とその同盟諸国が政治・軍事的に中国に凌駕されることは当面あり得ないでしょう。

また、経済についても、日米欧はそれぞれ大きな問題を抱えていますが、中国も順風満帆とはとても言えない状況です。今後、人口は減少してくるし、貧富の格差や腐敗など社会的な不公正の問題も深刻になりつつあります。イノベーションも盛んとは言えません。日米欧の下請けとして経済が順調なのであり、日米欧が中間財の輸出を止めれば、中国の成長は止まるでしょう。

レインの説は米国の力を過小評価し、中国の将来の力を過大評価している嫌いがあります。ただこういう論が米国内でかなりあるということは注意しておくべきでしょう。

なお、レインは同盟諸国により多くの負担を移すべきだと言っていますが、これについては、米国内でコンセンサスがあるように思われます。日本としては、米国からそういう要求が出てくることを予想しておくべきでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 18:15 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジアには海空軍、中東には陸軍が必要 [2012年01月26日(Thu)]
National Interestのウェブサイト1月26日付で、米Center for a New American SecurityのDavid W. Barnoらが、国防予算の削減はやむを得ないとしても、見直しのチャンスはまだある、実際、東アジアでは海空軍の展開が必要だろうが、アフガニスタンを含む大中東圏では地上兵力がまだ必要だ、と言っています。

すなわち、国防費削減について民主共和両党が合意出来ず、強制的予算削減が自動的に執行されることになると、今後10年間の国防費削減額は、予定されていた4870億ドルから、$9500億ドルに増大する。現行の国防省の国防計画は、前者に基づくものであって、後者は実行不可能であり、議会は自動的な強制的予算削減の実施を避けるべきだ、

他方、議会が予算の削減幅について論じている間、国防専門家はその実施の仕方を検討しなければならない。大中東圏では、陸軍と空軍が必要であり、アジアでは主として海空軍が必要とされる。海兵隊は両方に必要だ。予算が減る中で、実態を反映した軍の編成・配備が必要だ、と論じています。


論説が言っていることは、二つに要約されるでしょう。一つは、自動的な強制的予算削減は非現実的で、国防当局としてとうてい実施出来るものではなく、議会がなんとかすべきだということ、もう一つは、現行の国防計画では、米国は大中東圏から手を引き、国防態勢の削減も専ら陸軍中心となると考えられるが、大中東圏の任務はなくなっておらず、陸軍の削減もほどほどにすべきだと言うことです。

いずれも軍事専門家としての立場を考えれば、理解出来る論点です。軍当局として、10年間努力して来たイラク、アフガニスタンを全部放棄することは耐えがたく、また、一方的に陸軍に予算削減のしわ寄せが来ることも受け入れ難いでしょう。

強制的自動予算削減がそのまま実施されるとは、誰も考えていないでしょうが、どうなるかは選挙年の米国の政治いかんであり、誰にも予想できないし、議論も出来ない状況です。

一番早いチャンスは、大統領予備選が終わり、候補が確定されて、今度は本選で中道の票獲得が目標になった頃に、議会でも超党派合意が出来る可能性が生じて来た場合です。その時は、共和党が増税を受け入れ、民主党は社会保障費の一部削減を受け入れれば、妥協の可能性はあります。いずれにしても、部外者のわれわれとしては、米国という国が過去に何度も示した回復力の発揮に期待するしかありません。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:59 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米軍備近代化の遅れ [2012年01月24日(Tue)]
ウォールストリート・ジャーナル1月24日付で、米AEIのMackenzie Eaglenが、1990年代に大幅に削減された米国の国防予算は、9.11以降は増額に転じたものの、専らテロ対策に使われ、兵器の近代化は遅れた、その上に今回の国防費削減が実施されると、米軍の兵器体系は老朽化してしまう、と言っています。

すなわち、ソ連邦崩壊以来アメリカの軍事予算は1990年代を通じて大幅にカットされていたが、9.11以降、アフガン及びイラク戦費が増額された。しかし、その増額は、将来へ向けての尖端技術には投資されず、従来技術の改良版にばかり投入された。また兵器の数も減ってきている、

