今月の俳句(26年3月) [2014年03月18日(Tue)]
今月の俳句(26年3月) 今月の兼題は「桜餅」(春の季語)です。桜餅は、江戸時代、向島の長命寺境内で売りだしたのが、始まりと言われています。薄桃色の薄皮と巻きつけた緑の桜の葉をみるだけで、おいしい春を感じます。関西では道明寺糒(ほしいい)の粉を蒸して作るそうです。私はいつも関東風で道明寺は食べたことがないと言ったら、先日家内が買ってきました。ぶつぶつした舌触りの薄皮ですが、こちらも美味く味わいました。 今月から、「今月の一句」を始めました。句会に出た句から、会員が選者となり他人の一句を選んで句評をつける試みです。選者は毎月変わります。今月は、宮アさんに選者をお願いしました。(皆川) 「饒舌に区切りをつけて桜餅」 渡辺 功 今月の兼題「桜餅」で、こんな面白い句が出ました。饒舌と桜餅ですから、これは多分中高年のご婦人方でしょう。お茶と桜餅が振る舞われると、関心はそちらに移動、ぴたりと話を止めた、という何とも解り易いご婦人連の生態を的確に切り取られました。俳諧味の効いた佳句となりました。 「孫の摘む指先ほどのつくづくし」 小野 洋子 つくづくし、とは土筆(つくし)のことです。我々と違い子供の視力は非常に良いですね。大人には見えない程の小さな土筆を見つけて、駆け出した子供の元気溌剌とした姿が見えるようです。孫(児童)と小さな土筆がよく響きあっています。 「がん治療すべて終はりし春一日」 宮ア 和子 作者からお聞きしたのですが、お孫さんと一緒に入浴した際、小さな膨らみをお孫さんに指摘され、それが癌の早期発見に繋がったそうです。あれからもう五年余になるでしょうか。よく頑張られました。長く辛い治療を終えて、心からほっとしたご様子が春ひと日の季語でよく表現されています。 おめでとうございました。これからも作句を楽しんでください。 「手作りの雛や緞子(どんす)の衣着て」 皆川 瀧子 雛はここでは「ひいな」と伸ばして読みます。この手作りのお雛さまは、南窓会会員、古川様の奥様の手作りの雛を詠まれたものです。私も拝見させていただきましたが、それはそれは立派で沢山のお雛さまでした。雛の間は半分位お雛様で占められていました。またそのご衣裳の立派なこと!ご夫妻で古い着物を捜して古都を度々訪れ、求められたそうです。そのご苦労と愛情が緞子というひと言で見事に表現されました。 「残雪や林を透きて空光る」 皆川 眞孝 今年は本当に大雪でした。今でも日陰には汚れてしまった残雪をみます。この句はそんな道路の残雪ではなく、山肌に消え残った雪が想像されます。その山の尾根にはまだ葉をつけていない木々、その木々の間から春らしい薄青の空が見え、暖かい陽射しが洩れくるという景がすっと浮かびます。残雪の白と空の青の対照も綺麗で、光る空により春らしい柔らかい空気まで感じさせる佳句となりました 「袱紗捌く細き指先桜餅」 藤戸紘子 兼題で「桜餅」が出されたとき、お茶会での桜餅を連想しました。しかし、どのように表現したらその雰囲気がでるかわからず、句作をあきらめました。さすがは、藤戸さん、「お茶会」や「茶の湯」という言葉を使わず「袱紗捌く」で間接的にお茶会を表現し、「細き指先」で、妙齢の女性が亭主となって袱紗を扱っている静かですが緊張した雰囲気を表しています。それだけでなく、繊細な指で点てられた抹茶の香りまで伝わってきます。客の前に置かれた桜餅がより美味しく感じられる句となっています。(コメント:皆川) 今月の一句(選と句評:宮ア和子) 「寝床まで雪掻きの音届きけり」 皆川眞孝 昨夜も降り続いていた久しぶりの大雪。早朝ふと目覚めて聞こえて来た雪掻きの音。我が家はどうなっている? 今日は頑張らなくちゃなど作者の思いを想像してしまいました。素直にさらりと纏めたのが良いと思います。経験したばかりの大雪と雪かきの大きい音が蘇り、選ばせて頂きました。(宮ア) |
Posted by
皆川眞孝
at 09:00
コメントをありがとうございます。イラストや写真は、私が勝手に選んでいますので、作者には気に入らないこともあるかも知れませんがご容赦ください。
今回、一番苦労したのは、宮アさんの句でした。がん治療の写真では治療が終わった喜びがでないし、春の風景ではなんだかわからないので、看護婦さんが「完治しておめでとう」と万歳をしているイラストを選びました。間接的ですが、ご本人の喜びを表現しています。これも「つきすぎず、離れすぎない」という俳諧の精神のつもりです。
皆川眞孝