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2017年01月13日

12/15 志的勉強会レポート!テーマは「成長戦略としてのNPOの人事評価」

 こんにちは! NPOのための弁護士ネットワーク代表の樽本です。
 日本財団Canpanセンターと共催している「NPOのための志的勉強会」では、2016年10月、12月と連続してNPOの人事評価制度に関する論点を取り上げました。今回は12月15日に開催された志的勉強会の様子をご報告します。
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○12月15日(木)第22回志的勉強会
「先行事例と運用のプロに学ぶ! 成長戦略としてのNPOの人事評価」
 発表者 低引稔氏(NPO法人カタリバ 経営管理本部ディレクター)
山元浩二氏(日本人事経営研究室株式会社代表取締役)
 モデレーター 樽本哲(弁護士、当ネットワークメンバー)

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 昨年10月の前回は、NPOに人事評価は必要なのか、仮に導入したとして実際に役立つのかということを検証するべく、上場企業の勤務経験もある社労士の家村さんに人事評価の目的、手法などの基礎をご講義いただくとともに、当ネットワーク所属の米田弁護士には、メールでのアンケート結果の共有、比較的規模の大きい3つのNPO法人の人事評価制度に関するインタビュー結果の報告、評価制度導入に際して想定すべき法的リスクについて発表をしてもらいました。

 今回は、人事評価の導入の是非から一歩進んで、NPO法人が人事評価制度を導入するべきタイミングはいつなのか、制度導入後の運用段階ではどういう点に気を付ければよいのかを掘り下げることにしました。
 勉強会冒頭に樽本から簡単に前回の振り返りと情報共有をした際に投影した資料(PDF)を貼り付けておきます。
 20161215冒頭スライド.pdf 
 最後のページに事業発展段階のフェーズに関する資料がありますが、人事評価制度が有効に機能し始めるのは、営利・非営利に拘わらず、「小さな成功モデルが確立し、事業が拡大をはじめ、組織運営の効率化が求められる段階(この資料でいう第3フェーズくらいから)」ではないか、というのが本日議論したい仮説でした。
 本日の発表者のおふたりは、この辺りどのように感じているのか……。発表の要旨は以下のとおりです。

1.NPO法人カタリバ 低引さんの発表
20161215-01.jpg
 低引さんには、NPO法人で実際に人事評価制度の設計・運用に携わっている経験を語っていただきました。人事評価制度の導入は2014年4月。導入のきっかけは、事業所が被災地などの遠方を含め複数になり、組織の機能分化が進んできたことで、スタッフからどんな働き方をすれば評価してもらえるかを知りたいとの声が出てきたことでした。そこで、スタッフが一丸となって組織が目指す方向に進んでいけるように、団体の理念を体現できるような人事評価制度を導入することにしました。支援者の中に人事関係の会社出身の方がいたので専門家として加わってもらい、プロジェクトチームで議論を重ねて制度設計を進めました。

 運用にあたっては、しっかりとした基準(ジョブグレード表)や評価ツール(キャリアプラニングシート)を使って評価をしており、評価結果は本人にフィードバックするのはもちろん、人事考課や賃金決定の根拠資料としても活用しているとのことです。前回のアンケートでは、人事評価の結果を昇進・昇格や昇給と(完全ではないにせよ)連動させている団体は皆無でしたので、NPOでここまで徹底しているケースはまれなのではないでしょうか。

 しかし、運用を重ねているうちに課題も見えてきました。個々のスタッフが評価ツールに掲げる目標の高さがまちまちで、達成度合いをどの程度評価に反映させれば公平なのか悩ましい場合があること、各事業所に散らばっている評価担当者の評価水準のすり合わせが簡単ではないこと、制度設計当時団体が掲げていた組織理念がアップデートされたのに新しい理念を評価基準にまで落とし込めていないことなど。評価のPDCAを回していくうちに、徐々に既存の制度でよいのかという疑問が生まれ、現在はその疑問や課題に対応するべく、評価制度の改善に挑んでいる真っ最中だそうです。

 冒頭に述べた仮説との関係では、人事評価制度導入の時期が注目されます。組織が大きくなり、複数の事業所でいくつもの事業を運営するような段階に至り、人事評価の基準づくりがスタッフからも求められるようになってきたことで、導入に至っています。人事評価が有効にワークする時期がこのタイミングだったのではないかと考えられます。

