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2016年05月02日(Mon)
変わる国際環境 改めて国の在り方を問う
(リベラルタイム 2016年6月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿


Liberal.pngここ数カ月、日中関係が不気味なほど静かだ。両国関係を改善させる特別な何かがあったわけではない。強いて言えば北朝鮮の核開発とミサイル発射実験が影響している気がする。
国際社会を敵に回した北朝鮮・金正恩政権の強硬姿勢に、韓国・朴槿恵政権は一時の「親中」から本来の米韓同盟にシフトし、中国政府もかつてない強い姿勢で北朝鮮制裁に臨んでいる。

筆者には、金正恩政権がこのまま続くとは、とても思えない。仮に北朝鮮が崩壊すれば韓国に統合され、核兵器も新生韓国に引き継がれる。

こんな予測について最近、韓国の学者グループと意見を交わす機会があった。韓国では最近、北朝鮮に対抗した独自の核武装論が強まっているが、さすがにこれには全員が「反対」した。

しかし、引き継いだ北朝鮮の核兵器を新生の韓国政府がどう扱うか、この点に関する見方は分かれた。中国・毛沢東がかつて「張子の虎」と表現した核兵器はいま、兵器としても国家間の交渉ツールとしても存在感を増している。北朝鮮の崩壊に伴い現実に核兵器が手に入った場合、廃棄する方向で国論が一致するとは言い切れないというのだ。

仮に韓国が核兵器を保有すれば、今度は我国に「日本はどうする」といった議論が巻き起こる。
国内には、唯一の戦争被爆国である日本が核兵器廃絶を叫べば、世界の国々は賛同せざるを得ない、といった声が今も根強くある。それが被爆国の“願望”に過ぎないのは、核軍縮が遅々として進まない国際社会の戦後史を見れば明らかだ。

4月10日、広島市で開幕(4月11日)した主要七カ国(G7)外相会合に出席した米国のケリー国務長官ら各国外相が平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した。米国の現職国務長官の訪問は、これが初めて。あまりに長い時間の経過が、そのまま、この問題の難しさを示している。

「核なき世界」を訴え2009年にノーベル平和賞を受賞したオバマ米国大統領も5月のG7伊勢志摩サミット後、広島訪問を検討中と報道されている。原爆投下を正当とする世論がなお強く、秋の大統領に向けた予備選真っ盛りのこの時期に、現職大統領が広島を訪問するのは今後の国防論議にも影響し、難しい選択になるのではないか。

国防はひとつ間違えば国際的な力関係をも逆転させるシビアなテーマである。安全保障関連法案をめぐる国会論議を見ていると、各地で紛争や混乱が続く国際情勢に比べ、緊張感を欠く気がしてならない。

知人の自衛隊若手幹部は「危険地域だとか、戦闘状態とかは大した問題ではない。自分達の存在や行動が果たして国民に理解されているのか、それこそが問題だ」といら立ちを語った。彼らの「防人としての誇り」を誰が、どのように受け止めるのか。

戦後七十年を経て、日本が米国と戦争した事実を知らない世代も増えている。

米大統領選共和党候補の指名争いで、不動産王トランプ氏の過激な発言がそれなりの共感を呼ぶアメリカの現状を見ても、堅固な日米同盟がいつ変化するか、分からない。不気味な静寂を保つ日中関係も、ささいなきっかけで再び激動する。

2013年の本欄第一回で、憲法を改正し、自分の国を自分で守る普通の国になれ、と書いた。憲法は不磨の大典ではない。国際環境は激しく揺れている。改めて国の在り方を問いたい。







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