『触れることの科学』
『触れることの科学 なぜ感じるのか、どう感じるのか』
(デイヴィッド・J・リンデン著、岩坂彰訳、2016年、原著は2015年、河出書房新社)
この本の前書き(プロローグ)に、この本に書かれていることの概略が次のように示されています。
「(前略)この本でいちばんのポイントは、ただ、触れ合いはよいことだとか、大切だとかいうことではない。これから説明していくのは、具体的に皮膚から神経、脳に至る触覚の回路というものがいかに奇妙で、複雑で、思わぬ姿を見せることの多いシステムかということであり、このシステムのあり方が私たちの生活に決定的な影響を及ぼしているということである。買い物の選び方からセックス、道具の使い方、慢性病、傷が治る過程まで、人間の個々の経験が形作られる際には、触覚に関わる遺伝子と細胞と神経回路が、決定的な役割を果たしている(後略)」
専門的な記述も多いものの、触覚についての仕組みなどについて現段階でわかっていることについて、分かりやすく書こうとしてあって、とても興味深い。
おなじ前書きの部分に、いかに触覚が大切かと言うことについてのエピソードとして、結果として乳幼児に直接触れ合わないでおくと、発達が遅れてしまうという実験となってしまった例が書いてありましたが、この話は以前、チャイルドラインの研修で聞いたことがあって、気になったので、あらためて調べてみると。チャウシェスク政権が崩壊した頃のルーマニアの話でした。
国力増強のために避妊と中絶を事実上禁止し、子どもが4人以下の家庭に「少子税」を課すなどして、子どもをたくさん生むような政策を行い、多くの貧しい家庭が、国の施設で育つほうが望ましいと考えて、たくさんの乳幼児が施設に置き去りにされ、89年の政権崩壊前後に人手不足で、食事や衣服はきちんと与えられていたものの、社会的なふれあいが欠如していたために、成長が遅れるなど多くの問題が出たことがあるらしい(ただし、ごく幼い段階で1日1時間だけ子どもに触れるなどすることによって、問題が回避されることもわかった)。
興味深い記述はたくさんあるので、印象に残ったことを数点あげておくと、
身体の皮膚の各部の触覚器官から来る情報を処理する脳の部分はそれぞれ決まっていて、脳地図といわれているが、それは生涯を通じて固定されているのではなくて、ひとりひとりの感覚経験によって変化していくものである(つまり、後天的に変わっていく)。
触覚器官からの情報を脳へ送る線維には大きく2種類あり、その1つは優しく撫でられたときだけ働くもので、その線維が主に、赤ん坊から大人まで、同僚から恋人同士まで、さまざまな社会的接触が信頼と協調の発達と強化に重要な役割を果たしている(表紙のイメージ通り、性的な話題も何かと多い)。
動物の表面にある温度を感じるセンサーには微妙な温度を感じる何種類かのものがあり、そういったセンサーが進化によって形作られたあと、植物が進化して、そのセンサーを活性化する化合物を作り出し、自分たちが食べられないようにしたと考えられ、そのため、トウガラシの主な成分であるカプサイシンはホットに感じ、メントールはクールに感じるらしい(さらに、面白いことに鳥にある温度センサーは、カプサイシンに反応しないように進化しており、トウガラシは鳥には食べられてタネを遠くまで運んでもらえるようになるなど動物と植物が持ちつ持たれつの関係を進化の過程で作り上げていると考えられている)。
痛みは、傷害を避ける行動を引き起こすために欠かせないものであるが、痛みが持続しているうちに神経系統が強化されてしまい、さらに慢性的に痛みが続くことがあり、その中でも、幻肢痛と言って、事故などで失った手足が慢性的に痛むことがあるがそのメカニズムもある程度分かってきている。
痛みや痒みなどは、いろいろな刺激はそのものがそのまま感じるわけではなくて、それまでの経験によって変化した神経系統とも相まって、いったん脳の中で処理されることによって、また、いろんな刺激と強調しあったり打ち消しあったりして、強まったり弱まったりする。
