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2016年05月09日(Mon)
ホームホスピスを全国に広めるために
協会設立、ケアと運営の基準制定
発祥地・宮崎市の「かあさんの家」


宮崎市に我が国初のホームホスピス「かあさんの家」が開設されてから12年。高齢社会化が急速に進み、ホームホスピス設立の動きは九州から西日本、東日本へと広がり、これまでに全国22地域に33のホームホスピスが設立されました。それに合わせて創設者の市原美穂「かあさんの家」理事長を中心に昨年、全国ホームホスピス協会を設立、ケアと運営の基準を制定しました。創立の理念を広げると共に、その質を維持していこうというのが狙いです。

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情報を交換する市原協会理事長(左)と黒岩雄二協会事務局長

市原理事長(69)は宮崎市で夫が開業する「いちはら医院」の事務長として働いていました。そこに末期がんの患者が診察を受けに来て、相談に乗っているうちに末期患者のケアの問題にぶつかりました。関心のある医師や看護師とともに勉強会を開いて専門家の講演を聞き、在宅ホスピスを自分たちで立ち上げようという話に発展しました。1998年8月、緩和ケア病棟を作ろうと、関係者が集まり、まず会の定款つくりから始めました。市原理事長は「みんなで定款をまとめるのに1カ月かかりました。喧々諤々の議論をして定款を練り上げ、共有しました。これが一番大事で、この時、参加した人たちが今もホスピスの理事として残っています」と振り返っていました。

この時まとまったホームホスピスの基本理念は、主に末期がん患者を対象に、その人が住みなれたところで、最後まで暮らせるようにする。そのため民家を使ってホスピスをつくり、スタッフが介護するというものです。会を設立して6年たった2004年、家で一人暮らしができなくなった方々が5人集まり、共に暮らす「かあさんの家」を開設することになりました。民家は、事務所として使っていた家のおばあさんが亡くなり、その遺族から購入した家を改修して使いました。これが、「かあさんの家」第一号となりました。

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「かあさんの家」の前に立つ市原理事長

入所者のケアは、「本人の希望を最大限尊重し、その人がいやだということはしない、という精神でやっている」と市原理事長は話していました。入所者第1号は男性の認知症患者(92)で、最初は流動食で寝たきりの状態でした。そこで、オムツをはかせてそこで排尿・排便するように言いましたが、「いやだ」といって聞きません。それでオムツを取りました。また、毎日8種類の薬をのんでいましたが、全部取り上げました。すると、2週間後にはその男性は立って歩けるようになり、庭にも出られるようになったということです。

また、別の入所者は「映画を見に行きたい」という希望を出しました。「じゃあ、リハビリをしなさい」というと一生懸命、リハビリに励み、とうとう街中の映画館に行って映画を見てきたということです。市原理事長は「本人のやりたいことを聞き出して、それに向けて日常生活を整えてやると一生懸命、頑張れる。このように入所者からケアの仕方を1つずつ学びました」と話していました。

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「かあさんの家」で入所者に話しかける市原理事長

民家を使った「かあさんの家」は現在、宮崎市内に4軒。入所者が毎日使う食器は、それまで入所者が使っていた食器を使っています。そのほうが新しく買った食器より落ち着くし、日常の暮らしを実感できるメリットがあるからです。
また、入所者の誕生日にお誕生会を開いて、お祝いしています。その際、家族から写真を借りて、その人の家族のヒストリーをパソコンなどで上映してあげるそうです。そうすると、若い時の元気な写真や活躍している場面が映し出され、スタッフや同居人がその人の実像を知り、見直したり尊敬したりするきっかけになるそうです。

その一方で、「かあさんの家」のネットワーク作りも進み、かかりつけ医や支援病院、さらには訪問看護ステーション、介護サービスなどが協力し合う体制が進んでいます。そのほか、地元の弁護士、園芸ボランティア、かあさんの家家族会などとの連携も広がっているそうです。また、宮崎市は、ホームホスピスに使う民家に対し、最大5万円の家賃半額補助を日本で初めて実施しています。

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「かあさんの家」ネットワークを示すイラスト

「かあさんの家」をきっかけに、ホームホスピスは福岡県久留米市、兵庫県神戸市、尼崎市などに広がり、近年は東北や中部地方でも開設の動きが進んでいます。その一方、ホームホスピスの名前を使用しながら、「似て非なるもの」ができる恐れも出ているといいます。そこで、市原理事長らは昨年12月、一般社団法人・全国ホームホスピス協会を設立、市原氏が協会理事長に就任しました。そして、ケアと運営の詳細な基準を制定しました。これを元に今年4月から各地のホームホスピスを回ってチェックシートを作成、基準に合致していれば「認定ホームホスピス」の共通ロゴの使用を認める方針です。

また、ホームホスピス同士で災害などの時に助け合うサービスも実施します。折りしも4月14日に熊本地震が発生したため対策本部を立ち上げ、一部損壊の被害の出た「縁(えにし)の家」(和水町)、「われもこう」(熊本市)の2ヵ所に対し、緊急支援を実施しました。スタッフも被災したため、全国のホームホスピスの仲間が介護の支援にかけつけました。物資だけでなく、こうした支援は今後も継続していく計画です。

市原理事長は「私たちが制定した規準を元に調査し、認定したものを登録し、厚労省に連絡する予定です。評価するのは大変ですが、いいケアが確立すると周囲のホームホスピスに広がり、全体のレベル向上につながると思います。また、それを元に国に対し、要求をぶつけることもできます」と語り、この基準達成に全力を挙げる構えです。また、在宅ホスピス実践リーダー養成の研修を支援している日本財団にも謝意を示し、今後もホームホスピスの発展のために支援を要望していました。



● 日本財団 ホスピス・プログラム(日本財団公式ウェブサイト)
● 全国ホームホスピス協会






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