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2021年08月18日

パンデミック・格差・気候危機への市民社会の提言

アジア太平洋資料センター編

「コロナ危機と未来の選択」

パンデミック・格差・気候危機への市民社会の提言

コモンズ 21.4.25

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はじめに
  幸い、日本は他国と比べれば感染者数・死亡者数とも低い水準だった。
しかし、パンデミックはどの国においても、その社会が持つ弱みと問題を容赦なくあぶり出した。医療体制、医療従事者、エッセンシャルワーカーの保護・報酬。科学的知見に基づく政策を政府や議会が行っているか。
 一方、人々にも問題は突き付けられた。暮らしは一変し、テレワークや自粛が強いられた。日本では「新型コロナウイルス感染は自業自得」と答える人の割合が、欧米に比較し10倍も多いという衝撃的なデーターだ。
第1章 私達はどこに立っているのか   1.災いはどこへ濃縮されているのか 藤原辰史
・ 災厄は、すべての人間に平等に害を与えるものではない。第一次世界大戦最終年の1918年の春から20年までの3年間、世界中を席巻したスペイン風邪は、死者4000万〜一億人、世界人口の18〜20人に1人が亡くなり、ダイナミックに歴史を変えた。そのキーワードは「肺」と「胃」だ。
・ 大量殺戮のために毒ガスが使われ、死者を解剖した医師によれば、肺は見たこともないほど傷ついていたという。新型コロナでも「肺にガラスが刺さったような痛み」と言われているのと同様だ。
 また、第一次世界大戦は飢えの戦争、胃袋の危機だった。戦争中に塹壕戦があまりにも激しくなり、膠着状態に陥り、海上封鎖に出て、ドイツ、ハンガリー、ハプスブルク帝国が飢えていった。
・ 日本では、非正規雇用労働者に感染症拡大のしわ寄せが大きい。男性中心社会の暴力性も明らかになった。女性の自殺率は増加し、DVも増加している。ナオミ・クラインのいう「惨事便乗型資本主義」に警戒しなければならない。政府はデジタル化を進め、監視社会を強化しかねない。コロナ禍の中で水害、大地震が起こったら、避難所やトイレ、食事はどうするのか。コロナ禍が長期化し穀物輸出国の生産と流通が滞ったら、日本が農と食を軽視してきたツケが回ってこないだろうか。
・ 歴史の中で参照できる希望は、スペインでは劇的な社会変化を生み出し、ドイツではハプスブルグ家が革命や民衆運動によって倒され、朝鮮の1919年の3・1独立運動も大感染後起こっている。
2.危機増幅のメカニズムから逃れるために   中山智香子
・ 市場や資本主義の下での経済活動は、国家の枠組みに縛られない形でグローバルに広がっていた。人々はいきなり「世界市民」になって無国籍で活動することはできない。企業も同様である。20世紀以降続いてきた米国の世界覇権が衰退する中で、中国とぶつかり、これに世界中が翻弄された。
・ 感染症対策や医療体制が必須なのに、医療を支える公的領域が予算、人員とも大幅削減された。気候危機とそれに伴う自然災害猛威も、公的領域の対策や予算、人員が縮小されていたためだ。
 「危機」とは、人の命そして生活が脅かされている状態だ。100年ほど前のカール・ポランニー
 は、経済を政治や社会との関わりの中でとらえ、危機に着目した。
・ ポランニーは、危機が何であるかを理解すれば、その中に解決策はあるという。人間が、市場に商品として投げ出されることへの抵抗、社会保障制度を求める動き、労働運動・社会運動等を「社会の自己防衛」と呼んだ。社会が人間を商品化することへの違和感、商品になり切れないことで生じる弊害から人間を守ろうとして、“おのずと防衛”するのだと見た。
・ ドイツナチズムは、危機の中で人々に仕事や食べ物を与えることと引き換えに自由を奪った。危機の際に現れる「強い」リーダーには気を付けなければならない。完璧なリーダーなど存在しない。
第2章 コロナ禍の世界から
【韓国】市民社会の力――コロナ復興で進む農と食の取り組み   カン・ネオン
・ コロナ禍での取り組みで最も注目されるのは、有機農産物を学校給食に提供する自治体と農家だ。
