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2017年01月17日(Tue)
障害者ら災害時要配慮者参加の避難訓練
大分県別府市亀川地区で実施
車いすで坂道を登るのは大変!


昨年4月の熊本地震で被害を受けた大分県別府市亀川地区で障害者や高齢者の災害時要配慮者が参加する避難訓練が1月15日行われ、粉雪が舞う中、車いすの障害者ら約110人が参加しました。こうした要配慮者が参加する本格的な避難訓練は初めてで、防災に向けた新たな動きとして注目されています。

坂道で支援者の後押しを受けて避難する車いすの障害者ら

坂道で支援者の後押しを受けて避難する車いすの障害者ら


この避難訓練は、別府市古市町自治会、福祉フォーラム in 別杵・速見実行委員会、別府市が主催し、障害者と健常者が共生できるインクルーシブ社会を目指す日本財団が助成しました。熊本地震発生の2日後に本震が起き、熊本地方で大きな被害が出ましたが、別府市でも観測史上最大の震度6弱を記録する地震が発生しました。このため7人が軽傷を負ったほか、住宅5,158棟が損壊するなど、大きな被害が出ました。

この後、別府市が市内の在宅障害者101人を対象に聞き取り調査したところ、地震時に避難した人は25%にとどまり、「(避難したくても)避難出来なかった」と答えた人が31%に上りました。とくに、肢体不自由の車いす利用者に避難出来なかった人が多く、夜間でもあり、道路の状況や避難先の施設がバリアフリーになっていないことなどが原因と見られています。このため、要配慮者が参加する避難訓練を行い、課題を明らかにすることになりました。

支援センターで避難訓練の打合せをする人たち

支援センターで避難訓練の打合せをする人たち

この日の避難訓練には、古市町25区の住民や支援者約110人が参加。このうち要配慮者は障害者や高齢者合わせて24人でした。午前9時、別府市危機管理課の村野淳子さんが障害者の支援センター「らいぶおん」に集まった人たちに「南海トラフ地震が発生し、津波の恐れがあります。直ちに高台に避難してください」と訓練開始を宣言。消防団員や支援者が11班に分かれ、それぞれ在宅や施設の障害者・高齢者の避難支援に向かいました。

避難訓練開始を宣言する村野さん

避難訓練開始を宣言する村野さん(右から2人目)

支援センターは海岸沿いにあるので、避難する先頭集団約20人は津波の襲来から逃れようと、一斉に高台を目指して坂道を登り始めました。車いすの障害者には後押しの人が付き、ツエを突いた高齢者には手を引っ張る人が付き添いました。だが、坂道がだんだん急になってくると、車いすをひとりで押しても上がらなくなり、2人さらには3人がつかなければならなくなりました。先天性の脊髄性筋萎縮症の川野陽子さんは電動式車いすに乗っていましたが、寒さで手がかじかんで車いすを操作できなくなりました。そこで、車椅子を押す人を女性2人のほか、男性1人に手伝ってもらい、電動式を手動式に切り替えて、なんとか坂道を登りきることができました。

約20分後、先頭集団は高台の避難所であるスパランド豊海自治会公民館に到着し、中に入りました。障害者や高齢者は、寒さでかじかんだ手をこすったり、身体を動かしたりして身体を休めていました。川野さんは「寒くて大変でした。毛布があればよかったなと思います。出かける時、ヘルメット着用を断りましたが、もってくればよかった。いろいろ課題が見つかりました」と話していました。

主催者の一人、福祉フォーラム事務局長で本人も車いす利用の首藤健太さんは「昨年から日本財団の助成を受け、初めて当事者が参加する避難訓練が開催できました。これが防災意識の高まりにつながればいいと思います」と語っていました。

避難所にたどりつき、ホッと一息つく人たち

避難所にたどりつき、ホッと一息つく人たち

後続の避難者らが到着した後、全員が支援センター「らいぶおん」に戻り、班ごとに訓練を振り返り、避難状況や課題を発表しました。車いすの使い方や援護の仕方に関するものが多く、「車いすで避難所まで行くのは大変だった。前と後ろに支えてくれる人がいれば楽だと思った」「男性の介助者が必要だと思った」「乗っている本人は下りが怖いと思った」などの発言が目立ちました。

また、訓練を指導した村野さんは「今回は準備が十分ではなかったが、課題が何かを知ることができた。これから先につなげていくことが大事です」と話していました。また、古市町を含む野田町自治会の恒松直之会長は「避難訓練は健常者と障害者が一緒に助け合ってやらないといけないと思った。この訓練は災害の際に活きてくると思うので、この方式を全国に広めていただきたい」と話していました。

別府市などは今後参加者の訓練記録を集計し、29日に開く報告会で具体的な地域の課題を明らかにする方針です。

訓練の講評を行う恒松・野田町自治会長(中央)

訓練の講評を行う恒松・野田町自治会長(中央)

日本財団が助成しているこの障害者インクルーシブ防災事業のアドバイザーである立木茂雄・同志社大学社会学部教授(専門・福祉防災学)は「訓練には障害者らの当事者が参加していくことが大事です。今回は首藤健太さんを中心にイニシアチブをとって『私たちのことを私たち抜きで進めないで』と提案していて、インパクトのある取り組みになりました。今回の訓練で当事者に調査票を配って感想や気付きを書いてもらっているので、それをまとめて今後に活かしたい」と語りました。

訓練終了後、川野さんと談笑する立木教授

訓練終了後、川野さんと談笑する立木教授



別府市では、国連の「障害者の権利に関する条約」の締結を受け、障害者の災害対応を盛り込んだ「別府市 障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」を2014年に施行しました。この条例を具体化するため、個別支援計画のモデルづくりを進めています。一方、日本財団は東日本大震災で障害者の死傷者が多かったことから、障害者の命と暮らしを守るための仕組みをつくる事業を支援しています。



● 災害時要配慮者の命と暮らしを守る(上)(2017.01.11)
● 被災者支援拠点運営人材育成事業(日本財団ウェブサイト)













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