今回のテーマは「NPOと契約2」(契約とは何か、契約書の機能)と題して、前回の「NPOと契約」(https://blog.canpan.info/npolawnet/daily/201502/03)より、少し具体的に契約のお話をしたいと思います。
NPOを運営していると、例えば行政や企業との間で業務委託契約を締結したり、寄付者や支援者との間では贈与契約等を締結したりする可能性があるでしょう。また、ボランティアや理事との間では委任契約を、職員との間では労働契約を締結するのが通常です。そして、受益者との間では提供する役務の内容に従って、請負、準委任や売買契約を、弁護士や税理士との間では委任契約を締結するでしょう。
このようにNPOが事業を推進していくにあたっては、様々な契約をすることが必要不可欠です。そこで、本章で今回は、契約とは何かということや契約書の機能等について述べたいと思います。
○契約書の機能
契約とは、複数の意思表示の合致、すなわち申込みと承諾によって成立する法律行為と言われています。この契約は、契約書がないと成立しないわけということではありません。例えば、八百屋さんで物を売り買いするときの例のように、契約は、原則として、口頭でも成立するのです。世の中にはこのように契約書を作成しない契約も多数あります。ふだんの生活においてお店で物を買う契約などは、ほとんどそうだと言って差し支えないかと思います。
一方で、とくに重要な契約においては、契約書が作成されることが通常です。例えば、家を賃借するときの賃貸借契約などがそうです。
それでは、契約書作成の目的、メリットはどのような点にあるのでしょうか。
1.合意、取り決めの証拠
まず、第1に、どのような合意、取り決めをしたかの証拠となるということです。
確かに、先ほども触れたように、口頭、すなわち口約束でも契約は成立します。しかし、口約束では、後からそんなことは知らないとか決めていないといわれる可能性があります。そのような際に、トラブルをできる限り排除して、お互い何をするべきなのかを明確にする効果があります。
2.債権債務(権利義務)の明確化
第2に、債権債務(権利義務)を明らかにするということです。
債権債務(権利義務)は法律行為、つまり契約で発生します。契約は、法律行為の一つですので、双方の当事者の債権債務(権利義務)を発生させるものであり、また約束をしたのだから守れと言う根拠にもなります。そこで、契約書は、双方のが合意したこと、つまり契約の確認書であり、相手の債権債務(権利義務)とともに、自分の債権債務(権利義務)も明確になります。 その結果、相手方に何を請求できるのか、自分は何をしなければならないかがはっきりするという効果があります。
3.紛争(トラブル)発生時の解決指針
第3に、万一の紛争(トラブル)発生時の解決の指針になるということです。
契約をして、取引等をしているとトラブルや何らかの問題が発生することは比較的よくあります。そのような時でもお互いに話し合ってスムーズに解決できるとすれば、それは大変良いことです。しかし、お互い自分の利益のために主張がぶつかり合って、なかなか解決に至らないというケースもあります。そのような時に、例えば、どういう場合に契約が解除できるのかとか債務が履行されないときに誰がどのような責任を負うのか等、トラブル解決の指針を定めておけば、無駄な争いを避ける効果があります。
このような契約書作成の目的、メリットを考えると、NPOにとって、行政や企業、ボランティアや理事、職員ときちんと契約書を交わし、契約の内容を明確にしておくことは大変重要なことです。
なお、NPOが寄付を受けるときに寄付者との間で契約書を締結することは日本ではあまり一般的ではないかもしれません。しかし、民法上、書面によらない贈与は、履行が終わった部分を除いて、各当事者がいつでも撤回できることになっていますので(民法550条)、希少性の高い物品の寄贈など、団体の存続にとって重要な財産については、口約束で済ませずに契約書を作成したほうがよいケースもあります。
万一のトラブルに備え、きちんとした契約書を作成しておくことは、リスク管理の第一歩となります。もし、契約書の作成等にあたって不明なこと、分からないことがあればいつでもご相談いただければと思います。
今後ともNPOのための弁護士ネットワークをよろしくお願いします。
(中山)