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2017年02月01日(Wed)
食物アレルギー巡り、アジア会議がシンポジウム
インド、豪州、香港から初参加
患者の現状は国によって様々


食物アレルギーアナフィラキシーに関するアジア会議が初めて開催されるのを記念して1月30日、東京・赤坂の日本財団でシンポジウムが開催されました。NPO法人アトピッ子地球の子ネットワークと日本財団が主催し、インド、オーストラリア、香港の患者団体、医師の代表らが参加しました。また、国内の患者団体や食品製造・流通企業関係者ら約130人が加わり、食物アレルギーの患者支援と国際的な連携に向けて活発な討論が行われました。主催者は今後毎年開催し、参加国を増やしていく方針です。

日本とインド、豪州、香港の代表が国際的連携を巡って討論

日本とインド、豪州、香港の代表が国際的連携を巡って討論



食物アレルギーに関する国際的な患者団体の連携組織「食物アレルギーとアナフィラキシーのアライアンスミーティング」(IFAAA)は年に一度、米国ワシントンで開催され、日本からはアトピッ子地球の子ネットワークの代表が参加しています。今回、IFAAAに加盟する国(地域)・団体が連携してアジア会議を初めて開催することになり、それと連動してシンポジウムも開くことになりました。

シンポジウムでは、主催者を代表してアトピッ子地球の子ネットワークの赤城智美事務局長が挨拶し、「それぞれの国や地域で起こっている食物アレルギーに関する出来事を報告しあい、相互理解を深めながら、患者の生活の質向上と支援を目指す人々の交流の場にしたい」と述べました。続いて、アレルギー表示の方法や規制を担当している消費者庁の丸子直人・食品表示企画課長補佐が表示基準や対象品目の変遷について説明しました。

開会の挨拶をする赤城事務局長

開会の挨拶をする赤城事務局長

アレルギー表示について説明する丸子課長補佐

アレルギー表示について説明する丸子課長補佐



この後、国立医薬品食品衛生研究所の穐山浩食品部長が登壇し、食品から卵や牛乳などの特定原材料の総タンパク量が10ppm以上検出された場合、表示を義務付けることに定めた理由を説明しました。この取り決めは日本のアレルギー表示の特徴で、「世界に冠たるもの」(小路正博・森永生化学研究所顧問)と評価されています。

また、食物アレルギーの専門医である海老澤元宏・国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部長は「日本の食物アレルギーの医療状況について」と題して講演し、「2006年に厚労省が入院での食物負荷試験・栄養指導を診療報酬化したことは大きな意味があった。食物アレルギーに行政がコミットしたことで大きく前進した」と評価しました。

食物アレルギーの医療状況を講演する海老澤部長

食物アレルギーの医療状況を講演する海老澤部長

続いて、丸子課長補佐、穐山部長、小路顧問、海老澤部長の4人で「患者の生活の質向上のための今後の展望」と題し、討論しました。司会の浜田敬子・朝日新聞元アエラ誌編集長が「日本のアレルギー表示の仕組みはなぜ進んでいるのですか」と質問。これに対し、小路顧問は「海外では行政が規制を作ることに及び腰ですが、日本では先達の思いが強かった。産業界もそれに打たれて付いてきた」と分析しました。一方、穐山食品部長は「外食産業は中小企業が多く、管理の部分がまだ不十分だ。東京五輪も控えており、外国人への対応をしっかりしないといけない」と話していました。

討論する(左から)海老澤、小路、穐山、丸子の各氏。右端は司会の浜田さん

討論する(左から)海老澤、小路、穐山、丸子の各氏。右端は司会の浜田さん



昼休み後、オーストラリア、インド、香港から参加した代表がそれぞれ自国の食物アレルギーの現状について報告しました。豪州アレルギー・アナフィラキシー患者団体のマリア・サイド会長はアレルギー患者を持つ親でもあります。オーストラリアでは、生後1年の赤ちゃんの患者が1割にのぼり、大人の患者も6%いるとされています。落花生アレルギーでは、アジア系の両親から生まれた乳児のほうが、オーストラリア人の両親から生まれた乳児よりリスクが高いとの結果が出ているそうです。

