10月14日(日) 弟7回リライト講座 (上) 講師 松田 緑
参加者6人
今回も、多読を研究テーマに選んでいる大学院生、日本語教師の養成講座で学んでいる方、アメリカの大学の日本語の先生、など、いろいろな背景を持った方々が参加してくれた。その中には、聾学校の先生でご自身も耳の不自由な方がいらっしゃった。幼・小・中の聾の生徒に手話で授業をなさっている方だ。
「教科書の文が難しいので、リライトをして生徒達に読ませたい。そのためにリライト講座に参加した。」ということだった。
手話通訳2人を伴っての参加だった。講座の内容がうまく伝わるのかが心配だったが、従来の講座よりハンドアウトを多めに用意する、お見せする動画を字幕の付いた物にする、などの最小限の配慮だけで講座を始めた。

今回は英語多読講座を受講している方と、アメリカの大学で私たちの多読本を使って下さっている方が参加していて、多読とは何か。4つのルールはなぜ必要なのか?という問いに、的確に答えて下さった。
ここで、DVDで、ハイジアの多読クラスで日本語初歩レベルの学習者が、嬉しそうに本の内容を話す様子やJET日本語学校の学生達の、一人一人が集中して本を読む様子を見てもらった。画面を見れば、いっせいに音読したり、同じ本を「読解」しながら進んだりするのではないことが、わかる。そして、そのことが学習者を能動的に学ぶ人にさせていることも一目瞭然。
では、外国語での多読を体験してみよう。ということで、イギリスの子ども向けの絵本ORTのいくつかのレベルを読んでもらう。ほとんど字のない物から、数行の文が書かれているものまで、レベルの違いも実感していただいた。
アメリカの大学の先生は、「ORT をこのまま日本語にしてみたら、どうだろう。そうしたら、超初歩レベル向けの多読本ができると思う。」と発言。この本を、そのまま日本語にするのは、手続きとか著作権とか、大変そうだけれど、このようなレベル分けされた絵本があったら、すばらしい。もちろん、英語の易しさと、日本語の易しさの違いの吟味というハードルもあるけれど。
英語多読体験の後、イソップ「アリとキリギリス」をリライト。3人ずつの2グループでスタート。0レベルの製作を目指してもらう。


Aグループ Bグループともに、全文を3つに分けて分担を決めて書き換え、後で合わせる、という方法をとった。耳の不自由な方のことも考えて原稿を用意したので、逐語簡約になった感がある。粗筋だけを用意して自由な発想で「ありときりぎりす」を作っていただいた方が良かったかもしれない。
30分ほどで両グループとも話をまとめて発表。
日本語多読を授業で使っていたり、英語多読経験のある方のいるAグループが「絵」に頼る傾向。
Bグループは、言葉の力で進めていく傾向。
最後に多読文庫レベル0の「アリとキリギリス」の絵をお見せしながら文を読む。「食べ物」「運ぶ」など、語彙表では該当レベルから逸脱する語彙も、絵で補われていることに気づいてくれたようだ。
再話と、簡約の違いについて質問があった。前者は民話や昔話などの伝承文学、後者は著者が特定されている物のリライトである。とお答えした。
10月21日(日) 第7回リライト講座(下) 講師 松田 緑
参加者7人 前回の(上)に出席できなかった方が加わった。この方は、日本語教師で英語多読講座の受講生でもある方だ。
多読の考え方は前回お話したので、多読授業を実際にどう行うのか、事前の準備として何がいるのかを考えていただいてから、準備→初授業→声のかけ方→記録 まで、DVDを見ながら解説。

授業中の教師の声のかけ方、「1つだけでいいか・・・」とはしょったところ、1と2があったようなので、両方見せてほしいとリクエストが・・・。失礼しました。そこはしっかり見てみたいところですよね。
ここで、英語のGRを読んでもらう。低いレベルから高いレベルへ3段階ほどのもの。CDを聴き読みする人、文だけを読む人、それぞれ。
絵の分量、字の詰まり具合、センテンスの長さなど。短い時間だったが、レベルの違いを体感していただけたようだ。
中級のリライトに挑戦する前に、宮沢賢治「注文の多い料理店」の原文と、リライトした文を見ていただく。比較して、読みやすくする工夫がどこにあるかを気づいてもらった上で、芥川龍之介「蜘蛛の糸」をレベル3にすることにチャレンジ。3つのグループに分かれてスタート。
この作品には、冒頭から、極楽、地獄、お釈迦様、が出てくる。さっきの「注文の多い料理店」には、冒頭に原作にはない文を入れていて、それは場面をわかってもらうための工夫だ、と参加者全員気づいたのだが、いざレベル3へのリライトとなると、言葉をやさしく言い換えることだけに気をとられているようだ。
まとまったところで、発表。極楽を天国と言い換えていたグループもあったが、お釈迦様はそこにはいらっしゃらないような気も・・・。でも、学習者の理解、ということを考えた結果ですね。
1つのグループだけが、極楽と地獄に死んだ人が行くところ、という説明を加えていた。このグループは分担制でなく話し合って進めていく方法をとっていた。その表現で学習者にわかるのだろうか?という疑問を出し合いながらの合作になったことが、よりわかりやすい形を生んだと思う。
最後に、「蜘蛛の糸」の原作とリライトした物の比較がわかるプリントと、よむよむ文庫「蜘蛛の糸」を1冊ずつ配って読んでもらった。「絵がすばらしい!」という声が・・・



質問タイム
・「蜘蛛の糸」はどのくらいの時間でできあがったのか?
完成稿にこぎつけるのとイラスト作成までで速くて6ヶ月。「よむよむ文庫」になる場合は、出版社との打ち合わせで、さらに6ヶ月。順調にいっても1年です。という答えに、ざわめきが・・・もっと簡単にできると思われていたのでしょう。
・お釈迦様、極楽、地獄などについて、宗教的な立場で拒否反応が出たことはなかったか?
今までの経験ではないが・・・と、お答えする。
・名作などをリライトすると、元のニュアンスは消えたり変わったりしてしまうのでは?
「その通り。ニュアンスは消えたり変わったりしてしまうのです。でも、極力伝えるように、セリフを足して表す。などの工夫をしています。」とお答えする。
この質問に関連して、多読は読書ではなく、言語習得のためのメソッドなのだ。ということを強調してお話しした。
聾学校の先生からは「リライトが言葉の言い換えだけではなく、学習者の背景となる文化などにまで気を配って行う細かい作業だと言うことがわかった。」という感想をいただいた。
その感想だけで、「うまく伝わるのだろうか?」という講座の初めの心配が杞憂だったことがわかった。
手話通訳の方の職業意識に徹した姿にも感動した今回の講座だった。
今回の受講生からも4名の方が「読みもの作成会」への参加を希望してくださった。
また、何人かの受講生で「レベル0以下つくろう会」の発足の動きもあって、嬉しく頼もしい気持ちになった。
松田 緑 記