今月の俳句(平成28年12月) [2016年12月20日(Tue)]
今月の俳句(28年12月) 今年も残り10日となりました。今月の兼題は「雪」。早すぎる兼題かと思っていましたが、11月下旬になんと54年ぶりに雪がふりました。しかし句会にでた雪の句の数は多くありませんでした。今月の一句は小野さんが担当しました。(皆川) 「雪の中摺り足となる健診日」 宮ア 和子 今年は11月の初雪で、しかも積雪でした。大変な思いをされて健診に出掛けられた時の句。健診日とあれば行かねばならない、と責任感の強い作者は雪を踏んで病院へ出向かれたのでしょう。私達の住む町は丘陵地帯、どこへ出掛けるにも坂道は避けられません。転んでは大変とそろそろ摺り足で進まれたのでしょう。さぞ恐い思いをされたことと思います。摺り足で、という表現から健診を受けることの大事さと決意が伝わってきます。 「ふかぶかと頤ひ沈め雪見風呂」 小野 洋子 雪見風呂ですか。いいですね!頤(おとがい)とは下顎のこと。下顎までどっぷりと湯に浸り、湯気の立ちのぼる向こうに冷え冷えとした雪景色。さぞや気分の良いものでしょうね。外国でもこんな風習があるのか寡聞にして存じませんが、私には日本独特の粋な風習のような気がします。ガラス戸越しなのか、露天風呂なのかはこの句からははっきり分かりませんが頤まで湯に浸かるという表現から露天風呂だと想像しました。私も経験してみたいと思いました。 「冬怒濤ひとり湯に聞く島の宿」 皆川 眞孝 島の鄙びた温泉宿でしょうか。誰もいない広い湯槽にたった一人、ゆったりと寛いでいる景が浮かびます。宿は海辺に近いのでしょう。激しい波の音が響いてきます。島ですから磯が広がっていることでしょう。このような海岸を荒磯海(ありそうみ)といいます。岩礁に盛りあがり激しく岩壁に砕ける怒濤は男性的で心地よくもあり恐ろしくもあります。怒濤の音のみの静寂の中でひとり作者は何を思っていたのでしょうか。中七のひとり湯に聞くという表現が光ります。 「万両の紅を残して家絶ゆる」 渡辺 功 万両とはヤブコウジ科の常緑低木、冬になると小さな赤い実を沢山つけます。植え込みや庭木としてよく見かけます。冬の色の少ない季節に赤い実はとても目立ちます。最近少子化の影響でしょうか空き家をあちこちで見かけます。家制度はなくなりましたが、後継者がいないということは何か胸に迫るものがあります。家絶ゆる、という措辞によりその感じが的確に表現されています。住む人のいなくなった家の庭に取り残された万両が赤い実をつけていることが一層の哀れを誘います。 「空に枝えだに空あり冬茜」 木原 義江 この句を読んだ時、昔々何の授業だったか忘れましたが、壺に見えるか、向き合った二人の横顔に見えるか、と絵を見せられたことを思い出しました。この句はリフレインでも違った視点からの二つの景を詠んでいます。俳句は一瞬を切り取る文芸であるといわれます。が、この句はコンマ何秒かの時間の経過が盛り込まれています。主が空、主が枝と視点が動いています。落葉も終り裸木となった枝を透かして夕焼けの赤い空が広がっている景をユニークな面白い視点で捉えられました。 「朝ぼらけ雲紫に山眠る」 皆川 瀧子 朝ぼらけとはほんのりと朝が明けてくる頃をいい、日の出までにはまだちょっと間があります。白々と明け初めた空に雲が棚引いている景が浮かびます。雲ははじめは濃紺で次第に紫色に変化し時間の経過により暖色に変わってゆきます。太陽光の当たる角度により色が変化するとのことですが、刻々と変わる雲の色は真に美しいものです。その微妙に変化してゆく雲の色と黒々と動かない山容、動と静の対照が鮮やかです。また季語山眠るが擬人化されてもいるようでなかなか起きない人を想像し、ちょっと楽しい気分にもなりました。 「見はるかす凪の海原鷹飛べり」 藤戸 紘子 高い所から大海原をはるかに見ると、波もなく静かでその上を鷹がゆうゆうと飛んでいるという景ですが、「見はるかす」という古典的な措辞に、凪いでしずかな海原の「静」と、猛禽の鷹が飛んでいるという「動」を対比させ、見事としか言いようがない構成です。作者が南窓会旅行で小田原城の天守閣に登った時、相模湾を見て詠んだ句とのことですが、場所に関係なく、この句を見ただけで雄大な気持ちにさせてくれます。なおこの句の季語は「鷹」(冬の季語)です。(評―皆川眞孝) 今月の一句(選と評:小野洋子) 「雪催(もよひ)靄の中なる島の影」 皆川 眞孝 東京に初雪が降った日、ご夫妻で熱海の初島に旅行され連絡船が欠航して、思いがけずこのような佳句ができました。 雪模様のためあたりは暗く、海鳴りのように海は吼えている。靄の中にうっすらと見えるのは、大島の影か。荒海と雪の自然が読み込まれた大きな一句となりました。(評―小野洋子) 兼題「雪」の句 「初雪や抛り出されしランドセル」 宮ア 和子 「雪晴れや丹沢光る水平線」 皆川 眞孝 「駅裏の居酒屋の灯や雪催」 藤戸 紘子 添削教室 藤戸さんに皆川の俳句を推敲していただきました。 元の句 「湯曇りのガラス拭えば冬の海」 初島の温泉に入った時、浴室の窓の外は、荒れる冬の海が広がっている情景を表現したかったのですが、この句の欠点は、ガラスを拭ったら冬の海が見えた、行動の説明に終わっていることです。 藤戸さんのご意見は、むしろ、冬の海の荒々しさを表現するために、冬の波がガラス戸を震わすとしたらどうか、ということで次のように添削していただきました。 「湯に曇る玻璃戸震はす冬怒濤」 皆川 眞孝 中七で「ガラス戸」では字余りになるので、古典的な語の「玻璃戸(はりど)」に変更し、冬の海をより具体的に「冬怒濤」にしたので、臨場感溢れる俳句となりました。 |
Posted by
皆川眞孝
at 09:00