2024年7月1日公開
室 雅博 NPO政策研究所会員 (奈良市在住)
1月18日の新聞朝刊に、奈良教育大学付属小学校が大きく取り上げられた。前日に開かれた教育大学長と付属小校長らの記者会見のまとめで、朝日新聞の見出しには「奈教大付小で不適切指導」、「履修漏れ・授業不足」、「毛筆教えず筆ペン」、「卒業生含め対応検討」とあった。
昨年5月に付属小の教育課程が法令違反で不適切との指摘があったと奈良県教育委員会から教育大に連絡があり、奈良国立大学機構理事長の指示のもと調査委員会を設置。本年1月4日に報告書をまとめ、16日に保護者説明会を開いた翌日に記者会見を行った。
部外者からはマスメディアの報道程度しか分からないが、学習指導要領に沿わず教科書も使用していないなど不適切な事項があったこと、さらに管理運営面で2021年度から校長が専任になったにもかかわらず職員会議が優先され、校長や学長によるガバナンスが不十分だったことが問題とされ、健全化に向けて校長の権限を強めるとともに教員を順次、他校等に出向させて人事交流を図るというものであった。
昨年9月に調査委員会が「中間まとめ」を出し、翌月に学長と校長が文科省に出向いて報告を行った際に、厳しい指導を受けたのではないかと思われる。学校による記者会見の後、文科省は、付属小を持つ全国の国立大学に対して、学習指導要領に沿ったカリキュラムになっているか点検して報告するよう通知を出したらしい。
そもそも学習指導要領について、教育関係者には「大綱的基準に過ぎない」と考える人が多いが、文科省は法的拘束力があると突っぱねているようだ。同付属小のように研究・実践校として、保護者の合意を得ながら進めていても“裁量の余地のない下部組織“とみなし、校長を中心とする管理の強化を進める意図が伺える。付属小と県教委との関係もよく分からない。
これに対して、卒業生や元教員の有志が教員の出向に反対する署名活動を行い(その後「奈良教育大付属小を守る会」に移行)、いくつかの団体からも反対声明などが出されたが、3月末には学長や校長を含む8人が戒告や訓告、厳重注意などの処分を受けた。4月の異動では前年度に赴任したばかりの小学校長が県教委教育次長となり、4人の教員が他校に出向となった。うち女性教員3人は奈良国立大学機構を相手に、出向の無効を求め提訴している。
教育界では、激務で余裕がないためか教員の退職や病欠も相次ぎ、志願者も減っている。教育とは何か、何のためにあるのかなどを根本的に考えることなく、小手先の細工を続ける文科省の教育行政に、ますます危惧が高まっているのではないか。