2016年03月04日(Fri)
ハンセン病人類遺産世界会議
宮崎駿監督、多磨全生園への思い語る
ハンセン病関係の歴史保存訴える決議 『THINK NOW ハンセン病』キャンペーンの一環で、笹川記念保健協力財団は1月28日から30日まで、東京都内でハンセン病の歴史を語る人類遺産世界会議を開催しました。初日には『となりのトトロ』など数多くのアニメ作品で知られる宮崎駿監督(75)がハンセン病療養所の多磨全生園との係わりについて講演しました。最終日にはハンセン病に関する歴史保存を速やかに行うよう訴える決議をまとめ、3日間の幕を閉じました。 全生園との係わりについて講演する宮崎監督 |
初日は、東京・虎ノ門の笹川平和財団ビルで外国人の患者ら約50人を含む延べ500人が参加して開かれました。まず、主催者の紀伊国献三・笹川記念保健協力財団会長が登壇し、開会を宣言しました。続いて、笹川陽平・日本財団会長が挨拶で「ハンセン病は今、過去の病気ととらえられるようになり、このままでは患者の生活に思いをめぐらすことができなくなってしまう」と述べ、世界各地のハンセン病の歴史を共有し、未来に残すために何ができるかを議論するよう要望しました。 挨拶する笹川日本財団会長 この後、宮崎駿監督が「全生園で出会ったこと」と題し、講演しました。監督が東京都東村山市の国立療養所・多磨全生園の近くに住んだのは約50年前で、奥さんとトラックを借りて所帯道具を運んだそうです。その時、初めて全生園を知ったものの、当時は新婚ホヤホヤで、仕事に夢中だったこともあり、そのままになったといいます。 20数年前、監督は日本を舞台にした時代劇を作る企画を立ちあげていました。後に『もののけ姫』(1997年公開)として完成した作品です。監督は「武士でも貴族でもない主人公を描きたい」と考え、「一遍上人絵伝」を参考にしていました。鎌倉時代に時宗を開いた一遍上人を描いた聖絵には、ありとあらゆる生業の庶民が描かれ、乞食やハンセン病患者などもいました。監督は「これが本当の民衆の姿だ」と思い、こういう人々を採り上げたいと友人に語っていたものの、行き悩んでいたといいます。 ある時、考え事をしながらノートを持って歩き回っているうち、全生園に行き着いたそうです。その時、絵巻の中に描かれたハンセン病の人たちのことを考えると、「きびすを返して帰ることはできなかった」といいます。 「深い悲しみが集積した場所」に一度足を踏み入れてからは、何度も訪ねるようになりました。特に、全生園に隣接するハンセン病資料館に入り、療養所で使われていた、ブリキで作ったお金や生活雑器の展示を見て衝撃を受けたそうです。その後、全生園を訪れるたびに「おろそかに生きてはいけない。作品をどのように描くか、真正面からきちんとやらなければいけないと思った」といいます。 宮崎監督は「『もののけ姫』をハンセン病の患者さんがどうみてくれるか、と考えると恐ろしかった」と振り返っていました。映画が完成してから全生園の患者代表に見てもらったところ、「喜んでもらえて救われた思いがした」と、うれしそうに語っていました。 最後に監督は「患者さんが住んでいた建物が次々壊されている。学校などはシロアリに食われ、残骸のようになっているが、資料館はすばらしい。全生園を記念するような場所をぜひ残してほしい」と訴えていました。 宮崎監督の友人の患者代表も参加、全生園について語り合う この後、宮崎監督と親交の深い全生園入所者自治会長の佐川修さん(84)、語り部の平沢保治さん(88)も登壇し、自治会などが進めている「人権の森」構想について説明しました。この構想は、宮崎監督が納骨堂など歴史的建造物と入所者が植樹した森を永久保存するよう提案し寄付したことから始まったといいます。全生園の35万平方メートルの広大な園内には、3万本の樹木が植えられているそうです。佐川さんによると、全生園の入所者は1943年の1518人から195人に減少し、平均年齢は84・5歳と高齢化が進んでいます。 このあと、参加者は29日まで「世界の取り組み」「主たるプレーヤーは誰か」「生きた証・想像力・作品」「未来への遺産―実現の道を探る」の4つの分科会を通じてハンセン病の歴史保存・学習・伝える方法を討論しました。 人類遺産世界会議の全景 こうした議論を踏まえて人類遺産世界会議は30日、ハンセン病の歴史保存に関する決議をまとめました。この中で、ハンセン病はスティグマ(社会的烙印)、差別、人権喪失に係わる今日の健康問題であることを強調し、次のように決議しています。 1. ハンセン病の歴史は現在と将来の人類のための生きたメッセージと教訓を含み、保存する価値があることに全会一致で同意する。 2. ハンセン病の歴史保存は、世界中の当事者の速やかな行動と努力を必要とする、時間との闘いであることに同意する。 3. 政府や公共機関、学者、市民グループ、ハンセン病の患者団体、NPOなどを含むすべての当事者がハンセン病の遺産を保存することを支持・探求することを継続し、現在と将来の世代の利益になるよう激励する。 4. 国や地域でハンセン病の遺産を保存するために活動している個人や公的、私的機関のネットワーク構築を激励する さらに、以下の3点を要請すると明記しています。 1. 現存あるいは新たに仕上げた計画を遅滞なく実行に移すよう、それぞれの当事者が努力する。 2. 地域の焦点の問題を個人やグループのネットワークで発展させたり、ハンセン病の遺産の価値を理解し、保存を決意しているネットワークと連携させたりする。 3. 笹川記念保健財団は適当な機会に必要な資金を出すことで、以上の行動を促進・激励・強化する役割を継続する。 ● ハンセン病〜病気と差別をなくすために〜 (日本財団公式ウェブサイト) |