岡本仁宏
(一社)公益信託推進イニシャチブ 代表理事/(社福)大阪ボランティア協会ボランタリズム研究所 所長、西宮市在住
改正公益信託法が2026年4月に施行予定である。
公務員やNPOで活動されている方たちに聞いても、「知らなかった」とか「聞いたことがある」という程度の認識しか持っておられない 。手近な新聞のデータベースで調べてみても、改正公益信託法の成立と施行に関する記事は、国会成立法案の一覧リストにあるだけで記事としては見当たらない。つまり、残念ながらほとんど知られていない。
公益信託は、民間非営利公益活動が一般的に使える第三のツールである。公益法人、特定非営利活動法人、そして公益信託である。財産拠出という点では、寄附や財団法人形成と並ぶ公益目的資産の受け皿である。
公益信託は大正時代にできた法律によっており、今は370件ほど存在する。しかし、昨年この制度が百年ぶりに抜本改正された。主な変更点を列記すると、
1、主務官庁制の廃止と統一の行政庁・民間有識者委員会による監督への移行
2、受託者を事実上の信託銀行限定から個人や一般の法人等へ拡大
3、信託事務を事実上の助成限定から多様な公益事業に拡大
4、税制優遇を限定から公益信託認可と基本的に連動
5、信託財産を事実上金銭限定から有価証券や不動産、知財まであらゆる財産に拡大
実に大転換である。
資産を出す方にとっては、明らかに選択肢が広がる。単に寄附として渡してしまうのではなく、使い方にもっと自分の意向を反映させたいと思っている人の受け皿になる。契約でも遺言の形でもできる。受託者が破産しても、財産が守られる「倒産隔離」の仕組みもあるので、文化財や貴重な自然を保護するための寄附にはピッタリである。
資産を受け取る方にとっては、税制優遇を受けていない法人や団体さらに個人でも、公益信託としてならほぼフルの税制優遇付きで財産を受け取れる。しかも、単に受け取るだけでなく、そのお金を生かして事業を運営することもできる。受託者と信託管理人、この二つのアクターさえしっかりしていれば、受け取った財産を使った事業運営が可能だ 。
内閣府でガイドラインの作成が進んでおり、11月にパブコメも出される予定。使いやすくするためには、アドボカシーが欠かせない。 もし、大きな資産を出そうとか、受け取ろうという話があるなら、公益信託を選択肢の一つに入れてはどうだろう。 これまで担ってきた信託銀行に加えて地域でお金を回したい地銀や信金、家族信託で信託に慣れている弁護士や税理士とのネットワークも作りたい。
施行までにいろいろ準備できる。新しい道具を使うためには技術を磨くことも必要だ。この道具を使って、どんな作品を作ることができるのか。新しい民間非営利活動のフロンティアの姿を見極めたい。
@岡本作成「公益信託の仕組み」
A「こうえきしんたくん」(内閣府公益信託イメージキャラクター)