例えば、空軍は当初、F-22を750機希望したが、それは、648、438、339、270と漸減され、遂に187機となってしまった。ヴァージニア級の攻撃潜水艦は、元々、より優れたSeawolf-classの潜水艦の代替だったが、従来の半分しか予算が手当てされていない、と指摘し、

今回の国防予算削減は、「米国の戦闘員に最善の武器を持たせる」という国家の義務を放棄するものだ、と論じています。


米軍事費削減の経緯とそれに対する危惧は、当然と思われます。1991年の冷戦終了後、米国防予算は漸減し、冷戦末期GDPの6%だったのが、2%にまで落ち込みました。そのため軍の士気の低下が著しく、ブッシュ政権では、9.11の前から軍備費増額が論じられていました。ところが、9.11以降は「新しい戦争」論がブームとなり、予算増は対テロ作戦に注入され、通常兵器の近代化は滞ってしまいました。ところが今度は、米国がイラク、アフガン戦争から手を引き、東アジアの中国の脅威に備えなければならない状況になった時に、米国の経済が停滞し、予算削減の時代となりました。

要するに、中国の軍事力増強を前にして、米国は10年間を空費し、その上に、先行きの見通しも立たないのが現状と言えます。

その結果は目に見えています。例えば、東シナ海における日中の軍事バランスは、90年代初めは、自衛隊200機のF-15に対して中国の第四世代機はゼロに近かかったのが、現在は400機近くになろうとしています。その間、日本が第五世代機F-22を導入していれば、今なお優勢を保てたはずです。日本が遅ればせながらF-35導入を決めたことを、米国の軍事専門家が挙って歓迎しているのは、それによるバランスの回復を期待しているからです。

たしかに、中国の軍備力増強の脅威は、まだ20世紀初頭のドイツの軍事力増強ほどのテンポではないようで、米国が現在の経済停滞を脱して、新たな軍拡を行うのを待っても間に合うかもしれません。つまりF-35の配備まで待てるということです。ただ、その間、日本としては、不測の事態に備えて防衛に万全を期すべきでしょう。それには集団的自衛権の行使を含む、日米防衛態勢全体の強化を必要とします。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:42 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米企業の海外移転と米国の雇用問題 [2012年01月23日(Mon)]
インターナショナル・ヘラルド・トリビューン1月23日付で、NYTの記者、Charles DuhiggとKeith Bradsherが、アップル社のアイフォンを例にとりながら、最先端企業がなぜ生産拠点を米国から中国に移し、その結果、米国の雇用が増えないかを解説しています。

すなわち、昨年アップル社はアイフォン7000万台、アイパッド3000万台、その他の製品5900万台を販売したが、そのほとんどは米国外で生産された。アップル社と契約を結んでこれらの製品を作っている会社で働く従業員は70万人いるが、米国で働いている者はほとんどいない、

2007年頃、アップル社は全く新しい携帯電話を作ることを計画、傷のつかないガラス製のスクリーンなど、最高品質の部品を早く、安く、大量に生産する必要があったが、それができたのは米国ではなく、中国だった。訪中したアップル社の幹部に、中国の工場主は、広大な敷地、多数のガラスのサンプル、多数のエンジニア、従業員用の寮が用意されており、サプライ・チェーンも万端で必要な部品は何でも手に入ると告げ、新しい携帯電話の生産は中国で行われることになった、

技術系企業にとっては、部品調達や、何百もの企業が製造した部品やサービスをまとめるサプライ・チェーンを管理するコストに比べれば、労働コストは取るに足らない、

また、中国で操業する場合のもう一つ重要な利点は、米国では考えられないような数のエンジニアが提供されることだ。アップル社は、アイフォンの組み立てに必要な20万人の組立工を監督、指導するエンジニアが8,700人ほど必要と考えたが、米国でそれだけの数のエンジニアを調達するには9か月かかると試算された。ところが、中国ではわずか15日で集めることができた、

台湾のFaxconn Technology社の例も見てみよう。アマゾン、デル、ヒューレット・パッカード、モトローラ、任天堂、ノキア、サムスン、ソニーなどの下請けとして、世界の40%の家庭用電化・電子製品の組み立てを行っている同社は、中国にFaxconn Cityという工場群を持っており、従業員が23万人いる。その多くは週6日労働で、日に12時間働く者もおり、4分の1以上は会社の寮に住んでいる。また、必要なら、1日で3千人を新たに雇えるという。こんな場所は米国にはない、と指摘し、