 低引さん、わずか30分足らずの時間でたくさんの貴重なお話をありがとうございました。


2.日本人事経営研究室株式会社 代表取締役 山元さんの発表
20161215-02.jpg
 次に発表いただいたのは、人事評価制度専門コンサルタントとして、これまで390社もの企業の人事制度の導入・運営を手伝ってきた山元さんです。残念ながらNPO法人にコンサルをした経験はないということでしたが、人事評価制度の必要性・有効性は法人形態には関わりないというのが本日の仮説の前提です。中小企業に対するサービス提供で培われたノウハウをどうすればNPOに活かすことができるのかという観点で話をうかがいました。

 山元さんのお話で特徴的だったことがいくつかありましたが、なるほどと思ったのは、人事評価は人材育成の仕組みであって評価結果を賃金に反映させなければならないとの思い込みは間違いだということ、人事評価制度の導入においては最低でも3回はトライアル評価を行い、評価者の評価に部下が納得できるレベルに達するまで正式導入はしてはいけないということ、その上で評価制度にスタッフから不満が出てきたらそれは改善のチャンスで不満が出てこないと良い評価制度はできないということでした。そして、人事評価制度はどんどん変えていいし、変わっていかないといけない、とも強調していました。カタリバでもまさに同じことが起こっています。カイゼンやスクラップアンドビルドが人事評価制度のあるべき姿なのですね。

 なお、彼は仕事を受ける際の最低条件として、代表者が評価制度導入にしっかりとコミットすることを求めていて、なおかつ設計・導入だけのコンサルはしないそうです。代表者が中途半端に関与したり、導入だけで満足して運用をきちんとしないと導入しても100%失敗に終わるからだということです。プロとしての本気度が伝わってきますね。

 次に、評価者による評価がいかに属人的なものになりがちかということを学ぶことのできるワークを行いました。評価基準と評価期間中のスタッフの仕事ぶりが記載されたシートを使って各自評価をしてみたところ、結果はバラバラ。現実ではスタッフの仕事ぶりを文章化する段階ですでに評価者の視点が入り込むおそれがあるため、より複雑な作業になります。評価を公平に行うということがどれだけ難しいかを体感できる貴重なワークでした。

 配布資料としても、顧客企業で実際に使用している評価ツール集(評価基準、評価シートの記入例、育成シート(評価者2名と本人の自己評価が記載されて比較できるもの)、目標設定・振り返り用のチャレンジシート(記入されたサンプル)、さらに山元さんが開発したビジョン実現シートのサンプルなど、参考になる資料が多数配られ、それらの多くがNPOでも十分応用ができるものでした。

 もっとも、利潤追求を目的とせず、ときには自らの身を危険にさらしながら社会課題の発見や社会への伝達、解決を使命とするNPOやソーシャル企業の場合、その理念をどういう風にスタッフの業務目標にブレイクダウンすればよいのか、個々のスタッフの目標達成が組織の目標達成に繋がるようにするにはどのような評価基準を設ければよいのかという点では、NPO独自のノウハウや工夫が求められるということも感じました。

 山元さんもわずか30分しかない中で、貴重なお話をありがとうございました。
 山元さんが書かれている書籍「図解3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度の作り方」(あさ出版)には人事評価導入と運用のノウハウや書式がたくさん紹介されています。よろしければ手にとってみてください。


3.参加者からの意見
 カタリバ低引さんのお話に対しては、人事評価制度を運用する担当者としての悩みや工夫を共有してもらえてとても参考になったとの意見がありました。山元さんのお話やワークに対しては、人事評価制度は運用が大事と言われているがその意味がよくわかったとの意見が寄せられた一方で、NPO法人に応用するにはかなりの経験値やノウハウが必要になるのではないかとの声もありました。また、大企業に所属して人事評価に携わったことのある方からは、今日紹介された人事評価の仕組みは必ずしも目新しいものではなかったが、運用をサポートしてくれる外部の専門家の存在は人事部を持たない組織には有効だと思うといった感想も寄せられました。

 長文になりましたが、2回に渡って開催してきたNPO法人の人事評価制度に関する志的勉強会の報告は以上です。NPO関係者の皆さんの参考になれば幸いです。

 弁護士ネットワークは、これからも直接法律に係わる問題だけでなく、幅広くNPOの運営や組織にかかわる問題、ファンドレイジングや広報、事業や契約にまつわる問題について、研究と発表を続けていきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(樽本)
posted by 樽本 at 17:50| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント情報
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