『気候適応の日本史 人新世をのりこえる視点』
『気候適応の日本史 人新世をのりこえる視点』
(中塚武著、2022年、吉川弘文館)
いろんな意味でチャレンジングな本です。
現在、人類ばかりか地球の存続さえ危ぶまれている地球温暖化の問題について、より広い視野で考えていこうということで、著者もかかわって近年急激に研究の進んでいる過去数千年におよぶ高時間分解能(年単位)での気候変動の復元研究(古気候学と呼ばれる)を紹介しています。
気候変動は古来から、数年単位で起こる「短周期」の変動、数十年周期で起こる「中周期」、そして、数百年から数万年かけて起こる「長周期」の変動があり、そのそれぞれと人間社会への影響について書かれていますが、特に数十年周期で起こる変化が、一人の人間の記憶を超えるために、文献などに残りにくいわりに、大きな影響を及ぼしていることに言及しています。
今、NHKの大河ドラマで取り上げられている平安から鎌倉の時代についても例示があります。平清盛が権力を収めた1150年代は、それまで数百年かけて徐々に進んでいた寒冷化が突然終わりを告げ、空前の温暖化が起きた時代であり、この時の温暖化は現在の地球温暖化と違って水害や干ばつなどが少なく農業生産力が大きく向上したことが背景にあって、地方からの租税徴収組織としての武家の地位が向上していったという可能性も指摘されているようです。そして、1170年代からは再び寒冷化が進んで気象災害が頻発するようになり、それまでの豊作を享受していた人々が困窮化し、混乱した中でその責任を取らされて平家が滅びたという面もあるとのこと。
これまで歴史研究の中では、社会システムの内的要因が自己展開する過程であるという考えが主流であり、外的環境に求める態度は「環境決定論」として等閑視されてきたようですが、最初に書いた古気象学が連続的で高解像度の気象データを提出できるようになってきて、社会現象との関連性が比較できるようになってきたため、外的要因の一つである気候変動も、内的要因と同じ目線で分析していくことができるようになってきたようです。
そのうえで、気象データは、「データ品質の安定性」と「現象の反復性」があることから、過去に起こった事例から、成功例や失敗例を学びやすいという点で著者がこれからの研究に期待しているようです。
簡単な例でいうと、気象が安定しているときには、その状況に過適応してしまい、それまで微高地に住んでいたのを低地にまで居住域を広げてしまい、その後の変動期に風水害などの影響を大きく受けてしまったりということがあって、安定しているときの生活の仕方こそが大切であるといった具合です。
歴史専門で、文献や遺構に関する記述の多い吉川弘文館の歴史文化ライブラリーの中に、著者はあえてデータやグラフを多用した内容の本書を加えてほしいと依頼して、従来の歴史研究に従事していたり関心を持っている人にこそ、こういった理系と文系の研究の連携の大切さを伝え、協力し合いたいと考えているようで、今後の研究に注目したい。
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(中塚武著、2022年、吉川弘文館)
いろんな意味でチャレンジングな本です。
現在、人類ばかりか地球の存続さえ危ぶまれている地球温暖化の問題について、より広い視野で考えていこうということで、著者もかかわって近年急激に研究の進んでいる過去数千年におよぶ高時間分解能(年単位)での気候変動の復元研究(古気候学と呼ばれる)を紹介しています。
気候変動は古来から、数年単位で起こる「短周期」の変動、数十年周期で起こる「中周期」、そして、数百年から数万年かけて起こる「長周期」の変動があり、そのそれぞれと人間社会への影響について書かれていますが、特に数十年周期で起こる変化が、一人の人間の記憶を超えるために、文献などに残りにくいわりに、大きな影響を及ぼしていることに言及しています。
今、NHKの大河ドラマで取り上げられている平安から鎌倉の時代についても例示があります。平清盛が権力を収めた1150年代は、それまで数百年かけて徐々に進んでいた寒冷化が突然終わりを告げ、空前の温暖化が起きた時代であり、この時の温暖化は現在の地球温暖化と違って水害や干ばつなどが少なく農業生産力が大きく向上したことが背景にあって、地方からの租税徴収組織としての武家の地位が向上していったという可能性も指摘されているようです。そして、1170年代からは再び寒冷化が進んで気象災害が頻発するようになり、それまでの豊作を享受していた人々が困窮化し、混乱した中でその責任を取らされて平家が滅びたという面もあるとのこと。
これまで歴史研究の中では、社会システムの内的要因が自己展開する過程であるという考えが主流であり、外的環境に求める態度は「環境決定論」として等閑視されてきたようですが、最初に書いた古気象学が連続的で高解像度の気象データを提出できるようになってきて、社会現象との関連性が比較できるようになってきたため、外的要因の一つである気候変動も、内的要因と同じ目線で分析していくことができるようになってきたようです。
そのうえで、気象データは、「データ品質の安定性」と「現象の反復性」があることから、過去に起こった事例から、成功例や失敗例を学びやすいという点で著者がこれからの研究に期待しているようです。
簡単な例でいうと、気象が安定しているときには、その状況に過適応してしまい、それまで微高地に住んでいたのを低地にまで居住域を広げてしまい、その後の変動期に風水害などの影響を大きく受けてしまったりということがあって、安定しているときの生活の仕方こそが大切であるといった具合です。
歴史専門で、文献や遺構に関する記述の多い吉川弘文館の歴史文化ライブラリーの中に、著者はあえてデータやグラフを多用した内容の本書を加えてほしいと依頼して、従来の歴史研究に従事していたり関心を持っている人にこそ、こういった理系と文系の研究の連携の大切さを伝え、協力し合いたいと考えているようで、今後の研究に注目したい。
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