2024年5月1日コラム
西部 均 大阪市政調査会研究員(大阪市在住)
久しく博覧会は未知なる世界への憧れの祭典だった。ところが、2025年大阪・関西万博で聞こえてくるのは、市民の苛立ちや不満、失笑、落胆の思いだ。巨額の経費膨張、会場建設の絶望的な遅れ、廃棄物や浚渫土でできた土壌の限界、チケット販売の不調など次々に問題が出る。政治家の驕りや無責任さも相まってカオスの情況だ。
しかし、この万博は最先端ICTが実装された「未来社会の実験場」であり、会場建設も「夢洲コンストラクション」と銘打つICT化事業となっている。建設現場ではドローンが資材運搬・測量・工事管理を行い、AIカメラで工事車両を管理して渋滞を回避し、作業員の円滑な移動を助ける。またBIM(建築物の3次元デジタルモデルにコスト・管理情報などを加えたデータベース)を活用して工程の効率化や円滑化が図られる。
ところが、外国パビリオンを設計する建築士は、計画当初から現場マネジメントがなっていないと指摘し、博覧会協会の責任者の顔が見えないので交渉に時間がかかると嘆く。現場作業員も電気や上下水道のない夢洲で不便な仕事を強いられ、別の現場に移りたいと言う。ここに大きなギャップとひずみがある。
万博会場のある夢洲は、うめきた2期とともにスーパーシティ型国家戦略特区として国の指定を受け、情報技術とビッグデータを連携させて未来社会を先行実現するという意図のもと、大胆な規制緩和で様々な先端技術を実装する。大阪府・大阪市は民間企業とともに大阪広域データ連携基盤のビッグデータを活用して、モビリティとヘルスケアの2分野で革新的サービスの提供をめざす。万博会場の自動運転バスや空飛ぶクルマ、大阪ヘルスケアパビリオンではPHR(個人の診断投薬履歴・介護情報を一元的に保存したデータ)をもとに体験型の展示が予定されている。
奈良女子大教授の中山徹氏は、スーパーシティは多国籍企業を中心とする日本の産業構造転換に対応する地方再編の一環だという。多国籍企業は安価な労働力を海外に求めて地方が不要になったので、財源を大都市部で使う仕組みを求める。ビジネスモデルにならない地域課題は解決しない。スーパーシティ化された大都市中心部と、生活困難に陥る郊外の階層化が進む。企業がスーパーシティを計画運営し、自治体は形骸化し住民自治は失われる。
大阪万博では民間企業の参加機会を拡幅したため、中小企業の参加も少なくない。中小企業377社が、26の事業企画から選択参加し大阪ヘルスケアパビリオンで成果を発信するリボーンチャレンジを通して、準備期間から開催後まで伴走型支援を受ける。ものづくりに情熱を注ぎその魅力を発信しようとする職工たちの姿に、ほっと安堵する私がいる。