2019年11月26日(Tue)
《徒然に…》有為な国際人材が持続可能な海を開く
日本財団 アドバイザー 佐野 慎輔 あるとき、いや正確に言えば1898(明治31)年の夏のことだが、病を得て渥美半島の突端、伊良湖岬に療養していた東京帝国大学生、松岡國男は浜辺を歩いていて椰子の実を拾う。どこか沖の小島からこぼれ落ち、はるかな波路をこえて浜にうち上げられたはずの椰子の実は、しかし意外なことに新しい姿のままであった。 松岡は帰京後、文学雑誌を通して知りあった島崎藤村に新鮮な驚きとともに椰子の実の話をした。藤村は松岡の話をもとに「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実ひとつ」と始まる名詩『椰子の実』を書きあげる。 一方、大学卒業後、農商務省に進み役人となった松岡は柳田家に養子に入り、のちに民俗学者、柳田國男となっていく。椰子の実の故事は名著『海上の道』に収められた。 海がくれた“小さな贈り物”は日本文学と民俗学に大きな足跡を残したといえよう。 |