10年たちましたが、そのまんま使えるネタです。
第172回 草刈る人々 2003/08/01
刈ったばかりの青臭い草の匂いは、この時期の風物詩である。
「路肩草刈り作業中 徐行」という看板が、あちこちに立っている。ヘルメットをかぶったおじさん、おばさんが、一本竿の刈払機にチップソーをつけて、側溝やガードレール周りを器用に刈っていく。国道の道路情報を見ても半径50kmに片側交互通行が一箇所もないので、夏には土建業界が干上がっているのだが、(中小企業ならではの)お盆のボーナス前には、毎年決まって道路の草刈り作業という公共事業が発注されるのである。道端の草を刈ると、すっきり見通しがよくなり誰もが喜んでくれる。
田んぼのあぜや法面では、農家のおやじさんが、ナイロンひもの刈払機を地面に叩きつけて”なにもそこまでしなくても”というくらい徹底的に舐めるように丁寧に刈り上げていく。ゴルフ場のように奇麗に仕上がる。
山仕事も下刈のシーズンである。請け負った山は7月と8月だけで終わらせるのが鉄則である。笹刃をグラインダーで研ぎながら、草も笹も木も刈っていく。農家の仕事に較べると手際は大雑把だが、何町歩もの草の斜面が、数日で茶色の枯れ草に変わり、ヒノキの緑が点々と並んでいる姿は壮観である。誰も見に来てくれないうちに、ひと月もするとまた草の海に戻るのだが。
刈払機(=草刈り機)は、日本人の発明である。・・調べたわけではないが断言!。
世界で一番草を刈っているのも日本人である。・・同じく、調べたわけではないが断言!。
江戸時代の野山は今よりもっと奇麗に刈り込まれていたはずである。草は牛馬の餌や緑肥に欠かせなかった。今では使い道がないから、路肩の草は産業廃棄物として処分されている。牛の餌にしたくとも、ゴミやイバラが混じっているので、そう簡単にはいかない。
アメリカやオーストラリアがどれだけ大量に牧草を刈っていようとも。日本人のように単に見た目をよくするためだけで、ひたすら草を刈っている民族はほかにいないだろうという意味である。
草を食べてくれる牛はいなくなったが、昔のように奇麗に草刈りされた風景でお盆を迎えたいというのは、民族の記憶に染み付いた原風景だからである。(2003/08/01)