過去10年、太陽光、風力発電、半導体、ディスプレイといった技術の多くは米国で生まれたが、多くの企業が主要工場を米国から中国に移し、雇用の多くは外国で発生した、と言っています。


記事は、アップル社がアイフォン等の中国で生産するのは、労働コストが低いためではなく、必要な多数の中堅エンジニアや半熟練工を容易に入手でき、サプライ・チェーンも完備しているためで、これらは米国では求められず、その結果、米国の雇用が失われている、と言っています。
 
企業が必要とする技能労働者の不足は十分認識されており、オバマ大統領は先般の一般教書演説で、雇用増進のために技能教育や職業訓練を充実させると述べています。

しかしこの記事によれば、米企業の移転理由は技能労働者の不足だけではなく、多数の従業員が週6日、時には1日12時間働き、多くが会社の寮に住むという厳しい労働環境という要因があります。これは途上国でのみ可能な環境と思われ、そうであるなら、米国の技能教育が充実しても、アップルのような企業の中国移転を防ぐのは難しいでしょう。こうした厳しい労働環境が中国でもいつまで可能かという問題はありますが、少なくとも当分は続くでしょう。

つまり、企業の海外移転の主たる理由は構造的なものなので、そのために発生する米国の雇用の減少に歯止めをかけるのは難しく、雇用の増大は他の分野、他の手段で講じられるべきなのでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:38 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国経済の大停滞 その3 [2012年01月16日(Mon)]
コーエンはさらに、米国が金融危機を招いた真の原因は、今の米国は「容易に収穫できる果実」に乏しく、国民、特に中流階級の生活水準が本当はそれほど上がっていないのに、実際よりもっと豊かだと考えて自信過剰となり、リスクを取りすぎたためだ、と言っています。

すなわち、金融危機を招いた原因は、われわれが、意識的であるか否かを問わず、3%以上の生産性の上昇があり、それに伴う資産価値があるという前提の上に計画を立ててきたからだ。実際は3%よりはるかに低いのに、3%を前提とした計画を立てれば、早晩危機が訪れる、

ではなぜこんな過ちを犯したのか。1980年代初頭以来、レーガン革命による米国経済の再生、ソ連の崩壊と東欧諸国の民主化、その多くの国のEU参加、中国とインドの経済発展、ラ米諸国の民主化など、米国と世界経済にとって良いことが数多く起こった。そのため、この間、重要な新技術が開発されなかったにもかかわらず、自分たちの強さは不動のものと考えてしまったからだ、

実は、この間も、1980年代初めの貯蓄投資危機、1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行の破産、1987年のブラック・マンデー、1980年代末の不動産バブルの崩壊、1994年のメキシコ金融危機、1997-98年のアジア金融危機、1998年のLong-Term Capital Management倒産、2001年のITバブルの崩壊等、悪い出来事もあったが、結果は全体としてそれほど悲劇的ではなく、管理可能だったために、安心してしまい、最後に本当の危機を迎えてしまったのだ、

つまり、危機の本当の原因は、個々の政策の誤りや、サブプライム・ローンではなく、投資家がリスクを取りすぎたことにある。サブプライム・ローン市場も、投機の対象となった絵画の市場も、崩壊した原因は自信過剰にあった、

自信過剰は、レベレッジ(資本に対する貸し出しの比率)が高いときにはさらに大きな問題になる。銀行への打撃が大きかった理由はまさにそれだ。

ところが、ほとんどの国の政府は、不動産や資産価格の上昇に満足してしまった。米国政府などは、本来、巨額の負債を認め、住宅バブルにブレーキをかけるべきだったのに、こうした流れを助長すらした。所得の中央値が伸び悩んでいるとき、手っ取り早く消費を増やすには、負債を増やすか、資産価値を増やせばよく、そうすれば、短期的には生活水準は上がり、人々はより豊かに感じる。これは、時間軸がせいぜい2、4、6年の多くの政治家にとっても好都合だった、

