『土と内臓 微生物がつくる世界』
『土と内臓 微生物がつくる世界』
(デイビッド・モンゴメリー+アン・ビクレー著、片岡夏実訳、2016年(原著も)、築地書館)
数ヶ月前に、新聞の下段の広告に掲載されていて、買って読み始めたものの、他の本に気をとられてなかなか読み進んでいかなかったのですが、ようやく読み終えました。
土(はたけ)の中の微生物と身体の中の微生物(腸内環境)、ともに私の関心の高い領域です。
夫婦で書かれたこの本は、自分の実体験(夫は庭仕事、妻は自分のガン体験)」から紐解きながら、最近の細菌の研究について物語形式で分かりやすく解説してあって読み応えがあります。科学者ならではで、科学論文を読み込んだり、知り合いの専門家から助言をもらったりしているようで、できるだけ正確を期すように気を使っているようです。
ただし、特に前半の部分は若干話が長めになっているので、端的に要点を書いてもらいたい人には若干まどろっこしい感じがするかも。
これまで何度か書いていますが、こういう科学読み物(専門家が専門的な知識について、論文形式でなく、物語形式でできるだけ一般の人にもわかりやすく説明したもの)というのが日本には少ないような気がして残念です。
最後のほうになると一気に、植物の根の周りと人間の内臓(特に大腸)の中が合わせ鏡のように同じような構造になっていることについて、何十年も前に経験的に分かっていたことが、微生物の研究によって微生物レベルで解明されつつあることが書いてあって、とても面白い。
植物の根は、微生物の養分を分泌させることによってまわりにいろいろな微生物を集め、その微生物に近寄って欲しくない微生物から守ってもらったり、必要な微量元素などを吸収しやすい形に変えてもらったりしている。
大腸でも、同じように色々な微生物を住まわせる事によって、免疫に必要な情報を得たり、必要な栄養素を作ってもらったりしている。
何十年も前から有機栽培の有用性に実体験に基づいて語られていましたが、ただ、微生物が有機物を分解して植物に必要な栄養素を提供しているだけでなく、微生物とさまざまなやり取りをすることによって、健康を守ったりしていること。それゆえ、化学肥料を使って安易に分かっている栄養だけ与えると、植物が微生物との協力関係をおこたってしまって本当に必要な情報や物質を得られなくなってしまったり、農薬によって微生物を一時的に部分的にでも殺してしまうと、微生物のバランスが崩れてしまうことなどについてだんだん詳しく分かってきている。
何十年も前に、大腸にまつわる病気になっている人に、健康な人の便を直接入れることによって病気が治るということはわかっていたものの、その仕組みがよくわかっていなかったために一般化しなかったけれど、大腸がただの最終的なごみ溜めではなくて、微生物の働きによってさまざまな有用な効果があることについて具体的にわかるようになって(健康な腸内の微生物を移植すると腸内の微生物のバランスがよくなるということがわかり)、見直されつつある(方法は違ったものになりそうですが)ことなど、仕組みがよくわからなかったために疎まれていた昔の智恵が復活しつつあるようです(病気の撲滅に目覚しい結果をもたらした抗生物質が、微生物の世界を壊して、新たな危機をもたらしつつあることも)。
目に見えない微生物については、まず、人や家畜に病気をもたらす病原菌の研究から始まったために、避けるべきものというイメージがいまだに強いのですが、実際には、動物や植物に有用な微生物の方が圧倒的に多く、有用なものだけでなくいろいろな微生物が混在することによってこそその力を発揮するために研究が難しく、進んでいなかったのですが、植物も動物も微生物から進化しただけでなく、実は長い年月をかけて、お互いに共生することによって生き延びてきた、お互いに生存に欠くべからざる存在であることが具体的に分かりつつあるようです。
目に見えないものこそが大切、というのは、精神的な部分でいわれることが普通だと思いますが、この本の原題の“The Hidden Half of Nature”(隠された自然の半分)のとおり、物質的な面でも、目に見えないものの大切さが見直される時代になってきたようです。

