台風にみる世界と人間ー命名という権威ー再開ーその1 [2014年10月09日(Thu)]
とりあえず、再開するにあたり、連載で中断していたものの要旨と解説をまとめてみます。詳細は次の各記事を参考にして下さい。とりあえず、4回分です。
https://blog.canpan.info/nonpo/archive/321 https://blog.canpan.info/nonpo/archive/324 https://blog.canpan.info/nonpo/archive/325 https://blog.canpan.info/nonpo/archive/326 この記事の連載は、ほぼ2年前、史上最大規模のハリケーン=台風サンディが米国を襲ったとき、開始した。 自然が、如何に人間の作った様々な境をいとも簡単に越境するか、逆にいえば、境は人間のご都合で作られたもので、自然にとって何ら意味がないことを示し、その人間側のメカニズムもしくは格闘と、自然のメカニズムとの重なり具合を具体的に表す好例として、台風を話題にした。 サンディという名前を命名した直接の組織は米国のNOAA。名称は既に6年分の繰り返しで予め決まっていて、毎年Aからアルファベット順に人名。いくつかのアルファベットを除いてAからWの21「号」まで。それ以上発生した時はギリシア文字のアルファベット順。 この命名法は第二次世界大戦中の米軍太平洋部隊に始まり、従って、日本でも占領下に使われ、駐留米軍、FEN等で、聴いた覚えがあるはずだ。これが、大西洋側にも使われ出したのだ。 NOAAの「上部」にあるのがWMO、世界気象機関。最も古い国際的政府間組織(1873年に前身のIMO=国際気象機関がウィーンに1950年にWMO=世界気象機関に発展的解消)として、スイスのジュネーブに本部をおいたが、その後、数々の本部がここに。勢い、つまりは金力によって引っ越しも多く、ウィルソン・センターをはじめ、どの由緒ある建物入っているか、あるいは入っている建物の大きさによって、その組織の現在的な総合的格付けが露骨にわかる街だ。 IMOという名の国際的組織がもう一つある。国際海事機関、国連の専門機関でロンドンに本部がある。起源はSOLAS条約、あのタイタニック号の遭難の結果生まれたものだ。海上での防災・災害時、そして通信プロトコルのための初の国際的取り決め。 陸地の2倍、主権を押し通せない、海、圧倒的な自然の前にあって、卑小な人間同士、国家同士の「協力」は避けられなかった。 それでも、懲りない人間、条約の発効までにかかった長い年月、そして、911以後の改正にみられるように、「国際社会」における人的災害・自然災害の境目もすぐれて、人為で揺れ動くものだという好例になっている。 さて、6年×21名=126名のハリケーンの名称が決まっていても、毎年のように命名委員会が開かれる。サンディやカトリーナ等、有名になったものを殿堂入りさせ、新しい名前で入れ替えるからだ。平均すると毎年一つ以上が殿堂入りしている。 が、しかし、この名前も、一人、NOAA、米国によって決定されたものでないと、NOAA自身による断り書きがある。というのは、国際名称は、IMOによって決められるからだ。そして、実際的には、IMO「傘下」の5つの委員会で決められている。 5つの委員会であるのは、5つの台風発生「海域」毎になっているからだ。 台風は、北半球においては、赤道の北の「海」 から発生し、水蒸気を思いっ切り貯めながら、地球の自転と逆にすべからく、西に向かいつつ、北上し、途中で少し東北方向にに向きを変える。コリオリの力だ。北半球では4つの海域、委員会がある。 従って、海上はいざ知らず、台風は、大陸、準大陸、島嶼群の左側、つまり、東側からしか侵入しない。北米の西海岸、つまりは太平洋岸、ユーラシアの西、大西洋側ではない現象だ。 因みに、南半球ではこの逆に、やはり西向きではあるが南下し、東南に向きを変えるが、こういう経路なので、南米東海岸やアフリカ大陸南部の東海岸には台風は起きず、辛うじて、南太平洋、インド亜大陸の辺りだけ起こり、ここに委員会がある。 つまり、米国のハリケーンは、殆どが、発達段階で、フロリダ半島近辺をかすめ、ほぼ海洋状態のカリブの島嶼国群を見舞って、米国の東岸の海水面から陸地に到達し、温度変化とあいまって、水蒸気を吸いあげることから、水分を雨にして降らせ、被害をもたらしている。 ということもあって、WMO第4地域の「ハリケーン委員会」は実質的に最大人口を抱える米国の独壇場になる。 とまれ、いずれも大航海時代の海域だ。 かような地域だから、西欧は、どれほど沿岸内陸部に魅力、財があったとしても、先行のイスラム圏の東西の帯に阻まれて、大航海時代を待つ必要があった。船の技術の発展と海流や風の動きを利用することを知って、堰を切ったように、西欧世界が東西に展開した。 そして、皮肉にも、かような地域だからこそ、気象というすぐれて軍事的に重要な分野にもかかわらず、争いと協調の間を揺れ動く中でも、人間の境などお構いなしの圧倒的な力を発揮する気象を前に、人間は連合して協調する仕掛けを作らざるを得なかったのだ。 さて、フロリダは北米大陸から突き出た、日本の本州の2/3くらいの大きさの、本州とは逆方向に、北西から南東に向かっている半島だ。緯度は沖縄諸島に近い。 台湾はこのさらに南のどちらかというと南北に長い島だ。 それぞれの現地での台風報道が微妙に違う。日本の本州では上陸や台風の目の動向を気にするが、他の南の2地域は通過するので、報道、すなわちは人間の関心、台風観が違う。台湾では多くが東から西に、少し北のフロリダでは半島に沿って斜めに北上する。陸上の様子も違うが、台風の発生から衰退までの経路のどこに、どのように陸に人間がしがみついているかが違う。 台風の上陸と一言でいうが、実は難しい。台風の「中心」の「上陸」が 決まりごとだ。先ず難しいのは、中心とはどこのことかということ。風速もしくは気圧が最低ということだが、観測の網の目の大きさによって、観測の時間的頻度によって誤差が出るし、全体も「中心」も刻々と動き回るので、判定が難しくなる。因みに、これには地表でという条件が付いているが、台風はそんなに綺麗な漏斗状になっているわけでもないから、地上の実感とずれることもままあることだ。 台風側もそうだが、陸地側も、綺麗に直線上に、海との境ができているわけではないので、仮に中心が直線上に進んだとしても、出たり入ったりうる可能性があるわけだ。観測地点ができないところもある。 上陸の判定もそうだが、そもそも台風かどうかの判定も危うい。途中で台風でなくなったりすることもある。台風が複数発生して順番が変わることもある。件のサンディも一時期、冬のハリケーンの第一号として、アテネと呼ばれたりもしていた。後で、その前の夏のものとして判定されたのだ。 台風、すなわち、陸地という固体、海という液体、大気という気体という教科書のような物質の三相の間でおこる、物質・熱・エネルギー循環の激しい展開に、人間というか弱い生物が、コントロール出来ないのはもとより、翻弄されるばかりなのに、何故か、名前をつけようとするドラマなのだ。 続く |