2023年7月1日
NPO政策研究所理事
田中 逸郎(豊中市在住)
今年5月、NPO政策研究所の会員有志で、大阪市生野区内にオープンしたばかりの「いくのコーライブズパーク(通称:いくのパーク)」を訪れた。廃校となった御幸森小学校を丸ごと活用し、共生の拠点としてつくられた複合施設である。案内していただいたのは、NPO法人「IKUNO・多文化ふらっと」の理事兼事務局長の宋悟さん。プランづくりから開設、そして運営を担うキーパーソンの一人である(注)。
宋さんは、住民の2割以上が外国人で、差別や貧困など「共生課題の先進地」である生野区の状況や、施設の概要を説明。交流や学びの「機会と場」を提供するいくのパークが、集住地域・コリアタウンに集まる多様な人々(NPO等各種法人・団体、大学、行政、何よりも当事者)のネットワークと尽力により実現にこぎつけたこと、資金面をはじめ課題も多いが、想定以上のボランティアと利用者に支えられていることなどを力説され、私たちの質問にもお答えいただいた。
校舎・体育館、校庭、屋上すべてが活用され、図書室や保育園、農園、アート関連施設や専門学校、NPOや運営の共同事業体である(株)RETOWNの事務所などがある。喫茶やレストラン、地ビール販売といった事業者も参画し、屋上にはキャンプ場やBBQホールもある。さらにK―POPダンスやテコンドーの教室もできるという(詳しくは「IKUNO・多文化ふらっと」のホームページ を参照いただきたい)。
宋さんとともに廊下を渡り、階段を上り下りしながら考えた。
共生課題の解決は政治・行政の責務であり、その役割は大きいが、政治・行政には「マイナスを減らしゼロにする」、すなわち負を減らす取組みはできても(十分にできているとは言えないが)、「プラスの価値を生み出す」ことは難しいだろう。当事者をはじめ多様な人々が出会い、寄り合い、助け合い、支え合うことで、「共生」の価値を生み出すことができる。日本社会のウチとソトの分割線を越えてつながり合う、その壮大な試みの拠点が「いくのパーク」ではないか。これからも様々な困難が押し寄せるだろうが、それらに立ち向かうプロセスにおいて共生の魂が宿り、営みが育まれていくだろう。
たくさんのことを学んだ帰り道、コリアタウンは食やファッションを求めて多くの若者でにぎわっていた。宋さんによると、年間およそ200万人が訪れるという。この地から、どのような価値を創造し発信していくのか。共生の地域社会づくりとは、困難な社会の中で、同時代をともに生きるという行為に他ならない。問われているのは、私たち自身の生き方ではないだろうか。
注)プランの全体像や実現までのプロセスについては、『地域自治の仕組みづくり』(2022年発行、学芸出版社)で紹介しているので参照いただきたい。
@図書室「ふくろうの森」
Aオープン間近の「BBQホール」(屋上プールを活用)
2023年07月01日
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