
牛くらい有益でありがたい家畜はない。
田畑を耕し、ミルクを出し、肉まで食べさせてくれる。
それどころか、皮の衣まで与えてくれる。

牛は古代の中国では
祭祀のときに供えられる最も重要な犠牲とされた。
闘牛もあるが、忍耐強く温和な性質をもつ。
馬は戦いの象徴、牛は平和の象徴であった
牛車もあった。
昔、高貴な人をのせ牛に引かせた屋形ぐるまで
枕草子や源氏物語に出てくる。
月夜に水たまりの路を牛車がゆく。
車輪がはねた水滴が月のひかりに光るなどと書いてあった。

牛にまつわる言葉は少なくない。
「牛耳る」―組織の中心となって思い通りに支配すること。
「牛の歩み」―ものごとの進み方がのろのろしていること。
国会の「牛歩戦術」が浮かぶ。
お正月でも「牛飲馬食」は慎もう。
本好きな人には「汗牛充棟」がある。
牛に引かせれば汗をかくほどに、
家に積めば屋根の棟に届くほどに本の数が多い
幸いを皆で公平に分けて、
遅々とした歩みでも希望に向って進む一年でありたい。

長き夜をひとり爐により
唐びとの詩讀みをれば
こころ足り時ぞ過ぎゆく
愁なき人にかも似る
「長き夜を」佐藤春夫詩集より
写真はイメージです。
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☆日造協☆
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