
都市農山漁村交流活性化機構は、農山漁村への旅行(グリーン・ツーリズム)を促進するために、2002(平成14)年度に、「ふるさと体験ルート開発・提供事業」に取り組みました。
約20年前の話になります。
グリーン・ツーリズムを提供する地域も情報収集方法もネット環境の進化により、大きく変わりましたが、体験し滞在し、人と交流するという目的は、今も変わりありません。
さらに旅を楽しむという観点からは、目的地だけを目指すのではなく、往復の道行で、ちょっと寄り道をする、周遊するということで、知らなかった場所の景観や食事、文化風習に触れるきっかけとなるものです。
有名な観光地の周辺のグリーン・ツーリズムやエコツーリズムを楽しんで見るということでもいいし、予定を変更して、道の駅や温泉に寄るなど、計画を少し外れると不確定性を楽しんでみるみるということも刺激的かもしれません。
◆グリーン・ツーリズムのルート情報を開発
農山漁村体験や農村生活等の情報を活用して、都市生活者のグリーン・ツーリズムを手軽に楽しんでいただくために、ふるさと体験ルートを開発提供する事業を実施
ふるさと体験ルートの開発にあたっては、都市生活者のそれぞれの利用ニーズに即した、きめ細やかな情報提供をするために、「青少年(小中学生)対象」「ファミリー層(未就学児がいる家族)対象」「熟年者層」の3つのテーマで開発
そして、そのテーマにそれぞれのターゲット層が求める情報、行動パターンに最適な情報を収集加工したうえで、広域的な体験ルートを提供することにした。
そのための農林漁業体験等の広域マップやガイド等の情報を収集した。
広域観光協議会、グリーン・ツーリズム関係機関等が広報している資料等を幅広く収集するために、関係機関からの積極的な情報提供をお願いした。
◆体験ルートを開発しガイドを発行
ルートの開発は、次のような情報を基に、各界の専門家になる委員会等の検討を踏まえて展開した。
(1)青少年層(小中学生を中心に)を対象とした「子どもが楽しめる農村体験」の場合は、子供向けの農林漁業体験施設、牧場、野鳥やホタルなどの生き物と出会える場所などの情報を基に編集
(2)ファミリー層を対象とした「グリーンな旅、家族で楽しむふるさと体験ツアー」の場合は、家族で楽しめる農林漁業体験、自然体験、農村生活体験等のツアー情報等の中心に編集
(3)熟年者層を対象とした「美しいニッポン ゆったり・のんびり農村体験」の場合は、温泉、棚田、茅葺民家などの農村景観、祭り等の情報を加工編集した。
上記3つのテーマごとに、広域的な体験モデルとなるような情報を地図上に展開するなどの見やすい・利用しやすい編集を行い「おすすめ・ふるさと体験ルート100」としてガイドブックを発行し農林漁業体験等を中心とした交流への手引きとして農山漁村にも還元した。
さらに、マスコミ、旅行会社等に向けてグリーン・ツーリズムの普及に向けてアピールした。
◆5地区モニター調査も実施
また、広域的な体験ルートの情報を提供いただいた地区の中から5箇所抽出しモニター調査を実施した。モニター調査は、当機構に設置された「ふるさと体験ルート開発委員会」委員及び都市生活者モニターによって、実際に現地を訪問し各農林漁業体験施設を体験し体験ルート開発の参考にするためのもの。
◆ふるさと体験ルート開発委員会
構成は、大手旅行会社から3名、総合シンクタンクと大学の研究者から各1名、ミニFM局の市民パーソナリティ1名、旅行関係出版社のライター兼編集者1名、グリーン・ツーリズムを推進する市町村行政担当課長1名、IT系の公益法人研究者1名の合計9名
「ふると体験ルートガイド」を平成15(2003)年3月に発行しました。
当時巻頭には、以下のように挨拶しています。
【発刊にあたって】
都市生活者では、心の豊かさ、ゆとりある生活に重きをおきたいという人は、88.8%に達し、物質的な面での生活を豊かにすることに重きをおきたいを大きく引き離しています。
では、心の豊かさは、何をすることで叶えているのでしょうか。
20代から60代の男女に、今一番何にお金を使いたいかという支出分野を探った結果、20代を除く全ての年代の男女が「旅行」を第一位にあげています。
特に女性では、20代47.6%、30代51.2%、40代45.2%、50代48.1%、60代52.0%と全ての年代に渡って大変強い関心をもっています。
男性は、年代を経るにつれ旅行の関心度合いが高まり、60代で47.3%のピークを迎えます。多くの人々は、旅行をすることによって、心の豊かさを実現しようとしているといっても過言ではありません。
しかし、従来型の旅行は曲がり角に来ているといわれ、新たな観光スタイル、資源を求める時代に突入しています。そうした動向の背景として、自然の美しさやスローライフ、スローフードが楽しめる地域、のんびりできる場所として、田舎や自然環境、景観の優れた農山漁村への旅行に年々関心を高めています。
おいしいものを食べたいという欲求は、郷土色溢れた料理や地域の食材を活用した安全・安心な食べ物を提供する農家レストランに形を変え、これまでにない農的な要素を取り入れた旅が求められはじめました。
グリーン・ツーリズムは欧州の先進国で発生した旅の形態ですが、いよいよ日本も本格的なグリーン・ツーリズム、農的な体験を可能とした旅が脚光を浴びる時がやってきたといえるでしょう。
