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2013年10月10日(Thu)
被災地に広がる笑顔と歓声 宮城県石巻市でオリンピックデー・フェスタ
 秋晴れの空に歓声と笑顔がいっぱい広がった―オリンピック選手が東日本大震災で被災した人らと交流しスポーツの楽しさを伝える「オリンピックデー・フェスタ」が9月29日、宮城県石巻市で開かれた。同市内の仮設住宅で暮らしている人らが親睦を深める「仮設対抗スポーツ大会」と合同でのイベント。仮設住宅に住む子どもを含め約200人がロンドン五輪に出場した5人のオリンピアンと綱引きなど運動会形式のゲームで楽しんだ。2020年夏季五輪の東京開催も決定。「もっと復興を進めて東京五輪を迎えたい」と、選手からエールが送られた。

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開会式でピースサインする参加者
 同市は東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受け、家屋の損壊は全戸数の8割近くに達した。仮設住宅は被災地で最も多い約7200戸が市内134か所に設置され、約1万5500人が暮らしている。住民の課題の解決を目指す石巻仮設住宅自治連合推進会が発足し、昨年からスポーツ大会を開催している。

 参加したオリンピアは岩本亜希子(ボート)、清水聡(ボクシング、銅メダル)、田中琴乃(新体操)、淡路卓(フェンシング、銀メダル)、三宅諒(同、銀メダル)の5選手。

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中学生と五輪選手による“聖火台”への点火

 会場は大震災直後から同市のボランティアセンターとなった石巻専修大学グランド。地元の門脇中学校2年生で陸上競技部主将の高玉蓮斗君と仙台市出身の淡路選手の2人がトーチを手に入場、同フェスタが始まった仙台市から引き継がれている「つながる火」を“聖火台”に点火し大会がスタートした。同推進会の山崎信哉会長が「仮設の住民はいずれ巣立っていく。末長く親睦、交流を深めていきたい」と開会のあいさつ。選手を代表して4大会連続で五輪に出場している岩本選手は「復興を止めてはいけない。もっと復興を進めて東京五輪を迎えたい。スポーツは言葉より雄弁にコミュニケーションをとることができる。思いやりの輪を広げたい」と参加者との交流を呼びかけた。

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開会式のあいさつをする山崎会長

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選手代表であいさつする岩本選手

 対抗スポーツ大会に出場したのは10チーム(1チーム15人)で、最高が86歳から下は7歳と幅広い年齢層の参加者となった。竹かごに紅白のボールを入れる玉入れ競争を皮切りに、防災Q&A、ボールを2本の竹の棒に乗せて走る助け合いリレーとにぎやかに競技は進んだ。対抗戦だけに応援も盛り上がる。「これ見て。私が作ったんだ」。石巻の海のようなブルーカラーのおそろいのTシャツを着ているチームがあった。胸には捕鯨が盛んだっただけにクジラが描かれ、その中に希望を表す7つ星のマークがあしらわれている。作成したのは小出英子さん。高校生の娘さんと一緒に考えたという。「せっかく五輪選手が来るんだから、団結力を強めようと頑張った」。その成果が出たのか、小出さんのチームは応援大賞に選ばれた。

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玉入れに懸命の出場者

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助け合いリレーでボールを落として残念

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クジラのマークでおそろいのTシャツ

 対抗戦とは別に、同フェスタは大縄跳びと大玉転がし、綱引きの3種目で行われ、対抗戦の10チームを5チームに分けて、オリンピアがそれぞれのチームリーダーになり競い合った。15人が一斉に跳ぶ大縄跳びでは、選手らが跳ぶコツを一生懸命教えたが、なかなか息が合わず、結局、10人に減らして再挑戦した。28回跳んだチームが最高回数となり勝った瞬間、息を弾ませながら選手を中心に「やったー」と両手を挙げてガッツポーズ。

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縄跳びで勝利

 一番盛り上がったのは5チーム総当たりとなった綱引きゲーム。清水選手や三宅選手が「腰をしっかり落として体重を後ろにかけよう」と自チームにアドバイス。1チーム15人が合図とともに綱を引き合うと、最初は笑顔だった参加者も顔を真っ赤にして真剣な表情になり足を踏ん張る。周りには応援団も駆け付け一緒に「それ、それ」と大声を掛ける。一気に引っ張り勝ちしたチームもあり、選手とハイタッチして大喜びした。田中選手は手に豆ができてしまい、チームの人から無理をしないでと激励される場面も。

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手に豆をつくりながら綱を引く田中選手

 綱引きチームの中の最年少は小学校5年生の平塚衣莉さん(10)と2年生の裕都君(7)の姉弟。小さな手で綱を力いっぱい引いていた。2人は両親と家族4人で参加した。祖母を津波で失い、祖父と5人で仮設住宅で暮らしている。父親の慶一郎さん(52)は「仮設は車の出入りがあり危険で遊ばせることができない。久しぶりに広々とした場所で子どもが運動できる」と話した。「五輪選手と会えてうれしかった」という裕都君は、3位入賞したチームの代表として、三宅選手から記念品を渡されニッコリ。衣莉さんは将来、看護師になりたいという。「人を助ける仕事がしたい」、被災体験が少女の夢を紡ぐ。

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三宅選手から記念品を受け取る小学校2年生

 会場の一角には、地元高校生が運営している“いしのまきカフェ「 」(カギカッコ)”も出展した。地元を支える若い人材育成を目的に日本財団などが支援し昨年6月に石巻市役所内でオープン、メニュー開発から調理、接客、会計まですべて高校生が担っている。この日は五輪にちなみ5大陸の色の特製ジュースを販売。参加者や選手らも次々と顔を見せ、買い求めていた。ブースの前で淡路選手は「被災地から顔をそむけずに向き合うことが大事だ。アスリートとして成績を残すことが支援になる」と力を込めて話した。

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五輪選手も高校生カフェでジュースを飲む

 ゲーム終了後、5人の選手は並んで参加者とハイタッチ。「がんばって」と声をかけたのは仮設住宅の参加者からだった。

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別れはハイタッチで

 同フェスタは個人や企業からの寄付金を基に日本オリンピック委員会と同財団が、オリンピック選手を被災地に派遣し子どもらとの交流を図るスポーツイベントで、昨年4月の仙台市を皮切りに今回で37か所目となる。(花田攻)



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