10月20日「有機農業・農産物の“いま”を知る パートU」講演会の報告 [2015年10月23日(Fri)]
市民キャビネット農都地域部会は、10月20日(月)夕、「食・農・環境 講演会」として、「有機農業・農産物の “いま” を知る パートU 〜多様な視点で現状を学び、未来を語る」を開催しました。
→イベント案内 →講演会レポート(PDF) 3月の「有機農業・農産物の “いま” を知る 」講演会では有機JAS認証を取り上げ、その仕組みや有機農家の約三分の二が認証を取得していないなどの現実を知りました。2回目の今回は、3名の生産者の方々から、有機農業の現状についてお聞きすることにしました。 |
会場の港区神明いきいきプラザに約50名の参加者が集まり、講演と質疑、パネルディスカッションと意見交換が行われました。
第1部は、お二人の講演でした。 最初に、國學院大學経済学部教授、NPO法人日本有機農業研究会理事の久保田裕子氏より、「有機農業の現状と課題」のテーマで、お話がありました。 久保田氏は、消費者問題に長く関わり有機農業運動や食料・農業問題を研究するお立場から、有機農業を推進していくための課題について説明をされました。 →久保田裕子氏の講演資料(PDF) 次に、魚住農園代表、NPO法人日本有機農業研究会副理事長の魚住道郎氏より、「『有機JAS非取得』農家の取り組みについて」のテーマで、お話がありました。 魚住氏は、茨城県石岡市で有畜複合経営の有機農業を実践する野菜と鶏卵の生産農家です。売り買いの関係を超えた「自給農縁」を結ぶため農園を消費者に開放し、世直しとして有機農業を行っておられます。実戦の中から、土壌は微生物による病原菌耐性や放射性物質を吸着する団粒構造を持つことを知り、病虫害対策や放射能汚染対策として有機物施用の効果があることなどを説明されました。 →魚住道郎氏の講演資料(PDF) 第2部は、「有機農業の多彩な取組みを学び、将来を論じる」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。 第1部で講演された久保田裕子氏にコーディネーターをお願いし、パネリストは、同じく魚住道郎氏と、有井農円代表、NPO法人霜里学校理事の有井佑希氏、明石農園代表の明石誠一氏の3名でした。 まず、有井氏から、金子美登氏の霜里農場の研修生を卒業して埼玉県小川町下里地区で、「地場産業と共に栄える町づくり」をめざして地元の豆腐工房や酒蔵と提携し有機農業を行っていること、東京のレストランや地元の保育園に共同出荷していること、下里では集落の販売農家がすべて有機農業に転換したこと、霜里学校の理事として有機野菜塾を行っていることなどのお話がありました。 →有井佑希氏の説明資料(PDF) 続いて、明石氏から、埼玉県三芳町で、家族とスタッフ、研修生、障碍者施設の関係者の協力で、無肥料自然栽培を実践していること、消費者とのつながりとして、個人宅配や農業体験スクール「ソラシド」、畑などの体験学習を行っていること、今後の展望としてノウフク(農福)連携を考えている、多様で平等な自然と農的暮らしの基盤に人の社会がある、障がい者との関係を深めて農や自然をもっと取り入れた社会になってほしいなどのお話がありました。 →明石誠一氏の説明資料(PDF) パネルディスカッションの質疑や意見交換では、次のような応答がありました。 ○保育園に有機農産物が広がりつつある。学校給食にも有機が取り入れられればいいが? ・全国で、保育園の給食に取り入れられている。慣行農業から有機へ転換する農家が出てきている。 ○有機野菜は富裕層しかなかなか購入出来ないのではないか? ・貧困の子ども達に食事を楽しく食べていただく「子ども食堂」にお野菜を提供している。そのことで、お金のある人から無い人への富の循環にもつながっている。 ・作る人と食べる人は運命共同体という意識が、広く浸透してほしい。 ○流通が有機を取り入れ始めているが? ・丹精込めた産品であり、もちろんスーパー等へも売る。しかし、海外などから安く入るようになると取引を切られてしまう。大手との取引は、特定品種に生産が偏る。一品運動がとん挫した例もある。 ・自力で売るベースを確立したうえで、流通へ流すようにしている。 ○有機のマーケットが小さい中で努力にも限りがある。しかし、2020年オリンピックではオーガニック食材の要求があり、国際的な対応が必要と思うが? ・これからの話ではあるがチャンスと捉えている。 ・霜里では研究会を発足させた。 ・オリンピックはフクシマの復興、汚染対策を基軸に考えてほしい。 ○若い人たちは参入して来ているが、有機を増やすには、年配者は慣行農園の方々に転換してもらうのが良い。先進的な有機生産者には、農産物をできるだけ高く売ってもらえば、後に続く人たちが助かると思うが。 ・非常に重要な視点だ。 ・明日からの企画を考えてみたい。 ・百聞は一見に如かず、一度小川町に来て、皆、大地から生命をもらって生きていることを実感してほしい。 アンケートへ多数の参加者から回答をいただきました。 第1部の講演については、「実戦が伴った魚住さんの話は有意義でした」、「魚住さんのなぜ有機農業なのか、有機栽培をしているのかにとても共鳴しました」、「有機農業と放射能の関係に関心を持った」などのご意見がありました。 第2部のパネルディスカッションについては、「分かりやすくて良かった」、「広め方という壮大で難しい議題であり、もっと時間が欲しい」、「有機JASを取る農家が少ないことを初めて知った」、「若い女性、男性ががんばっている姿を見て心強く思った」、「若い世代の新規就農が増えることを期待したい」、「慣行農家との共存の話に共感した」、「明石農園のノウフク連携はとてもいいと思う、お金と福祉のバランスが大事という点」などの感想がありました。 今後取り上げてほしいテーマについては、「消費者との交流活動について聞きたい」、「いままで有機農業に関心のなかった人、接点のなかった人たちを惹きつけるような活動をしている方のお話を聞きたい」、「若者が農業分野に触れる機会は少ないので若者が興味を持つ場、農業を知る場が必要。初心者でも取り入れやすい農のやり方が知りたい」、「多数の病人を抱える日本で食の安心・安全をテーマに今後の農業のあるべき姿について聞きたい」、「農業参入の徹底指導に特化してはどうでしょうか?」、「農業と環境、とりわけ生物多様性など森林の恵みを取り上げて」などの要望がありました。 →講演会レポート(PDF) 今回も盛況な講演会となり、有機農業の現状への理解がいっそう進み、多様な視点から普及の方法と課題を考えられたとても有意義な機会になったと思います。 講師並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
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