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(デイヴィッド・J・リンデン著、岩坂彰訳、2016年、原著は2015年、河出書房新社)
この本の前書き(プロローグ)に、この本に書かれていることの概略が次のように示されています。
「(前略)この本でいちばんのポイントは、ただ、触れ合いはよいことだとか、大切だとかいうことではない。これから説明していくのは、具体的に皮膚から神経、脳に至る触覚の回路というものがいかに奇妙で、複雑で、思わぬ姿を見せることの多いシステムかということであり、このシステムのあり方が私たちの生活に決定的な影響を及ぼしているということである。買い物の選び方からセックス、道具の使い方、慢性病、傷が治る過程まで、人間の個々の経験が形作られる際には、触覚に関わる遺伝子と細胞と神経回路が、決定的な役割を果たしている(後略)」
専門的な記述も多いものの、触覚についての仕組みなどについて現段階でわかっていることについて、分かりやすく書こうとしてあって、とても興味深い。
おなじ前書きの部分に、いかに触覚が大切かと言うことについてのエピソードとして、結果として乳幼児に直接触れ合わないでおくと、発達が遅れてしまうという実験となってしまった例が書いてありましたが、この話は以前、チャイルドラインの研修で聞いたことがあって、気になったので、あらためて調べてみると。チャウシェスク政権が崩壊した頃のルーマニアの話でした。
国力増強のために避妊と中絶を事実上禁止し、子どもが4人以下の家庭に「少子税」を課すなどして、子どもをたくさん生むような政策を行い、多くの貧しい家庭が、国の施設で育つほうが望ましいと考えて、たくさんの乳幼児が施設に置き去りにされ、89年の政権崩壊前後に人手不足で、食事や衣服はきちんと与えられていたものの、社会的なふれあいが欠如していたために、成長が遅れるなど多くの問題が出たことがあるらしい(ただし、ごく幼い段階で1日1時間だけ子どもに触れるなどすることによって、問題が回避されることもわかった)。
興味深い記述はたくさんあるので、印象に残ったことを数点あげておくと、
身体の皮膚の各部の触覚器官から来る情報を処理する脳の部分はそれぞれ決まっていて、脳地図といわれているが、それは生涯を通じて固定されているのではなくて、ひとりひとりの感覚経験によって変化していくものである(つまり、後天的に変わっていく)。
触覚器官からの情報を脳へ送る線維には大きく2種類あり、その1つは優しく撫でられたときだけ働くもので、その線維が主に、赤ん坊から大人まで、同僚から恋人同士まで、さまざまな社会的接触が信頼と協調の発達と強化に重要な役割を果たしている(表紙のイメージ通り、性的な話題も何かと多い)。
動物の表面にある温度を感じるセンサーには微妙な温度を感じる何種類かのものがあり、そういったセンサーが進化によって形作られたあと、植物が進化して、そのセンサーを活性化する化合物を作り出し、自分たちが食べられないようにしたと考えられ、そのため、トウガラシの主な成分であるカプサイシンはホットに感じ、メントールはクールに感じるらしい(さらに、面白いことに鳥にある温度センサーは、カプサイシンに反応しないように進化しており、トウガラシは鳥には食べられてタネを遠くまで運んでもらえるようになるなど動物と植物が持ちつ持たれつの関係を進化の過程で作り上げていると考えられている)。
痛みは、傷害を避ける行動を引き起こすために欠かせないものであるが、痛みが持続しているうちに神経系統が強化されてしまい、さらに慢性的に痛みが続くことがあり、その中でも、幻肢痛と言って、事故などで失った手足が慢性的に痛むことがあるがそのメカニズムもある程度分かってきている。
痛みや痒みなどは、いろいろな刺激はそのものがそのまま感じるわけではなくて、それまでの経験によって変化した神経系統とも相まって、いったん脳の中で処理されることによって、また、いろんな刺激と強調しあったり打ち消しあったりして、強まったり弱まったりする。
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