『オカルト化する日本の教育―江戸しぐさと親学にひそむナショナリズム』
『オカルト化する日本の教育―江戸しぐさと親学にひそむナショナリズム』
(原田実著、2018年、ちくま新書)
「江戸しぐさ」については、かつて岩国でも講演会が開催されたときがあり、私としては当時、そういう習慣が江戸にはあったのだろうけど、今「江戸しぐさ」をことさらに取り上げる人は、それを安易に自分の思い通りに人を教育しようとする手段として利用している感じがして危ういのでは、という趣旨の記事を2010年5月18日(記事名:「江戸しぐさ」を持ち上げる人の危うさ)に書いたこともあり、ずっと気になっています。
その後、実は「江戸しぐさ」というのはどうも実在したものではなく、昭和生まれの現代人による作り話であって、普通の論文などに取り上げられることはないということを知ったのですが、この本は、その「江戸しぐさ」が、親学というあやしい考え方に取り入れられて、さらに変節をしていくということ、その根っこに安易なナショナリズムがかかわっていることを詳しく解説してくれています。
「江戸しぐさ」は史実ではないのに道徳の教科書に取り上げられたりしているし、親学は、例えば普通に岩国でも短期大学で取り上げられるほどポピュラーで、ともに、一見すると、いいことを言っているような気もするところがミソで、著者がいみじくも、
「「江戸しぐさ」や「伝統的子育て」は、作り手が、自分たちの過去の経験を理想化し、さらに過去に投影して伝統だと言い張るだけの代物である。それを歴史的事実として扱ったり伝統と称したりするのはノスタルジーの歪んだ発露にすぎない。」
と書いているように、自分のわずかな経験を敷延して、明確な根拠もなく、昔は素晴らしかった、それを取り戻すことによって、より素晴らしい日本になる、という安直な考え方のようだと言うことがわかります。
さらに、共通の背景に陰謀論などもあるようで、さらにややこしくなります。私は、陰謀や神秘的なことが全くないといっているわけではなくて、陰謀や神秘的なことは確かめることが難しいため、そこで思考がストップしてしまうことに一番の問題があると思っています。なので、このブログにも「23神秘主義を排す」というカテゴリーを設けているほどで、陰謀論をことさらに言う人とは、議論が続かなくなる(それは、○○という団体が暗躍しているからだということで終わってしまう)ので困ります。
いずれにしても、「江戸しぐさ」や親学は、いわゆる右派左派に限らずそれぞれの思惑や解釈で賛同する人が多いようで、根拠が明確でないだけに逆に根深く、本を読んでいると魑魅魍魎の世界に入ってしまいそうで一筋縄ではいかないことがわかります。
最後のほうで、同じ流れの中で、最近テレビなどでもことさらに取り上げられることの多くなっている縄文時代についても、取り上げていて興味深い。
教育にかかわる人は読んでおいて損はないと思います。
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(原田実著、2018年、ちくま新書)
「江戸しぐさ」については、かつて岩国でも講演会が開催されたときがあり、私としては当時、そういう習慣が江戸にはあったのだろうけど、今「江戸しぐさ」をことさらに取り上げる人は、それを安易に自分の思い通りに人を教育しようとする手段として利用している感じがして危ういのでは、という趣旨の記事を2010年5月18日(記事名:「江戸しぐさ」を持ち上げる人の危うさ)に書いたこともあり、ずっと気になっています。
その後、実は「江戸しぐさ」というのはどうも実在したものではなく、昭和生まれの現代人による作り話であって、普通の論文などに取り上げられることはないということを知ったのですが、この本は、その「江戸しぐさ」が、親学というあやしい考え方に取り入れられて、さらに変節をしていくということ、その根っこに安易なナショナリズムがかかわっていることを詳しく解説してくれています。
「江戸しぐさ」は史実ではないのに道徳の教科書に取り上げられたりしているし、親学は、例えば普通に岩国でも短期大学で取り上げられるほどポピュラーで、ともに、一見すると、いいことを言っているような気もするところがミソで、著者がいみじくも、
「「江戸しぐさ」や「伝統的子育て」は、作り手が、自分たちの過去の経験を理想化し、さらに過去に投影して伝統だと言い張るだけの代物である。それを歴史的事実として扱ったり伝統と称したりするのはノスタルジーの歪んだ発露にすぎない。」
と書いているように、自分のわずかな経験を敷延して、明確な根拠もなく、昔は素晴らしかった、それを取り戻すことによって、より素晴らしい日本になる、という安直な考え方のようだと言うことがわかります。
さらに、共通の背景に陰謀論などもあるようで、さらにややこしくなります。私は、陰謀や神秘的なことが全くないといっているわけではなくて、陰謀や神秘的なことは確かめることが難しいため、そこで思考がストップしてしまうことに一番の問題があると思っています。なので、このブログにも「23神秘主義を排す」というカテゴリーを設けているほどで、陰謀論をことさらに言う人とは、議論が続かなくなる(それは、○○という団体が暗躍しているからだということで終わってしまう)ので困ります。
いずれにしても、「江戸しぐさ」や親学は、いわゆる右派左派に限らずそれぞれの思惑や解釈で賛同する人が多いようで、根拠が明確でないだけに逆に根深く、本を読んでいると魑魅魍魎の世界に入ってしまいそうで一筋縄ではいかないことがわかります。
最後のほうで、同じ流れの中で、最近テレビなどでもことさらに取り上げられることの多くなっている縄文時代についても、取り上げていて興味深い。
教育にかかわる人は読んでおいて損はないと思います。
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