生活保護申請のプロセス
[2016年06月04日(Sat)]
2008年末に「年越し派遣村」の村長になった湯浅誠氏
(元内閣府参与)の2008年3月10日収録のインタビュー
が、NHK福祉ポータルサイトで閲覧終了になったので、
記録として残すために、ブログに掲載します。
【生活保護申請のプロセス】
前回からの続きです。「生活保護は最終的な解決ではない」
としながらも、「『結局これでは食べていけない』という人が
増えているからそこに頼らざるを得なくなる人が増えている」
と湯浅さんは指摘します。
――生活保護の申請はどこへ行けばいい?
区役所の中に、通常の場合は生活保護課とか、生活福祉課とか、
社会援護課、保護課とか、いろんな名前があるんですけど、
そういう部署が生活保護の担当で、あとは障害者福祉課、高齢
福祉課、児童福祉課とか、そこを全部あわせて福祉事務所と言う
のです。それは基本的に区役所の中にあります。
――実際に、もやいの場合、来所された相談者の方の、生活保護
申請はどのようにするのですか。
相談者の話を聞いて、これは生活保護しかないと思ったら、まずは
自分で行ってみませんかとすすめます。今までさんざん断られて来て、
とても一人では自信がないという人の場合は同行します。地方の方に
関しては、各地域に生活保護の申請を援助する団体がありますので、
そこを紹介します。
生活保護申請というのは、申請書を出すことが実は一番の難しさに
なっているんです。申請書を出せば申請したことになる、それは
当たり前ですよね。しかしこれを出させないという、いわゆる水際
作戦が行われている。面談室でいろいろ言われて、あなたはどうせ
出しても無駄だからやめなさいと説得されたり、という事例が横行
している。
ですから、そこをとにかくどんなことがあってもこの紙は出して
くるんだという強い意志が大事です。
――申請書を提出するまでに区役所職員の水際作戦がある。なぜ
そういうことが起こるんですか?
今、生活保護を受けている人は、95年くらいに比べると、ほぼ2倍
近くに増えています。全国で150万人が生活保護を受けているの
ですが、職員はそれに応じて増やされていないんですよ。
ひとりのケースワーカーがマンツーマンで対応する件数がどんどん
増えていっている。したがって、一番大きな原因は区役所の職員が
手一杯だからということではないでしょうか。
1950年頃、厚生労働省はひとりのケースワーカーが持っていい件数
は、80件までと決めたんですけど、今東京では100件越えている人が
普通。大阪のある自治体では、ひとりで400件持っています。
そうすると、これ以上仕事増やさないでよということにどうしても
なりますよね。
とは言え、申請者の立場からしてみれば、生活保護の相談は、面談室
という密室で行われますし、申請者本人は心身ともに疲れ切っている
ことが多い、そして知識もない、そういう中で「あなたまだ無理だよ
と、国民のみなさんの税金なんだからそう簡単には出せないですよ。
もうちょっと頑張ってそれでも無理だったらまた来ていいから」って
言われたら、普通帰りますよね。
弱っているところにそう言われちゃうから、なかなか自分の頑張り
ではいけないわけです。だから、こうすれば絶対に申請できます
というのを伝えて、その気になってもらう。私たちの方でこの人なら
大丈夫だろうと申請書を出して、却下された人は今までひとりもいません。
――確かに地方財政のこともあるでしょうし、あまり増えていったら、
予算を圧迫するのかもしれないという気もしますが。
日本の社会保障給付費は、約80兆円。生活保護は、そのうち2兆円を
使っています。その意味で、社会保障全体を圧迫しているというほど
大きな数値ではない。さらに日本の社会保障給付費をGDPで見ると17%。
これは欧米諸国に比べて極端に低い数字です。欧米の平均がGDP比で
26%なので、いかに社会保障にお金を使っていない国かということに
なるかと思います。
もっとも、今生活保護から漏れてしまっている人は800万人くらい
いますが、生活保護の申請者が増えてきて財政が大変だから間口を
閉めればよい、というのでは解決にならない。だからといって、
その全員が生活保護になればいいという話でもないと思っています。
雇用のセーフティーネットや、社会保険のネット、そういうものを
全体として強化していくことが本筋でしょう。
――番組の中でも、シングルマザーの生活保護世帯を例にあげて、
生活保護以前に、子育て支援がきちんとしているかどうかという、
その前にある前提の話がありましたよね。
日本のシングルマザーは、世界で一番働いているんですよ。就労率
85%ですから。だけど、子供を育てながらの仕事ですから、パート
とか、働いてもまともな賃金をもらえない職だったりすることも多い。
どんなに働いても基準収入にいかなかったりするわけです。
そのために児童扶養手当というのがあるんですけど、これはこれで
削られています(2007年度から3年間で段階的に廃止の方向で話が
進んでいる/編集部注)。
そうすると、結局そこでは食っていけないから生活保護に頼らざる
を得なくなる。
生活保護以外ではやっていけない状況にしてしまっている。失業給付
も80年代までは、失業者の6割くらいが受給していましたが、現在は
2割です。10人に8人は失業したら失業給付が受けられない。
非正規雇用が増えているからです。
会社が社会保険なんてかけませんから。そうすると、失業しても失業
給付を受けられないから、また生活保護で生きていくしかないという
ような状況がどんどんできてしまっている。悪循環です。
我々はそういう社会状況を「滑り台社会」って言っているんですけど、
滑ったら、とにかく底まで行ってしまって、途中で止まれない。
そういう社会ではいけないと思うんです。
(2008年3月10日 インタビュー収録)
(元内閣府参与)の2008年3月10日収録のインタビュー
が、NHK福祉ポータルサイトで閲覧終了になったので、
記録として残すために、ブログに掲載します。
【生活保護申請のプロセス】
前回からの続きです。「生活保護は最終的な解決ではない」
としながらも、「『結局これでは食べていけない』という人が
増えているからそこに頼らざるを得なくなる人が増えている」
と湯浅さんは指摘します。
――生活保護の申請はどこへ行けばいい?
