ヒトもモノもカネもない
三重県は鈴鹿市内にある加佐登神社境内の鎮守の森で、バリアフリーな遊歩道作りを行っているボランティアセンター・ラブリーフォレスト(以下ラブリーフォレスト)は、これまで訪問した市民活動団体の中でもとりわけ異色の存在です。
主要メンバーは一人。事務所はない。事業収入もない。一見すると事業に不可欠と言われている「ヒト・モノ・カネ」のどれもが足りていない印象を受けてしまいます。それでも2001年の設立から10年以上も活動を継続できているのはなぜだろう?代表の前出さんにお話を聞いていくうちにその謎が解けていきました。
足りないものは自分で補う

活動の発端は、大学院で研究していたアメリカの森林ボランティアの仕組みに感動した前出さんが、日本でも同様の仕組みを構築できないか、と実証研究フィールドを探していたところ、縁あってこの地をフィールドに選んだところから始まりました。当初は大学院の仲間を募り20名ほどのメンバーで活動するも、半年に満たない期間で他のメンバーは離れてゆき、以降はほぼ前出さん一人で活動されています。
資金やモノや人手が足りない中でも、倉庫が必要なら自力で建て、重機が必要なら実家から譲り受け、修理代など突発的な必要経費は助成金でまかなうなど、自分の力とつながりで不足分を補ってこられました。
市民活動に最も欠かせないもの
上記のように着実に活動を進めていった前出さんですが、一度だけその歩みが止まることがありました。それは我々地域の未来・志援センターが事務局を務めたリコー中部の環境活動助成制度「エコひいき」で助成先に選ばれ、リコー中部の社員さん達がラブリーフォレストの活動に参加した時のこと。多くの人にこの神社の自然を知ってもらうことができ、地域の方々も喜んでくれるだろうと考えていた前出さんの思いに反して、地域の方々からは活動を非難する声が届いたといいます。地域の方々からすれば「よそ者が地域に話もなく人を集めて何かやっている」ように見え、地域の方々の中に活動に対する不信感が生じてしまいました。
地域との信頼関係がないと活動は続けられないと感じた前出さんは、宮司さんや地域の人に意見をもらい、お祭りや町内会の宴席といった場にお酒を奉納したり、自力でできてしまう事でも地域の方に関わってもらう余地を用意するなど、積極的に地域へのアプローチを重ねていきます。その結果現在では、活動への賛同者も増え、地域から道造りの材料である木材や土、打ち合わせスペース、人手の提供の申し出が来るまでになっています。
持たない豊かさ
ヒトもモノもカネも持たないラブリーフォレストですが、持たないことがつながりを作るための大きな要素になっているようです。お金というのは便利なもので、つながりがなくてもお金さえ出せばヒトもモノも手に入る世の中です。また逆も然りで、つながりがあればお金がなくてもヒトもモノも調達することが可能であると言えます。
多くの市民活動団体は普通「無いけどやらなきゃならない」からのスタートです。そこから事務所を持とう、とか、事務員を雇おう、というふうに団体の所有物を増やして、その維持のためのお金が必要になる、というのが一般的な団体の流れではないでしょうか。けれども、発想を転換して、持たなくても成り立つ仕組み(=地域のつながりに支えてもらう)を考えることの中にこそ、持続可能な市民活動のヒントが隠れているように思った今回の訪問記でした。
前出さんより一言

「完成した鎮守の森の『バリアフリー遊歩道』を多くの皆さんに利用して頂きたいです。これからも頑張ります。」