今月の俳句(平成29年5月) [2017年05月27日(Sat)]
今月の俳句(平成二十九年五月) 今月の兼題は「桐の花」でした。昔は女の子が生まれると桐の木を植えて、嫁入りの時にその桐で作った箪笥を持たせたそうで、桐はポピュラーな木でしたが、今はあまり見かけません。聖跡桜ヶ丘駅前の川崎街道の街路樹が桐だというので、見てきました。丁度紫色の花が咲いていました。ただし、今月の桐の花の俳句は一句だけですので、まとめて後ろに句会に出た桐の花の句を掲載しました。句評は藤戸紘子さん、今月の一句の選と評は渡辺功さんにお願いしました。(皆川) 「義経の隠れ家とかや桐の花」 木原 義江 とかや、という助詞は伝聞の意を表します。義経とは勿論あの源平合戦で活躍したヒーロー、源義経のこと。平家を滅ぼし、鎌倉幕府の開府に多大な貢献をしましたが、後に兄・頼朝との確執により鎌倉勢に追われる身となりました。落ち行く先は奥州・藤原氏。その奥州各地に幾つもの「義経の隠れ家」といわれる建物があるそうです。作者がその一つを訪れた時の句。季語「桐の花」(夏の季語)により、悲劇のヒーローの姿が凛々しく立ち上がってきます。 「じゃがいもの花や園児の連なりて」 渡辺 功 意外なことに馬鈴薯はナス科の野菜で、花の形もナスの花とよく似ています。花は6〜7月頃、淡い紫色ないし白色の星状の可憐な花が点々と咲く景はまことに可愛い眺めです。作者のご自宅の近くに馬鈴薯畑があり、近くの保育園の園児がよく畔道を散歩しているそうです。馬鈴薯の花(夏の季語)と園児の可愛い姿が重なって、優しい一句となりました。 「鼻先をすいと過りて夏燕」 宮ア 和子 燕(春の季語)は春に渡来し、人家の軒先などに営巣、繁殖します。産卵後一か月余りで巣立ちし、健やかに成鳥となります(夏燕・夏の季語)。親燕と子燕がともに飛翔する姿は真に美しいものです。作者は見とれていたのでしょうか。突然鼻先を燕が過(よぎ)り、驚くやら嬉しいやら、その瞬間を詠まれました。 その燕も九月頃には大海を越えて、また南方へ帰るのです。これを帰燕(きえん)といい、秋の季語となります。同じ燕でも季節により呼び方が違うのは、日本人の季節に対する感覚の繊細さによるものでしょう。 「夏燕庇の深き城下町」 小野 洋子 城下町という措辞から井然(せいぜん)とした家並みが想像されます。町屋と違い武家屋敷は格式に見合った屋敷であり、その規模に見合った庇(ひさし)であろうと思われます。深い庇は燕にとって雨風や外敵から卵や雛を守るには絶好の住環境でしょう。親燕は雛のために餌を運ぶのに懸命です。雛の口に餌を運び、すぐに飛び立ちます。落ち着いた雰囲気の城下町を飛翔する美しい燕、日本画のような景が思い浮かびます。 「歓声の上がる広場や夏の雲」 皆川 瀧子 広場で何が行われているのでしょうか。夏の戸外ですからスポーツでしょうか。少年サッカー?草野球?何か大変なファインプレーがあったのでしょうか。わあーと歓声が大空へ広がっていきます。その空には真っ白な夏の雲、エネルギーに満ちた明るい季節の到来がこの句から生き生きと伝わってきます。 「ホールインワンの歓声夏木立」 皆川 眞孝 先の句とこの句は同じ景を詠まれたもののようです。正に息のあったご夫妻です。広場で繰り広げられていたのはグランドゴルフでした。南窓会では今年度新しくグランドゴルフのサークルが誕生しました。大人気で会員も増加の一途です。ホールインワンをした巧者が出現しました。夏木立を抜けて生き生きとスポーツを楽しむ人々の明るい大声、爽やかでいいですね。夏木立の季語が効いています。また、この句は12音・5音と破調になっています。作者の作句の腕は確かに向上していて頼もしい限りです。 「畳なはる欅青葉や風の道」 藤戸 紘子 「畳(たた)なはる」の措辞にしびれました。幾重にも重なって続く、という意味で、万葉集にも「たたなはる青垣山」と使われている、歴史のある言葉です。実は、私は葉桜の並木が連なっている情景を表したいと思い、よい言葉がないものかと考えました。しかし、私の平凡な頭では、「葉桜の大海」とか「葉桜の細波」ぐらいしか思いつきませんでした。この句を句会で拝見して、この様にぴったりした美しい日本語があることを教えられました。青葉(夏の季語)ですから、若葉より緑が濃い感じです。「下五」の「風の道」がよく効いていて、茂った欅の青葉の間を爽やかな風が吹き抜けていく様子が目に浮かびます。作者は府中の欅通りの情景を描いたそうですが、気持ちのよい季節にぴったりの、私達のお手本になる佳句だと思います。(皆川眞孝) 今月の一句(選と評:渡辺功) 「山若葉天空渡るオランウータン」 皆川 瀧子 オランウータンを角川国語辞典で引くと、「猩猩」(しょうじょう)参照とありました。「猩猩」は中国で想像上の動物、形は猿で顔は人に似て、酒が好きだとの記述がありました。 このイメージで掲題句を読むと、いろいろ想像が膨らみます。 おっかなびっくり、ふらつきながら天空を渡るオランウータン、一体どこへ行くつもりでしょう。ところで爺になると、身も心もオランウータンに似てきて、彼の気持ちがわかるような気がします。そろそろ天国への道を探し始めているのでしょうか?それとも地獄が待っている? この句は多摩動物公園内での御作とのことですが、「猩猩」「天空」のイメージが老いの身に一抹の感慨を呼び起こしました。そして今年の「山若葉」の鮮やかさが、一入(ひとしお)身に沁む今日この頃であります。爽やかな作品だけに、一層感銘が深まりました。(評―渡辺功) 桐の花の他の句 桐の花は紫の大型な筒状で、花言葉は「高尚」です。藤戸さんからは、花のこのイメージを大切にして、品のある俳句の方がよいとお話がありました。 「里山の祠整ひ桐の花」 宮ア 和子 「大木の桐の花咲く畑の中」 宮ア 和子 「苔むせる地蔵在すや桐の花」 渡辺 功 「渋滞の長き車列や桐の花」 皆川 眞孝 「桐の花中山道の番所跡」 藤戸 紘子 添削教室 元の句「天の色水に重ねて鯉の影」 木原 義江 青空が水に写っている中をすいと鯉が泳いでいるという情景を、美しく巧みに表した句ですが、大きな問題があります。それは「鯉」が歳時記では季語に認められていないことです。「緋鯉」「錦鯉」は夏の季語なのに、残念です。そこで、鯉の代わりに同じ2音の鮎(夏の季語)を藤戸さんが提案しました。そして「天の色」だけではどんな色か分かり難いので、「空の色」と添削しました。青色が強調されすっきりした夏らしい俳句となりました。 添削後 「空の色水に重ねて鮎の影」 木原 義江 |
Posted by
皆川眞孝
at 09:00