荒廃した山林が増えている!

日本の国土面積約3,779万haに占める森林面積の割合は66%(2,510万ha)、そのうちの41%(1000万ha)が人工林です(林野庁:2012年3月31日現在)。人工林とは、人の手で苗木を植えて育ててきた森林のこと。とくに戦後は、経済発展に伴う木材需要の増加、伐採跡地における災害の発生防止などのため、スギやヒノキといった針葉樹が積極的に植えられ拡大していきました。
「木は昔から、50〜60年サイクルで利用、植え替えされていました」と話すのは、山造り研究所・代表の鬼頭志朗さん。
「ですが、手入れをする人、できる人が非常に少なくなり、放置されたまま、荒れた山林が増えているんですよ」
山林が荒廃すると、木(木材)だけでなく山全体の価値が低下する、下層植生(林床に生える下草など)が減少し生物の多様性が低下し、自然災害に対しても脆弱になるといった問題が出てきます。「2000年の東海豪雨のときには、いなべ市でもあちこちで土砂崩れが起きました。これは、山が荒れていたと考えられています」
※写真「年輪から環境の変化がわかる」
「山がおかしい」きっかけに林業の世界へ

山を元気にしたい。強い思いで活動を続けている鬼頭さんですが、もともとは林業とは全く関係のない商社に務めるビジネスマンでした。「当時は出張が多く、日本中を飛び回っていました。山間部の電車やバスに乗ることもしょっちゅう。それらの車窓から見える山々に違和感を覚えたことが始まりでしたね」。怖いほどの暗い山の中。たくさんの倒れた木。鬼頭さんは「何かおかしい」と感じたそうです。
そんな時に巡り合ったのが、元信州大学教授・島ア洋路先生が書かれた『山造り承ります』(川辺書林)という一冊の本。
同書に書かれた森林再生論、易しい山づくりに共感し、さっそく島ア先生に連絡をとったのだとか。そして、2000年に同氏が立ち上げに携わり、特別講師を務める長野県伊那市の「KOA森林塾」に入塾します。
「塾には2年間、とくに後半の1年間は毎月伊那へ通い、林業・林学、森林整備に関わる技術的なことなどを学びました」。入塾の翌年には、KOA森林塾で共に学んだ仲間たちと「足助きこり塾」(愛知県豊田市)を設立し、林業の実践技術を学びながら森林ボランティア活動を展開。また、矢作川水系森林ボランティア協議会(豊田市)の設立実行委員、森林ボランティアグループ森づくり三重の事務局員を務めるなど、一気にさまざまな活動をスタートさせます。
その後も森の健康診断全国出前隊(*1)の講師、木の駅プロジェクト(*2)設立実行委員と、精力的に活動の場を広げていく鬼頭さん。これらを、会社勤めと両立していたといいますから驚きです。
「平日はビジネスマン、休日はボランティア。全く違うことをしていたのでリフレッシュでき、ストレスも溜まりませんでしたよ」と笑います。
*1 森の健康診断:人工林の健康度を観察や測定して調べ、それを
数値化。科学的なデータをもとに、市民と研究者が今後どのように
森林を手入れをしていったらいいかを考える取り組み。
*2 木の駅プロジェクト:森林整備と地域経済の活性化を目的とした
事業。
※写真「木材出荷のために長さを測って玉切りする鬼頭さん」
人と人とがつながって−−点が面に

山造り研究所を設立したのは、2014年のこと。翌年に定年退職、いよいよ本格的な「山守り林業」を始めます。「依頼があれば、山の境界確認・森の健康診断をして、それから間伐などを行います。もちろん、伐った木は山から出して使います。しかし、それらの作業をすべてこちらでしてしまうわけではありません。あくまで主体は山主さん。チェーンソーなど使えない人が多いですが、まずは山に入ってもらい、いずれ自身でも手入れができるようになってもらいます。一緒にやっていくことが前提です」
山の境界を確認するときには、隣接する山主さんたちにも来てもらうといいます。「一緒に山を見て回っていると、いつの間にか『うちの山も手入れしてほしい』と次の依頼へつながることもあるんですよ」。ビジネスマン時代も、クライアントと話をしているうちに「実はうちの山が……」「こういう山があるんだけど……」など依頼・紹介を受けることがあったという鬼頭さん。「人と人とがつながって、口コミで広がっていきました。点が線になり、面になっていくような感じですね」
点が面になる。これは、山造り研究所の活動の仕方にもつながっています。「現在、スタッフは3人と小規模ですが、これぐらいで十分です。山は、地元の人たちが守れるようになればいい。小さなグループを各地に作り、それらがつながって大きな動きになればと思っています」
※写真「手入れすると光が入る森」
山を守り、流域の人たちとつながり支え合う

今回の取材では、整備中の山林に入らせていただきました。
間伐前と間伐後では、日の差し込み方が全く違うことも実感。
「間伐をして日の光が地面にまで届くようになれば、木が太く成長し、下草も生えるようになります。そうすると、木を材木として使えるようになる、多様な生物が棲むようになる、山崩れなどの災害を防ぐ、と森が生き返るわけです」。森は川の源流でもあるので、水がおいしくなるというメリットも。
「森を資源の宝庫にしていきたい」と鬼頭さん。
「いなべの山を手入れしていくことで、森や人、地域が元気になる取り組みを広げて、員弁川(いなべがわ)流域全体が山からの恵みを受けながら、互いに支え合える
つながりをつくりあげたいですね」と抱負を語りました。
山造り研究所では、年に10回ほど「いなべ山造り塾」を開催。山の境界の調べ方、チェーンソーの使い方、木づかいと製材についてなど、山の手入れが気軽に始められる知識や技術を身につける講習会をおこなっています。今年も5月から募集をはじめます。参加希望の方はホームページをご覧ください。
そして、いなべ市でも木の駅プロジェクトを始める実行委員準備会が発足しました。
更に、小中学校での「子どもの森の健康診断」も進めており「世代を越えて山への想いをつなげていくためにも、もっと広げていきたい」としています。教員向けの研修会も開催しているとのことで、今後の広がりが楽しみです。
※写真「いなべ山造り塾「安全講習会」」
「山造り研究所」の主な活動
- 1. いなべ市内の山林や里山林の間伐など整備
- 2. 間伐材の有効活用(木づかい・木育)などの研究・実施
- 3. エネルギーの自給自足、地産地消などの研究・実施
- 4. 山仕事に関する安全講習会、間伐体験などの開催
→「山造り研究所」HPへ
鬼頭さんより一言!

山造り研究所では、いなべ市で始める新たな取り組みとして「木の駅プロジェクト」を地元のみなさんと準備しています。
また、いなべ山造り塾、安全技術講習会なども企画しています。
山づくりや山の手入れに関する相談も大歓迎!
今後の活動状況などは、山造り研究所のホームページからご案内やFacebookなどでお知らせします。
興味のある方は、そちらからお問い合わせください。
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