「ベ平連」(「ベトナムに平和を! 市民連合」)という言葉が忘れ去られてどのくらいの年月がたつのだろうか。覚えているのは多分50歳台以上の人たちで、40歳台はもう危ない。しかし「ベトナム戦争」という歴史は風化させてはならないと思う。
ある人が言った。「私たちが知っているアメリカという国が私たちの知っている通りの国だったら、ブッシュは再選されなかっただろう。」でもブッシュは再選された。そこには少なくとも僕の知らないアメリカという国がある。
ヴィム・ヴェンダース監督の『ランド・オブ・プレンティ』という映画は「ベトナム戦争」という封印された悪夢を、「9.11」という悪夢で解放された男と、アフリカとイスラエルで育った少女が見るアメリカの物語だ。ここにも僕の知らないアメリカという国が映し出されていた。
ベトナム戦争の後遺症に苦しむ男は必死で母国防衛の戦いを続ける。10年ぶりに祖国アメリカに降り立った少女はホームレスの支援活動を行う。二人の関係は「叔父」と「姪」だが、まったく異なる活動の接点で殺人事件が発生した。男は国際テロの阻止を目的に、少女は遺体を届けることを目的に、二人で「トロナ」という被害者の兄の住む町に向かう。二人の間に感情の交流はない。ただ、目的に沿った二人の旅は結果的に自分探しという旅に向かう。二人はアメリカを変えてしまったニューヨークのあの場所に向かう。
映画タイトルはレナード・コーエンの名曲「THE LANDO OF PLENTY」からつけられた。その歌詞にはこう歌われている。
僕が立っていなければいけないところに
立つ勇気がない
救いの手を差し伸べる気質も
持ち合わせていない
誰が僕をここに遣わしたのか分からない
声を上げて祈るようにー
この豊かな国の光がいつの日か
真実を照らしだすように
映画は二人の静かな決意に満ちた表情で終わる。
平和について考えたい。