【ブラジル】「命の権利」のために――二元論を超える貧困層の人々の戦い  下郷さとみ
・ ボルソナロ政権下パンデミックで社会の分断が進み、国民の30%が貧困層、都市部にはファベーラトいう場所が多数存在する。そこに緊急対策チームが立ち上がり、企業やNGOと交渉して食糧や衛生用品などの救援物質を大量に集め、困窮家庭に定期的に配布する活動を展開している。
コロナ対策は「命の権利を守る」という軸  差別に抗い、抗議の声を上げ、公平な社会の要求。
【アフリカ】新型コロナワクチンを「国際公共財」に――鍛えられた社会運動   稲場雅紀
・ アフリカでは、以前からエイズや感染所に対して、市民社会や当事者運動が長く闘ってきた。
 アフリカ連合とアフリカCDC等が協力し、アフリカ自身の力を使って問題を解決しようという
「新たなパン・アフリカニズム」も力を増してきている。
・ いま日本に求められているのは、世界の市民社会から学び、グローバルな危機に対して連帯して
すべての人へ医薬品や治療のアクセスを確保していくことではないだろうか。
第3章 未来への提言
ポスト資本主義のビジョン――気候正義と〈コモン〉の再生を   斎藤幸平
・ コロナ禍で、今までのやり方を抜本的に変えなければならないと気付かされた。現在の資本主義のもとではSDGsは達成できない。究極的には資本主義そのものを乗り越えなければならない。
 気候危機に対する大胆なアクションから私たちを遠ざけているのは技術信仰だ。技術で気候危機に立ち向かおうとすれば、さらに巨大な規模の設備や原材料が必要になり、様々な問題を引き起こす。
・ 皆が自治・管理・シェアできる〈コモン〉を再生し、増やそうというのが「脱成長コミュニズム」。
 水道や電力、住宅、公共交通機関、医療、教育、介護などの市民営化で、無償化あるいは公営で廉価に提供する。いま世界では「社会主義」が再登場してきている。「今まで通りの生活を続けることで環境を破壊したり、誰かを犠牲にする社会を黙認したくない」若者が多くなってきている。
自由貿易は人々の健康・食・主権を守れない――グローバルコモンの公正なルールを   内田聖子
・ 行き過ぎた自由貿易の帰結がパンデミックだ。世界の隅々に広がった自由貿易は、新型コロナウイルスの感染拡大を生んだ。貿易自由化に伴い多くの国で工業型農業への転換や都市化が進み、生態系破壊と過密都市が生じ、社会保障や保険制度の後退、医療崩壊が進んだ。
・ 2008年のリーマンショックを契機に世界の貿易は停滞傾向にあった。新自由主義的な市場原理主義から撤退し、グローバル企業規制の傾向が始まり、パンデミックはその傾向を強く方向づけた。世界で最も多くの感染者を出した米国は、コロナ対策のエクモが圧倒的に不足した。食糧や必需品の多くを輸入に依存すれば、危機の時にリスクが常に存在することを深く人々は記憶させられた。確実なことは、これ以上自由貿易を続けてはならないということだ。
環境と生態系の回復へ――次なるパンデミックの前に    井田徹治
・ 感染症が増えてきたのは、人間による環境破壊によって野生生物と人間との接触機会の増大だ。
ミュニシパリズム(地域自治主義)が開く世界――公共と自治を取り戻す    岸本聡子
・ 気候危機、経済危機、民主主義危機、健康危機克服の新たな政治の実践がミュニシパリズムだ。バルセロナから始まり欧州に広がっている。核心は地方政治・選挙の在り方を根本から変えること。
・ 今なお、多くの国で中央政府は新自由主義の方向を向き、企業に有利な枠組みを押し付けている。
地域という希望――学校給食を核にした都市農村共生社会を    大江正章
・ 新型コロナウイルス拡大で、都会暮らしの危うさと、田舎暮らしの強さが明らかになった。韓国ソウル市では「都市農村共生社会」=有機農産物の学校給食を進め、健康な子供たちを守っている。
・ 日本でも有機農業地域主義が進み、非農家出身の新規就農者の増加に希望が見えてきた。

所感:コロナ禍が世界を変えようとしている。ミュニシパリズム拡大や、米国若者の50%が社会主義に関心を持つ。貧困と格差の“新自由主義”から“社会連帯経済”への転換が始まる。
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