その結果、1993-1997年にはGDPの2.5%〜3.8%だった米国の住宅価格の値上がり額は、2005年にはGDPの11.5%になった。米国の住宅は、政治的に祝福されてわれわれの新しいATMとなったのだ。ただ、それを支える真の富は存在していなかった、

危機脱出は容易ではない。われわれの困難の根源は、収入を創り出す「容易に収穫できる果実」が乏しいことにある。そして、膨れ上がった住宅価格や株価を基に多くの計画を立ててきたわれわれは、実際は自分たちは思っていたより貧しい、という考えにまだ完全には慣れていない、と言っています。


金融危機が起きた原因をずばり説明しています。金融危機がなぜ起きたかについては、サブプライム・ローン、金融機関による過剰レベレッジ、規制・監視の不十分さ等々、これまで様々な分析がされてきましたが、コーエンは、それらの根底に、米国の生産性が低く、本当の豊かさをもたらす「容易に収穫できる果実」がないのに実際より豊かだと考え、自信過剰となってリスクを取りすぎたことがあると言っているわけです。従来の説明がいわば戦術的なものであるのに対し、コーエン説明は戦略的な説明だと言ってもよいでしょう。

問題の本質に鋭くメスを入れた感があります。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:28 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国経済の大停滞 その2 [2012年01月16日(Mon)]
また、コーエンは、「容易に収穫できる果実」があれば、政府は国民に物質的な恩恵を十分提供し、国民をより幸せにできるが、今はそれがないので、政府の財政事情は苦しく、医療保険、社会保険の給付に四苦八苦している、と言っています。

すなわち、所得が年実質2〜3%増えれば、政治はうまくいくだろうが、実際はそうした所得増はない。ところが、過去40年間、ほとんどの米国人は、政府が提供できるもの以上を期待してきた、

これは、過去何百年間、「容易に収穫できる果実」の恩恵を蒙ってきたため、より良い生活への期待が、米国人の歴史と国民性の一部になってしまっているからだ。そのため、実質所得が年1%しか伸びないと、米国人はイライラし、制度が悪い、あるいは政治家は何をしているのか、と非難する、

こうした政治環境の中で、右派への支持が高まっている。右派は減税が所得増の即効薬と考えており、近視眼的な有権者は、歳出削減を伴わない減税に飛びつく。しかし、減税をすれば、一次的に実質所得は増えるが、政府債務は膨れ上がり、いずれはツケを払わなければならない。また、政治家も、こうした歳出削減を伴わない減税が機能するはずはないのに、競ってそうした政策を打ち出す。

他方、左派は、所得の再分配を強く求める。富裕層の所得を貧困層に与えれば、確かに一時的に貧困層の所得は増えるが、いずれ富裕層に対する課税強化の効果は逓減する。すでに米国の所得上位5%の層が所得税の43%以上を払っている。景気刺激策、健康保険法など、オバマ政権の多くの改革も、資源を高所得層から低所得層に再分配するものだ、

その結果、政治論争は減税対再分配の形で進んでいるが、両者はもはや相手の主張に耳を貸そうとしない。誠実な中道派はどこに行ってしまったのか。「容易に収穫できる果実」はもはや無く、実質所得は緩やかにしか伸びず、現在のペースで借金を続けることはできないなどと言えば、先ず選挙で勝てない、

そこで、嘘と誇張によってしか、有権者に実際よりはるかに高い実質所得の伸びを約束できなくなった米国の政治は、嘘と誇張で満ちるようになってしまった。今や選択肢は「減税の誇張」か「再分配の誇張」だ、と言っています。


現在の米国の政治状況を的確に説明しています。つまり、技術革新が停滞し、実質所得が伸び悩んでいて、政治は多くを国民に約束できないのに約束せざるを得ない、つまり、政治家は有権者に支持されるためには、出来ないことも出来ると言わざるを得ない。その結果、現状は「減税効果の誇張」対「所得再分配の効果の誇張」の構図になっているというわけです。その背景には、よりよい生活への期待が国民性の一部となってしまっており、生活水準が改善しない、あるいはわずかした改善しないことは米国人には受け入れ難いという事情があるということです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:27 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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