にほんブログ村
(デイビッド・モンゴメリー+アン・ビクレー著、片岡夏実訳、2016年(原著も)、築地書館)
数ヶ月前に、新聞の下段の広告に掲載されていて、買って読み始めたものの、他の本に気をとられてなかなか読み進んでいかなかったのですが、ようやく読み終えました。
土(はたけ)の中の微生物と身体の中の微生物(腸内環境)、ともに私の関心の高い領域です。
夫婦で書かれたこの本は、自分の実体験(夫は庭仕事、妻は自分のガン体験)」から紐解きながら、最近の細菌の研究について物語形式で分かりやすく解説してあって読み応えがあります。科学者ならではで、科学論文を読み込んだり、知り合いの専門家から助言をもらったりしているようで、できるだけ正確を期すように気を使っているようです。
ただし、特に前半の部分は若干話が長めになっているので、端的に要点を書いてもらいたい人には若干まどろっこしい感じがするかも。
これまで何度か書いていますが、こういう科学読み物(専門家が専門的な知識について、論文形式でなく、物語形式でできるだけ一般の人にもわかりやすく説明したもの)というのが日本には少ないような気がして残念です。
最後のほうになると一気に、植物の根の周りと人間の内臓(特に大腸)の中が合わせ鏡のように同じような構造になっていることについて、何十年も前に経験的に分かっていたことが、微生物の研究によって微生物レベルで解明されつつあることが書いてあって、とても面白い。
植物の根は、微生物の養分を分泌させることによってまわりにいろいろな微生物を集め、その微生物に近寄って欲しくない微生物から守ってもらったり、必要な微量元素などを吸収しやすい形に変えてもらったりしている。
大腸でも、同じように色々な微生物を住まわせる事によって、免疫に必要な情報を得たり、必要な栄養素を作ってもらったりしている。
何十年も前から有機栽培の有用性に実体験に基づいて語られていましたが、ただ、微生物が有機物を分解して植物に必要な栄養素を提供しているだけでなく、微生物とさまざまなやり取りをすることによって、健康を守ったりしていること。それゆえ、化学肥料を使って安易に分かっている栄養だけ与えると、植物が微生物との協力関係をおこたってしまって本当に必要な情報や物質を得られなくなってしまったり、農薬によって微生物を一時的に部分的にでも殺してしまうと、微生物のバランスが崩れてしまうことなどについてだんだん詳しく分かってきている。
何十年も前に、大腸にまつわる病気になっている人に、健康な人の便を直接入れることによって病気が治るということはわかっていたものの、その仕組みがよくわかっていなかったために一般化しなかったけれど、大腸がただの最終的なごみ溜めではなくて、微生物の働きによってさまざまな有用な効果があることについて具体的にわかるようになって(健康な腸内の微生物を移植すると腸内の微生物のバランスがよくなるということがわかり)、見直されつつある(方法は違ったものになりそうですが)ことなど、仕組みがよくわからなかったために疎まれていた昔の智恵が復活しつつあるようです(病気の撲滅に目覚しい結果をもたらした抗生物質が、微生物の世界を壊して、新たな危機をもたらしつつあることも)。
目に見えない微生物については、まず、人や家畜に病気をもたらす病原菌の研究から始まったために、避けるべきものというイメージがいまだに強いのですが、実際には、動物や植物に有用な微生物の方が圧倒的に多く、有用なものだけでなくいろいろな微生物が混在することによってこそその力を発揮するために研究が難しく、進んでいなかったのですが、植物も動物も微生物から進化しただけでなく、実は長い年月をかけて、お互いに共生することによって生き延びてきた、お互いに生存に欠くべからざる存在であることが具体的に分かりつつあるようです。
目に見えないものこそが大切、というのは、精神的な部分でいわれることが普通だと思いますが、この本の原題の“The Hidden Half of Nature”(隠された自然の半分)のとおり、物質的な面でも、目に見えないものの大切さが見直される時代になってきたようです。

にほんブログ村

タグ:微生物