我が国の農業・農村政策を理解するには、白書が一番便利です。令和6年5月31日に公表された令和5年度 食料・農業・農村白書のうち、中山間地域振興対策に関係が深い第4章「農村の振興」をクローズアップして見ていきます。
第4章「農村の振興」
第1節 農村⼈⼝の動向と地⽅への移住の促進
(1) 農村⼈⼝の動向
(農村における⼈⼝減少と⾼齢化が進⾏)
(特に中⼭間地域での⼈⼝減少と⾼齢化が顕著)
(農村では製造業や医療・福祉等の多様な産業が展開)
(2) 農業集落の動向
(農業集落の⼩規模化や混住化が進⾏)
(⾼齢化が進む農業集落では⽣活の利便性が低い傾向)
(農村⼈⼝の減少により営農継続が困難となるリスクが拡⼤)
(農業集落の⾃⽴的な発展を⽬指す取組が各地で展開) ★
(3) 移住の促進
(農村への関⼼の⾼まりを背景として、地⽅移住の相談件数は増加傾向)
(事例) 島の⽇常の魅⼒を発信し、地域活性化や移住促進の取組を展開(⿅児島県)
(サテライトオフィスの開設数は拡⼤傾向で推移)
(事例) 「にぎやかな過疎の町」の実現に向け、サテライトオフィスを誘致(徳島県)
(農泊に取り組む地域におけるワーケーション需要への対応を推進)
(デジタル⽥園都市国家構想総合戦略に基づき⼈の流れを創出)
(新たな「国⼟形成計画(全国計画)」を策定)
第2節では、農泊に注目した。
令和6(2024)年3⽉末までに全国で656の農泊地域を創出している。
農泊は、古⺠家・ジビエ・棚⽥といった農⼭漁村ならではの地域資源を活⽤した様々な観光コンテンツを提供することにより、農⼭漁村への⻑時間の滞在と消費を促すことにより、農⼭漁村における「しごと」を作り出し、持続的な収益を確保して地域に雇⽤を⽣み出すとともに、農⼭漁村への移住・定住も⾒据えた関係⼈⼝の創出の⼊⼝とすることに狙いがあるとしている。
第2節 農村における所得と雇用機会の確保
(1) 農⼭漁村発イノベーションの推進
(6次産業化の取組を発展させた農⼭漁村発イノベーションを推進)
(農⼭漁村の活性化に向けた起業を⽀援)
(事例) 農⼭漁村発イノベーションの取組により、多様な事業を展開(岡⼭県)
(農⼭漁村の活性化に向けた起業を⽀援)
(6次産業化による農業⽣産関連事業の年間総販売⾦額は2兆1,765億円)
(農村への産業の⽴地・導⼊を促進)
(地域の稼ぐ⼒の向上を促進)
(コラム) 農村地域の産品を売り込む地域商社の取組が拡⼤
(2) 農泊の推進 ★
(農⼭漁村の所得向上と関係⼈⼝の創出を図る農泊を推進)
(農泊地域の延べ宿泊者数はコロナ禍以前を上回る⽔準)
(事例) 「⾈屋」の活⽤や「泊⾷分離」のビジネスモデル確⽴で農泊を推進(京都府)
(農泊推進実⾏計画を策定)
(3) 農福連携の推進
(農福連携等応援コンソーシアムによる全国展開に向けた普及・啓発を推進
(初めての試みとしてノウフクウィークの取組を実施)
(多世代・多属性の利⽤者が交流・参画するユニバーサル農園の整備・利⽤を推進)
第3節では、農村に⼈が住み続けるための条件整備としての農村RMOに注目した。
農林⽔産省では、令和8(2026)年度までに農村RMOを100地区で形成する⽬標に向けて、農村RMOを⽬指す団体等が⾏う農⽤地の保全、地域資源の活⽤、⽣活⽀援に係る将来ビジョンの策定、これらに基づく調査、計画作成、実証事業等の取組に対して⽀援を⾏うこととしている。
第3節 農村に⼈が住み続けるための条件整備
(1) 地域コミュニティ機能の維持・強化
(集落機能を補完する農村RMOの形成が重要)
(事例) 農村RMOを主体として地域の活性化に向けた活動を展開(岡⼭県)
(農村地域における交通・教育・医療・福祉等の充実を推進)
(2) ⽣活インフラ等の確保
(農業・農村における情報通信環境の整備を推進)
(標準耐⽤年数を超過した農業集落排⽔施設は全体の約8割)
(農道の適切な保全対策を推進)
第4節では、農林⽔産省は、農村関係⼈⼝を増加させるため、従来の都市と農村の交流に加え、⾷を始めとする農業や農村が有する様々な資源を活⽤して、⼆地域居住や農泊等を推進することとしている。また地域おこし協力隊や半農半Xなどが農村を支えている現状を取り上げている。
第4節 農村を⽀える新たな動きや活⼒の創出
(1) 都市と農⼭漁村の交流の推進
(農村地域との関わりを持っている⼈は約6割)
(農村関係⼈⼝の裾野拡⼤に向けては複線型アプローチが必要)
(コラム) NFT を活⽤し、「デジタル村⺠」として地域との交流を深める取組が始動
(⼦どもの農⼭漁村交流プロジェクトを推進)
(事例) 農業体験を中⼼とした⼦供農村交流体験活動を推進(滋賀県)
(2) 多様な⼈材の活躍による地域課題の解決
(「半農半X」の取組が広がり)
(特定地域づくり事業協同組合の認定数は着実に増加)