「なぜ、アジア人の両親から生まれた乳児にアレルギー患者が多いのですか」との質問に対し、サイド会長は「理由ははっきりしないが、落花生だけでなく、他の原材料でもアジア人の子どもに多い。喘息も深刻だ」と答えました。

質疑に応じるマリア・サイド会長(右)と太田理事長

質疑に応じるマリア・サイド会長(右)と太田理事長

続いて、インドのアショク・グプタ医師が同国の現状を報告しました。デリーの南西に位置する都市ジャイプルで小児科医をしており、病院長も務めています。グプタ医師は「インドでは、どの食物もアレルゲンとなりうる」と語り、地域によって主要なアレルゲンが異なるといいます。特徴的なのは、牛乳、卵、小麦のアレルギー発生は西欧諸国より低いということです。

質疑に応じる(左から)グプタ医師、チャンさん

質疑に応じる(左から)グプタ医師、チャンさん

最後に、香港アレルギー協会スタッフのエレイン・チャンさんが現状を報告。この協会はアレルギー患者のNPO法人で、専門医、小児科医、看護師などのアドバーザーが21人います。アレルゲンのトップは貝類・甲殻類で33%を占め、次いで鶏卵14.5%、3位が牛乳・乳製品で10.8%の順だといいます。食物アレルギー患者は14歳以下で4.8%、アナフィラキシー患者が15.6%とされています。チャンさんは「アレルギー患者は間違った情報を入手する人が多く、正しい情報提供が課題です」と話していました。

この後、アジア3カ国(地域)からの参加者と日本の赤城事務局長、太田裕見・食物アレルギーフォーラム理事長の5人で、「国際連携に期待するもの」とのタイトルで討論しました。司会の浜田さんがシンポジウムの評価を尋ねたのに対し、チャンさんは「今スタート地点に立ったところです。まずアジアで問題を解決し、米国へも広げていければと思います」と語りました。グプタ医師は「国際連携で今我々はたくさんの情報を共有できている。今患者は、より権限を持っており、医師は以前より多く説明する必要がある。患者団体には力があり、アジア会議は大きな影響を及ぼすと思う」と述べました。

シンポジウムで質問する参加者

シンポジウムで質問する参加者

会議終了後、参加者全員で記念撮影

会議終了後、参加者全員で記念撮影

浜田さんがサイド会長に国際連携への障害を聞いたところ、「まず言葉だと思う。言語が違うことで会話ができていないことがある。次いで、政府によって仕事の仕方が違うことだ。一部の国では、患者と医師の団体間で交流がないところもある。また、組織によっても段階が違う。でも私は楽観主義者。努力して先に進めば止めるものはないと思っている」と語りました。グプタ医師は「アジアの国々はあまりこの会議に参加していない。日本がリーダーシップをとり、参加を促すのがいいのではないか」と提案しました。

日本財団の森祐次常務理事が閉会の挨拶で「日本財団は皆が共生できるインクルーシブの社会を作っていきたいと考えています。食物アレルギーの問題も家族全体の問題であり、まだまだ患者や家族が安心して生活できる状態にはなっていない。アジア各国とお互いに連携しあい、大きな社会運動に持っていきたい」と語りました。



アナフィラキシー
発症後、短い時間内に全身にアレルギー症状が起きる反応を指す。この結果、血圧の低下や意識障害などを引き起こし、場合によっては生命を脅かす危険な状態になることがある。こうした反応が出た場合、症状を一時的に緩和するため、患者自身が注射する補助治療薬「エピペン」(製品名)が使われている。厚労省の2011年統計では、アナフィラキシーによる死者は71人で、このうち食物によるものは5人という。


● 約6割が誤食により発症した経験あり(2016.11.01)
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● NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク ウェブサイト






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