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2023年03月01日

[NPA隔月コラム]労働者協同組合に目を向けよう:経済的基盤を持った地域民主主義の実現のために

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2023年3月1日
NPO政策研究所会員
関西学院大学名誉教授・大阪ボランティア協会ボランタリズム研究所所長
岡本仁宏(西宮市在住)

2022年10月1日、労働者協同組合法が施行された。NPOを特定非営利活動法人(以下「特活法人」)のことと思う人が多い現状では、労働者協同組合(以下「労協」)とNPOや地域民主主義との関係が分かりづらいかもしれない。2025年9月までは特活法人から労協への組織変更制度があり、NPOセンター等の中間支援団体にとっては移行時の支援が課題となるが、それだけでなく労協への継続的な支援を、業務として確立する必要がある。労協を理解し、地域自治や地域の民主主義の中に位置づけていくことが、地域市民社会にとって非常に重要だからだ。

労協は非営利組織の一類型だが、どんどん儲けてもいい。ただし、投資金額(出資額)に基づく配分ではなく、組合の事業に従事して貢献した、つまり働いた分量に応じて配分される。組合員は出資者であり労働者であり、平等の議決権を持つ。労働者だから最賃法も労基法も適用される。皆でお金を出し合い、皆で仕事をして、仕事に貢献した分量に応じて、もちろん相談して分かち合うのである。特活法人のように従業員と会員とに区別はない。あるいは生協の組合員と従業員が一体化していると言ってもいい。

税制上は普通法人扱いだが、剰余金配当と残余財産非配分などの定款規定等の基準で「特定労働者協同組合」の認定を受ければ、収益事業課税扱いにもなる。3人以上の発起人がいれば登記で設立でき、事業についても、「持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする」のであれば、特活法人のような「不特定多数の利益」という限定や、列挙事業のどれかに当てはめなければならないという要件もない。

厚生労働省は、労働者協同組合法特設ページを設け本格的なサポート体制を取っている。与野党全員一致の議員立法としてできた同法は、行政としても取り組みやすい政治的環境があるのだろう。

大切なのは、地域の仕事づくりのための実に民主主義的な法人格だということだ。経済的なお金の流れ、仕事の組織について、民主的コントロールを行うことは、グローバリゼーションによって困難になっており、地域も自給自足的な経済的自立性は持っていない。そんな中でも、コミュニティビジネスや時間預金、地域通貨などさまざまな形で地域の協働を育む仕組みが模索されてきた。協同組合セクターと呼ばれる労協や生協、農協、漁協といった社会的連帯経済の基盤的組織は、多国籍企業によって圧倒され支配されるのではなく、レジリエンスを持ったしぶとい地域経済の分権的構造を作るうえでの鍵となる。この仕組みは、民主主義的協働を、経済的基礎を持たせるための橋頭堡(きょうとうほ)であり陣地となるものだ。

地域の中間支援団体は、ボランティアや特活法人のためだけのセンターではない。経済的な民主主義についても課題を認識し、解決に向けた力量をつけていく必要がある。労協の歴史は長いが、日本ではできたばかりの制度である。この仕組みの可能性をしっかりと育てていきたい。
posted by NPO政策研究所 at 21:53| Comment(0) | TrackBack(0) | NPAコラム
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