そこで当機構は、全国の農山漁村に伝わる伝統的な文化や農林漁業などの体験を中心としたふるさとを「体験・探検」する旅を「ふるさと体験ルート」と名づけ、全国の農山漁村市町村を対象に調査しました。
そして、全国から提供された情報を元に、これまでとは一味も二味も異なった農村ライフを体験・探検できる旅の参考としていただくために、識者からなるふるさと体験ルート開発委員会を設けて、シニア(熟年者向け)層、ファミリー(家族向け)層、ジュニア(青少年向け)層に併せたふるさとを体験する旅を検討して、ふるさと体験ルート・ガイドを発行することにしました。
地域の魅力を体験する新たな旅のために、また緑豊かな農山漁村に出かけるきっかけとして本書をご利用いただければ幸いです。
本ガイドブックの構成
本ガイドブックは、4つのパートで、おすすめのふるさと体験ルートを紹介しました。
(1)「ふるさと体験ルート・モデルコース」
全国のふるさと体験の中から「青少年」「ファミリー」「シニア」それぞれのライフスタイルにあわせた楽しい農村の旅のモデルとなるような地域を詳細に紹介
このふるさと体験ルート・モデル地区は、機構内に設置した委員会で選定・調査をしました。
応募地区の取組み姿勢、農林漁業体験の内容(ユニーク性、バラエティ性、充実度等)、地域バランス等を総合的に判断して、青少年層1地区、ファミリー層2地区、熟年層2地区の割合で5地区を選定しました。
そして、委員による現地調査を実施して、ふるさと体験ルートのモデルとして、さまざまな体験内容や地域文化資源を視察して、レポートを作成したものです。

(2)「ふるさと体験ルートマップ」
都道府県単位に、3つのライフステージで楽しめる各種ふるさと体験のできる場所をマップ化しました。本ガイドで紹介している「おすすめ・100コース」の位置や当機構の「ふるさと情報DB」から各種農林漁業体験施設等の所在箇所を地図上に展開しました。
(3)「ふるさと体験ルート・おすすめ100選」
全国各地には、地域の文化や資源を活用した魅力的なふるさと体験が可能な地域が沢山ありますが、その中からふるさと体験ルート調査へ情報提供した地区の情報を編集して、約100のコースを紹介した。
わが日本のグリーン・ツーリズムを楽しむ旅のおすすめの100選
「青少年向け(ジュニア)」」「ファミリー向(家族)」「シニア向け(熟年者)」のマークをつけました。
ふるさと体験ルート開発情報調査で回収したデータ「おすすめのふるさと体験ルート」「季節のおすすめ体験プログラム」「農林漁業および自然体験ツアー」や当機構の「ふるさと情報DB」のデータを活用して編集しました。
(4)「ふるさと体験総索引」
本ガイドブックで紹介した農林漁業体験施設、プログラム等の索引
※本ガイドブックの情報は、平成15年3月時点のデータを基に編集

ふるさと体験ルート・モデルコースの概要
◎秋田県・西木村(熟年者層)
地域案内人による「かたくり群生の里」散策、地元の農家で組織・運営の物産館の昼食、農家との会話が好評、炭焼き体験と風鈴づくり、野菜がごちそうの夕食、住職の指導のもと座禅体験など。インストラクターの育成に積極的に取り組んでいる。
◎山梨県・上野原町(青少年層)
林業体験では先進的。東京至近のわりに、まだ知名度は低いが、教育的な体験、森林とのふれあいなど、単なる遊びを超えた地域とのふれあいが楽しい。これからの環境保全活動を主体としたふるさと体験の好モデル
◎石川県・能都町(ファミリー層)
地域の人々が自ら企画し実行運営することを目指している。「春蘭の里」は民宿を中心に活動し、春夏秋冬の農村の生活そのままがまるごと体験できる素朴さが貴重
◎広島県・やまなみ大学(熟年者層)
5つのキャンパス33市町村が参加して「やまなみ大学」という仕組みを発足させたユニークな取り組み。中国山地の伝統文化、農的体験など四季折々、地域ごとの多様なプログラムが用意されていた。(特定非営利活動法人やまなみ大学地域自立支援センターは、令和2年8月19日に解散しました。)
◎宮崎県・綾町(ファミリー層)
自然生態系を守りながら農業振興に目覚しい地域。循環型社会の一つのモデルとして有名であり、スローフード、スローライフの一つの姿が見られる地域である。
これまでの旅行は、目的地に如何に早く、安く到着するか、その効率性が重要視されてきました。旅行の楽しさは、目的地へ行く過程を楽しんだり、自家用車の普及により、目的地への経路を、その時々の状況や心持でよって、道の駅や農産物直売所、廃校活用した体験施設に寄り道して当初の予定にない体験を楽しむ機会も増えてきました。
農山漁村地域に到着してから、地元の人に勧められて、思わぬ絶景を見に行ったり、地域に伝わる伝統文化や伝統的な食事を見るだけでなく、一緒に作ったり体験したりと思わぬ旅の思い出につながります。
約20年前には、グリーン・ツーリズムに取り組む地域も限られていましたが、今は農山漁村地域では、何らかの形で、農林水産業に根差した、地域の個性として地域の人によるグリーン・ツーリズムの体験が提供されています。まだあまり知られていないグリーン・ツーリズムを探していく、そんな旅も楽しいかもしれません。
(一財)都市農山漁村交流活性化機構
コミュニティビジネス事務局
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