2013年7月2日(火)
岡山大学で4月から「多読で学ぶ日本語」の授業が始まったと聞き、授業見学に行ってきました。
そもそもこのニュースには、我々スタッフはかなり感動ものでした。なぜなら、まだ多読授業をやっている大学その他教育機関は少なく、私たちが活動を始めた10年前は「多読ってなに?」という状態でしたし、「多読」そのものの意味の捉え方が全然違いました。それが、2年前に福岡教育大学、そして今年、岡山大学。さらに、このところアメリカでも多読クラス立ち上げの気配があるのです。私たちの勧めてきた多読も少しは認められてきたのかなあ、これから私たちの進むべき道は?、課題は?・・・と色々な思いを抱え、見学に臨みました。
さて、岡山大学の多読クラスの履修学生は30人ほど。初中級から上級までの短期留学生や大学院生です。国籍もまちまち。非漢字圏の学生さんのほうが多いようでした。
かなり広い教室に「島」を6つほど作り、銘々好きな本を手にとり、席について読む、というスタイル。

「よむよむ文庫」や「JGR多読文庫」からスタートした学生も、授業を見学したころには児童書や漫画エッセイや漫画へと進んでいました。
その多読向けの図書の用意が初めての多読授業とは思えないぐらいの充実ぶり!大きな台車に本がぎっしりのボックスが5つほど。漫画や児童書、漫画エッセイ、ジブリのアニメ本などがきれいに並んでいました。担当のK先生のポケットマネーで揃えられた本も多く、それにも感動でした。
授業の初めに時間をいただき、私たちの作っているreadersについて、これからどんなものを読みたいか聞いてみました。
「外国人が日本に来て初めて知るような情報が載っている本」というリクエストは2人から。
例えば、「日本の100円ショップ」や「交差点の仕組み」(どうも中国と違うようです)「あまり知られていない日本の習慣」他には「歴史」という声も。
自分の国との違いの発見は、若い彼らには新鮮な驚きのようです。また、まだまだこの国には知らないことがいっぱいありそう、それを知りたい!という欲求が強いのでしょう。
先生から新しく導入された本の紹介のあと、ちょっとざわついた教室もすぐにしーんと静かになり、読書に没頭。
「ネコが好きすぎる」と、漫画「チーズスイートホーム」に夢中の女子学生さんをはじめ、漫画組は持参の漫画を満喫の様子。JGR多読文庫の「落語」や「よだかの星」「野口英世」を手にとる学生も。
その他、学研の「なぜ?どうして?」シリーズやおなじみ「日本人の知らない日本語」など。「神様のカルテ」を読んで泣きそうだという上級の学生も。
なかなか辞書から離れられない学生はわずかで、ほとんどがみんな本を片手にぐいぐい読み進めていました。すごい!
この授業が終わっても、きっと本を読む習慣は続いていくだろうなあと思わせられました。

4月から読んできた本の記録、途中で発表した、本についてのA3のポスター発表、毎週の学生の感想、コメント、途中で行われたアンケートなどK先生が快く見せて下さいました。
学生の心の動きがわかってこれが面白い! 4月当初のコメントを見ると、それまで本を読んだ経験がなかったせいか、みんなかなり興奮している様子が伝わってきました。
一方、アンケートにあった多読のルールについて。辞書を使わない、わからない言葉を飛ばすというルールについては、否定派と肯定派に真っ二つに分かれていました。実際には辞書を使ってない様子なんですが。
このルールの意味がだんだんわかっていってほしいと願っていますが、コース終了まであと1か月、さて、最終的にはどこまで納得してくれるでしょうか。
さて、蛇足ですが、なんと、このクラスには昨年私たちが執筆監修した『日本語教師のための多読授業入門』の実践報告に登場する元精読派のTさんがいたのです。
私たちの研究会のセミナーで多読を知った高橋亘先生が、ベオグラード大学で多読を実践、それに参加して多読の良さを実感したTさんが、岡山大学に留学し、迷わず多読クラスを選択した、というこの巡り合わせ!!
私たちの活動も、細ーい糸で何とか少しずついろいろなつながりを作っているんだなあと思わされる出来事でした。Tさん、すっかり多読にめざめたようで、いい調子で科学的読みものを手にとっていました。
半期で終了だそうですが、また来年も開講されるよう祈っています。
見学を快く了承して下さったK先生、ありがとうございました。