自立のための道具の会
リサイクル×途上国支援=?名古屋から1時間ほど車を走らせた豊田市の北西に位置するあさひ製材協同組合。製材されるのを待つ丸太の山々とリフトやコンベアーの中、その一角に「自立のための道具の会」の事務所はありました。 自立のための道具の会では、全国各地の使わなくなった道具を集め、修理・手入れを施した上で、それらの道具を主に開発途上国の「必要としている方々」に提供することで、現地の方の生活基盤の確立や自立をサポートしています。 「使えるけれど必要でなくなったモノと、それらを必要とするヒトをつなげる」というリサイクルと途上国支援とを重ね合わせたこの活動。そのスタートは今から22年前の1993年のことでした。 他国発祥の活動を日本でも![]()
自立のための道具の会のルーツは、イギリスにあります。使わなくなった道具の提供を呼びかけ、アフリカを中心とする開発途上国に届けるTools for Self Reliance UK(TFSR UK)という団体で1979年から活動を行っていたグリン・ロバーツ氏が1993年に来日、名古屋市や豊田市で講演会を開催しました。この講演会の企画者と参加者の有志とが同年9月に「自立のための道具の会・TFSR Japan」を立ち上げました。今回お話を伺った理事兼道具統括部長の鈴木禎一さんもこの設立時からのメンバーです。 当初は独自事業を行うというのではなく、他の団体が開催するイベントを見つけてはそこに相乗りする形で道具の提供をお願いしていたといいます。それを続けるうちに、他に例のない活動であったことから、テレビや新聞等のマスコミに積極的に取り上げられ、会員や道具提供者が全国各地に増えていきました。 集まった道具は、道具修理のワークショップにて、仕分けや動作確認、修繕を行い、最後に一つ一つ想いを込めて磨いた後、タイ、スリランカ、インド、バングラディシュ、カンボジア、フィリピンなどに発送されます。届けた道具類の数はこれまでに2万数千点を超えるといいます。 課題から生まれた独自の支援鈴木さんは20年にわたる活動の経緯を楽しそうにお話ししてくださいましたが、そのお話からは、事業が幾度となく課題に直面し、それを柔軟に乗り越えてきた、決して平坦ではない会の歴史を垣間見ることができました。 その一つをご紹介すると、ある時、現地から「送ってもらった道具の使い方がわからなくて困っている」という声が届いたといいます。日本製の道具は、世界基準では特殊な部類であるため、現地の道具とは使い方が異なるものも多いそうで、例えば、日本ではのこぎりは引いて使いますが、欧米をはじめとする多くの国では、押して使うのが一般的なのだといいます。こうした状況を考慮せずに、日本で余っているからと言って道具を送っても、現地の人が使い方を知らないのでは、せっかくの善意も無駄になるだけでした。 こうした声を聞いた鈴木さんたちは、道具を送るたけでなく、それらの正しい使い方を教えることのできる専門家をセットで派遣する取り組みを開始します。専門家派遣事業と名付けられたこの事業で、ストリートチルドレンにバイクの修理道具を送るとともに、現地の学校の授業の一環として、大工や家具作り職人等の専門家を派遣し、技術訓練を行うなど、道具を送るだけでは叶わなかった、途上国の子供たちの職業選択の幅を広げる独自の支援が誕生することになりました。 年を重ねた先駆的活動上記のような活動の財源は、会費や寄付金もありますが、その多くは行政や民間の補助・助成金の活用で賄われています。そのため、補助金や助成金が獲得できない場合は、事業規模を縮小したり、実施できなかったりすることになります。鈴木さんによると、東日本大震災以降、国内活動への補助・助成金が増え、途上国支援分野の助成金は減っているようで、昔と比べ格段に助成金の獲得が難しくなっているそうです。 また、活動開始から20年を超え、当時40〜50代だったメンバーも現在では60〜70代と高齢化しています。高齢のため会員を続けられないという申し出も増え、ピーク時には300名を超えていた会員数も現在は80名ほどに。活動に参加してくれる会員さんとなるとその数はぐっと減るといいます。 課題が新たな展開への第一歩資金調達の難航と、メンバーの高齢化、会員の減少という3つの課題を抱える自立のための道具の会ですが、これからどのように会の課題を解決していくのでしょうか。 鈴木さんは「今悩んでいるところ」と前置きしつつも、今後の計画として、来年度実施予定のブータンでの専門家派遣事業において、クラウドファンディングを活用し、活動の賛同者の拡大と資金調達力の向上を図っていくつもりだと教えてくださいました。 どんな活動にも課題はつきものですが、専門家派遣事業が誕生した経緯などをお伺いしていると、課題に向き合い、打開策を考えていく姿勢を持ってさえいれば、課題は新たな展開へのステップにすぎないのかなとも思わされます。 「課題にぶつかり、それを乗り越える」という一連を、これまでの20年を超える活動の中で何度も繰り返してきたであろう鈴木さんは、会の課題についてお話ししているときでさえも、どこかわくわくしているように見えたのでした。 「自立のための道具の会」の主な活動
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