12月16日(月曜日)
<23階建てのダナンソフトウェアパークビル>
朝10時前に、ホテルでVNAHのハイさんと落ち合う。これから、彼の知り合いの障害者が経営しているコンピューターによる情報処理サービス会社を訪問するのだ。
ハイさん自身の運転する車に乗せてもらって、ホテルの近くにある23階建ての立派なビルに行く。ダナン政府肝いりで建てられたソフトウェアパークというソフト関連企業を100社以上も集めたというモダンな建物だった。
社長のフイマインさんが、副社長だと言う若い女性で日本語の堪能なチャンさんを伴ってビルの外にまで出て、我々を待っていてくれた。彼とは3年前にハノイでハイさんに紹介された時以来の再会だった。早速、8階にあるVBPO社に案内される。すると、学校の教室のような大部屋に机が並び、大勢の若い男女が一心不乱にコンピューターの画面を覗いて、なにやら作業をしていた。
<データエントリーを中心に成長するVBPO社>
ハノイでハイさんに紹介された時は、フイマインさんは彼が以前務めていた別のソフト企業の副社長の立場だった。日本財団が障害者支援に熱心だということを知り、自分がこれから立ち上げようとしていた会社に支援してもらえないかとハイさんに紹介を頼んだのだった。私は、日本財団には個々の障害者個人に支援するスキームは無いと、それを断ったのだった。その直後、フイさんはVBPO社を設立したらしい。
ただ、私個人としてはその時初めて、障害者の起業に対する支援というニーズに気付かされた思いがした。そしてその後、その具体化を考え続けた結果、障害者ビジネスに対するファイナンス・スキームというアイデアにたどり着いた。そして、今年に入り、そのパイロット・プロジェクトをこのダナンで社会政策銀行と組んでやることになった時も、彼のことを思っていた。
<VBPO社長のフイマインさん>
そこで、先日このファイナンス事業の現場視察のためにダナンに行くことが決まった時に、彼のことを紹介してくれたハイさんに取り次ぎを依頼したのだった。彼がこのスキームをどう考えているかも知りたかったからである。
フイさんによると、今、同社は、日本企業を主要顧客にデータエントリーを中心に、給与計算などの経理業務代行、ウエブデザインなどの仕事を請け負って成長し、現在の社員数は50人ほど。社長のフイさん自身がポリオの後遺症で左手と左足が不自由な障害者だが、そのほかの社員にも障害者が多く、全部で13名が障害者だという。事業は順調で、社員をさらに4倍の200人にする計画を持っているそうだ。
我々のスキームに着いては是非、融資を受けたいと現在、2.5万ドル(250万円)の借り入れを申請中。担保不足でペンディングになっているというので社会政策銀行と協議することにした。
その後、4人でダナン料理店で昼食を取って別れた。立石君と私は社会政策銀行のラン支店長らと合流、融資先訪問に向かった。
<最初に訪れたのは、小さな洋服店>
最初に訪れたのは、小さな洋服店。一階の店舗の上に、作業場があり30年くらい前という日本製の電動ミシンが現役で使われていた。上半身に先天性の障害のあるリエンさんという店主は、我々のスキームで200万円の融資を受け、作業場を別の場所に設けたいと言っていた。
次いで、訪問したのは、前回も案内された視覚障害者が経営する竹細工の工場。既に購入したという竹の箸を包装するための機械が2台並んでいた。社長自身が障害者であるためか、障害者雇用に熱心だ。まだまだ手作業の余地が大きい作業工程のあちこちで障害者が働いていた。
その後、別のところにある竹の箸そのものを作る工場に案内された。衛生的に決してきれいとはいえない環境で食事用の竹の箸が作られていた。
この場所の賃貸契約が間もなく切れるというので、別のところにある政府所有地を借り上げて新工場を作るという計画で、我々のスキームで500万円の融資に申請したという話であった。リン社長によれば、これまで銀行に融資を申し込んだことはあるが断れたという。彼によれば、それは障害者である故の差別が原因だ。
<竹細工の工場>
その後、案内されたのは零細規模の事業所が2カ所。一つは、知的障害者を子供に持つ夫婦が経営する養魚場と養豚場。もう一つは、片手の指に障害を持つ親父さんが経営するライスヌードル工場だった。これらの二つは借入額は僅かな15万円ほど。余り我々のイメージとは合わない対象先だ。
社会的弱者に対する零細金融を担うために作られた国策銀行である社会政策銀行にとっては、本来の金融業務の対象者だ。たまたま、家族に障害者がいるので障害者ビジネス・ファイナンスの対象になるということで斡旋したもののようだ。パイロット事業として始めたこの融資スキームの狙いは、障害者ビジネスに対する設備投資資金を提供することにある。そのために、上限を5万ドルと大きく取り、返済期間も3年から5年と長くしたのだ。本スキームのこのような狙いについては契約書に明記しており、ハノイ本店の国際部長のニャンさんにはしっかり理解してもらっている筈なのだが、現場であるダナン支店の理解は今一歩不足しているようだ。
<ライスヌードル工場>
融資先訪問を終えて、ホテルに戻り一休みの後、ロビーに降りて行くと車椅子のドゥイさん一家が待っていてくれた。彼はインターネットを使ったオンラインビジネスGenashtim社の社員だ。100人の社員の半数が障害者だという同社の社長トーマスさんに紹介され、私たちに会いたいと、ダナンから300キロも離れたクアンビン省からはるばる6時間もかけてやって来てくれたのだった。
家族全員を夕食に誘ったが、両親と弟さんの3人は親戚の家に行くと辞退。1歳違いの姉さんと二人だけで、ハイさんを含む我々3人との食事に付き合ってくれた。
ホテルのすぐ裏手に見つけていたベトナム料理店で食事をしながら色々話し合った。彼は障害のため高校しか出ていないが、トマスさんの会社で働くことで英語が話せるようになったと嬉しそうに語った。この仕事によって生き甲斐を見つけたようだった。そのレストランで出たのは、今日の午後、盲人経営者リンさんの工場で見たとのそっくりの竹の箸だった。
ドゥイさん姉弟と食事を済ませて、外に出ると雨が降って来た。我々のホテルまで彼を迎えに来たご両親と一緒に写真を撮って別れた。
<ドゥイさん姉弟と両親>
09時45分 ホテルToan Buiさんと合流
10時 VBPO社Mr. Huy Manh Tran訪問
12時 昼食
13時 障害者インクルーシブ融資事業の借り手企業5社訪問
19時 ドゥイさん姉弟と夕食