デイヴィッド・ハンドラー『ブルー・ブラッド』(講談社文庫)
[2009年07月02日(Thu)]
気鋭の映画評論家は愛妻に先立たれ、ある種引きこもり状態で鬱々と仕事をこなしている。先鋭的だった批評眼も少々怪しくなっている。
転地療養も兼ねて片田舎でのレポート記事の仕事をこなすことになるが、どうも招かれざる客のような待遇を受ける。
一方、ドレッドヘアーで野良猫保護の活動家でもある女性警部補は、所轄内でも注目を浴びるマイノリティーの星でもある。
ハンドラーの前シリーズのゴーストライターはキャット・フードが大好物というゴールデン・レトリバーのルルを飼っていたが、このシリーズは猫がいい場面で登場する。今回は出番はあまりなかったが、野良猫の大ボスが次回以降にどう活躍するのかにも興味津々である。
最初の被害者はシングルマザーのウエイトレスだが、何故?何の為に殺害されたのか皆目わからないのだが、どこに伏線があるのかも手がかりがない。
太っちょでちょっと中年の批評家は家庭菜園づくりを始めるが、ここで死体を発見するのはお約束。
行方不明のはずの被害者が他殺死体で発見されたのはまちがいなく現代の事件なのだが、それは30年前の忌まわしい事件の亡霊を呼び起こしてしまった。
殺人事件にコミュニティーの住人ほとんどが何らかの関わりを持つという構図は、決して新しくは無いが結構新鮮でもある。
殺人を追いかける警部補は異能の画家でもあり捜査を展開していく過程でその隠れた才能は、世捨て人的生活を行う批評家を引き付けてしまう。
30年前の事件の真相は?新たな事件の犯人は?人知れず殺されたウエイトレスの事件はどこかで結びつくのか?3つの謎がシンクロしながら絡み合っていく。