区役所の中に、通常の場合は生活保護課とか、生活福祉課とか、
社会援護課、保護課とか、いろんな名前があるんですけど、
そういう部署が生活保護の担当で、あとは障害者福祉課、高齢
福祉課、児童福祉課とか、そこを全部あわせて福祉事務所と言う
のです。それは基本的に区役所の中にあります。
――実際に、もやいの場合、来所された相談者の方の、生活保護
申請はどのようにするのですか。
相談者の話を聞いて、これは生活保護しかないと思ったら、まずは
自分で行ってみませんかとすすめます。今までさんざん断られて来て、
とても一人では自信がないという人の場合は同行します。地方の方に
関しては、各地域に生活保護の申請を援助する団体がありますので、
そこを紹介します。
生活保護申請というのは、申請書を出すことが実は一番の難しさに
なっているんです。申請書を出せば申請したことになる、それは
当たり前ですよね。しかしこれを出させないという、いわゆる水際
作戦が行われている。面談室でいろいろ言われて、あなたはどうせ
出しても無駄だからやめなさいと説得されたり、という事例が横行
している。
ですから、そこをとにかくどんなことがあってもこの紙は出して
くるんだという強い意志が大事です。
――申請書を提出するまでに区役所職員の水際作戦がある。なぜ
そういうことが起こるんですか?
今、生活保護を受けている人は、95年くらいに比べると、ほぼ2倍
近くに増えています。全国で150万人が生活保護を受けているの
ですが、職員はそれに応じて増やされていないんですよ。
ひとりのケースワーカーがマンツーマンで対応する件数がどんどん
増えていっている。したがって、一番大きな原因は区役所の職員が
手一杯だからということではないでしょうか。
1950年頃、厚生労働省はひとりのケースワーカーが持っていい件数
は、80件までと決めたんですけど、今東京では100件越えている人が
普通。大阪のある自治体では、ひとりで400件持っています。
そうすると、これ以上仕事増やさないでよということにどうしても
なりますよね。
とは言え、申請者の立場からしてみれば、生活保護の相談は、面談室
という密室で行われますし、申請者本人は心身ともに疲れ切っている
ことが多い、そして知識もない、そういう中で「あなたまだ無理だよ
と、国民のみなさんの税金なんだからそう簡単には出せないですよ。
もうちょっと頑張ってそれでも無理だったらまた来ていいから」って
言われたら、普通帰りますよね。
弱っているところにそう言われちゃうから、なかなか自分の頑張り
ではいけないわけです。だから、こうすれば絶対に申請できます
というのを伝えて、その気になってもらう。私たちの方でこの人なら
大丈夫だろうと申請書を出して、却下された人は今までひとりもいません。
――確かに地方財政のこともあるでしょうし、あまり増えていったら、
予算を圧迫するのかもしれないという気もしますが。
日本の社会保障給付費は、約80兆円。生活保護は、そのうち2兆円を
使っています。その意味で、社会保障全体を圧迫しているというほど
大きな数値ではない。さらに日本の社会保障給付費をGDPで見ると17%。
これは欧米諸国に比べて極端に低い数字です。欧米の平均がGDP比で
26%なので、いかに社会保障にお金を使っていない国かということに
なるかと思います。
もっとも、今生活保護から漏れてしまっている人は800万人くらい
いますが、生活保護の申請者が増えてきて財政が大変だから間口を
閉めればよい、というのでは解決にならない。だからといって、
その全員が生活保護になればいいという話でもないと思っています。
雇用のセーフティーネットや、社会保険のネット、そういうものを
全体として強化していくことが本筋でしょう。
――番組の中でも、シングルマザーの生活保護世帯を例にあげて、
生活保護以前に、子育て支援がきちんとしているかどうかという、
その前にある前提の話がありましたよね。
日本のシングルマザーは、世界で一番働いているんですよ。就労率
85%ですから。だけど、子供を育てながらの仕事ですから、パート
とか、働いてもまともな賃金をもらえない職だったりすることも多い。
どんなに働いても基準収入にいかなかったりするわけです。
そのために児童扶養手当というのがあるんですけど、これはこれで
削られています(2007年度から3年間で段階的に廃止の方向で話が
進んでいる/編集部注)。
そうすると、結局そこでは食っていけないから生活保護に頼らざる
を得なくなる。
生活保護以外ではやっていけない状況にしてしまっている。失業給付
も80年代までは、失業者の6割くらいが受給していましたが、現在は
2割です。10人に8人は失業したら失業給付が受けられない。
非正規雇用が増えているからです。
会社が社会保険なんてかけませんから。そうすると、失業しても失業
給付を受けられないから、また生活保護で生きていくしかないという
ような状況がどんどんできてしまっている。悪循環です。
我々はそういう社会状況を「滑り台社会」って言っているんですけど、
滑ったら、とにかく底まで行ってしまって、途中で止まれない。
そういう社会ではいけないと思うんです。
(2008年3月10日 インタビュー収録)