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2013年07月01日(Mon)
【正論】世界あっての中国ではないか
(産経新聞【正論】2013年7月1日掲載)

日本財団会長 
笹川 陽平 

seiron.png 中国が尖閣諸島と同様、南シナ海のスプラトリー(南沙)、パラセル(西沙)両諸島でも「核心的利益」を主張して強硬姿勢を打ち出し、ベトナムやフィリピンと一触即発の状態にある。世界各国が警戒感を強め、アフリカとの蜜月関係にも変化の兆しが見える。 
 党・政府幹部の腐敗や貧富の格差、環境汚染など山積する国内問題も一層、深刻化しており、対応が遅れれば解決の道は遠のく。このままでは中国は世界の中で孤立し、国内も不安定化しかねない。30年前、最高指導者ケ小平氏と会って以来、日中友好に取り組んできた立場から、中国の現状を深く憂慮する。

 ≪「第2位」に相応しい品格を≫ 
 世界は、中国が国際ルールに則(のっと)り平和的に台頭するのを望んでいる。膨張主義を見直し国内問題の解決を急ぐべきだ。それが国際秩序の形成に責任ある「世界第2の大国」に相応(ふさわ)しい品格である。

 ナイジェリア中央銀行総裁のラミド・サヌシ氏が今春、英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、資源確保に向けてアフリカへの投融資を強める中国を「新植民地主義」と非難した。安価な大量の中国製品が工業化を妨げ、中国人の急速な流入で地元民の雇用が伸び悩む現状を告発した形で、波紋は確実に広がりつつある。

 一方、中国の国内問題。党や政府幹部の腐敗では昨年、16万人が汚職などの規律違反で処分を受けた。国民の批判や怨嗟(えんさ)の声を受け、中国政府は昨年末、接待の簡素化など風紀改善策を打ち出し、習近平国家主席も6月、党幹部を集めた会議で「人心を集められるかどうかは党の生死存亡に関係する」と危機感を募らせている。

 しかし、共産党が全てを統制するこの国に独立した捜査機関はなく、メディアや開明的な人々への言論弾圧が一段と強化されたこともあって自浄は期待薄だ。既得権を主張する中央や地方の幹部、官僚の抵抗もあり前途は厳しい。

 富の偏在も一段と進んでいる。人口の10%の富裕層が80%以上の富を所有し、所得格差の指標である「ジニ係数」も、昨年は中国国家統計局の発表で0・474と、社会不安や騒乱が発生するとされる0・4を超えた。中国に相続税や固定資産税はなく、相続を3回重ねると財産がゼロになる日本と違って、資産は基本的に子供に引き継がれる。「金持ちの子は金持ち」の状態が今後も続く。

 日本と同様、人口の高齢化も進み、一人っ子政策の影響もあって今後14〜64歳の稼働人口比率は低下する。経済成長にブレーキが掛かれば、低所得者層の収入底上げによる格差是正も難しくなる。

 環境汚染も深刻だ。工場の煤煙(ばいえん)や車の排ガスによって冬場の北京では前方が見えないほどスモッグが立ち込め、日本にも飛来するPM2・5(微小粒子状物質)濃度も上昇。地下水の汚染についても外電は「中国の都市の64%が極めて深刻な事態」と報じている。

 国内問題の深刻化と符節を合わせるように、歴史教育や愛国教育を通じた反日宣伝も激しさを増している。中国に詳しい友人によると、昨年、制作された抗日映画は約200本、大手放送局がゴールデンタイムに放送した抗日ドラマも70本に上った。

 ≪「桑を指して槐を罵る」≫ 
 13億の中国人の多くは国外に出た経験もない。朝から晩まで反日ドラマを見続ければ反日感情も根を下ろす。最近も中国の地方大学で日本語を学ぶ学生を日本に招く笹川日中友好基金の事業で訪日メンバー20人を選抜したところ、親から「大切な一人っ子を危険な日本に行かすわけにはいかない」と反対の声が上がった。結局、筆者が「日本は安全」と説得の手紙を送り、予定通り8月に事業が実施されることになったが、反日宣伝の影響の大きさを改めて思い知らされる体験となった。

 しかし山積する国内の不満を反日の一点でそらすのは無理だ。年間20万件ものデモや抗議行動が発生する異常な現状は、反日よりも所得格差や公害、土地の強制収用に対する国民の不満がいかに大きいかを示している。事実、反日デモは日本企業の襲撃や日本製品ボイコットの形を取りながら、「桑を指して槐(えんじゅ)を罵(ののし)る」の諺(ことわざ)通り、日本(桑の木)より政府(槐)批判の性格を強く帯びていた。平等な社会の実現を掲げる共産党政権が、貧富の格差や権力の腐敗で揺れる現状は皮肉でさえある。

 ≪未来志向の戦略的互恵関係≫
 この30年間、中国の指導者は日中関係を「一衣帯水」「最も重要な2国間関係」と強調してきた。執拗(しつよう)な反日宣伝は一衣帯水の両国を無理に引き裂く行為に等しく、政権が掲げる「中華民族の偉大な復興」も、ひとつ間違うと政権の選択を狭める偏狭なナショナリズムにつながる。

 グローバリズムが進む中、「世界あっての中国」である。日中は対話により未来志向の関係構築を目指すべきだ。安倍晋三首相も「日中対話のドアはたえず開いている」と語っている。アジアだけでなく世界が日中関係の安定を求めている。
タグ:世界 中国 正論
カテゴリ:正論




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