(地域おこし協⼒隊の隊員数は前年度に⽐べ増加)
(3) 地域を⽀える体制・⼈材づくり
(地⽅公共団体における農林⽔産部⾨の職員数は減少傾向で推移)
(「農村プロデューサー」の養成が本格化)
(4) 農村の魅⼒の発信
(棚⽥地域振興法に基づく指定棚⽥地域は727に拡⼤)
(世界農業遺産に新たに2地域が認定)
(世界かんがい施設遺産に新たに4施設が登録)
(熊本県⼭都町の通潤橋が農業施設として初めて国宝に指定)
(「ディスカバー農⼭漁村の宝」に27団体と2⼈を選定)
第5節 多面的機能の発揮と末端農業インフラの保全管理
(1) 多⾯的機能の発揮の促進
(農業・農村には多⾯的機能が存在)
(多⾯的機能⽀払制度の認定農⽤地は前年度に⽐べ増加)
(地域資源の保全管理への参加者が減少)
(2) 末端農業インフラの保全管理
(末端農業インフラの保全管理が課題)
(共同活動への⾮農業者・⾮農業団体の参画や作業の省⼒化を推進)
(事例) NPO法⼈と協働し地域資源の適切な保全管理を推進(新潟県)
第6節では、事例として紹介されている富⼭県⽴⼭町釜ヶ渕地区の取り組み注目した。
整備済の優良農地を集積するとともに、新規就農者の受⼊れや⽀援体制等を構築し、管理負担の⼤きい荒廃農地を粗放的に利⽤することにより、地域の活性化を図っている。
農地所有者の⾼齢化に伴う荒廃化が懸念や⼭際の農地でのイノシシやサル等による獣害の対策に苦慮等に対して、地域ぐるみの話合いにより、農地を「⽣産性向上エリア」と「粗放的管理エリア」に区分けした地域の将来像を作成して、⽣産性向上エリアでは、条件の良い農地を新規就農者や担い⼿に集積や農地の集約化が進め、粗放的管理エリアでは、牧場やゲストハウスの経営を⾏う農業者や地域おこし協⼒隊等の移住者により、⾺等の放牧や養蜂の利⽤、カモミール等の省⼒作物の作付けといった粗放的利⽤のための取組が進められていると。取組の結果、荒廃農地の発⽣が防⽌されたほか、地域の活性化に向けた機運が⾼まり、農泊の実証や各種交流イベントの実施等の取組にもつながっているとしている。
第6節 中山間地域の農業の振興と都市農業の推進
(1) 中⼭間地域農業の振興
(中⼭間地域の農業産出額は全国の約4割)
(中⼭間地域等の特性を活かした複合経営等を推進)
(中⼭間地域等直接⽀払制度の協定数は前年度に⽐べ増加)
(中⼭間地域等直接⽀払制度の実施により営農を下⽀え)
(⼭村への移住・定住を定め、⾃⽴的発展を促す取組を推進)
(コラム) FAOやEUでは⼭地ラベル認証制度を展開
(33道府県の55地域を「デジ活」中⼭間地域に登録)
(事例) 「デジ活」中⼭間地域として、農⽤地の適切な保全等を推進(三重県)
(2) 荒廃農地の発⽣防⽌・解消に向けた対応
(圃場が未整備の農地や⼟地条件が悪い農地を中⼼に、荒廃農地が発⽣)
(荒廃農地の発⽣防⽌と解消に向けた取組を推進)
事例) 移住者等を巻き込み荒廃農地の粗放的利⽤を展開(富⼭県)
(3) 多様な機能を有する都市農業の推進
(市街化区域の農業産出額は全国の約1割)
(都市農地貸借法に基づき賃貸された農地⾯積は拡⼤傾向)
第7節 鳥獣被害対策とジビエ利活用の促進
(1) ⿃獣被害対策等の推進
(野⽣⿃獣による農作物被害額は前年度に⽐べ増加)
(⿃獣の捕獲強化等に向けた取組を推進)
(事例) ICT機器や複合柵等を活⽤した⿃獣被害対策を推進(宮城県)
(クマ類における被害防⽌等に向けた対策)
(2) ジビエ利活⽤の拡⼤
(ジビエ利⽤量は前年度に⽐べ減少)
(外⾷産業・宿泊施設や⼩売業者向けのジビエ販売数量が増加)
(事例) ジビエの利活⽤を通じ、⼭の価値を⾼める取組を展開(京都府)
(ジビエハンター育成研修制度等の新たな取組を開始)
★本ブログで紹介した過去の食料・農業・農村白書関係ページ
・令和元年度 食料・農業・農村白書(令和2年6月16日公表)
https://blog.canpan.info/ohrai/archive/300
・令和2年度 食料・農業・農村白書(令和3年5月25日公表)
https://blog.canpan.info/ohrai/archive/422
・令和3年度 食料・農業・農村白書(令和4年5月27日公表)
https://blog.canpan.info/ohrai/archive/508
・令和4年度 食料・農業・農村白書(令和5年5月26日公表)
https://blog.canpan.info/ohrai/archive/622
・令和5年度 食料・農業・農村白書(令和6年5月31日公表)
https://blog.canpan.info/ohrai/archive/727
全国中山間地域振興対策協議会事務局
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