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どんな写真も立体写真にする裏技 [2014年06月10日(Tue)]
15年前のコラムです。読んだ人だけがトクをします。

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連載 第18回 「どんな写真も立体写真にする裏技」 1999/06/08

 その秘法とは「片目をつむって写真を見る」ことである。私はこれだけで写真鑑賞に「開眼」したんだから、ほんとに。

 たとえば、ここに『山里そのまま』岡本良治(山と渓谷社)という写真集がある。(本連載ならではの強引な事例・・)ニッポンの叙情、棚田の風景といった趣向のカレンダーになったりするような絵柄である。
 表紙には、用水路の水面ぎりぎりのローアングルで柿の大木と石地蔵、遠景には新緑の山という写真。こいつを片目を閉じて見てみよう。ツタの絡まる古木の幹の背景は新緑の雑木林、遠景がピンボケているぶん適度な距離が感じられ、水路の雑草で見えない空間に代掻き前後の田んぼの広がりが想像できる。大木に寄り添う小さなお地蔵さんが、くっきり浮き立って石の厚みが見える。無骨な梢の柿の若葉一枚一枚の前後関係が際だち、前景では豊かに流れる水の速度さえ伝わってくる。
 同じ写真を、両目で見ても確かに同じものが映っているのだが、それではちっとも深みがない。風景の深みとは、ひとつひとつの位置関係を目玉で追いかけながら、頭の中に再構成する奥行きのことをいうのである。

 車の運転とかバッティングでは両目を開けてないと難しい。対象を見つめる両目の軸線の角度でそこまでの距離を瞬時に目測し、目玉のレンズの厚みを変えてピントを合わせるのだ。片目だけの場合は、目測ぬきで、行き当たりばったりにピントが合うまで焦点を前後させるから時間がかかることになる。少しでも早くピントを合わせようとすれば、周囲のものとの位置関係を判断した脳の側から目玉のレンズに命令を出さなければならない。
 写真なんてしょせん平面でしかないと両目だったらすぐにわかるのに、面白いことに、片目だけで遊ばせておいたら、被写体の前後関係を過剰に区別して勝手にレンズが動きだそうとする。目玉のレンズにつながる筋肉が動き出すと、この兆候が脳にフィードバックして、平面の写真に遥かな距離感を生み出すのである。わかるかな、この面白さ。
 さらに実体験を積めば、前景と後景との間を吹き抜ける風の香りや湿気まで想像することができる。この裏技は、風景写真を味わう絶好の方法。あなたもお試しあれ。(1999/06/08)
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